採用面接で求職者の病気に関する質問は採用差別にならないのか

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採用面接の席上で求職者に過去の病歴や今罹患している病気の有無を聞く面接官や人事担当者がごく稀にいるようです。

たとえば採用面接でウイルス性肝炎やエイズなど感染症の有無を確認したり、がんを発症していないかなど聞く行為が代表的です。色覚検査に異常が見られたことがないか聞くようなケースもこれに含まれるでしょう。

しかし、このような病歴や症状があったとしても必ずしもそれが当人の能力や適性に影響するものでもありませんし、人によっては病気とうまく付き合いながら働いている事例もあるわけですから、そのような病歴を聴取してそれを採否の判断に反映させ、病歴を持つ求職者を採用から除外するのは差別であるような気もします。

では、このように採用面接において過去の病歴や今現在罹患している病気の有無を質問することは認められるのでしょうか。

また、実際の採用面接の場でそのような質問を受けた受けた場合、どのように対応すればよいのでしょうか。

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採用面接における病歴の質問は採用差別(就職差別)につながるおそれがある

このように、採用面接で求職者の病歴や今罹患している病気などを質問する会社があるわけですが、結論から言えばそのような質問は採用差別(就職差別)につながる可能性があります。

なぜなら、過去または現在に発症罹患した病気などがあったとしても、必ずしもそれが業務に支障をきたすわけではありませんし、その病気等のイメージで採否が判断されれば本人の適性や能力とは関係のない事情で採用が差別され「就職の機会均等」が損なわれることになりかねないからです。

企業には「採用の自由」が認められますから、どのような属性の労働者を募集し採用するかはその企業の自由な選択に委ねられるのが基本です。

しかし、その「採用の自由」も無制限に認められるわけではありません。憲法が職業選択の自由(憲法22条)や法の下の平等(憲法14条)などを保障している以上、企業の「採用の自由」もその人権保障の枠内で認められるだけであって個人の「就職の機会均等」が損なわれるような採否の判断は許されないと考えなければならないからです。

そうであれば、求職者の過去の病歴を採否の判断に用いるのは許容できません。「過去」の病歴は「現在」の求職者の適性や能力に全く影響を与えないからです。過去に何らかの病気を発症した事実があっても「今」のその人の病気ではないわけですから、それを採否の判断に影響させれば過去の病歴の有無で求職者を差別することになってしまいます。

また、仮に何らかの病気を発症していても、薬の服用や定期的な治療などで就労に支障がないケースもありますから、そのような個人の事情を無視して特定の病気を発症しているという理由で採用を拒否すれば、それも差別になるでしょう。

さらに言えば、過去の病歴や現在罹患している病気等を求職者に申告させることは、その病気が第三者に知られることを望まない求職者にとっては大きなストレスとなり得ますから、それを聞かれること自体が動揺を生じさせ、面接で本来の力を発揮できなくなる可能性も生じてしまいます。

仮にそうなってしまえば、病気を発症しているその求職者だけが他の求職者と比較して不利な面接を強いられることになりますからそれも差別となり得ます。

このように、採用面接で求職者の過去の病歴や現在罹患している病気などを質問することは採用差別(就職差別)につながる可能性がありますので、本来行われてよい行為ではないと言えます。

企業側に差別の意図がなかったとしても、採用面接で過去の病歴や現在罹患している病気等を質問することは採用差別(就職差別)につながる

この点、企業側に差別の意図がなければ採用面接で病歴等を聞くことも許されるのではないかと思う人藻いるかもしれませんが、たとえ企業側に差別の意図がなかったとしても、結論は変わりません。

企業側に差別の意図がなかったとしても、いったん面接官や人事担当者がその求職者の病歴を把握してしまえば、その情報を完全に排除して採否の判断を下すのは事実上困難になるからです。

いったん面接官や人事担当者が病歴を聞いてしまえば、少なからぬ予断や偏見を生じさせてしまうのですから、それを質問すること自体が採用差別(就職差別)につながり得ることを、すべての企業人が認識しなければならないでしょう。

厚生労働省の指針でも採用面接で応募者の既往歴(過去の病歴)を質問しないよう注意喚起されている

なお、採用面接における応募者への既往歴(過去の病歴)の質問が採用差別(就職差別)につながる恐れがあることは厚生労働省の指針でも注意喚起されていますので念のため引用しておきましょう。

この企業では、事前に応募者の健康状態を知り、採用後の配置について配慮するために既往歴(過去の病歴)を質問していました。
既往歴の確認については
〇過去の病歴が現在の業務を遂行する適正・能力の判断には通常結び付かないこと、
〇完治により就労に問題がない場合でも病気等のもつ社会的なイメージにより不採用としてしまうおそれがあること、
〇企業が適正配置というつもりで確認していても、応募者、特に既往歴がある方からすると、
等から就職差別につながるおそれがあります。

※出典:公正な採用選考を目指して|厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/www2/topics/topics/saiyo/dl/saiyo-01.pdfより引用

採用面接における求職者の過去の病歴や現在罹患している病気等に関する質問は職業安定法の「求職者等の個人情報の取り扱い」に抵触する可能性がある

このように、採用面接で求職者の過去の病歴や現在罹患している病気等を質問する行為は採用差別(就職差別)にあたるおそれを指摘できますが、これとは別に職業安定法で義務付けられた「求職者等の個人情報の取り扱い」規定にも抵触する可能性を指摘できます。

職業安定法第5条の4では、労働者の募集を行う者等が収集する求職者の個人情報について「その業務の目的の達成に必要な範囲内で収集・保管し使用すること」と規定されていますので、そもそも採用選考を行う企業では、応募者から「業務の目的の達成に必要な範囲」を超えた個人情報の収集や保管をすることが法的に認められていません。

職業安定法第5条の4

第1項 公共職業安定所、特定地方公共団体、職業紹介事業者及び求人者、労働者の募集を行う者及び募集受託者並びに労働者供給事業者及び労働者供給を受けようとする者(中略)は、それぞれ、その業務に関し、求職者、募集に応じて労働者になろうとする者又は供給される労働者の個人情報(中略)を収集し、保管し、又は使用するに当たつては、その業務の目的の達成に必要な範囲内で求職者等の個人情報を収集し、並びに当該収集の目的の範囲内でこれを保管し、及び使用しなければならない。ただし、本人の同意がある場合その他正当な事由がある場合は、この限りでない。
第2項 公共職業安定所等は、求職者等の個人情報を適正に管理するために必要な措置を講じなければならない。

そうであれば、先ほど説明したように、求職者の過去の病歴や現在罹患している病気等は、常識的に考えればその労働者の適性や能力に影響を及ぼさないと考えられますから、その病歴等を採用面接で質問することは「その業務の目的の達成に必要な範囲」を超えた情報収集となり得ます。

このように、採用面接で求職者の過去の病歴や現在罹患している病気等を質問することは、職業安定法上の違法性を指摘することもできますので、そもそも行われるべきものではないと言えるのです。

採用面接で過去の病歴や現在罹患している病気等を聞かれた場合の対処法

このように、採用面接で求職者の過去の病歴や現在罹患している病気等を質問することは採用差別(就職差別)につながる恐れがあるだけでなく、職業安定法上の違法性を指摘することもできますので、合理的な理由でもない限り本来であれば行われるべきではないと言えます。

もっとも実際の採用面接の場でそのような質問を受けた場合には、応募者の側で適当な対応を取らなければなりませんので、その場合に取り得る対応が問題となります。