採用活動を行う際、応募者にエントリーシートの提出を求める企業があります。
たとえば、企業説明会に出席した学生にエントリーシートを渡して応募する際に記入して提出するよう求めたり、企業のホームページなどにエントリーシートを掲載し応募希望者は事前にダウンロードして記入し提出するよう求めるような企業です。
このようなエントリーシートにはいくつかの必要事項を記入させる欄が設けられていますが、なかには「就職の機会均等」を損なうような記入事項が設けられているものも見受けられます。
この点、「就職の機会均等」を損なう質問事項は採用差別(就職差別)につながりますから、エントリーシートの記入事項を確認するだけで、その会社の倫理意識や法令遵守意識、言い換えればその会社がブラック企業か否かを判別することもできる可能性があります。
では、企業から記入を求められるエントリーシートに具体的にどのような質問項目があればその企業の倫理意識や法令遵守意識の欠如を判断することができるのでしょうか。
エントリーシートからブラック企業を見分けることのできる項目とは
このように、企業によってはエントリーシートの記入と提出を求めるところがありますが、そのエントリーシートに以下のような内容を記入する項目があれば、その企業の倫理意識や法令遵守意識の低さを推測することができるかもしれません。
(1)「本籍」を記入させる項目がある
エントリーシートに「本籍地」を記載する項目が設けられている場合には、その企業の倫理意識や法令遵守意識の低さを推測できます。
「本籍地」は被差別部落出身者(同和問題)の差別に利用されてきた過去があり、採用過程で確認することが採用差別(就職差別)につながることになるからです。
「本籍地」は本人の適性や能力とは関係がありませんから、エントリーシートに「本籍地」の記入を求めている企業は、被差別部落出身者を差別する意図があるか、それが差別につながる可能性を考えることもできない無知・無教養な会社であるかのどちらかだと思いますので、そうした姿勢が倫理意識の欠落や法令遵守意識の低さにつながることも容易に想像できます。
ですから、エントリーシートに「本籍地」を書かせる企業があれば、ブラック企業である可能性が強く推定されると考えられます。
(2)現在または過去に罹患発症した「病気」を記入させる項目がある
エントリーシートに「現在患っている病気」や「過去に経験した病歴」など病気に関する記入事項が設けられている会社もブラック企業であることが推認されます。
既往歴(過去の病歴)は本人の適性や能力とは関係がなく、それを採否の判断にすることは特定の病気等を持つ個人を排除する採用差別(就職差別)を誘発するからです。
エントリーシートに「病気」をあえて書かせる企業は倫理意識の欠落や法令遵守意識の低さを推測させますから、その企業のブラック体質も強く推測できることになります。
(3)「家族の職業・職種・学歴・収入・資産・病歴」などを記入させる項目がある
親や兄弟姉妹など家族の職業や職種・学歴・収入・資産・病歴などを記入させる項目があるエントリーシートを使用している企業もブラック体質を推認させます。
このような家族に関する事情も本人の適性や能力とは関係がなく、親の事情で応募者の「就職の機会均等」が損なわれる結果になるからです。
(4)「尊敬する人物」や「座右の銘」などを記入させる項目がある
エントリーシートに「尊敬する人物」や「座右の銘」、あるいは「将来の結婚観」や「欲しい子供の人数」などを書かせる企業もブラック体質を伺わせます。
個人が「誰を尊敬し誰を信奉するか」、あるいは「どのような言説を座右の銘とするか」「どのような人生を送りたいか」は本人の自由であって「思想良心の自由(憲法19条)」の問題ですから、応募者の「尊敬する人物」や「座右の銘」や「結婚観など」を調査して採否を決定するということは、本来自由であるべき「思想・信条」によって応募者を選別することにつながり、個人の「就職の機会均等」が損なわれることになるからです。
(5)「愛読書」や「購読新聞」を記入させる項目がある
エントリーシートに「愛読書」や「購読新聞」などを記入させる欄を設けている企業もブラック企業であることが推認されます。
「愛読書」や「購読新聞」も個人の思想や信条を推し量ることができますが、憲法で「思想良心の自由(憲法19条)」が保障されているように本来は個人の自由に委ねられるものですから、それを確認して採否の判断に利用することは特定の思想を持つ個人を排除することにつながり採用差別(就職差別)になり得るからです。
(6)「信仰(宗教)」を記入させる項目がある
エントリーシートに「神鋼(宗教)」を記載させる項目がある企業もブラック企業であることが推認されます。
個人の神鋼(宗教)は「信教の自由(憲法20条)」として憲法で保障される基本的人権でもあり、本来個人の自由意思に委ねられるものであって、その企業の適性や能力とは関係がありませんから、それを記入させて採否の判断に及ぼすことは、特定の信仰(宗教)を持つ者から「就職の機会均等」を取り上げるものであり、採用差別(就職差別)につながるからです。
エントリーシートに「信仰(宗教)」の項目を置いている企業は倫理意識の欠落を推認させますから、潜在的なブラック体質を持っていることを推認させるでしょう。
(7)「支持政党」や「政治思想」を記入させる項目がある
エントリーシートに「支持政党」や「政治思想」を記入させる項目がある企業も要注意です。
これらも「思想良心の自由(憲法19条)」にかかわる項目であり、本来個人の自由であるものを採否の判断基準に用いようとしていること自体が特定の政治思想を排除する差別意識を推認させるからです。
このような企業も潜在的な倫理意識の欠如を推認させますから、避けた方が良いかもしれません。
(8)「国籍」を記入させる項目がある
エントリーシートに「国籍」や「民族性」などを記入させる項目がある企業もブラック体質を伺わせます。
「国籍」や「民族」はその個人の適性や能力とは関係がありませんし、就労資格を確認したければ「就労資格があるか」と口頭で聞けば足り、「国籍や民族」などの属性まで知る必要はないからです。
国籍や民族性を確認したがる企業は国籍や民族等の属性で労働者を差別する体質をうかがわせますから、倫理観の欠如を想起させます。
ですから、エントリーシートで国籍や民族を確認しようとする会社も避けた方が無難かもしれません。
(9)「自宅周辺の見取り図」や「乗り換え経路」などを記入させる項目がある
自宅周辺の見取り図や会社までの乗り換え経路などを記入させる項目のあるエントリーシートも要注意です。
「自宅周辺の見取り図」や「会社までの乗り換え経路」は応募者の適性や能力とは関係がありませんし、応募者の身元調査などに利用され、採用選考とは関係のない個人情報まで収集される懸念があるからです。
会社までの通勤時間や通勤の容易さなどを確認する必要があるとしても、それは内定を出して入社した後に確認すれば済む話ですから、それを採用段階で確認し採否の判断にしなければならない合理的な理由はありません。
ですからこのようなエントリーシートを使用する会社も倫理意識や法令遵守意識の低さを推認させますので避ける方が無難かもしれません。
(10)エントリーシートや履歴書が厚生労働省が示す基準を逸脱している
採用選考で使用するエントリーシートについては上記のような採用差別(就職差別)や個人情報保護の問題から厚生労働省がそれらに配慮した基準を示しており、厚生労働省のウェブサイトでもその指針が一般に公開されています。
また、履歴書については採用差別(就職差別)につながる事項を除いた様式が厚生労働省のサイトにアップロードされていて、その様式を使わない場合はJIS規格の履歴書を使用するよう指導がなされています。
そのため一般的な企業ではこの厚生労働省が示す基準に準拠したエントリーシートや履歴書を使用しているのが通常です(履歴書はJIS規格を使用していても問題はありません)。
厚生労働省の指針に準拠しないエントリーシートや履歴書(JIS規格の履歴書は準拠されています)を使用していない企業があれば、その事実が倫理意識の欠落や法令遵守意識の低さを推認させますので注意が必要です。
エントリーシートがある場合には、厚生労働省の指針と照らし合わせて採用差別(就職差別)や不必要な個人情報の収集につながる項目がないか確認することが必要
以上で指摘したように、エントリーシートで記入が求められる項目によっては採用差別(就職差別)や不必要な個人情報の収集につながるものもありますので、その項目を確認するだけでその企業の倫理意識や法令遵守意識をある程度判断することが可能です。
もちろん、それはあくまでも倫理意識や法令遵守意識の低さを推認させるだけであって「ブラック企業だ」と断定できるわけではありませんが、入社した後に労働トラブルに巻き込まれるリスクを最小限に抑えるためには確認しても損はないと思います。
エントリーシートや採用面接でどのような質問項目が採用差別(就職差別)につながるかは厚生労働省の指針(※参考→https://www.mhlw.go.jp/www2/topics/topics/saiyo/saiyo.htm)でも個別具体的に説明されていますので、就職活動に挑む学生だけでなく、中途採用やアルバイト、バート労働者なども、採用面接を受ける際は上記の10項目について十分に確認してみることをお勧めします。