採用面接で結婚観や欲しい子の数などの質問は採用差別と言えるか

採用面接の場において、面接官や人事担当者から「何歳ぐらいで結婚したいか」とか「子どもは何人ぐらい欲しいか」など、結婚観や家族観などを聴かれるケースが稀にあるようです。

このような質問が何を目的としたものかは定かではありませんが、おそらく女性の応募者に対して産休や育休の申請がなされるか否かを判断しているのかと思われます。

しかし、そのような結婚観や家族観は、その企業の業務と関係のない事項ですから、それを聞くこと自体合理的な理由はないと思われますし、それを判断要素の一つとして聴取するのも納得できない面があります。

では、このような質問はそもそも許されるものなのでしょうか。

また、実際の採用面接の場でそのような質問を受けた場合、具体的にどのような対応を取ればよいのでしょうか。

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採用面接で結婚観や家族観を聞くことは採用差別(就職差別)につながる

このように、採用面接の際に「何歳ぐらいで結婚したいか」とか「子どもは何人ぐらい欲しいか」など、結婚観や家族観などを聞いてくる面接官や人事担当者がいるわけですが、結論から言えばこのような質問は採用差別(就職差別)につながる恐れがあると言えます。

日本は自由経済体制をとっていますので憲法上の職業選択の自由(憲法22条)や財産権の保障(憲法29条)の規定から「契約自由の原則」が導かれることになり、そこから企業の「採用の自由」も認められることになりますから、企業がどのような労働者を募集し採用するかという選択はもっぱらその企業の自由な決定に委ねられるのが基本です。

しかし、憲法は国民の基本的人権も保障していますから、当然その「採用の自由」も「公共の福祉(憲法12条)」の範囲で制限を受けることになります。つまり、国民の基本的人権を制限してまで際限なく「採用の自由」が許されるわけではないわけです。

この点、憲法では職業選択の自由(憲法22条)や法の下の平等(憲法14条)を保障するだけでなく、思想良心の自由(憲法19条)も保障していますので、企業における「採用の自由」は、あくまでもそれらの基本的人権が保障される「就職の機会均等」が図られた範囲内でのみ、その自由が許されるということになります。

そうすると、「何歳ぐらいで結婚したいか」とか「子どもは何人ぐらい欲しいか」など、結婚観や家族観などは個人の思想・信条に部類する事柄ですから、それを制限して採否の判断をすることは個人の「思想良心の自由」を侵すことになりますし、特定の結婚観や家族観を持っている応募者を「その結婚観や家族観を持っている」という理由だけで採否の判断から除外することも「法の下の平等」やその個人の「職業選択の自由」を侵すことになり得ます。

もちろん、それを質問することに合理的な理由があれば別ですが、常識的に考えて「何歳ぐらいで結婚したいか」とか「子どもは何人ぐらい欲しいか」などの結婚観や家族観を採否の判断としなければならない業務は想像できません。

ですから、採用面接の際に結婚観や家族観を尋ねる行為は、結果的に採用差別(就職差別)につながる問題を惹起させると言えるのです。

企業側に差別の意図がなくても面接で結婚観や家族観を尋ねる行為は採用差別(就職差別)につながり得る

この点、面接官や人事担当者に特定の思想信条を排除したり差別の意図がないのであれば、面接で結婚観や家族観を聞くことも許されるのではないかと思う人もいるかもしれませんが、企業側に差別の意図があろうとなかろうと、結論は変わりません。

仮に企業側に差別の意図がなかったとしても、その質問を行い面接官や人事担当者がその応募者の結婚観や家族観を聞いてしまえば、当人にその意図がなかったとしても、少なからぬ予断や偏見を受けてしまうからです。

いったん聞いてしまえば、その情報を意識から完全に除去することはできませんから、その情報を判断要素から完全に除去することは不可能です。

ですから、仮に企業側に差別の意図がなかったとしても、結果的に採用差別(就職差別)につながる可能性が惹起される以上、そもそも面接の際にそのような質問をすべきではないのです。

また、仮に企業側に差別の意図がなかったとしても、たとえばLGBTの特性を持っていたり、複雑な家族環境や生い立ちから結婚や家族観に否定的な感情を持っていたりするなど、自身の結婚観や家族観を話すことに抵抗を持っている応募者の場合には、面接官や人事担当者から結婚観や家族観を聞かれること自体が大きなストレスとなりますから、それを聞かれることで動揺し、面接で本来の受け答えができずに不採用になってしまう可能性もあるかもしれません。

そうなれば、そのような特殊な事情を抱える応募者だけが面接で不利益を受けることになりますから、それは当然、採用差別(就職差別)につながる問題を惹起することができます。

ですから、このような点を考えてみても、企業側に差別の意図があるかないかにかかわらず、採用面接において結婚観や家族観を聞くことは避けなければならないのです。

厚生労働省の指針でも採用面接で「人生観・生活信条など」を聞くことがないように指導されている

なお、採用面接で結婚観や家族観を尋ねる行為が採用差別(就職差別)につながるという点については厚生労働省の指針(※参考→https://www.mhlw.go.jp/www2/topics/topics/saiyo/saiyo.htm)でも同様に指摘されていますので、念のため引用しておきます。

「宗教」「支持政党」「人生観・生活信条など」「尊敬する人物」「思想」「労働組合(加入状況は活動歴など)」「学生運動などの社会運動」「購読新聞・雑誌・愛読書」など、思想・信条にかかわることを採否の判断基準とすることは、憲法上の「思想の自由(第19条)」「信教の自由(第20条)」などの精神に反することになります。思想・信条にかかわることは、憲法に保障された本来自由であるべき事項であり、それを採用選考に持ち込まないようにすることが必要です。

※出典:公正な採用選考を目指して|厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/www2/topics/topics/saiyo/dl/saiyo-01.pdfより引用

採用面接で結婚観や家族観を聞くことは職業安定法の「求職者等の個人情報の取り扱い」規定に抵触する

以上で説明したように、採用面接で結婚観や家族観を聞くこと行為は採用差別(就職差別)につながるものとなりますので、本来はそのような質問が行われるべきではありませんが、このような行為はその採用差別(就職差別)の問題とは別に、職業安定法で義務付けられた「求職者等の個人情報の取り扱い」規定に抵触する問題も指摘できます。

職業安定法第5条の4は、労働者の募集を行う者等が収集する求職者の個人情報について「その業務の目的の達成に必要な範囲内で収集・保管し使用すること」としていますので、その範囲を超えた個人情報の収集や保管は法的に認められていません。

職業安定法第5条の4

第1項 公共職業安定所、特定地方公共団体、職業紹介事業者及び求人者、労働者の募集を行う者及び募集受託者並びに労働者供給事業者及び労働者供給を受けようとする者(中略)は、それぞれ、その業務に関し、求職者、募集に応じて労働者になろうとする者又は供給される労働者の個人情報(中略)を収集し、保管し、又は使用するに当たつては、その業務の目的の達成に必要な範囲内で求職者等の個人情報を収集し、並びに当該収集の目的の範囲内でこれを保管し、及び使用しなければならない。ただし、本人の同意がある場合その他正当な事由がある場合は、この限りでない。
第2項 公共職業安定所等は、求職者等の個人情報を適正に管理するために必要な措置を講じなければならない。

つまり、企業が採用面接において、応募者から「その業務の目的の達成に必要な範囲」を超えてその応募者の情報を収集したりそれを記録したりすることは、そもそもこの職業安定法第5条の4に抵触することになり違法性を帯びることになるわけです。

この点、先ほど説明したように、その応募者の結婚観や家族観はその企業の業務と関係がありませんから、常識的に考えればそれを聞くこと自体「その業務の目的の達成に必要な範囲」を超えて情報を収集・保管することになるので違法性を指摘できます。

ですから、採用面接で結婚観や家族観を聞くことは、採用差別(就職差別)の問題だけではなく、この個人情報の収集の観点から考えてみても、本来的に許されてよい行為ではないと言えるのです。

採用面接で結婚観や家族観を聞かれた場合の対処法

以上で説明したように、採用面接の場で面接官や人事担当者が応募者に「いつ結婚するか」「結婚したいか」「子どもは作るつもりか」「子どもは何人欲しいか」など人生観や家族観を聞く行為は採用差別(就職差別)につながるだけでなく、職業安定法で義務付けられた「求職者等の個人情報の取り扱い」規定にも抵触しますから、その倫理性や法的な違法性の側面から考えて、本来あってはならない行為と言えます。

もっとも、実際の採用面接の場でそのような質問を受けた場合には、応募者の側でそれへの対処を選択しなければなりませんので、その場合にどのような対応がとれるのか問題となります。