労働災害の療養休業中に解雇された場合の対処法

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労働災害で負傷又は疾病にかかった場合、その療養のために休業することがありますが、その休業期間中に使用者から一方的に解雇させられてしまうケースがあります。

たとえば、仕事中のけがで入院し、退院後もリハビリのために会社を休業して自宅で療養している最中に、会社から一方的に解雇されるようなケースです。

このような解雇は、復帰のために懸命な努力に励む労働者を会社の利益のために切りしてることに他ならず、労働者としては到底是認できるものではありません。

では、実際に労働者が労災による療養休業中に解雇されてしまった場合、具体的にどのように対処すればよいのでしょうか。

その解雇の無効を主張して撤回を求めることはできるのでしょうか。

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解雇の有効性は「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の2つの要件の有無で判断される

労働災害で負傷又は疾病にかかって療養休業中に解雇された場合の対処法を考える前提として、そもそもどのような基準で解雇の有効性が判断されるのかを理解しておかなければなりません。

解雇された際にその解雇が有効なのか無効なのか、無効と言える要素があるのかないのか判断できなければ、その解雇に対する対処できるのか否かも理解できないからです。

この点、解雇については労働契約法第16条にその要件が規定されていますので、まず条文を確認してみましょう。

労働契約法第16条

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

労働契約法第16条はこのように解雇に「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の2つの要件を求めていますので、たとえ労働者が解雇されたとしても、その2つの要件が満たされていないのであれば、その解雇は解雇権を濫用するものとして無効と判断されることになります。

つまり、労働者が労働災害で負傷又は疾病にかかって療養休業中に解雇された場合であっても、その解雇の事由に「客観的合理的な理由」がないのならその解雇は無効となりますし、仮にその解雇事由に「客観的合理的な理由」が「ある」と認められる事情があったとしても、その「客観的合理的な理由」に基づいて解雇することが「社会通念上相当」と言えない事情があれば、やはりその解雇は無効と判断されることになるわけです。

労災で療養休業中に解雇された場合における解雇の有効性の判断

以上の解雇の有効要件を理解したうえで、労働災害で負傷又は疾病にかかって療養休業中に解雇されてしまった場合のその解雇の効力を考えてみましょう。

もっとも、労災で療養休業中になされた解雇についてはその解雇がなされた時期によって判断が異なりますので、以下その解雇の時期に分けて検討してみます。

(ア)労災で療養休業中に解雇されたのが療養開始から3年を経過した「後」である場合

労働災害で療養休業中に解雇された場合において、その解雇されたのが療養を開始してから3年を経過した「後」である場合には、その解雇の際に労働基準法第81条の「打切補償」が行われているか否かが重要なポイントとなります。

なぜなら、労働基準法第81条の打切補償が支払われていないのであれば、確定的にその解雇が無効だと言えるからです。

A)打切補償が支払われていない場合

労働災害で療養休業中に解雇され、その解雇された時期が療養開始から3年を経過している場合において、その解雇に際して労働基準法第81条の打切補償が支払われていない場合には、その解雇は確定的・絶対的に無効と考えて差し支えありません(※ただし、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能になった場合を除きます(労基法第19条1項但書))。

なぜなら、使用者が労災で療養休業中にある労働者を療養開始から3年を経過した後に解雇する場合には、労働基準法第81条に従って打切補償をすることが労働基準法第19条で義務付けられているからです。

労働基準法第19条は労災で療養休業中にある労働者の解雇を禁止していますが、その解雇制限を労働基準法第81条の打切補償を行った場合に解除しています。

そして労働基準法第81条は労災で療養休業中にある労働者が3年を経過した場合には1200日分の平均賃金を打切補償として支払うことで療養費用の負担から離脱できることを規定していますから、使用者が労災で療養休業中にある労働者を療養開始から3年を経過した後に解雇する場合には、必ずその打切補償を支払わなければならず、打切補償を支払わずに解雇したとなればその解雇自体が労働基準法第19条の要件を満たしていないので違法な解雇となるでしょう。

その解雇が労働基準法第19条に違反して違法なものとなるのであれば、その違法な解雇に労働契約法第16条の「客観的合理的な理由」は存在しませんから当然、その解雇は解雇権を濫用するものとして無効と判断されることなります。

ですから、労働災害で療養休業中に解雇され、その解雇された時期が療養開始から3年を経過している場合において、その解雇に際して労働基準法第81条の打切補償が支払われていない場合には、その解雇の無効を主張して解雇の撤回や解雇日以降の賃金の支払いを求めることもできるということになります。

B)打切補償が支払われている場合

一方、労働災害で療養休業中に解雇され、その解雇された時期が療養開始から3年を経過している場合において、その解雇に際して労働基準法第81条の打切補償が支払われていた場合には、その解雇の事実だけをもってその解雇が無効だと確定的に判断することはできません。

使用者が労働基準法第81条の打切補償を支払った上で解雇しているのであれば、その解雇は労働基準法第19条の要件を満たしていることになり同条の解雇制限が解除されることになりますので、その事実だけをもってその解雇の違法性を指摘することはできないからです。

もっとも、仮に打切補償が支払われていたとしても、それは労働基準法第19条の解雇制限が解除されると言うだけの話であって、それによってその解雇が有効と判断されるわけではありません(※参考→労災療養中の労働者に打切補償を支払えば解雇は許されるのか)。

ですから、この場合にはその他の事情をよく精査して、その解雇事由に「客観的合理的な理由」があるかないか、またその解雇理由に基づいて解雇することに「社会通念上の相当性」があるかないかを慎重に検討する必要があります。

(イ)労災で療養休業中に解雇されたのが療養開始から3年を経過する「前」だった場合

労働災害で療養休業中に解雇された場合に、その解雇された時期が療養開始から3年を経過する「前」である場合には、その解雇は無効と考えて差し支えないと思います(※ただし、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能になった場合を除きます(労基法第19条1項但書))。

なぜなら、前述したように労働基準法第19条が療養期間中の解雇を禁止しているからです。

労働基準法第19条は労災で療養休業中にある労働者を療養期間中に解雇することを禁止している一方で、同条但し書きで労働基準法第81条に従って打切補償をした場合にその解雇制限を例外的に解除していますが、労働基準法第81条は打切補償の支払いを療養開始から3年を経過してもなお負傷又は疾病が治らない場合に限定していますので、その療養開始から3年が経過していないのであれば、そもそも打切補償自体ができません。

療養開始から3年を経過していない状況で打切補償ができないのであれば当然、労働基準法第19条項但書における解雇制限の解除は適用されませんから、その状態で解雇がなされたというのであれば、その解雇自体が労働基準法第19条に違反していることになるでしょう。

そしてその解雇が違法であるのなら、その解雇に労働契約法第16条の「客観的合理的な理由」は存在しないことになりますのでその解雇は解雇権を濫用するものとして無効と判断されることになります。

ですから、仮に労災で療養休業中にある労働者が療養開始から3年を経過する「前」に解雇された場合には、その解雇は確定的に無効と判断できるということになるわけです(※ただし、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能になった場合を除きます(労基法第19条1項但書))。

労働災害での療養期間中に解雇された場合の対処法

以上で説明したように、労働災害で負傷又は疾病にかかって療養休業している期間中に解雇された場合において、その解雇が療養開始から3年を経過した「後」に解雇され、かつ打切補償が支払われていない場合(※前述の「(ア)のA」のケース)、またその解雇が療養開始から3年を経過する「前」の場合(※前述の(イ)のケース)の場合には、その解雇は確定的に無効と判断できますので、その場合には解雇の無効を主張して解雇の撤回を求めることができるということになります。

もっとも、そのように確定的に無効と判断されるとしても、実際に解雇された場合には労働者の側で何らかの対処を取らなければなりませんのでその対処法が問題となります。

なお、その解雇が療養開始から3年を経過した「後」に解雇された場合で、かつ打切補償が支払われている場合(※前述の「(ア)のB」のケース)では、その事実のみで確定的にその解雇を無効と判断することができませんので、そのようなケースでは速やかに弁護士に相談して解雇の無効を主張できる事情がないか検討してみる必要があります(※参考→弁護士・司法書士に依頼して裁判をする方法)。

(1)解雇理由証明書の交付を請求しその交付を受けておく

労働災害で療養休業中に解雇された場合には、まずその時点で使用者に解雇理由証明書の交付を請求しその交付を受けておくようにしてください。

なぜなら、この解雇理由証明書の交付を受けておかないと、後になって使用者側が勝手に解雇理由を別なものに変更し、解雇を正当化するケースがあるからです。

先ほども説明したように、労働災害で負傷又は疾病にかかって療養休業している期間中に解雇された場合において、その解雇が療養開始から3年を経過した「後」に解雇され、かつ打切補償が支払われていない場合(※前述の「アのA」のケース)、またはその解雇が療養開始から3年を経過する「前」に行われている場合(※前述の「イ」のケース)には、その解雇は違法となり無効と判断できますが、悪質な会社では後で裁判などに発展した際に解雇理由を勝手に変更し「あの解雇は労働者が○○だったから解雇しただけですよ」などと別の解雇理由を提示して解雇の違法性を回避しようとするケースがあります。

しかし、解雇された時点で解雇理由証明書の交付を請求しておけば、会社側はその交付を拒否できませんので(労働基準法第22条)、その解雇の時点で解雇理由を確定させて後に会社が勝手に解雇理由を変更してしまうリスクを無くすことができます。

そのため、解雇された時点でまず解雇理由証明書の交付を請求しその交付を受けておく必要があるのです。

なお、解雇理由証明書の請求に関する詳細は以下のページで詳しく解説していますのでそちらを参考にしてください。

(2)解雇が違法であることを書面で通知する

労働災害で負傷又は疾病にかかって療養休業している期間中に解雇された場合において、その解雇が療養開始から3年を経過した「後」に解雇され、かつ打切補償が支払われていない場合(※前述の「アのA」のケース)、またはその解雇が療養開始から3年を経過する「前」に行われている場合(※前述の「イ」のケース)には、その解雇が違法であることを記載した書面を作成し会社に送付してみるというのも対処法の一つとして有効な場合があります。

前述したように、前述の「アのA」のケースと「イ」のケースは労働基準法第19条に違反することになることからその解雇自体が確定的に無効と判断できますが、違法な解雇をしている会社に対して「違法だから撤回しろ」と抗議したところでそれが受け入れられる期待は持てません。

しかし書面という形で正式に申し入れれば、将来的な裁判や行政官庁への相談を警戒して解雇の撤回や補償の交渉に応じてくることも期待できる場合がありますので、とりあえず書面で抗議する方法が効果的なケースもあり得ると考えられるのです。