国籍や人種を理由に面接の応募や採用を拒否された場合の対処法

国籍や人種等を理由に採用面接への応募を拒否されたり、採用面接で不採用の判断を受けてしまうケースが稀に見られます。

たとえば、アルバイトの求人票に採用資格として「○○国籍を有する者に限る」とか「○○国人の応募は不可」などと記載されていて特定の国籍を有する者の応募が制限されていたり、採用面接に参加したものの面接官から「○○人は採用できない」と言われて内定を受けられなかったようなケースが代表的です。

しかし、このような国籍や人種などの属性を理由とした採用の制限は、本人の適性や能力とは関係のない属性を根拠にしたものであり「採用差別」に他なりませんから、許容されるべきではないように思えます。

では、このように事業主が国籍や人種を理由として採用面接への応募を制限したり採用を拒否することは認められるのでしょうか。

また、実際にそのような採用差別を受けた場合、その国籍や人種を理由として排除された求人者は具体的にどのように対処をとることができるのでしょうか。検討してみましょう。

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使用者が「誰」を採用するかは「採用の自由」

前述したように、国籍や人種を理由に求人への応募や採用を拒否される事案があるわけですが、この問題を考える前提として、そもそも使用者は労働者を自由に募集し採用することができるのかという点を考える必要があります。

この点、結論から言えば使用者には「採用の自由」が認められます。

「採用の自由」とは、民法の基本法理として理解されている「契約自由の原則」から当然に導かれる概念で、「雇い入れ人数の自由」「募集方法の自由」「労働者選択の自由」という3つの内容について使用者側に裁量的な判断が認められるその自由を言います。

「契約自由の原則」は憲法第22条(居住移転・職業選択の自由)や憲法29条(財産権)などで保障された自由主義経済体制の要請でもありますので、憲法で保障された基本的人権や民主主義確立の側面から考えてもこの「採用の自由」は最大限保障される必要があります。

日本国憲法第22条

第1項 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
第2項 何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。

日本国憲法第29条

第1項 財産権は、これを侵してはならない。
第2項 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
第3項 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。

この点、最高裁判所も三菱樹脂事件(三菱樹脂事件(最高裁昭和48年12月12日)|裁判所判例検索)において、「憲法は…22条、29条等において、財産権の行使、営業その他広く経済活動の自由をも基本的人権として保障している」と述べたうえで

企業者は、かような経済活動の一環としてする契約締結の自由を有し、自己の営業のために労働者を雇傭するにあたり、いかなる者を雇い入れるか、いかなる条件でこれを雇うかについて、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができるのであつて、企業者が特定の思想、信条を有する者をそのゆえをもつて雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできないのである。

※出典:三菱樹脂事件(最高裁昭和48年12月12日)|裁判所判例検索より引用

と判示していますので、使用者が労働契約を結ぶ相手方として「誰」を募集し「誰」を採用するかは、もっぱらその使用者の「採用の自由」に委ねられることになります。

また、この三菱樹脂事件の判例は「憲法の右各規定は…もつぱら国または公共団体と個人との関係を規律するものであり、私人相互の関係を直接規律することを予定するものではない」と憲法の要請を私人間の雇用契約に直接的に適用することについても否定的に論じていますので、憲法27条の労働者保護の要請から直接的に「採用の自由」の制約を認めることもできません。

ですから、使用者がその雇用する労働者を募集したり採用したりする際において、その使用者が「どれだけの人数」を「どのような方法」を用いて募集し「誰」を採用するか、という点は、基本的には「採用の自由」の範囲内で決せられるべきものであり、その判断は使用者側の自由な判断に委ねられるべきものであると考えられます。

雇用機会均等法や職業安定法など一定の制約はあるが「採用の自由」の枠内で判断されるのが基本

このように、使用者が雇用する労働者と契約を結ぶに際し「誰」を募集し採用するかという点はもっぱら「採用の自由」で判断されますから、「誰」を対象として求人募集し、「誰」を採用するかという点は、本来的にはその使用者の自由な判断に委ねられることになります。

この点、職業安定法第3条は人種や国籍、思想信条や社会的身分などを理由とした差別的取扱を禁止していますので、その範囲で企業における「採用の自由」が規制を受けることはもちろんあります。

職業安定法第3条

何人も、人種、国籍、信条、性別、社会的身分、門地、従前の職業、労働組合の組合員であること等を理由として、職業紹介、職業指導等について、差別的取扱を受けることがない。但し、労働組合法の規定によつて、雇用主と労働組合との間に締結された労働協約に別段の定のある場合は、この限りでない。

また、雇用機会均等法第5条は性別を理由とした差別を禁止していますから、企業が「性別」を理由に募集を制限したり採用を拒否したりすれば、その事実だけを以て雇用機会均等法第5条違反の責任を問うことはできるでしょう。

第二章 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等
第一節 性別を理由とする差別の禁止等
(性別を理由とする差別の禁止)
第5条 事業主は、労働者の募集及び採用について、その性別にかかわりなく均等な機会を与えなければならない。

しかし、先ほど挙げた最高裁の判例(三菱樹脂事件)は「企業者が特定の思想、信条を有する者をそのゆえをもつて雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできない」と判示していますので、最高裁の立場としては企業における「採用の自由」を最大限尊重する立場をとっているということが言えます。

なお、労働基準法第3条は労働者の均等待遇を規定し国籍等を理由とした差別を禁止していますが、この規定は雇用契約が締結されていることが前提となっていますから、これを根拠に雇用契約が締結される前の段階における「採用の自由」の制約を認めるのは無理があります。

労働基準法第3条

使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。

ですから、「国籍や人種」を理由とした採用差別を禁止する法的な根拠がない現状では、たとえ国籍や民族を理由とした採用差別が実際にあったとしても、その採用差別を行った企業(個人事業主も含む)に対してその「違法性」を問うことは事実上困難な面があると言えます。

「採用の自由」も無制約ではなく「公共の福祉(法の下の平等、職業選択の自由等)」や「公序良俗」の制約を受ける

もっとも、このように「採用の自由」が憲法上の要請だからと言って無制約にその「採用の自由」が認められるわけではありません。

憲法で保障される基本的人権は「公共の福祉」の制約を受けることが前提となっているからです。

日本国憲法第12条

この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。

「公共の福祉」とは、ざっくり言えば「自分勝手な濫用はだめですよ」というような制約のことをいいます。

つまり、使用者において労働者の募集や採用に「採用の自由」が認められるとしても、それが際限なく許されるわけではなく、「自分勝手な濫用」にあたるような採用の自由は認められないこともあるわけです。

ア)「採用の自由」も「法の下の平等」「職業選択の自由」など求職者の基本的人権の範囲でのみ正当化される

この点、その「公共の福祉」には「法の下の平等(憲法第14条)」も当然含まれますから、憲法から要請される「採用の自由」も、この「法の下の平等」の範囲でのみその自由が許容されると考えなければなりません。

日本国憲法第14条第1項

すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

実際、先ほど挙げた雇用機会均等法第5条や職業安定法第3条もこの「法の下の平等」の要請から法制化されたものですから、その範囲で「法の下の平等」の要請から「採用の自由」が制約を受けていると言えるでしょう。

ですから、国籍や人種を理由とした採用差別(就職差別)があれば、そこに違法性はあると言えます。

また、その「公共の福祉」には求職者の「職業選択の自由(憲法第22条)」も含まれますから、求職者の職業選択の自由を侵してまで企業側の「採用の自由」が保障されてよいわけではありません。

先ほど説明したように「採用の自由」は”企業側”の「職業選択の自由」から導かれますが、”求職者側”の「職業選択の自由」を合理的な理由なく制限してまでそれが保障されるわけではないわけです。

この点、国籍や人種とした採否の判断に合理的な理由はありませんから、そこに「公共の福祉」は存在しないと言えます。

ですから、求職者の「職業選択の自由」の側面から考えても、「採用の自由」は当然にその制約を受けているということになりますから、国籍や人種を理由とした採否の決定に「違法性はある」と言えるのです。