女性労働者への解雇が「100%無効だ」と判断できる10のケース

(5)女性労働者が「妊娠中および産後の健康管理に関する措置を求め、またはその措置を受けたこと」を理由とした解雇

事業主は、女性労働者が母子保健法による健康指導または健康診査を受けられるようしなければならず、またその指導または審査に沿った勤務時間の変更や勤務の軽減等必要は措置を講じなければなりませんので(雇用機会均等法第12条および13条)、女性労働者がその措置を求めたりその措置を受けたことを理由にその女性労働者を解雇することは許されません(雇用機会均等法第9条3項、同法施行規則第2条の2第3号)。

ですから、女性労働者が母子保健法による健康指導や健康診査を受けられるよう請求したことを理由に解雇されたり、その指導や診査に基づく勤務時間や業務内容の変更を求めたことを理由に解雇された場合には、その解雇は「客観的合理的な理由がない」と認定されその解雇は解雇権を濫用するものとして無効と判断されることになります。

なお、女性労働者が「妊娠中および産後の健康管理に関する措置を求め、またはその措置を受けたこと」を理由に解雇された場合のその解雇の効力及びその解雇への対処法等についてはこちらのページを参考にしてください。

母子の健康診断等を求めた女性労働者が解雇された場合の対処法

(6)女性労働者が「妊娠中または産後に坑内業務や危険有害業務を避けたこと」を理由にした解雇

使用者は妊娠中または従事しない旨申し出た産後1年を経過しない女性を坑内業務に就かせたり(労働基準法第64条の2)、妊娠中または産後1年を経過しない女性に重量物を取り扱う業務や有害ガスを発散する業務その他妊婦・胎児の健康に有害な業務に就かせてはなりませんので(労働基準法第64条の3)、妊娠中または産後1年を経過しない女性がその業務に従事しなかったり従事しない申出をしたことを理由として解雇することは許されません(雇用機会均等法第9条3項、同法施行規則第2条の2第5号)。

ですから、妊娠中または産後1年を経過しない女性(坑内業務では申出をした女性)が、重量物や有害ガスその他健康に有害な業務に従事しなかったり従事しない旨申し出たことを理由として解雇された場合には、その解雇は「客観的合理的な理由がない」と認定されて解雇権を濫用するものとして無効と判断されることになります。

(7)女性労働者が「妊娠中に他の軽易な業務への転換を請求しまたは転換したこと」を理由にした解雇

使用者は、妊娠中の女性労働者の請求があった場合は、他の軽易な業務に転換させなければなりませんので(労働基準法第65条第3項)、妊娠中の女性労働者がその請求をしたり、軽易な業務に転換したことを理由に解雇することは許されません(雇用機会均等法第9条3項、同法施行規則第2条の2第6号)。

ですから、たとえば工場のライン作業に従事している妊娠中の女性労働者がつわりがひどいため事務作業への転換を求めたことを理由に解雇されたり、その転換が認められて事務作業に従事した事実をもって解雇されたようなケースでは、その解雇は「客観的合理的な理由を欠く」ものと認定され解雇権を濫用するものとして無効と判断されることになります。

なお、女性労働者が「妊娠中に他の軽易な業務への転換を請求しまたは転換したこと」を理由に解雇された場合のその解雇の効力及びその解雇への対処法等についてはこちらのページを参考にしてください。

妊娠中に軽易な業務への変更を求めて解雇された場合の対処法

(8)「妊娠中または産後1年を経過しない女性労働者が残業や休日出勤、深夜勤務をしなかったりしないことの請求をしたこと」を理由にした解雇

使用者は、妊娠中または産後1年を経過しない女性労働者が請求した場合には時間外労働(残業)や休日出勤、または深夜業に従事させることができませんので(労働基準法第66条)、その女性労働者がそれら時間外労働や休日出勤、深夜勤務をしなかったりそのしないことを請求したことを理由にして解雇することは許されません(雇用機会均等法第9条3項、同法施行規則第2条の2第7号)。

ですから、妊娠中または産後1年を経過しない女性労働者が、残業や休日出勤や深夜勤務を拒否したり、その免除を申し入れたことをもって解雇された場合には、その解雇は「客観的合理的な理由がない」と認定されその解雇は解雇権を濫用するものとして無効と判断されることになります。

なお、女性労働者が「妊娠中または産後1年を経過しない女性労働者が残業や休日出勤、深夜勤務をしなかったりしないことの請求をしたこと」を理由に解雇された場合のその解雇の効力及びその解雇への対処法等についてはこちらのページを参考にしてください。

妊娠中又は産後1年以内に残業や休日出勤を拒否して解雇された場合

(9)「生後満1歳に達しない生児を育てる女性労働者が育児のための休憩を請求しまたは取得したこと」を理由にした解雇

使用者は、生後満1歳に達しない生児を育てる女性労働者が、法定の休憩時間(勤務時間が6時間を超える場合は最低45分、8時間を超える場合は最低1時間※労働基準法第34条)とは別に育児のための休憩(1日2回各30分以上)を請求した場合には、その休憩時間を与えなければなりませんので(労働基準法第67条)、その女性労働者がその休憩を請求または取得したことを理由に解雇することは許されません(雇用機会均等法第9条3項、同法施行規則第2条の2第8号)。

ですから、生後満1歳に達しない生児を育てる女性労働者が育児のための休憩を請求したことまたはその休憩を取得したことを理由に解雇された場合には、その解雇は「客観的合理的な理由を欠く」ものと認定され解雇権を濫用するものとして無効と判断されることになります。

なお、女性労働者が「生後満1歳に達しない生児を育てる女性労働者が育児のための休憩を請求しまたは取得したこと」を理由に解雇された場合のその解雇の効力及びその解雇への対処法等についてはこちらのページを参考にしてください。

満1歳前の子の授乳や育児のための休憩を請求して解雇された場合

(10)女性労働者が「妊娠または出産に起因して勤務できずまたは能力が低下したこと」を理由にした解雇

事業主は、女性労働者が妊娠または出産したことに起因する症状によって仕事ができなかったり、仕事の能率が低下したことを理由として、その女性労働者を解雇することは許されません(同法施行規則第2条の2第9号)。

ですから、たとえば妊娠中の女性労働者がつわりがひどいため早退または欠勤したり、勤務時間中頻繁に洗面所に行くことで作業能率が低下したことを理由に会社から解雇されたような場合には、その解雇は「客観的合理的な理由を欠く」ものと認定され解雇権を濫用するものとして無効と判断されることになります。

なお、女性労働者が「妊娠または出産に起因して勤務できずまたは能力が低下したこと」を理由に解雇された場合のその解雇の効力及びその解雇への対処法等についてはこちらのページを参考にしてください。

妊娠中・産後の体調不良で能率が低下し解雇された場合の対処法

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これら以外の女性労働者に対する解雇が有効になるわけではない

以上で説明したように、上に挙げた(1)~(10)のケースに該当する解雇については、確定的に労働契約法第16条における「客観的合理的な理由」が「ない」と判断されることになりますので、これら10コのケースに該当する解雇は「100%無効」ということになります。

もっとも、ここで誤解してもらいたくないのは、これはあくまでも上記の(1)~(10)にあたるケースの解雇が「100%無効と言える」というだけであって、これらに該当しないケースの解雇が「100%有効」と判断されるわけではないという点です。

上に挙げた(1)~(10)のケースは、その具体的な態様を調べるまでもなく、ただそれだけで「100%無効」と判断できるケースを例示したにすぎません。

上に挙げた(1)~(10)に該当しない解雇であっても、その態様に「客観的合理的な理由」がないのであれば、それは当然に無効と判断されることになります。

「客観的合理的な理由」が「あった」と使用者側が立証できない限り、その解雇は「客観的合理的理由がない」と判断されることになりますので、上に挙げた(1)~(10)のケースだけが解雇を無効と判断できるケースだと誤解しないようにしてください。

上記以外にも解雇を無効と判断できるケースはいくらでもありますから、女性労働者が上に挙げた(1)~(10)に該当しない解雇を受けた場合には、なるべく早めに弁護士など専門家に相談することが大切です。