産休・育休が終わってから30日以内に解雇された場合の対処法

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産休(産前休暇・産前休業)や育休(育児休業・育児休暇)が終わってからまもない女性労働者が何らかの理由を付けて解雇させられてしまうケースがあります。

たとえば、産休から復帰したばかりの女性労働者が会社の経営不振を理由に解雇されてしまったり、育休から復帰したばかりの女性労働者が育休前の非違行為を指摘されて解雇されてしまうようなケースです。

しかし、産休や育休明けの女性労働者は出産と育児で心身ともに疲労しているだけでなく、生まれた子の養育のための出費も迫られ経済的にも厳しい状況に置かれているのが通常でしょうから、たとえ会社側に解雇が必要とされる事情があったとしても、そうした過酷な状況下にある女性労働者を解雇して収入の道を閉ざしてしまう道を許容することは人権保障の立場からも容認できません。

では、このように産休や育休が終わってからまもない女性労働者が何らかの理由で解雇されてしまった場合、その解雇の効力を争うことはできないのでしょうか。

また、その解雇の効力を争うことができるとすれば、具体的にどのような対処法をとることができるのでしょうか。

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産休や育休明けの女性労働者に対する解雇が無効とならないか検討する

このように、産休や育休明けの女性労働者が何らかの理由で解雇されてしまうケースがあるわけですが、その場合の対処法を考える前提として、そのような解雇がそもそも認められるのか、という点を考える必要があります。

その解雇が有効なのか無効なのか判断できなければ、それに対する対処法も選択することができないからです。

この点、産休や育休が終わった後の時期における女性労働者の解雇の有効性を判断する基準としては、以下の3つがありますので順に確認してみることにいたしましょう。

ア)「妊娠中または出産後1年を経過しない」時期の解雇である場合

まず確認したいのが、その産休又は育休明けの解雇の時期が「妊娠中」または「出産後1年以内」か否かという点です。

雇用契約法第9条4項は「妊娠中の女性労働者及び出産後1年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、無効とする」と規定しているので、産休又は育休明けの女性労働者が解雇された時期が「妊娠中」または「出産後1年を経過しない」時期である場合にはその解雇は無効になると考えられるからです。

労働基準法第9条4項

妊娠中の女性労働者及び出産後1年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、無効とする。ただし、事業主が当該解雇が前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない。

もっとも、雇用契約法第9条4項は但し書きで「前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない」としていますので「同条第3項の規定する事由を理由とする解雇でないこと」を会社が証明した場合は、必ずしもその解雇を無効とは判断できませんので、その事情の有無は確認する必要があります。

しかし、いずれにせよ女性労働者が解雇された時期が「妊娠中」または「出産後1年を経過しない」時期である場合にはその解雇が無効と判断できる余地があることになりますので、産休又は育休明けの女性労働者が解雇されてしまった場合には、まずその解雇の時期が「妊娠中」または「出産後1年以内」か否かという点を確認したうえで、雇用契約法第9条4項の規定でその解雇を無効と判断できるケースでないかという点を確認する必要があります。

なお、雇用機会均等法第9条4項で無効と判断できるケースであるか否かについての詳細は『出産後の女性労働者に対する解雇は有効か無効か、その判断基準』のページで詳しく解説しています。

イ)「産休又は育休後30日以内」の解雇である場合

イ)の場合、会社が雇用契約法第9条4項但書の「前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したとき」は必ずしもその解雇を無効とは判断できませんが、だからといってその解雇が有効と判断されるわけでもありません。

「産休や育休が終わってから30日以内」の女性労働者に対する解雇の場合には、その解雇が無効と判断されるケースがあるからです。

労働基準法第19条は「産前産後の女性が65条の規定によって休業する期間及びその後30日間は、解雇してはならない」としていますので、産休や育休が終わってから30日間はそもそも解雇が禁じられています。

労働基準法第19条

第1項 使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間並びに産前産後の女性が65条の規定によって休業する期間及びその後30日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第81条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合においては、この限りでない。
第2項 前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。

産休や育休が終わってから30日以内に女性労働者を解雇することが法律によって禁止されているのであればその解雇は違法な解雇となりますが、その「違法な解雇」に「客観的合理的な理由」は存在しませんので、解雇の基準を定めた労働契約法第16条の「客観的合理的な理由」の要件も満たさないことになり結果的にその解雇は無効と判断されることになります。

労働契約法第16条

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

もちろん、この場合も1項但書と2項で「天災事変その他やむを得ない事由によって事業継続が不可能となった場合」においてその「天災事変その他やむを得ない事由」について使用者が「労働基準監督署の認定を受けた」場合にはその解雇が無効と判断できないケースもあるとされていますので、その点の検討も必要ですが、いずれにせよ「産休や育休が終わってから30日以内」の女性労働者に対する解雇の場合には、その解雇を無効と判断できるケースがあると考えられます。

ですから、産休や育休が終わってから解雇された場合は、その解雇が「産休や育休が終わってから30日以内」の時期によるものか否かを確認する必要があるのです。

なお、 この労働基準法第19条で解雇を無効と判断できるか否かについての詳細も『出産後の女性労働者に対する解雇は有効か無効か、その判断基準』のページで詳しく解説しています。

「産休又は育休が明けてから30日以内」に解雇された場合の対処法

以上で説明したように、産休又は育休が終わってからまもない女性労働者が解雇された場合には、その解雇の無効を指摘できるケースがありますので、その場合には労働者の側から解雇の無効を主張してその撤回を求めたり、解雇日以降に得られるはずであった賃金の支払いを求めることが可能と言えます。

もっとも、実際に解雇されれば労働者の側で何らかの対処を取らなければなりませんので、その場合の女性労働者が具体的にどのような対処法をとれるかが問題となります。

なお、前述した(ア)の「妊娠中または出産後1年を経過しない」時期の解雇の場合の対処法については、『出産後まもない時期に女性労働者が解雇された場合の対処法』のページで詳しく解説していましたので、ここでは(イ)の「産休又は育休後30日以内」の解雇への対処法について検討してみることにいたしましょう。

(1)解雇理由証明書の交付を受けておく

「産休又は育休が明けてから30日以内」に解雇された場合には、まずその解雇の通知を受けた時点で解雇理由証明書の交付を請求しその交付を受けておくようにしてください。

前述の(イ)で説明したように、「産休又は育休が明けてから30日以内」に女性労働者が解雇された場合であっても、使用者が「天災事変その他やむを得ない事由によって事業継続が不可能となった場合」において「天災事変その他やむを得ない事由」について労働基準監督署の認定を「受けていない」にはその解雇は無効と判断されますが、裁判になればその解雇理由の証明が必要になる場合もありますので、解雇理由証明書の交付は受けておいた方が無難です。

なお、解雇理由証明書の交付は労働基準法第22条ですべての使用者に義務付けられていますので、解雇された労働者が請求する限り使用者にそれを拒否する権限はありません(会社が交付しない場合はそれだけで労基法違反となります)。

なお、解雇理由証明書の請求に関する詳細は以下のページで詳しく解説していますのでそちらを参考にしてください。

(2)労働基準監督署に申告をしてみる

労働基準法第104条では使用者に労働基準法違反の事実がある場合に、労働者からその事実を労働基準監督署に申告することで監督署の監督権限の行使を促す手続きが定められています。

労働基準法第104条1項

事業場に、この法律又はこの法律に基いて発する命令に違反する事実がある場合においては、労働者は、その事実を行政官庁又は労働基準監督官に申告することができる。

この点、前述の(イ)で説明したように、使用者が「天災事変その他やむを得ない事由によって事業継続が不可能となった」ことをもって「産休又は育休が明けてから30日以内」にある女性労働者を解雇した場合において「天災事変その他やむを得ない事由」について労働基準監督署の認定を「受けていない」にはその解雇は違法と判断されますから、そのような解雇を受けた女性労働者はその事実を労働基準監督署に申告することで監督署からの調査や臨検を促すことが可能です。

そして、仮にその申告によって監督署が違法行為を認定し是正勧告などが出されれば、会社が監督署の指導に従って無効な解雇を撤回したり、示談交渉などに応じてくる可能性もありますので、とりあえず労働基準監督署に申告(相談)してみるというのも対処法の一つとして有効な場合があると考えられるのです。

なお、この場合に労働基準監督署に提出する申告書の記載は以下のようなもので差し支えないと思います。

労働基準法違反に関する申告書

(労働基準法第104条1項に基づく)

○年〇月〇日

○○ 労働基準監督署長 殿

申告者
郵便〒:***-****
住 所:静岡県浜松市○○一丁目〇番〇号○○マンション〇号室
氏 名:解雇 太郎
電 話:080-****-****

違反者
郵便〒:***-****
所在地:静岡市〇区〇町〇番〇号
名 称:株式会社 甲
代表者:代表取締役 ○○ ○○
電 話:***-****-****

申告者と違反者の関係
入社日:〇年〇月〇日
契 約:期間の定めのない雇用契約(←注1)
役 職:なし
職 種:営業

労働基準法第104条1項に基づく申告
申告者は、違反者における下記労働基準法等に違反する行為につき、適切な調査及び監督権限の行使を求めます。

関係する労働基準法等の条項等
労働基準法第19条1項および2項

違反者が労働基準法等に違反する具体的な事実等
・申告者は〇年〇月〇日、違反者から解雇する旨の告知を受け、同月30日付で解雇されたが、申告者は産後8週間の育児休暇から職場復帰してから30日を経過しない状態にあった。
・この解雇理由について違反者は、同年〇月〇日に東海地方に甚大な被害を出した広範囲の河川氾濫災害の影響で事業の継続が不可能となったからと説明しているが、違反者は労働基準法第19条第2項で義務付けられている行政官庁における認定を受けていない。
・なお、違反者における同条同項の認定は貴署において行われるはずであるから、その認定の事実がないことは貴署において周知の事実であると思料する。
・したがって、当該解雇は、産前産後の女性労働者が労基法第65条の規定によって休業する期間の解雇を禁止した労働基準法第19条1項および2項に違反する。

添付書類等
・解雇(予告)通知書の写し……1通(←注2)
・違反者から交付された解雇理由証明書の写し……1通(←注2)

備考
違反者に本件申告を行ったことが知れると、違反者から不当な圧力(他の労働者が別件で労基署に申告した際、違反者の役員が自宅に押し掛けて恫喝するなどの事例が過去にあった)を受ける恐れがあるため、違反者には本件申告を行ったことを告知しないよう配慮を求める。(←注3)

以上

※注1:契約社員やアルバイトなど期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)の場合には、「期間の定めのある雇用契約」と記載してください。

※注2:労働基準監督署への申告に添付書類の提出は必須ではありませんので添付する書類がない場合は添付しなくても構いません。なお、添付書類の原本は将来的に裁判になった場合に証拠として利用する可能性がありますので必ず「写し」を添付するようにしてください。

※注3:労働基準監督署に違法行為の申告を行った場合、その報復に会社が不当な行為をしてくる場合がありますので、労働基準監督署に申告したこと自体を会社に知られたくない場合は備考の欄に上記のような文章を記載してください。申告したことを会社に知られても構わない場合は備考の欄は「特になし」と記載しても構いません。

「産休又は育休が明けてから30日以内」に女性労働者が解雇された場合のその他の対処法

「産休又は育休が明けてから30日以内」に女性労働者が解雇された場合において、その解雇の無効を主張できる場合のこれら以外の対処法としては、各都道府県やその労働委員会が主催するあっせんの手続きを利用したり、労働局の主催する紛争解決援助の手続き調停の手続きを利用したり、弁護士会や司法書士会が主催するADRを利用したり、弁護士(または司法書士)に個別に相談・依頼して裁判や裁判所の調停手続きを利用する方法が考えられます。

なお、これらの解決手段については以下のページを参考にしてください。

労働問題の解決に利用できる7つの相談場所とは

解雇を前提とした金品(解雇予告手当や退職金など)は受け取らない方が良い

なお、解雇の無効を主張できるケースでこのような対処法がとれるとしても、解雇された時点で会社から交付される解雇予告手当や退職金などは受け取らない方が良いかもしれません。

解雇予告手当や退職金は「退職(解雇)の事実があったこと」を前提として交付されますから、そのような退職(解雇)を前提とした金品を受け取ってしまうと「無効な解雇を追認した」と裁判所に判断されて後で解雇の無効を主張するのが事実上困難になるケースがあるからです。

解雇された時点でそのような金品の交付を受けた場合には、それを受け取る前に速やかに弁護士などに相談し、受け取るべきか否か助言を受ける方が良いでしょう(※参考→解雇されたときにしてはいけない2つの行動とは)。

解雇のトラブルはなるべく早めに弁護士に相談した方が良い

なお、解雇された場合の個別の対応は、解雇の撤回を求めて復職を求めるのか、それとも解雇の撤回を求めつつも解雇は受け入れる方向で解雇日以降の賃金の支払いを求めるのか、また解雇を争うにしても示談交渉で処理するのか裁判までやるのか、裁判をやるにしても調停や労働審判を使うのか通常訴訟手続を利用するのかによって個別の対応も変わってくる場合があります。

労働トラブルを自分で対処してしまうとかえってトラブル解決を困難にする場合もありますので、弁護士に依頼してでも権利を実現したいと思う場合は最初から弁護士に相談する方が良いかもしれません。その点は十分に注意して下さい。