「妊娠したこと」を理由に女性労働者が解雇された場合の対処法

妊娠した女性労働者が「妊娠したこと」を理由に解雇させられてしまうケースがごく稀に見られます。

例えば、妊娠したことを上司に報告した女性労働者が、上司から「産休や育休をとられてもらったらこまるから…」と言われて解雇されたり、「入社の際に子どもは作らないって言ってたじゃないか、子どもをつくるなら最初から雇ってなかったんだぞ」と言われて解雇されるようなケースが代表的です。

しかし、子どもをつくるか否かは本人の自由であり幸福追求権(憲法13条)の問題でもありますから、それを理由に解雇することは基本的人権の侵害にあたるような気もします。

また、妊娠したか否か、子供を産むか生まないかは労働者個人の能力や適性に何の関係もありませんから、「妊娠したこと」を理由に解雇することに合理的な理由は存在しないようにも思えます。

では、このように女性労働者が「妊娠したこと」を理由に解雇された場合、その解雇は有効なのでしょうか無効なのでしょうか。

また、女性労働者が「妊娠したこと」を理由に解雇されてしまった場合、具体的にどのように対処すれば自身の労働者としての地位や権利を保全することができるのでしょうか。

広告

「妊娠したこと」を理由にした女性労働者に対する解雇は無効

このように、女性労働者が「妊娠したこと」を理由に解雇されてしまうケースがあるわけですが、その場合の対処法を考える前提として、そもそもそのような解雇が有効なのか無効なのかという点を理解しておかなければなりません。

「妊娠したこと」を理由に解雇することがそもそも許されるものなのかをりかいできなければ、その対処法の選択すらできないからです。

この点、結論から言えば、女性労働者に対する「妊娠したこと」を理由にした解雇は絶対的・確定的に100%無効となります。

なぜなら、「妊娠したこと」を理由にした解雇に「客観的合理的な理由」が存在しないからです。

雇用機会均等法第9条3項と同法施行規則第2条の2第1号は、女性労働者が「妊娠したこと」を理由に解雇することを禁止していますから、仮に女性労働者が「妊娠したこと」を理由に解雇された事案があるとすれば、それは雇用機会均等法に違反する「違法な解雇」があったということになります。

雇用機会均等法第9条第3項

事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法(中略)第65条第1項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第2項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

雇用機会均等法施行規則第2条の2

法第9条第3項の厚生労働省令で定める妊娠又は出産に関する事由は、次のとおりとする。
第1号 妊娠したこと。
第2号 出産したこと。
第3号(以下省略)

ところで、解雇の基準は労働契約法第16条に規定がありますが、そこでは解雇に「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の2つの要件が求められていますので、その2つのうち1つでも欠けている場合には、その解雇は解雇権を濫用する無効なものと判断されることになります。

【労働契約法第16条】

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

つまり、労働者が解雇された場合であっても、その解雇事由に「客観的合理的な理由」が「ない」と認められればその解雇は無効と判断されますし、仮にその「客観的合理的な理由」が「ある」と認められる事案であったとしても、その「客観的合理的な理由」に基づいて解雇することが「社会通念上相当」と言える事情が「ない」場合には、その解雇はやはり無効と判断されることになるわけです。

そうすると、先ほど説明したように女性労働者を「妊娠したこと」を理由に解雇することは雇用機会均等法第9条第3項と同条施行規則第2条の2第1号で明確に禁止されていて「違法な解雇」となるわけですから、その「違法な解雇」に「客観的合理的な理由」は存在しませんので、「妊娠したこと」を理由にした解雇は無効と判断されることになります。

ですから、女性労働者が「妊娠したこと」を理由にした解雇は、絶対的・確定的に100%無効ということが言えるわけです。

女性労働者が「妊娠したこと」を理由に解雇された場合の対処法

以上で説明したように、女性労働者に対する「妊娠したこと」を理由とした解雇は無効ですから、仮に女性労働者がそのような解雇を受けた場合には、その解雇の無効を主張して撤回を求めたり、その解雇日以降に得られるはずであった賃金の支払いを求めることなどができます。

もっとも、実際に女性労働者が「妊娠したこと」を理由に解雇されてしまった場合には、解雇された女性労働者の側で何らかの対処を取らなければ解雇が既成事実化されてしまいますので、その場合に具体的にどのような対処がとれるのかが問題となります。

(1)解雇理由証明書の交付を受けておく

女性労働者が「妊娠したこと」を理由に解雇された場合には、まずその解雇の通知を受けた時点で会社に解雇理由証明書の交付を請求し、その証明書の交付を受けておくようにしてください。

解雇理由証明書の交付は労働基準法第22条ですべての使用者に義務付けられており、その証明書には解雇の事由だけでなく具体的な解雇の理由まで記載することが強制されていますので、解雇された女性労働者が請求する限り、会社から必ず「女性労働者を妊娠したことを理由として解雇した」という趣旨の解雇理由証明書の交付を受けることができます(※仮に会社が解雇理由証明書の交付をしない場合はその事実が労働基準法違反となります)。

この点、なぜその解雇理由証明書の交付を受けておく必要があるかと言うと、それは会社側が勝手に解雇の理由を全く別の理由に変更してしまうケースがあるからです。

前述したように「妊娠したこと」を理由に女性労働者を解雇することは雇用機会均等法で禁止されていますから、裁判になればまず間違いなく会社側が負けてしまいます。

そのため悪質な会社では、裁判になった途端に「あれは妊娠したことを理由として解雇したんじゃなくてその女性労働者に○○の事由があったからですよ」などと勝手に従前の解雇理由を変更し、労働者の非違行為などをでっちあげて解雇を正当化しようとするケースがあるのです。

しかし解雇された時点で解雇理由証明書の交付を受けておけば、その証明書に「妊娠を理由として解雇した」と記載させることができますから、後になって会社側で勝手に解雇理由を変更されてしまう不都合を回避することができます。

そのため、「妊娠したこと」を理由に解雇された場合には、その解雇の告知を受けた時点で解雇理由証明書の交付を受けておく必要があるのです。

なお、解雇理由証明書の請求に関する詳細は以下のページで詳しく解説していますのでそちらを参考にしてください。

(2)「妊娠したこと」を理由した解雇が違法である旨記載した通知書を送付してみる

女性労働者が「妊娠したこと」を理由に解雇された場合には、その解雇が雇用機会均等法に違反する違法なものである点を指摘した通知書を作成し会社に送付してみるというのも対処法の一つとして有効な場合があります。

前述したように「妊娠したこと」を理由に女性労働者を解雇することは雇用機会均等法で明確に禁止されており違法ですから、そのような違法な解雇を行う会社はそもそも法令遵守意識の低い会社であることが推測されますので、そのような会社にいくら口頭で「違法な解雇を撤回しろ」と求めたところでそれが通じる期待は望めません。

しかし、改めて書面という形でその違法性を指摘すれば、将来的な裁判や行政官庁の介入、また弁護士などへの相談を警戒して解雇の撤回や話し合いに応じてくる可能性もありますので、とりあえず書面で通知してみるという方法も、対処法として有効に機能する場合があると考えられるのです。

なお、この場合に会社に送付する通知書の文面は以下のようなもので差し支えないと思います。

甲 株式会社

代表取締役 ○○ ○○ 殿

妊娠したことを理由とした解雇の無効確認及び撤回申入書

私は、〇年〇月〇日、貴社から解雇する旨の通知を受け、同月末日をもって貴社を解雇されました。

この解雇について私が直属の上司であった○○にその理由を尋ねたところ、同氏から、同年〇月に私から妊娠したこと旨の報告を受けた際、社内会議で産休・育休の取得によってプロジェクトの遂行に遅延が生じることは避けなければならないとの結論が出たことから解雇が決定された旨の説明を受けております。

しかしながら、女性労働者が妊娠したことを理由として解雇することは雇用機会均等法第9条第3項および同法施行規則第2条の2第1号で明確に禁止されていますから、当該解雇は明らかに違法です。

したがって、本件違法な解雇に客観的合理的な理由はなく解雇権を濫用した無効なものと言えますから(労働契約法第16条参照)、直ちに本件解雇を撤回するよう申し入れいたします。

以上

〇年〇月〇日

〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号○○マンション〇号室

○○ ○○ ㊞

※証拠として残しておくため、コピーを取ったうえで配達した記録の残る特定記録郵便などの郵送方法で送付するようにしてください。

(3)労働局の紛争解決援助または調停の手続きを利用してみる

女性労働者が「妊娠したこと」を理由に解雇された場合には、労働局の紛争解決援助の手続きをや調停の手続きを利用してみるのも対処法の一つとして有効な場合があります。

前述したように女性労働者が「妊娠したこと」を理由とした解雇は雇用機会均等法で禁止されていますが、雇用機会均等法に違反する事業主との間で紛争が生じた場合には、労働者は労働局が主催する紛争解決援助の手続きや調停の手続きを利用して解決を図ることが可能です(雇用機会均等法第16条~)。

雇用機会均等法第16条

第5条から第7条まで、第9条、第11条第1項、第11条の2第1項、第12条及び第13条第1項に定める事項についての労働者と事業主との間の紛争については、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(中略)第4条、第5条及び第12条から第19条までの規定は適用せず、次条から第27条までに定めるところによる。

雇用機会均等法第17条

第1項 都道府県労働局長は、前条に規定する紛争に関し、当該紛争の当事者の双方又は一方からその解決につき援助を求められた場合には、当該紛争の当事者に対し、必要な助言、指導又は勧告をすることができる。
第2項 事業主は、労働者が前項の援助を求めたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

雇用機会均等法第18条

第1項 都道府県労働局長は、第16条に規定する紛争(労働者の募集及び採用についての紛争を除く。)について、当該紛争の当事者(中略)の双方又は一方から調停の申請があつた場合において当該紛争の解決のために必要があると認めるときは、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第6条第1項の紛争調整委員会(中略)に調停を行わせるものとする。
第2項 前条第2項の規定は、労働者が前項の申請をした場合について準用する。

この労働局の紛争解決援助や調停の手続きを利用した場合、労働局から紛争解決の為の助言や指導、勧告などが出されたり、労働局の調停委員会から調停案が提示されることがありますが、その指導や勧告、または調停などに会社が従う場合には、その違法な解雇が撤回されたり補償に応じることも考えられますので、とりあえず労働局に紛争解決援助の相談(申請)をしてみるというのも対処法の一つとして有効な場合があると考えられるのです。

なお、労働局の紛争解決援助の手続き等の利用については『労働局の紛争解決援助(助言・指導・あっせん)手続の利用手順』のページで詳しく解説していますのでそちらを参考にしてください(当該ページは個別労働関係紛争の解決に関する法律にかかる労働局の手続き利用を説明していますが、雇用機会均等法における労働局の手続きも同じ要領で利用可能です。細かいところは労働局に相談に行けば教えてもらえますので問題ありません)。

なお、以上で説明してきたように「妊娠したことを理由に女性労働者を解雇すること」は雇用機会均等法で禁止されてはいますが、労働基準法で禁止されているわけではありませんので、労働基準法に違反する使用者を監督する権限を持つ労働基準監督署に申告(相談)しても積極的な対処は望めないと思います。

ですから、「妊娠したこと」を理由に解雇された場合については労働基準監督署ではなく労働局に相談する方が良いと思います。

女性労働者が「妊娠したこと」を理由に解雇された場合のその他の対処法

女性労働者が「妊娠したこと」を理由として解雇された場合のこれら以外の対処法としては、各都道府県やその労働委員会が主催するあっせんの手続きを利用したり、弁護士会や司法書士会が主催するADRを利用したり、弁護士(または司法書士)に個別に相談・依頼して裁判や裁判所の調停手続きを利用する方法が考えられます。

なお、これらの解決手段については以下のページを参考にしてください。

労働問題の解決に利用できる7つの相談場所とは

解雇を前提とした金品(解雇予告手当や退職金など)は受け取らない方が良い

なお、女性労働者が「妊娠したこと」を理由に解雇された場合にこのような対処法がとれるとしても、解雇された時点で会社から交付される解雇予告手当や退職金などは受け取らない方が良いかもしれません。

解雇予告手当や退職金は「退職(解雇)の事実があったこと」を前提として交付されますから、そのような退職(解雇)を前提とした金品を受け取ってしまうと「無効な解雇を追認した」と裁判所に判断されて後で解雇の無効を主張するのが事実上困難になるケースがあるからです。

解雇された時点でそのような金品の交付を受けた場合には、それを受け取る前に速やかに弁護士などに相談し、受け取るべきか否か助言を受ける方が良いでしょう(※参考→解雇されたときにしてはいけない2つの行動とは)。

解雇のトラブルはなるべく早めに弁護士に相談した方が良い

なお、解雇された場合の個別の対応は、解雇の撤回を求めて復職を求めるのか、それとも解雇の撤回を求めつつも解雇は受け入れる方向で解雇日以降の賃金の支払いを求めるのか、また解雇を争うにしても示談交渉で処理するのか裁判までやるのか、裁判をやるにしても調停や労働審判を使うのか通常訴訟手続を利用するのかによって個別の対応も変わってくる場合があります。

労働トラブルを自分で対処してしまうとかえってトラブル解決を困難にする場合もありますので、弁護士に依頼してでも権利を実現したいと思う場合は最初から弁護士に相談する方が良いかもしれません。その点は十分に注意して下さい。