採用面接で「在留カード」の提示を求められた場合の対処法

採用面接の際、企業側から「在留カード」の提示を求められるケースがごく稀にあるようです。

「在留カード」とは、「新規の上陸許可,在留資格の変更許可や在留期間の更新許可など在留資格に係る許可の結果として我が国に中長期間在留する者(http://www.immi-moj.go.jp/tetuduki/zairyukanri/whatzairyu.html)」に対して交付される身分証明書の一種ですが、そこには在留資格や在留期間、就労の可否だけでなく、性別や国籍・地域なども記載されています。

そのため、その提示を求められた求職者は、自分の国籍やそこから推認されるその民族性(人種性)についても面接官から尋ねられたことになりますが、国籍や民族・人種といった属性は、その求職者の適性や能力に関係がありませんから、そのような属性を尋ねること自体、合理性がないようにも思えます。

では、採用面接の際、企業側が「在留カード」の提示を求めることはそもそも認められるのでしょうか。

また、実際に日本に中長期に在留する外国人が採用面接の際に「在留カード」の提示を求められた場合、どのように対処すればよいのでしょうか。

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採用面接の際「在留カード」の提示を求める行為は採用差別(就職差別)になり得る

今述べたように、採用面接の際に「在留カード」の提示を求める企業があるわけですが、結論から言えばこのような行為は採用差別(就職差別)につながる恐れがありますので、本来なされるべきではありません。

なぜなら、採用面接で企業側が「在留カード」の提示を求めてその記載事項を確認すれば、求職者の適性や能力とは全く関係のない国籍(または民族・人種性)という属性が採用の判断に影響を与えることになり、その国籍(または民族・人種)といった要素によって求職者の「就職の機会均等」が損なわれてしまう恐れが生じるからです。

(1)採用面接で「在留カード」の提示を求める行為は採用差別(就職差別)につながり得る

憲法は職業選択の自由(憲法22条)だけでなく法の下の平等(憲法14条)を保障していますから、すべての国民に平等に就職の機会が保障されなければなりません(※なお、憲法の基本的人権は国籍の有無にかかわらず外国人にも等しくその保障が及ぶのが基本です。参考→日本国憲法における人権の享有主体としての「国民」とは誰なのか|憲法道程)。

そのため、求職者の「就職の機会均等」は、たとえ国籍のない外国人であっても基本的人権からの要請として最大限尊重されなければなりませんが、採用面接で「在留カード」の提示を求められれば、そこに記載された国籍だけでなく、そこから推認される民族や人種といった属性が面接官の採用基準に影響を与えることになるでしょう。

しかし国籍や民族・人種といった属性は、その求職者個人の適性や能力とは全く関係ない事項ですから、そのような属性が判断要素の一つとされてしまえば、業務の適性や能力とは全く関係のない「国籍」や「民族」「人種」といった属性によって採否が決定されることになり、求職者における「就職の機会均等」が不当に侵されてしまう事態が生じてしまうでしょう。

それはすなわち、本人の能力や適性に関係ない事項を理由とした「採用差別(就職差別)」に他なりません。ですから、採用面接で「在留カード」の提示を求める行為はそもそも許されるものではないと言えるのです。

(2)企業側に国籍等を採否の判断にするつもりがなくても採用差別(就職差別)にあたり得る

この点、企業側が国籍等の在留カードに記載された内容を採否の判断にするつもりがないのであれば在留カードの提示を求めてもよいのではないか、という意見があるかもしれませんが、企業側に差別の意図がなかったとしても結論は同じです。

たとえ企業側に国籍等を採用の判断に影響させる意図がなかったとしても、それを確認した時点でその在留カードに記載された国籍等の情報が面接官の内心に影響を与えてしまうからです。

企業側に国籍等を理由とした差別をする意識がなかったとしても、在留カードを確認した時点でその求職者の「国籍」やその国籍から推認される「民族」や「人種」といった情報が面接官や人事担当者の意識に入りますから、本人にその意図がなくても採否の判断に影響を生じさせます。

面接担当者や人事担当者の採否に影響を与えれば当然そこから少なからぬ予断や偏見が生まれますから、本人の能力や適性に関係ない国籍や民族、人種といった情報を把握できる「在留カード」を確認すること自体、採用差別(就職差別)につながるものとして避けなければなりません。

ですから、そもそも採用面接で「在留カード」の提示を求めること自体、あってはならないことなのです。

(3)「就労資格の確認」は採用内定後に行えば足りるはず

なお、労働者を採用する企業の側は、その採用した労働者に就労資格がなければ雇用することができませんので、採用面接で「在留カード」の提示を求めてその就労資格の有無を確認するのは当然じゃないか、という意見もあるかもしれません。

しかし、「就労資格があるかないか」という点は、採用面接の際に「口頭で」確認すれば足り、採用決定を出した後の労働契約を締結する際に「在留カード」の提示を求めて確認すれば良いのであって、なにも採用面接の際に「在留カード」の提示を求めて確認する必要はありません。

採否の判断は、単に「就労資格があるかないか」だけの確認で済みますから、採用面接の際にあえて「在留カード」の提示を求める必要はないわけです。

採用面接の際に「在留カード」の提示を求めてしまえば、先ほどの(2)でも説明したように、そこに記載されている国籍など本人の能力や適性に関係ない個人情報までも確認してしまうことになるわけですから、そのような本人の能力や適性に関係ない要素は、求職者の「就職の機会均等」の要請からも判断に影響をあたえるものとして事前に確認すべきではありません。

ですから、求職者の就労資格を確認する要請の側面から考えても、採用面接の段階で求職者から「在留カード」の提示を求める行為は、採用差別(就職差別)につながり得るものとして本来行われるべきものではないと言えるのです。

厚生労働省の指針でも採用面接における「在留カード」の提示を求めないよう指導している

以上で説明したように、採用面接で「在留カード」の提示を求める行為は採用差別(就職差別)につながる恐れがありますので本来なされるべきではありませんが、このことは厚生労働省が作成した指針(※参考→https://www.mhlw.go.jp/www2/topics/topics/saiyo/saiyo.htm)でも同様にアナウンスされています。

また、外国人(在日韓国・朝鮮人を含む)の場合、採用選考段階において、応募者から「在留カード」や「特別永住者証明書」などを提示させることは、国籍など適正・能力に関係のない事項を把握することにより、採否決定に偏見が入り込んだり、応募機会が不当に失われたりするおそれがあります。就労資格の確認については、採用選考時は口頭による確認とし、採用内定後に「在留カード」の提示を求めるという配慮が必要です。

※出典:公正な採用選考を目指して|厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/www2/topics/topics/saiyo/dl/saiyo-01.pdfより引用

採用面接で「在留カード」の提示を求められた場合の対処法

このように、採用面接では採用差別(就職差別)につながるおそれがありますので、企業側は「在留カード」の提示は求めるべきではありませんが、実際にその提示を求められてしまえば求職者の側でそれに対する対処を考えなければなりませんので、その場合に如何なる対応を取ることができるのかが問題となります。