女性労働者への解雇が「100%無効だ」と判断できる10のケース

使用者が労働者を解雇する場合、その解雇に「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の2つの要件が充足されていなければ、その解雇は解雇権を濫用するものとして無効と判断されることになります(労働契約法第16条)。

【労働契約法第16条】

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

そのため、仮に労働者が解雇されたとしても、この「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」がない限り労働者はその解雇の効力を否定することができることになりますが、弁護士でもない一般の労働者がその解雇に「客観的合理的な理由」や「社会通念上の相当性」があるのかないのかを判断することは容易ではありません。

もっとも、女性労働者が一定の状況で解雇されたケースでは、素人でも容易にその解雇に「客観的合理的な理由がない」と判断できる場合があります。

つまり、女性労働者に対して行われた解雇では、その解雇を「100%無効だ」と断定することができる状況が存在するのです。

では、その女性労働者の解雇を「100%無効だ」と言える状況というのは、具体的にどのようなケースにおける解雇なのでしょうか。

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女性労働者に対する解雇を「100%無効だ」と判断できる10のケース

先ほど述べたように、労働契約法第16条は解雇の要件として「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の2つの要件を求めていますから、この2つの要件をいずれも満たす状況になければ、その解雇は無効と判断されることになります。「客観的合理的な理由」か「社会通念上の相当性」のどちらか一方でも欠けている場合には、その解雇は「100%無効」と判断できるわけです。

この点、「客観的合理的な理由」が「あるかないか」はケースバイケースで判断するしかありませんが、以下に挙げる10の解雇のケースでは、その解雇が法令で絶対的に禁止されていますので、労働契約法第16条の「客観的合理的な理由」が「ない」と判断されることになります。

つまり、以下に挙げる10コのケースにあたる解雇は「100%無効」です。

(1)女性労働者が「産前または産後の休業中」に行われた解雇

使用者は6週間(多胎妊娠の場合は14週間)以内に出産する女性が休業を請求した場合、また産後8週間を経過しない女性を就業させてはなりませんので(労働基準法第65条※産後は医師が認めた業務を除く)、その産前または産後の休業期間中にある女性労働者を解雇することは許されません(労働基準法第19条1項)。

労働基準法第19条

第1項 使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間並びに産前産後の女性が65条の規定によって休業する期間及びその後30日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第81条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合においては、この限りでない。
第2項 前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。

つまり、出産前の産休や出産後の育休を取得して休業している状況にある女性労働者を解雇すること自体が労働基準法第19条で禁止されるので、使用者はその休業が明けるまでは理由の如何にかかわらずその女性労働者を解雇することができないことになっているのです。

ですから、たとえば出産予定日前6週間前からの産前休暇を取得して休業中にある女性労働者が解雇されたり(解雇の理由は妊娠や出産以外であっても構いません)、産後8週間が経過しない状況で育休を取得して仕事を休んでいる女性労働者が何らかの理由で解雇された場合には(その理由が妊娠や出産に関するものでなくても)、その解雇は「客観的合理的な理由を欠く」ものと認定され解雇権を濫用するものとして無効と判断されることになります。

ただし、使用者がその解雇について打切り保障を支払ったり天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が困難になったために解雇するケースで労働基準監督署の認定を受けた場合には、例外的にその解雇が認められる場合がありますので(労働基準法第16条1項但書および同条2項)、労働基準監督署の認定があって解雇がなされたケースでは、「その産前・産後休業中に解雇された」という事実のみをもって「客観的合理的な理由を欠く」と認定されることはないことになります。

もっとも、仮に労働基準監督署の認定を受けた場合であっても、他の事由でその解雇が「客観的合理的な理由」や「社会通念上の相当性」がないと判断されれば、当然その解雇は無効と判断されることになりますので、労働基準監督署の認定があったからといってその解雇が有効になるわけではありません。その違いを誤解しないようにしてください。

なお、産前または産後の休業中に解雇された場合の解雇の効力およびその解雇を受けた場合の対処法等についてはこちらのページを参考にしてください。

(2)女性労働者が「産前または産後の休業後30日が経過する前」になされた解雇

前述したように、使用者は6週間(多胎妊娠の場合は14週間)以内に出産する女性が休業を請求した場合、また産後8週間を経過しない女性を就業させてはなりませんが(労働基準法第65条※産後は医師が認めた業務を除く)、労働基準法第19条は「その後30日間は、解雇してはならない」としていますので、その休業後30日間は解雇することが許されていません。

ですから、女性労働者が産休を取得して復職してから30日以内に解雇されたり、産後8週間以内の育休が終わって復職してから30日以内に解雇された場合には、その解雇は「客観的合理的な理由を欠く」ものと認定され解雇権を濫用するものとして無効と判断されることになります。

ただし、前述の①と同じく、使用者が天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が困難になったために解雇するケースで労働基準監督署の認定を受けた場合には、例外的にその解雇が認められる場合がありますので(労働基準法第19条1項但書および同条2項)、労働基準監督署の認定があって解雇がなされたケースでは、「その産前・産後休業が明けてから30日が経過する前に解雇された」という事実のみをもって「客観的合理的な理由を欠く」と認定されることはないことになります。

もっとも、仮に労働基準監督署の認定を受けた場合であっても、他の事由でその解雇が「客観的合理的な理由」や「社会通念上の相当性」が”ない”と判断されれば、当然その解雇は無効と判断されることになりますので、労働基準監督署の認定があったからといってその解雇が有効になるわけではありません。その違いを誤解しないようにしてください。

なお、産前または産後の休業後30日が経過する前に解雇された場合のその解雇の効力とその解雇に対する対処法等についてはこちらのページを参考にしてください。

産休・育休が終わってから30日以内に解雇された場合の対処法

(3)女性労働者の「婚姻・妊娠・出産したこと」を理由にした解雇

事業主は、女性労働者が婚姻・妊娠・出産したことを理由にその労働者を解雇してはなりません(雇用機会均等法第9条第2項、同法施行規則第2条の2第1号ないし2号)。

雇用機会均等法第9条

第1項 (省略)。
第2項 事業主は、女性労働者が婚姻したことを理由として、解雇してはならない。
第3項 事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法(中略)第65条第1項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第2項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
第4項 妊娠中の女性労働者及び出産後1年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、無効とする。ただし、事業主が当該解雇が前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない。

雇用機会均等法施行規則第2条の2

法第9条第3項の厚生労働省令で定める妊娠又は出産に関する事由は、次のとおりとする。
第1号 妊娠したこと。
第2号 出産したこと。
第3号 法第12条若しくは第13条第1項の規定による措置を求め、又はこれらの規定による措置を受けたこと。
第4号 労働基準法(中略)第64条の2第1号若しくは第64条の3第1項の規定により業務に就くことができず、若しくはこれらの規定により業務に従事しなかつたこと又は同法第64条の2第1号若しくは女性労働基準規則(中略)第2条第2項の規定による申出をし、若しくはこれらの規定により業務に従事しなかつたこと。
第5号 労働基準法第65条第1項の規定による休業を請求し、若しくは同項の規定による休業をしたこと又は同条第2項の規定により就業できず、若しくは同項の規定による休業をしたこと。
第6号 労働基準法第65条第3項の規定による請求をし、又は同項の規定により他の軽易な業務に転換したこと。
第7号 労働基準法第66条第1項の規定による請求をし、若しくは同項の規定により1週間について同法第32条第1項の労働時間若しくは1日について同条第2項の労働時間を超えて労働しなかつたこと、同法第66条第2項の規定による請求をし、若しくは同項の規定により時間外労働をせず若しくは休日に労働しなかつたこと又は同法第66条第3項の規定による請求をし、若しくは同項の規定により深夜業をしなかつたこと。
第8号 労働基準法第67条第1項の規定による請求をし、又は同条第2項の規定による育児時間を取得したこと。
第9号 妊娠又は出産に起因する症状により労務の提供ができないこと若しくはできなかつたこと又は労働能率が低下したこと。

ですから、女性労働者が婚姻・妊娠・出産したことのみを理由に解雇された場合には、その解雇は「客観的合理的な理由がない」と認定されその解雇は解雇権を濫用するものとし無効と判断されることになります。

なお、女性労働者が婚姻・妊娠・出産したことを理由として解雇された場合のその解雇の効力及びその解雇への対処法等についてはこちらのページを参考にしてください。

(4)女性労働者が「産前・産後の休業を請求または取得したこと」を理由にした解雇

前述したように、使用者は6週間(多胎妊娠の場合は14週間)以内に出産する女性が休業を申請した場合、また産後8週間を経過しない女性を就業させてはなりませんので(労働基準法第65条※産後は医師が認めた業務を除く)、その状態にある女性労働者がその期間の休業を「請求したこと」または「その期間に休業したこと」を理由に解雇することは許されません(雇用機会均等法第9条3項、同法施行規則第2条の2第5号)。

前述した(1)では「その休業期間中の解雇」が、また(2)では「その休業期間後30日が経過するまでの解雇」が絶対的に禁止され無効と判断されましたが、それだけではなく「その休業の請求をしたことを理由とした解雇」や「その休業を取得して休業したことを理由とした解雇」についてもここで絶対的に禁止されているわけです。

ですから、女性労働者が産前休暇(6週間※多胎妊娠の場合は14週間)または産後休暇(8週間)の請求をしたこと、またはその休暇を取得したことを理由として解雇されたケースでは「客観的合理的な理由がない」と認定されその解雇は解雇権を濫用するものとして無効と判断されることになります。

なお、女性労働者が産前または産後の休業を請求し又はその休業を取得したことを理由とした解雇の効力およびその解雇への対処法等についてはこちらのページを参考にしてください。

産休・育休を請求又は取得したことを理由に女性が解雇された場合