満1歳前の子の授乳や育児のための休憩を請求して解雇された場合

産後まもない女性労働者が生児のための休憩を請求したり、実際に休憩を取得したことを理由として勤務先から解雇されてしまうケースが見られます。

たとえば、実家の近くにある会社に勤めている産後まもない生児を養育する女性が、実家に預けている生児に授乳するため勤務中に若干の休憩時間を付与してくれるよう求めたところ上司から疎まれて解雇させられたり、勤務先の会社の託児所に預けている生児の様子が気になって勤務中に30分程度の休憩時間を取得して見に行ったところ、その後に会社から問題視されて解雇されるようなケースです。

しかし、このような解雇がまかり通れば、生後まもない乳児を養育する女性は育児をあきらめて仕事に専念することを強制させられることになりますが、そうなれば子の健全な成長にも負の影響を与えることになりかねず、生命の危険すら生じさせてしまうかもしれません。

では、このような産後まもない女性労働者が育児のための休憩時間を請求しまたは取得したことを理由とした解雇はそもそも認められるものなのでしょうか。

また、実際にそのような解雇を受けた場合、女性労働者はどのように対処すれば労働者としての地位や権利を保全することができるのでしょうか。

なお、生後間もない生児を養育する女性労働者が生児を育てるための休憩時間を請求または取得して減給や降格あるいは配置転換など不利益な取り扱いを受けた場合の対処法については『授乳や育児のための30分休憩を請求して減給や降格された場合』のページで解説しています。
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生後満1年に達しない生児を養育する女性労働者は育児のための30分休憩を1日2回取得できる

このように、生後間もない生児を養育する女性労働者が勤務中に育児のための休憩時間を取ろうと申し入れたり実際にそのための休憩時間を取得して解雇されてしまうケースがあるわけですが、その際の対処法を検討する前提として、そもそもそのような休憩時間の取得が認められるのかという点を考える必要があります。

そもそも生児を養育する女性労働者に育児のための休憩時間を取得する権利がないのなら、会社側の処分に抗議することすらできないからです。

この点、法律はどのように定めているかというと、労働基準法第67条で以下のように規定されています。

【労働基準法第67条

第1項 生後満一年に達しない生児を育てる女性は、第34条の休憩時間のほか、1日2回各々少なくとも30分、その生児を育てるための時間を請求することができる。
第2項 使用者は、前項の育児時間中は、その女性を使用してはならない。

【労働基準法第34条

第1項 使用者は、労働時間が6時間を超える場合においては少くとも45分、8時間を超える場合においては少くとも1時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。
第2項 前項の休憩時間は、一斉に与えなければならない。ただし、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定があるときは、この限りでない。
第3項 使用者は、第1項の休憩時間を自由に利用させなければならない。

労働基準法第67条の第1項はこのように、生後満1年に達しない生児を養育する女性労働者については労働基準法第34条で規定された休憩時間とは別に「1日2回少なくとも各々30分の休憩時間」を請求することができるとしていますので、生後満1年に達しない生児を養育する女性労働者は通常の休憩時間(労働基準法第34条で勤務時間が6時間を超える場合は最低45分、8時間を超える場合は最低1時間)とは別に、その生児を育てるための休憩時間を「1日2回少なくとも各々30分間」付与するよう請求することができます。

ですから、このページの冒頭で例示したような女性労働者が授乳や育児のための休憩時間を請求した行為自体は、その生児が生後満1年に達しない状況にあるケースでは、法律に従った正当な権利行使であったということが言えます。

使用者は生後満1年に達しない生児を養育する女性労働者の育児のための休憩を拒否できない

この点、生後満1年に達しない生児を養育する女性労働者が通常の休憩時間とは別に「1日2回少なくとも各々30分間」のきゅけい時間を取得できるとしても、その取得を使用者側で拒否できるかという点が問題となりますが、それは認められません。

なぜなら、労働基準法第67条第2項がそれを否定しているからです。

労働基準法第67条第2項は、その請求を受けた使用者がその女性労働者をその時間に働かせてはいけないと規定していますので、使用者は生後満1年に達しない生児を養育する女性労働者からその「1日2回少なくとも各々30分間」の育児のための休憩を請求された場合には、それ拒否することができません。

ですから、生後満1年に達しない生児を養育する女性労働者は、会社側の意思にかかわらず、授乳や育児のための休憩時間を請求しまたは取得することができるということになります。

なお、生後満1年に達しない生児を養育する女性労働者が生児を育てるための休憩時間を請求したのにそれを拒否された場合の対処法については『授乳や育児のための30分の休憩時間をもらえない場合の対処法』のページで解説しています。

生後満1年に達しない生児を養育する女性労働者が養育のための休憩時間を請求または取得したことを理由とした解雇は無効

では、このように生後満1年に達しない生児を養育する女性労働者が通常の休憩時間とは別に「1日2回少なくとも各々30分間」の育児のための休憩時間を取得することができ、かつ使用者がその請求を拒否できないことを踏まえたうえで、その休憩時間を請求または取得した女性労働者が解雇された場合のその解雇の効力を検討してみますが、結論から言えばそのような解雇は無効です。

なぜなら、雇用機会均等法第9条第3項がそのような解雇を禁止しているからです。

【雇用機会均等法第9条第3項

事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法(中略)第65条第1項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第2項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

雇用機会均等法施行規則第2条の2第8号

法第9条第3項の厚生労働省令で定める妊娠又は出産に関する事由は、次のとおりとする。
第1~7(省略)
第8号 労働基準法第67条第1項の規定による請求をし、又は同条第2項の規定による育児時間を取得したこと。

雇用機会均等法第9条第3項はこのように、「妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない」と規定していますが、その厚生労働省令にあたる同法施行規則第2条の2第8号は「労働基準法第67条第1項の規定による請求をし、又は同条第2項の規定による育児時間を取得したこと」をその一つに挙げていますので、生後満1年に達しない生児を養育する女性労働者が「1日2回少なくとも各々30分間」の育児のための休憩時間を請求しまたは取得ことを理由として、会社がその女性労働者を解雇することは許されません。

つまり、生後満1年に達しない生児を養育する女性労働者が生児を養育するための休憩時間を請求しまたは取得したことを理由とした解雇は「違法な解雇」となるわけです。

この点、解雇の要件については労働契約法第16条に規定がありますが、そこでは解雇に「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の2つの要件を求めていますが、「違法な解雇」に「客観的合理的な理由」は存在しませんので、そのような解雇は労働契約法第16条の解雇の要件を満たしません。

【労働契約法第16条】

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

ですから、生後満1年に達しない生児を養育する女性労働者が授乳や育児のための休憩時間を請求しまたは取得したことを理由とした解雇は、解雇権を濫用する無効な解雇と判断されることになるわけです。

生後満1年に達しない生児を養育する女性労働者が育児のための休憩時間を請求しまたは取得して解雇された場合の対処法

以上で説明したように、生後満1年に達しない生児を養育する女性労働者が通常の休憩時間とは別に「1日2回少なくとも各々30分間」の政治を養育するための休憩時間を請求しまたは取得したことを理由とした解雇は絶対的・確定的に100%無効ということになりますから、そのような解雇を受けた女性労働者はその解雇の無効を主張してその撤回を求めたり、その解雇日以降に得られるはずであった賃金の支払いを求めることもできるということになります。

もっとも、実際にそのような解雇を告知されてしまえば解雇された労働者の側から何らかの対処を取らなければ解雇が既成事実化されてしまいますので、その場合に女性労働者の側で具体的にどのような対処を取ることができるかが問題となります。

(1)「育児のための休憩時間を請求(または取得)したことを理由とした解雇」であった旨記載された解雇理由証明書の交付を受けておく

生後満1年に達しない生児を養育する女性労働者が授乳や育児のための休憩時間を請求または取得して解雇された場合には、その解雇を告知された時点で会社に解雇理由証明書の交付を請求しその降雨を受けておくようにします。

解雇理由証明書の交付は労働基準法第22条ですべての使用者(個人事業主も含む)に義務付けられておりその証明書には解雇の具体的な理由まで記載することが求められていますので、解雇された女性労働者が請求すれば「生児を養育するための休憩時間を請求(または取得)したから解雇した」などと解雇の理由まで具体的に記載された解雇理由証明書が必ず遅滞なく交付されるはずです(※仮に発行され場合はそれ自体が労働基準法違反として処罰の対象になります)。

この点、なぜその解雇理由証明書の交付を受けておくことが必要になるかと言うと、それは後になってか会社側が勝手に解雇の理由を全く別のものに変えてしまうことがあるからです。

このページで説明してきたように、生後満1年に達しない生児を養育する女性労働者が通常の休憩時間とは別に「1日2回少なくとも各々30分間」の育児のための休憩時間取得することは法律(労働基準法第67条)で明確に認められており、それを請求または取得したことを理由として解雇することも禁止されていますから(雇用機会均等法第9条第3項)、裁判になればまず間違いなく会社側が負けてしまいます。

そのため悪質な会社では、裁判になったり弁護士が介入してきた途端に解雇理由を全く別のものに変更し「あれはその女性労働者が育児のための休憩時間を請求(または取得)したから解雇したわけじゃなくて、その女性労働者に○○の事由があったからですよ」などと勝手に労働者の非違行為をでっちあげたりして解雇を正当化する抗弁を出して来ることがあるのです。

しかし、解雇の告知を受けた時点で解雇理由証明書の交付を受けておけば、その時点で解雇理由を「育児のための休憩時間を請求(または取得)したこと」という理由に確定させることができ、それ以降に会社側が勝手に解雇理由を変更することを防ぐことができます。

そのため、解雇の告知を受けた時点で解雇理由証明書の交付を受けておく必要があるのです。

なお、解雇理由証明書の請求に関する詳細は以下のページで詳しく解説していますのでそちらを参考にしてください。