採用面接で親の職業や収入、資産などを聞かれた場合の対処法

採用面接の際、面接官から親(または兄弟姉妹など)の職業や収入を聴かれるケースがごく稀にあります。

たとえば、アルバイトの面接に行った際に担当者から親の職業を聞かれたり、パートの面接に行った際に兄弟姉妹の収入を聴かれたり、企業の採用面接に行った際に「実家は持ち家か賃貸か」など親の資産に関する事項を聴かれたりするようなケースが代表的です。

このような親(または兄弟姉妹など)の職業や収入、資産などに関する事項は、応募者本人の適性や能力に何ら関係がありませんから、そのような事項を採用基準にすること自体、「採用差別(就職差別)」が疑われるものであり許容されるべきではないようにも思えます。

では、このように親(または兄弟姉妹など)の職業や収入、資産などを採用面接の際に応募者から聞くことは、そもそも「採用差別(就職差別)」として問題にならないのでしょうか。

また、実際に面接の際、面接官から親の職業や収入、資産などを聞かれた場合、どのように対処すればよいのでしょうか。

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採用面接で親の職業や収入、資産などを聞くことは「採用差別(就職差別)」につながる

このように、企業の採用面接で親(または兄弟姉妹等)の職業や収入、資産などを聞かれるケースがあるわけですが、このような質問事項は端的に言えば「採用差別(就職差別)」になり得ます。

なぜなら、そのような応募者の選別は応募者本人の適性や能力とは全く関係がなく、本人の努力や行為によってどうにもできない事項で求職者の機会均等が損なわれるからです。

使用者と労働者との間で結ばれる労働契約(雇用契約)は、労働者が自身の労働力を使用者に提供する一方で、その労務提供を受けた使用者がその対価として賃金を支払うことを内容とする双務契約ですから、その労働者を採用する使用者が労務提供にかかる適性や能力を判断する基準は、その労働者個人の能力や適性にかかわるものに限られなければなりません。

本人とは関係ない要素で応募や採用が妨げられるのなら、本人とは全く関係ない要素で採用面接のスタートラインにすら立てさせてもらえなくなるわけですから、それは差別そのものと言えます。

ですから、採用面接で親の職業や収入、資産などを聴くことは、そもそも採用差別(就職差別)になり得ることをまず認識しておく必要があります。

企業側の「採用の自由」を考慮しても、採用差別(就職差別)は違法性を帯び得る

この点、企業側に「採用の自由」が認められることから、どのような労働者を募集し採用するかはもっぱら企業側の裁量に委ねれられるべきだという意見もあります。

しかし、「採用の自由」が憲法22条(職業選択の自由)や憲法29条(財産権の保障)などから導かれる経済活動の自由(契約自由の原則)からの帰結であると考えても、その要請は無制約ではなく、「公共の福祉」からの制約を受けるのは当然です(憲法12条等)。

「採用の自由」を最大限保障しなければならないにしても、それは無制約なものではなく、労働者保護(憲法27条)や法の下の平等(憲法14条)など他の人権保障の要請からの制約の範囲内でその事由が認められると解さなければなりませんから、それに反する「採用の自由」は認められません。

この点、親の職業や収入、資産などはその求職者本人の能力や適性と何ら関係がありませんから、それを聴くことに「公共の福祉」の要請があるとは思えません。

企業側がもし「公共の福祉の必要性がある」と言うのであれば、それを質問する企業側がそれを聴くことの合理的な必要性を説明しなければなりませんが、常識的に考えてそれは不可能でしょう。

ですから、採用面接に際して親の職業や収入、資産などを聴く行為は、「採用差別(就職差別)」にあたる可能性があると言えるのです。

なお、採用面接で本人の適性や能力とは全く関係のないことを聴くことの違法性の判断については『国籍や人種を理由に面接の応募や採用を拒否された場合の対処法』のページでさらに詳しく解説しています。

厚生労働省の指針も家族の職業など「本人に責任のない事項」を採用基準にしないことを求めている

このような考え方は厚生労働省の指針でもアナウンスされています。

厚生労働省が企業の採用に関する指針(※参考→https://www.mhlw.go.jp/www2/topics/topics/saiyo/saiyo.htm)として公開している「公正な採用選考を目指して」では、「公正な採用選考」を行う基準について

  • ① 応募者に広く門戸を開くこと
  • ② 本人のもつ適正・能力以外の事を採用基準にしないこと

の2つを求めており、以下に引用するように家族の職業など「本人に責任のない事項」などを採用基準にしないことが求められています。

例えば、本籍地や家族の職業など「本人に責任のない事項」や、宗教や支持政党などの「本来自由であるべき事項(思想・信条にかかわること)」は、本人が職務を遂行できるかどうかには関係のないこと・適正と能力には関係のないことであり、これらを採用基準にしないことが必要です。

※出典:公正な採用選考をめざして(平成31年度版)|厚生労働省

ですから、この厚生労働省の指針から見ても、面接の際に親の職業や収入、資産などを聴く行為は採用差別(就職差別)にあたる恐れのあるものとして本来なされるべき質問ではないと言えます。

なお、本人の能力や適性に関係ない事項であっても、「採用基準にしない」のであれば面接で聞くぐらい許されるのではないかと思う人もいるかもしれませんが、上に挙げた厚生労働省の指針では、「採用基準にしないつもりでもいったん聞いてしまえば採否の判断に影響が及んでしまうこと」「企業側が採用基準にしないつもりでも聞かれた求職者の方は採用基準にされていると解釈してしまうこと」「それら本人の能力や適性に関係ない事項を聴かれる求職者の側で聞かれたくない内容であった場合、求職者が心理的圧迫を受けることで本来の実力を発揮できないおそれがある」等の理由から結果としてその求職者を排除することにつながるため採用差別(就職差別)にあたる恐れがあるとして「採用基準にしない」意図があっても聞くべきではないとしています。

「業務の目的の達成に必要な範囲」を超える求職者の個人情報を収集する行為は職業安定法に違反する

企業が採用面接の際、求職者に対してその家族の職業や収入、資産などを聴いた場合、職業安定法で禁止された「求職者等の個人情報の取り扱い」規定に違反する可能性も指摘できます。

職業安定法第5条の4は、労働者の募集を行う者等が収集する求職者の個人情報については、その業務の目的の達成に必要な範囲内で収集・保管し使用することが義務付けられています。

職業安定法第5条の4

第1項 公共職業安定所、特定地方公共団体、職業紹介事業者及び求人者、労働者の募集を行う者及び募集受託者並びに労働者供給事業者及び労働者供給を受けようとする者(中略)は、それぞれ、その業務に関し、求職者、募集に応じて労働者になろうとする者又は供給される労働者の個人情報(中略)を収集し、保管し、又は使用するに当たつては、その業務の目的の達成に必要な範囲内で求職者等の個人情報を収集し、並びに当該収集の目的の範囲内でこれを保管し、及び使用しなければならない。ただし、本人の同意がある場合その他正当な事由がある場合は、この限りでない。
第2項 公共職業安定所等は、求職者等の個人情報を適正に管理するために必要な措置を講じなければならない。

そうであれば当然、採用面接の際にその労働者の適性や能力とは全く関係ない家族の職業や収入、資産などを聴くこと自体、この個人情報の取り扱い規定に抵触することになり得ますから、そのこと自体が違法性を帯びることになります。

この点、職業安定用第5条の4は「本人の同意がある場合その他正当な事由がある場合」についてはこの限りでないとして適用除外にしていますから、「本人の同意」があれば家族の職業や収入、資産などを聞いても良いように思えます(※前述したように家族の職業や収入、資産は本人の能力や適性に関係ありませんので後段の「正当な事由」は常識的に考えて存在しないと言えます)。

しかし、採用面接の際に面接官から聞かれれば、求職者としては不採用にされることを防ぐためそれを拒否することは現実問題としてできませんので、本人の能力や適性とは関係のない親の職業や収入、資産などを聴くこと自体が問題となり得ます。

ですから、この職業安定法の規定から考えても、企業が採用面接の際に家族の職業や収入、資産などを聴くことは違法性の問題を惹起させることになると考えられます。

ちなみに、厚生労働大臣は、企業(その他職業紹介業社や派遣事業者等も含む)が職業安定法の規定に違反している事実がある場合には、その業務の運営を改善させるために必要な措置を講ずべきことを命じることができますが(職業安定法第48条の3第1項)、その厚生労働大臣の命令に企業が違反した場合には「6月以下の懲役または30万円以下の罰金」の刑事罰の対象となりますので(職業安定法第65条第7号)、事案によってはそのような質問をした企業に刑事責任を求めることも可能です。

職業安定法第48条の3第1項

厚生労働大臣は、職業紹介事業者、労働者の募集を行う者、募集受託者又は労働者供給事業者が、その業務に関しこの法律の規定又はこれに基づく命令の規定に違反した場合において、当該業務の適正な運営を確保するために必要があると認めるときは、これらの者に対し、当該業務の運営を改善するために必要な措置を講ずべきことを命ずることができる。

職業安定法第65条第7号

次の各号のいずれかに該当する者は、これを6月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
第1号∼6号(中略)
第7号 第48条の3第1項の規定による命令に違反した者
(以下省略)

採用面接で家族の職業・収入・資産などを聞かれた場合の対処法

以上で説明したように、採用面接で親(または兄弟姉妹など)の職業や収入、資産等を聴く行為はそもそも違法性のあるものであり「採用差別(就職差別)」にあたる恐れのあるものですから、本来的になされるべきものではありません。

もっとも、実際に採用面接でそのような質問を受けた場合は、求職者の方でそれに対する対処を考えなければなりませんので、その場合にどのような対処を取り得るかが問題となります。