婚姻(結婚)したことを理由として女性が解雇された場合の対処法

女性労働者が「婚姻したこと」を理由として解雇されてしまうケースがあります。

たとえば、女性労働者が恋人と入籍したことを上司に報告したところ「結婚して産休でも取られたら困る」などと言われて解雇されてしまったり、職場の同僚と結婚したところ「夫婦が職場に居たら社内の風紀が乱れる」などと言われて解雇されてしまうようなケースが代表的です。

このような「結婚したこと」を理由とした解雇に合理的な理由があるとは思えませんが、実際にそのような解雇を受けてしまえば何らかの対処をとらなければなりません。

では、このように「婚姻したこと」を理由とした解雇を受けた場合、女性労働者はどのような対処を取ればよいのでしょうか。

その解雇の無効を主張して撤回などを求めることができるのでしょうか。

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婚姻(結婚)を理由とした解雇は絶対的・確定的に100%無効

この点、婚姻したことを理由とした解雇の対処法を考える前提として、そもそも婚姻(結婚)を理由とした解雇が許されているのかという点を理解しなければなりませんが、結論から言えばそのような解雇は無効です。絶対的・確定的に100%無効と言えます。

なぜなら、「婚姻(結婚)したこと」を理由に解雇することに「客観的合理的な理由」は存在しないからです。

雇用機会均等法第9条第2項は以下に挙げるように「女性労働者が婚姻したことを理由として、解雇してはならない」と規定していますから、仮に会社がその雇用している女性労働者を「婚姻(結婚)した」という理由で解雇した場合には、その解雇は法律に違反する「違法な解雇」と認定されることになります。

雇用機会均等法第9条第2項

事業主は、女性労働者が婚姻したことを理由として、解雇してはならない。

ところで、解雇の基準は労働契約法第16条に規定されていますが、そこでは解雇に「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の2つの要件を求めていますので、この2つの要件のうちどちらか一方でも欠けている場合には、その解雇は無効と判断されることになります。

【労働契約法第16条】

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

つまり、労働者が解雇されたとしても、その解雇事由に「客観的合理的な理由」が「ない」と認められれればその解雇は無効と判断されることになりますし、仮にその「客観的合理的な理由」が「ある」と認められるケースでも、その「客観的合理的な理由」に基づいて解雇することが「社会通念上相当」と認められる事情が「ない」場合には、その解雇はやはり解雇権を濫用した無効なものと判断されることになるわけです。

この点、先ほど述べたように「婚姻(結婚)したこと」を理由とした解雇は雇用機会均等法第9条2項で禁止されているため「違法な解雇」となりますが、「違法な解雇」に「客観的合理的な理由」は存在しませんので、「婚姻(結婚)したこと」を理由とした解雇は労働契約法第16条の「客観的合理的な理由」の要件を満たさないことになるので無効です。

ですから、女性労働者が勤務先の会社から婚姻(結婚)を理由として解雇された場合には、その解雇の無効を主張して撤回を求めることができますし、解雇日以降に得られるはずであった賃金の支払いを求めることも可能ということになります。

女性労働者が婚姻(結婚)を理由として解雇された場合の対処法

このように、女性労働者に対する婚姻(結婚)を理由とした解雇は無効ですから、女性労働者が婚姻(結婚)を理由として解雇された場合には、その無効を主張して争うことが可能です。

もっとも、実際に解雇を通知されてしまえば、解雇された女性労働者の側で何らかの対処を取らなければ解雇が既成事実化されてしまいますので、その具体的な対処法が問題となります。

(1)「婚姻(結婚)が解雇理由である事」が記載された解雇理由証明書の交付を受けておく

女性労働者が婚姻(結婚)を理由として解雇された場合には、まずその解雇の告知を受けた時点で会社に対して解雇理由証明書の交付を請求し、その交付を受けておくようにしてください。

解雇理由証明書の交付は労働基準法第22条ですべての使用者(個人事業主も含む)に強制されるだけでなく、解雇の理由まで具体的に記載することも義務付けられていますので、解雇された労働者が請求すれば必ず具体的な解雇の理由まで記載された証明書の交付を受けることができます(※交付されない場合はその事実が労基法違反となります)。

この点、なぜその解雇理由証明書が必要になるかというと、それは後になって会社側が勝手に解雇の理由を変更してくることがあるからです。

先ほど説明したように、女性労働者を婚姻(結婚)を理由として解雇することは禁止されていますから、その解雇は絶対的確定的に無効と判断できるため裁判になればまず間違いなく会社が負けてしまいます。

そのため、悪質な会社では、当初は婚姻(結婚)を理由として解雇しておきながら、裁判になった途端に「あれは婚姻が理由じゃなくて彼女に○○の事由があったからですよ」などと勝手に解雇理由を変更して労働者の非違行為をでっちあげ、解雇を正当化してくるケースがあるのです。

しかし、解雇の通知を受けた時点で解雇理由証明書の交付を受けておけば、その証明に解雇理由を記載せせることで「婚姻(結婚)を理由として解雇された」事実をその時点で確定させることができますから、後になって会社に勝手に解雇理由を変えられてしまう不利益を回避することができます。

そのため、解雇された時点で解雇理由証明書の交付を受けておく必要があるのです。

なお、解雇理由証明書の請求に関する詳細は以下のページで詳しく解説していますのでそちらを参考にしてください。

(2)労働局に紛争解決援助の手続きや調停の申請を行う

女性労働者が婚姻(結婚)を理由として解雇された場合には、労働局に紛争解決援助の手続きや調停の手続きを申し込んでみるのも対処法の一つとして有効なケースがあります。

前述したように女性労働者に対する婚姻(結婚)を理由とした解雇は雇用機会均等法で禁止されていますが、雇用機会均等法に違反する事業主との間で紛争が生じた場合には、労働局が主催する紛争解決援助の手続きや調停の手続きを利用して解決を図ることができます(雇用機会均等法第16条~)。

雇用機会均等法第16条

第5条から第7条まで、第9条、第11条第1項、第11条の2第1項、第12条及び第13条第1項に定める事項についての労働者と事業主との間の紛争については、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(中略)第4条、第5条及び第12条から第19条までの規定は適用せず、次条から第27条までに定めるところによる。

雇用機会均等法第17条

第1項 都道府県労働局長は、前条に規定する紛争に関し、当該紛争の当事者の双方又は一方からその解決につき援助を求められた場合には、当該紛争の当事者に対し、必要な助言、指導又は勧告をすることができる。
第2項 事業主は、労働者が前項の援助を求めたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

雇用機会均等法第18条

第1項 都道府県労働局長は、第16条に規定する紛争(労働者の募集及び採用についての紛争を除く。)について、当該紛争の当事者(中略)の双方又は一方から調停の申請があつた場合において当該紛争の解決のために必要があると認めるときは、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第6条第1項の紛争調整委員会(中略)に調停を行わせるものとする。
第2項 前条第2項の規定は、労働者が前項の申請をした場合について準用する。

この労働局の手続きに強制力はありませんから、会社側が応じなければ解決は図れませんが、会社側が労働局から出される調停案などに従う場合にはこの手続きを利用することで違法な解雇の解消が図られる可能性も期待できます。

そのため、女性労働者が婚姻(結婚)を理由として解雇された場合には、とりあえず労働局に相談し紛争解決援助の手続きや調停の手続きの利用を検討してみるのも対処法の一つとして有効なケースがあると考えられるのです。

なお、労働局の紛争解決援助の手続き等の利用については『労働局の紛争解決援助(助言・指導・あっせん)手続の利用手順』のページで詳しく解説していますのでそちらを参考にしてください(当該ページは個別労働関係紛争の解決に関する法律にかかる労働局の手続き利用を説明していますが、雇用機会均等法における労働局の手続きも同じ要領で利用可能です。細かいところは労働局に相談に行けば教えてもらえますので問題ありません)。

なお、「婚姻(結婚)したことを理由に女性労働者を解雇すること」は雇用機会均等法で禁止されていても労働基準法で禁止されているわけではありませんので、基本的に労働基準法に違反する使用者を監督する労働基準監督署に申告(相談)しても積極的な対処は望めないと思います。

ですから、婚姻(結婚)したことを理由に解雇された場合については労働基準監督署ではなく労働局に相談する方が良いと思います。

女性労働者が婚姻を理由として解雇された場合のその他の対処法

女性労働者が婚姻(結婚)を理由として解雇された場合において、その解雇の無効を主張できる場合のこれら以外の対処法としては、各都道府県やその労働委員会が主催するあっせんの手続きを利用したり、弁護士会や司法書士会が主催するADRを利用したり、弁護士(または司法書士)に個別に相談・依頼して裁判や裁判所の調停手続きを利用する方法が考えられます。

なお、これらの解決手段については以下のページを参考にしてください。

労働問題の解決に利用できる7つの相談場所とは

解雇を前提とした金品(解雇予告手当や退職金など)は受け取らない方が良い

なお、女性労働者が婚姻を理由に解雇された場合にこのような対処法がとれるとしても、解雇された時点で会社から交付される解雇予告手当や退職金などは受け取らない方が良いかもしれません。

解雇予告手当や退職金は「退職(解雇)の事実があったこと」を前提として交付されますから、そのような退職(解雇)を前提とした金品を受け取ってしまうと「無効な解雇を追認した」と裁判所に判断されて後で解雇の無効を主張するのが事実上困難になるケースがあるからです。

解雇された時点でそのような金品の交付を受けた場合には、それを受け取る前に速やかに弁護士などに相談し、受け取るべきか否か助言を受ける方が良いでしょう(※参考→解雇されたときにしてはいけない2つの行動とは)。

解雇のトラブルはなるべく早めに弁護士に相談した方が良い

なお、解雇された場合の個別の対応は、解雇の撤回を求めて復職を求めるのか、それとも解雇の撤回を求めつつも解雇は受け入れる方向で解雇日以降の賃金の支払いを求めるのか、また解雇を争うにしても示談交渉で処理するのか裁判までやるのか、裁判をやるにしても調停や労働審判を使うのか通常訴訟手続を利用するのかによって個別の対応も変わってくる場合があります。

労働トラブルを自分で対処してしまうとかえってトラブル解決を困難にする場合もありますので、弁護士に依頼してでも権利を実現したいと思う場合は最初から弁護士に相談する方が良いかもしれません。その点は十分に注意して下さい。