就活でオワハラを受けた場合の対処法

就職活動で採用内定をもらった学生が、内定先の企業から就職活動を終わらせるように強要される、いわゆる「オワハラ(※就職終われハラスメント。以下「オワハラ」)」を受けるトラブルが比較的多く見受けられるようです。

たとえば、採用内定を出す企業がその交換条件として他社への就職活動をしない旨記載された誓約書にサインを求めたり、翌年の4月に必ず入社することを約束する誓約書への署名を強要したり、同じ大学出身の社員を派遣して就職活動を終わらせるよう説得させたり、入社前研修の会場で他社への就職活動を取りやめるよう長時間説得したり、悪質なケースでは社員を内定者の自宅などへ押しかけさせて暴行脅迫を用いて就職活動を終了するよう強要するようなケースがそれです。

このようなオワハラは、内定を受けた求職者の尊厳を無視して就職を強制するものであり、到底納得できるものではありませんが、現在の日本社会では少なからぬ企業がこのオワハラを行って内定者の囲い込みをしている状況が現実に生じていますので、そうした企業と接触した場合には就活生としても何らかの対処をしなければなりません。

では、就活中の学生が内定先の企業からオワハラを受けた場合、具体的にどのような対処をとることができるのでしょうか。

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オワハラには法的な違法性があることを知っておく

このように、内定先の企業からオワハラを受けてしまうケースが少なからず生じている現実があるわけですが、かかるオワハラへの対処法を検討する前提として、そもそもオワハラにどのような法的な問題があるのかを考える必要があります。

企業のオワハラ行為にそもそも違法性がないのなら、オワハラを受ける就活生としても対処のしようがないからです。

この点、結論から言えば、オワハラには違法性が生じうるものと考えられます。

なぜなら、オワハラは内定者の個人の職業選択の自由や幸福追求権を侵害することになりますし、内定を受けた学生が内定先の企業に入社するか否かは内定者の自由であって、入社を強制できる権利は企業になぜなら、オワハラは内定者の個人の職業選択の自由や幸福追求権を侵害することになりますし、内定を受けた学生が内定先の企業に入社するか否かは内定者の自由であって、入社を強制できる権利は企業にないからです。

(1)オワハラは個人の職業選択の自由や幸福追求権を侵害する人権侵害行為

就活生にまず知っておいてもらいたいのが、オワハラ行為自体が個人の職業選択の自由や幸福追求権を侵害する人権侵害行為だという点です。

憲法は22条1項で職業選択の自由を保障していますから、就職活動を行う学生(学生以外も同じです)がどの企業の採用面接を受験し、どの企業の内定先に就職するかは当該学生の自由意思にゆだねられるべきものです。

日本国憲法第22条第1項

何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

内定を出した企業がその内定者の就職活動をオワハラによって妨害し、自社への就職を強制するのなら、それはその内定者が自由意思によって他の企業に就職する機会を奪うことになりますから、それは当然その内定者の職業選択の自由を侵すことになるでしょう。

また、憲法は19条で個人の幸福追求権を保障していますが、就職活動を行う学生がどの会社に就職しどのような人生を歩むかはその学生の人生において重要な要素となりますから、その学生がどの企業の採用面接を受験し、どの企業から受けた採用内定に応じてどの企業に入社するかも幸福追求権という基本的人権の問題です。

日本国憲法第13条

すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

そうであるにもかかわらず、内定を出した企業が内定者の就職活動を終わらせるべく妨害することが許されるなら、内定者は他社への就職の機会を奪われることになり、自分が望まない企業への就職を強制させられる結果となりますから、それは個人の幸福追求権を侵害する結果となってしまうでしょう。

このように、企業のオワハラは個人の職業選択の自由や幸福追求権を侵害する重大な人権侵害行為の要素を含みますから、そこには当然に違法性が包含されることになるといえるのです。

(2)労働者に退職の自由が認められる以上、内定辞退の自由も当然に保障される

この点、オワハラを行う企業側に立って考えた場合には、内定者を対象にした研修や教育訓練を行うために様々な準備が必要でそのための経費も掛かっているのだから、採用内定を受け入れるのなら他社の採用は辞退して就職活動を終了するべきだという意見もあるかもしれません。

しかし、採用内定の法的性質について最高裁は「入社予定日を就労開始日とする始期付きの解約権留保付き労働契約」と判示していますから(※参考→大日本印刷事件:最高裁昭54.7.20)、法律上は「採用内定」が内定者に通知された時点で内定者と企業との間に労働契約が有効に結ばれることになり、内定者が内定通知を受けた後に内定を辞退する行為は法的には労働者が自分の意思で会社を辞める「退職(民法第627条)」と同じになります。

民法第627条

当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。

そうであれば、退職の自由が奴隷的拘束を禁止した憲法18条の要請であり、強制労働を禁止した労働基準法第5条にも関係する問題であって最大限保障されなければならない以上、内定者の内定辞退の自由も同じように最大限保障される必要がありますので、企業側の都合で制限が許されてよいものではありません。

日本国憲法第18条

何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。

労働基準法第5条

使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によつて、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。

もちろん、内定者が内定を辞退することで企業側に甚大な損害が出るような特段の事情があれば内定を辞退したことで発生した損害の賠償が必要になるケースもあるのかもしれませんが(たとえば、特別な技能能力を持った学生Aが提案したプロジェクトを企業が採用してAを中心とした莫大なプロジェクトを計画していた企業がAに内定を出してプロジェクトを準備していたところAが内定を辞退したためプロジェクト全体がとん挫し企業に甚大な経済的損失が発生したケースなど)、一般的な就活中の学生が内定を辞退した程度でそうした損害が企業に生じることは常識的に考えればありえません。

ですから、企業が採用内定を出した内定者に対して就職活動を終了するよう強要するオワハラは、内定者の退職の自由(内定辞退の自由)の側面を考えてみても、法的に問題のある行為だということが言えるわけです(※内定の辞退については→「内定の辞退に会社の許可や承諾は必要となるか』または『「内定を辞退しない」旨の誓約書にサインしても内定辞退できるか』)。

オワハラを受けた場合の対処法

以上で説明したように、採用内定を出した企業が内定者に就職活動を終了するよう強要するオワハラは法的な違法性を惹起させることから許されないものと考えられますが、就活中の求職者が内定先の企業から実際にオワハラを受けてしまった場合には、求職者の側で何らかの対処を取らなければなりませんので、その場合に取りうる対処法が問題となります。

(1)オワハラを行う企業の内定を辞退する

内定先の企業からオワハラを受けた場合には、そのオワハラをしてきた企業の内定を辞退することも考えた方がよいかもしれません。

先ほど説明したように、オワハラは法的な違法性を惹起させますが、かかる違法性に気づかないまま、またはかかる違法性を知りながらあえてオワハラを行って就職活動を終了するよう強要する企業はそもそも法令遵守意識が低いと思われますから、仮にその会社に入社したとしても遅かれ早かれ何らかの労働トラブルに巻き込まれるのが関の山です。

そうであれば、そのような企業に入社すること自体が人生における大きなリスクとなりますから、オワハラをするような企業とは縁を切って別の企業を探す方が無難です。

ですから、内定先の企業からオワハラを受けた場合には、そのオワハラ企業の内定をきっぱりと断ることも、一つの選択肢として考えて良いと思います。

(2)オワハラが法的な違法性を含むことを書面で通知する

内定先の企業からオワハラを受けた場合には、そのオワハラ行為が違法性を含むことを記載した書面を作成し、内定先の企業に送付してみるというのも対処法の一つとして考えられます。

前述したように、オワハラ行為は法的な違法性を生じさせると考えられますが、口頭でその違法性を指摘してオワハラを止めない企業であっても、書面という形で正式にその違法性を指摘すれば、行政機関への相談や裁判等に発展することを警戒してオワハラを中止することがあるかもしれないからです。

なお、この場合に内定先の企業に送付する通知書の文面は以下のようなもので差し支えないと思います。

○○株式会社

代表取締役 ○○ ○○ 殿

いわゆるオワハラの即時中止申入書

私は、〇年〇月〇日、同年△月△日付け採用内定通知書の送付を受ける方法によって、貴社から採用内定の通知を受けましたが、当該内定通知日以降、貴社の採用担当者から電話で執拗に他社への就職活動を終了する旨記載された誓約書に署名するよう求められております。

しかしながら、求職者がどの企業の採用面接を受験しどの企業の内定を受けて入社するかは求職者本人の自由意思に委ねられるべきものであり、個人の職業選択の自由(日本国憲法第22条)や幸福追求権(同13条)の問題であって基本的人権の一つですから、内定者に対して他社への就職活動を制限する貴社の態様は、人権を制限する行為につながるものと考えられます。

また、採用内定の法的性質は「入社予定日を就労開始日とする始期付きの解約権留保付き労働契約」であると考えられますが(大日本印刷事件最高裁昭54.7.20判決参照)、そうであれば内定の事態は労働者の退職と同じであって労働者に退職の自由が保障されるように内定辞退の自由も最大限保障されなければなりませんから、その内定辞退の自由を制限する誓約書への署名の強要は、奴隷的拘束を禁止した憲法第18条や強制労働を禁止した労働基準法第5条の規定にも抵触するものと思われます。

したがって、貴社が私に対して執拗に就職活動を終了するよう求め、他社への就職活動をしない旨記載された誓約書への署名を求める行為は違法性があると考えられますから、ただちにそうしたいわゆるオワハラ行為を止めるよう申し入れいたします。

以上

〇年〇月〇日

〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号○○マンション〇号室

○○ ○○ ㊞

※証拠として残しておくため、実際に会社に送付する場合は書面のコピーを取ったうえで特定記録郵便など配達された記録の残される郵送方法で郵送するようにしてください。

(3)その他の対処法

悪質な会社によっては、その違法性を指摘しても違法性のあるオワハラを止めないケースもあるかもしれません。

たとえば極端なケースでは、オワハラ会社の社員が自宅まで押しかけてくるなどの事例もあるようですが、かかるケースでは強要や暴行脅迫など刑事事件に相当する違法行為も指摘できますので、そうした事案では警察に相談することも考えなければならないでしょう。

また、前述したようにオワハラ行為は違法性を帯びますから、あまりにも度が過ぎるオワハラを受ける場合には、早めに弁護士に相談して訴訟などを提起し、精神的苦痛などを理由に不法行為に基づく損害賠償を請求するなどしてもよいケースもあるかもしれません。

ですから、オワハラ行為が常識の範囲を超えていると感じた場合には、なるべく早めに弁護士など専門家に相談することも考えた方がよいかもしれません。