「出産したこと」を理由に女性労働者が解雇された場合の対処法

女性労働者が「出産したこと」を理由に解雇されてしまうケースがごく稀にあります。

たとえば、子どものいる女性労働者を雇いたくない経営者の下で働いている女性労働者が妊娠したことを隠しながら働き休暇中に出産していたことが会社経営者に知られてしまい解雇されたり、採用内定を受けた女性労働者が入社前に妊娠して出産し入社後にそれを上司に話したところ会社から「子どものいる女性労働者を採用するつもりはなかった」と言われて解雇されてしまうようなケースです。

しかし出産は労働者個人の能力や適性と何ら関係ありませんから、「出産したこと」を理由に解雇することに合理的な理由はないように思えます。

では、このように「出産したこと」を理由に女性労働者が解雇されてしまった場合、その解雇は有効なのでしょうか。

また、そのような解雇を受けた場合、解雇された女性労働者は具体的にどのように対処すればよいのでしょうか。

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「出産したこと」を理由にした女性労働者に対する解雇は無効

このように、女性労働者が「出産したこと」を理由として解雇されるケースがあるわけですが、結論から言うとこのような解雇は無効です。絶対的・確定的に100%無効となります。

ではなぜ「出産したこと」を理由とした解雇が無効と言えるかというと、それは「出産したこと」を理由とした解雇に「客観的合理的な理由」が存在しないからです。

雇用機会均等法第9条3項と同法施行規則第2条の2第2号は、女性労働者が「出産したこと」を理由とした解雇を明確に禁止していますので、仮に女性労働者が「出産したこと」を理由として解雇されたというのならその解雇は「違法な解雇」ということになります。

雇用機会均等法第9条第3項

事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法(中略)第65条第1項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第2項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

雇用機会均等法施行規則第2条の2

法第9条第3項の厚生労働省令で定める妊娠又は出産に関する事由は、次のとおりとする。
第1号 妊娠したこと。
第2号 出産したこと。
第3号(以下省略)

この点、解雇の基準は労働契約法第16条に規定がありますが、そこでは「客観的合理的な理由」と「社会通念上相当」の2つの要件を求めているところ、「違法な解雇」に「客観的合理的な理由」は存在しませんので、女性労働者が「出産したこと」を理由とした解雇に「客観的合理的な理由」はないと認定される結果、その解雇は解雇権を濫用した無効な解雇と判断されることになります。

【労働契約法第16条】

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

ですから、「出産したこと」を理由とした女性労働者に対する解雇は絶対的・確定的に100%無効と言うことが言えるわけです。

女性労働者が「出産したこと」を理由に解雇された場合の対処法

以上で説明したように、女性労働者が「出産したこと」を理由としてなされた解雇は無効ですから、そのような解雇を受けた女性労働者はその解雇の撤回を求めたり、解雇日以降に得られるはずであった賃金の支払いを請求することも可能となります。

もっとも、実際に解雇されてしまえば解雇された労働者の側から何らかの対処をしなければ解雇が既成事実化されてしまいますので、「出産したこと」を理由として解雇された女性労働者が具体的にどのような対処をとれるのかが問題となります。

(1)解雇理由が「出産したこと」と記載された解雇理由証明書の交付を受けておく

「出産したこと」を理由とした解雇された場合は、その解雇の告知を受けた時点で会社に解雇理由証明書の交付を請求し、その交付を受けておくようにしてください。

解雇理由証明書の交付はすべての使用者に労働基準法第22条で義務付けられており、その証明書には解雇の理由まで具体的に記載することが求められていますので、「出産したこと」を理由として解雇された場合であれば解雇理由が「出産したこと」と記載された解雇理由証明書の交付を必ず受けることが可能です(※仮に会社が遅滞なくその解雇理由証明書の交付をしない場合はその交付しないという事実が労働基準法違反として処罰の対象になります)。

この点、なぜその解雇理由証明書が必要になるかというと、それは会社が後になって勝手に解雇の理由を変更し、違法な解雇を正当化する抗弁をしてくるケースがあるからです。

先ほど説明したように、女性労働者を「出産したこと」を理由として解雇することは雇用機会均等法で明確に禁止されていますから、裁判になればまず間違いなく確実に会社側が敗訴してしまいます。

そのため、悪質な会社では裁判になる直前にあるいは裁判になった途端に「あれは出産したことが原因じゃなくてその女性労働者に○○の行為があったからですよ」などと勝手に従前の解雇理由を変更し、あたかも当初から別の理由で解雇したなどと抗弁して解雇を正当化するケースがあるのです。

しかし、解雇の通知を受けた時点で解雇理由証明書の交付を受けておけば、その時点で交付された解雇理由証明書に解雇の理由として「出産したこと(を理由として解雇した)」と記載させておくことでその時点で解雇理由を確定させ、その後に会社側で勝手に解雇理由を変更されてしまうことを防ぐことができます。

そのため、解雇の告知を受けた時点で会社に解雇理由証明書の交付を請求し、その交付を受けておく必要があるのです。

なお、解雇理由証明書の請求に関する詳細は以下のページで詳しく解説していますのでそちらを参考にしてください。

(2)「出産したこと」を理由とした解雇が違法なことを記載した書面を会社に送付する

女性労働者が「出産したこと」を理由として解雇された場合には、その解雇が雇用機会均等法に違反する旨記載した通知書を作成し会社に送付してみるというのも対処法の一つとして有効な場合があります。

先ほど説明したように、「出産したこと」を理由として女性労働者を解雇することは雇用機会均等法第9条3項と同法施行規則第2条の2第2号に違反しますので、そのような違法な解雇をする会社がまともな会社であるはずがありませんから、そのような法令遵守意識の低い会社にいくら「違法な解雇を撤回しろ」と抗議してもそれが受け入れられる期待は持てません。

しかしその違法性を文章で指摘し書面という形で正式に申し入れれば、将来的な裁判への発展や行政官庁の介入、あるいは弁護士への相談などを警戒して解雇の撤回に応じたり補償の話し合いを提示してくる会社もあるかもしれませんので、とりあえず書面で申し入れしてみるというのも対処法の一つとして有効な場合があると考えられるのです。

なお、この場合に会社に通知する書面の文面は以下のようなもので差し支えないと思います。

甲 株式会社

代表取締役 ○○ ○○ 殿

出産したことを理由とした解雇の無効確認及び撤回申入書

私は、〇年〇月〇日、貴社から解雇する旨の通知を受け、同月末日をもって貴社を解雇されました。

この解雇については同年〇月〇日、私が直属の上司であった○○にその理由を尋ねたところ、同氏からは、〇年〇月に私が貴社の採用面接を受けた時点では妊娠の予定を告知しなかったにもかかわらず、入社日の前に出産した事実があることを貴社が把握したことから人事部の会議で議題になり解雇が決定した旨の説明を受けております。

しかしながら、女性労働者が出産したことを理由として解雇することは雇用機会均等法第9条第3項および同法施行規則第2条の2第2号で明確に禁止されていますから、当該解雇は明らかに違法です。

したがって、本件違法な解雇に客観的合理的な理由はなく、労働契約法第16条の規定からも解雇権を濫用した無効なものと言えますから、直ちに本件解雇を撤回するよう申し入れいたします。

以上

〇年〇月〇日

〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号○○マンション〇号室

○○ ○○ ㊞

※証拠として残しておくため、コピーを取ったうえで配達した記録の残る特定記録郵便などの郵送方法で送付するようにしてください。

(3)労働局の紛争解決援助または調停の手続きを利用してみる

女性労働者が「出産したこと」を理由に解雇された場合には、労働局の紛争解決援助や調停の手続きを利用してみるのも対処法の一つとして効果がある場合があります。

前述したように女性労働者が「出産したこと」を理由とした解雇は雇用機会均等法で禁止されていますが、雇用機会均等法に違反する事業主との間で紛争が生じた場合には、労働者から労働局に対して紛争解決援助や調停の手続きの実施を申請することでそのトラブルの解決を図ることが可能です(雇用機会均等法第16条~)。

雇用機会均等法第16条

第5条から第7条まで、第9条、第11条第1項、第11条の2第1項、第12条及び第13条第1項に定める事項についての労働者と事業主との間の紛争については、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(中略)第4条、第5条及び第12条から第19条までの規定は適用せず、次条から第27条までに定めるところによる。

雇用機会均等法第17条

第1項 都道府県労働局長は、前条に規定する紛争に関し、当該紛争の当事者の双方又は一方からその解決につき援助を求められた場合には、当該紛争の当事者に対し、必要な助言、指導又は勧告をすることができる。
第2項 事業主は、労働者が前項の援助を求めたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

雇用機会均等法第18条

第1項 都道府県労働局長は、第16条に規定する紛争(労働者の募集及び採用についての紛争を除く。)について、当該紛争の当事者(中略)の双方又は一方から調停の申請があつた場合において当該紛争の解決のために必要があると認めるときは、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第6条第1項の紛争調整委員会(中略)に調停を行わせるものとする。
第2項 前条第2項の規定は、労働者が前項の申請をした場合について準用する。

この労働局の紛争解決援助や調停の手続きに法的な拘束力はありませんから、会社側が明らかに争う姿勢を示している場合はこの手続きで解決することは望めません。

しかし、仮に会社が手続きへの参加に応じた場合には、労働局から出される紛争解決の為の助言や指導、勧告、あるいは労働局の調停委員会から提示される調停案などに会社が従うことで、その違法な解雇が撤回されたり補償に応じてくることも期待できます。

そのため、とりあえず労働局に紛争解決援助の相談(申請)をしてみるというのも対処法の一つとして有効な場合があると考えられるのです。

なお、労働局の紛争解決援助の手続き等の利用については『労働局の紛争解決援助(助言・指導・あっせん)手続の利用手順』のページで詳しく解説していますのでそちらを参考にしてください(当該ページは個別労働関係紛争の解決に関する法律にかかる労働局の手続き利用を説明していますが、雇用機会均等法における労働局の手続きも同じ要領で利用可能です。細かいところは労働局に相談に行けば教えてもらえますので問題ありません)。

なお、「出産したことを理由に女性労働者を解雇すること」は雇用機会均等法で禁止されてはいますが、労働基準法で禁止されているわけではありませんので、労働基準法に違反する使用者を監督する権限を持つ労働基準監督署に申告(相談)しても積極的な対処は望めないと思います。

ですから、「妊娠したこと」を理由に解雇された場合については労働基準監督署ではなく労働局に相談する方が良いと思います。

女性労働者が「出産したこと」を理由に解雇された場合のその他の対処法

女性労働者が「出産したこと」を理由として解雇された場合のこれら以外の対処法としては、各都道府県やその労働委員会が主催するあっせんの手続きを利用したり、弁護士会や司法書士会が主催するADRを利用したり、弁護士(または司法書士)に個別に相談・依頼して裁判や裁判所の調停手続きを利用する方法が考えられます。

なお、これらの解決手段については以下のページを参考にしてください。

労働問題の解決に利用できる7つの相談場所とは

解雇を前提とした金品(解雇予告手当や退職金など)は受け取らない方が良い

なお、女性労働者が「出産したこと」を理由に解雇された場合にその無効を主張できるとしても、解雇された時点で会社から交付される解雇予告手当や退職金などは受け取らない方が良いかもしれません。

解雇予告手当や退職金は「退職(解雇)の事実があったこと」を前提として交付されますから、それを受け取ってしまうと「無効な解雇を追認した」と裁判所に判断されて後で解雇の無効を主張するのが事実上困難になるケースがあるからです。

解雇された時点でそのような金品の交付を受けた場合には、それを受け取る前に速やかに弁護士などに相談し、受け取るべきか否か助言を受ける方が良いでしょう(※参考→解雇されたときにしてはいけない2つの行動とは)。

解雇のトラブルはなるべく早めに弁護士に相談した方が良い

なお、解雇された場合の個別の対応は、解雇の撤回を求めて復職を求めるのか、それとも解雇の撤回を求めつつも解雇は受け入れる方向で解雇日以降の賃金の支払いを求めるのか、また解雇を争うにしても示談交渉で処理するのか裁判までやるのか、裁判をやるにしても調停や労働審判を使うのか通常訴訟手続を利用するのかによって個別の対応も変わってくる場合があります。

労働トラブルを自分で対処してしまうとかえってトラブル解決を困難にする場合もありますので、弁護士に依頼してでも権利を実現したいと思う場合は最初から弁護士に相談する方が良いかもしれません。その点は十分に注意して下さい。