出産後まもない時期に女性労働者が解雇された場合の対処法

出産した女性労働者が、出産後間もない期間に解雇されてしまうケースが見られます。

たとえば、出産した女性労働者が産休後まもなく会社の経営不振を理由に解雇されてしまったり、出産からそう期間を開けない期間に何らかの非違行為を指摘されて解雇されてしまうようなケースです。

しかし、出産まもない時期にある女性労働者は心身ともに過酷な状況に置かれていますから、仮にその解雇された女性労働者に対抗できる根拠があったとしても解雇に十分な対応が取れないケースも考えられますので、そのような時期における解雇が認められるのは好ましくありません。

また、仮に会社側の解雇事由に正当な理由があるとしても、出産した女性労働者が収入の道を断たれることになれば母子ともにその生存すら危ぶまれることになりますから、出産後一定期間は解雇を制限すべきとも思えます。

では、このように出産間もない女性労働者が解雇されてしまった場合、その解雇にどのように対処すればよいのでしょうか。

具体的にどのような対処をすれば労働者としての地位や権利を保全することができるのか、という点が問題となります。

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「出産後1年を経過しない」女性労働者に対する解雇が”基本的に”「無効」であることを知っておく

出産後まもない期間に女性労働者が解雇された場合の対処法を考える前提としてまず理解してもらいたいのが、「出産後1年を経過しない女性労働者」に対する解雇が基本的に許されていないという点です。

雇用機会均等法第9条4項は「妊娠中の女性労働者及び出産後1年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、無効とする」と述べていますので、そもそも法律は「出産後1年を経過しない」女性労働者の解雇を否定しています。

労働基準法第9条4項

妊娠中の女性労働者及び出産後1年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、無効とする。ただし、事業主が当該解雇が前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない。

ですから、仮に出産後まもない女性労働者が解雇されたとしても、その解雇された時期が「出産後1年を経過しない」時期であるのなら、その解雇は「無効」と考えても基本的には差し支えないということになるわけです。

「出産後まもない時期」における解雇として無効と判断できないか検討する

このように、出産後まもない時期における解雇は、その解雇された時期が「出産後1年を経過しない」時期であるのであれば、その事実だけで無効と判断できるケースもありますが、「出産後1年を経過しない」時期であるからといって必ずしもその解雇が無効と判断できるわけではありません。

「出産後1年を経過しない」時期の解雇であっても特定の条件を満たす場合はその解雇が必ずしも無効と判断できないケースもあるからです。

たとえば、今挙げた雇用機会均等法第9条4項でもその但書に「ただし、事業主が当該解雇が前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない」と規定していますので、その”前項”にあたる雇用機会均等法第9条3項に規定された事由を理由とする解雇でないことを事業主が証明した場合には、たとえその女性労働者に対する解雇が「出産後1年を経過しない」時期における解雇であったとしても、その「出産後1年を経過しない」という事実だけをもって必ずしも無効と判断されないケースが存在することになります。

また、仮にその「出産後1年を経過しない」時期における解雇が「雇用機会均等法第9条3項に規定された事由を理由とする解雇でないこと」を事業主が「立証できた」ことによって、その解雇が無効と判断できない場合であったとしても、その解雇が「出産後8週間を経過しない女性労働者」に対する解雇である場合に、使用者が「天災事変その他やむを得ない事由によって事業継続が不可能となった場合」において「労働基準監督署の認定を受けていない」ケースであれば労働基準法第19条の規定からその解雇は違法な解雇になって無効と判断されますが、仮にそのケースで使用者が「労働基準監督署の認定を受けていた」場合には、その解雇が「違法とならない」結果としてその解雇が必ずしも無効と判断されないケースも生じうることになります。

ですから、出産後のまもない期間に女性労働者が解雇された場合には、その解雇が雇用機会均等法第9条4項や労働基準法第19条の規定で無効と判断できる余地がないか、十分に検討する必要があるといえます。

なお、出産後まもない女性労働者に対する解雇が具体的にどのような事情の下で無効と判断され得るか、その基準や要件については『出産後の女性労働者に対する解雇は有効か無効か、その判断基準』のページで詳しく解説していますのでそちらを参照してください。

出産後まもない女性労働者が解雇された場合の対処法

このように、出産後まもない女性労働者が解雇された場合であっても、『出産後の女性労働者に対する解雇は有効か無効か、その判断基準』のページで解説したように、「出産後1年を経過しない」時期における解雇であったり、「産後8週間を経過しない」時期における解雇であったり、あるいは解雇事由に「客観的合理的な理由」や「社会通念上の相当性」がない場合には、その解雇は無効と判断できる可能性がありますので、そのような解雇であることが判断できた場合には、解雇された女性労働者はその解雇の無効を主張して解雇の撤回を求めたり、解雇日以降に得られるはずであった賃金の支払いを求めることができるものと考えられます。

もっとも、そのようにして解雇の無効を主張できる場合であっても、実際に解雇の通知を受ければ労働者の側で何らかの対処を取らなければなりませんので、その場合にどのような対処法をとることができるのかという点が問題となります。

(1)解雇理由証明書の交付を受けておく

出産後まもない女性労働者が解雇された場合には、その解雇事由の如何にかかわらず、その解雇された時点で会社に解雇理由証明書の交付を請求し、その証明書の交付を求めておくようにしてください。

解雇理由証明書の交付は労働基準法第22条ですべての使用者(個人事業主も含む)に義務付けられていますので、解雇された労働者が請求すれば必ずその交付を受けることが可能です(※仮にその解雇理由証明書の交付がなされない場合はその事実だけで労基法違反となります)。

この点、なぜその解雇理由証明書が必要になるかと言うと、それは会社側が後になって解雇の理由を勝手に変更し、解雇を正当化することがあるからです。

出産後の女性労働者に対する解雇は有効か無効か、その判断基準』のページでも説明したように、「出産後1年を経過しない」時期における解雇や「産後8週間を経過しない」時期における解雇は一定の要件の下でその解雇を無効と判断できますから、仮にそれを検討して無効と判断できるケースで裁判に発展すればまず間違いない会社側が負けてしまいます。

そのため悪質な会社では、裁判になった途端に「あの解雇は○○が理由なんじゃなくて○○が理由なんですよ」などと勝手に解雇理由を変更し、解雇を正当化しようとするケースがあるのです。

しかし、解雇された時点で解雇理由証明書の交付を受けておけば、解雇理由証明書には解雇の理由まで具体的に記載することが法律で義務付けられていますから、その解雇理由証明書の交付を受けた時点で解雇理由を確定させることができますので、それ以降に会社側で勝手に変更される危険を防ぐことができます。

そのため、解雇された場合はまずその解雇の通知を受けた時点で解雇理由証明書の交付を受けておく必要があるのです。

なお、解雇理由証明書の請求に関する詳細は以下のページで詳しく解説していますのでそちらを参考にしてください。

(2)「産後8週間を経過しない」状況で会社が「天災事変その他やむを得ない事由」について「労働基準監督署の認定を受けていない」状態で解雇された場合には、その事実を労働基準監督署に申告してみる

出産後まもない女性労働者が解雇された場合において具体的にどのようなケースでその解雇の無効を判断できるかは『出産後の女性労働者に対する解雇は有効か無効か、その判断基準』のページで解説しましたが、そのうち「産後8週間を経過しない女性労働者」に対する解雇において、使用者が「天災事変その他やむを得ない事由によって事業の継続が不可能となった場合」に「労働基準監督署の認定」を「受けていない」事情があることをもって無効と判断できるケースでは、その事実を労働基準監督署に申告してみるのも対処法の一つとして有効です。