労働災害の療養休業中に解雇された場合の対処法

なお、この場合に使用者に送付する通知書の文面は以下のようなもので差し支えないと思います。

前述した「アのA」のケース

甲 株式会社

代表取締役 ○○ ○○ 殿

解雇の無効確認及び撤回申入書

私は、〇年〇月〇日、貴社から解雇する旨の通知を受け、同月末日をもって貴社を解雇されました(以下、この解雇を「本件解雇」という)。

本件解雇につきましては、私は全面的に承諾いたしかねますが、仮に貴社に解雇の必要性があったとしても、私は〇年〇月に労働災害によって負傷し療養休業中にありますので、貴社が私を解雇するためには、少なくとも労働基準法第19条但書に従い、労働基準法第81条に基づいて平均賃金の1200日分に相当する打切補償を支払わなければなりません。

しかしながら、本件解雇に関し、貴社から労働基準法第81条に基づいた打切補償が支払われた事実はありませんから、本件解雇は明らかに労働基準法第19条1項但書に違反する違法なものであると言えます。

したがって、本件違法な解雇の解雇事由に労働契約法第16条の「客観的合理的な理由」は存在せず、本件解雇は解雇権濫用した無効なものと言えますから、直ちに本件解雇を撤回するよう、申し入れいたします。

なお、この通知書は、仮に貴社から労働基準法第81条に基づく打切補償が支払われたとしても、それをもって解雇に承諾する意思を表示するものではありませんので、念のため申し添えます。

以上

〇年〇月〇日

〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号○○マンション〇号室

○○ ○○ ㊞

※証拠として残しておくため、コピーを取ったうえで配達した記録の残る特定記録郵便などの郵送方法で送付するようにしてください。

前述した「イ」のケース

甲 株式会社

代表取締役 ○○ ○○ 殿

解雇の無効確認及び撤回申入書

私は、〇年〇月〇日、貴社から解雇する旨の通知を受け、同月末日をもって貴社を解雇されました(以下、この解雇を「本件解雇」という)。

本件解雇につきましては、私は全面的に承諾いたしかねますが、仮に貴社に解雇の必要性があったとしても、私は〇年〇月に労働災害によって負傷し療養休業中にありますので、私に対する解雇は労働基準法第19条第1項の「労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間」における解雇に該当することになり、その解雇は同条但し書きの「労働基準法第81条の規定によって打切補償を支払う場合」または「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能な場合」に限定されることになります。

しかしながら、貴社に「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能な場合」に該当する事実はなく、また労働基準法第81条は打切補償を支払う場合を「療養開始後3年を経過しても負傷又は疾病がなおらない場合」に限定していますから、療養開始から3年を経過していない私を貴社が打切補償を支払うことにより労働基準法第19条第1項但書の規定に基づいて解雇することはできません。

したがって、本件解雇は労働基準法第19条に違反する違法なものであり、その違法な解雇に労働契約法第16条の「客観的合理的な理由」は存在せず、本件解雇は解雇権濫用した無効なものと言えますから、直ちに本件解雇を撤回するよう、申し入れいたします。

以上

〇年〇月〇日

〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号○○マンション〇号室

○○ ○○ ㊞

(3)違法な解雇の事実を労働基準監督署に申告する

労働災害で負傷又は疾病にかかって療養休業している期間中に解雇された場合において、その解雇が療養開始から3年を経過した「後」になされたものであり、かつ打切補償が支払われていない場合(※前述の「アのA」のケース)、またはその解雇が療養開始から3年を経過する「前」に行われている場合(※前述の「イ」のケース)には、その違法な解雇の事実を労働基準監督署に申告するのも一つの対処法として有効な場合があります。

前述したようにこのような解雇は労働基準法第19条に抵触し違法と考えられますが、労働基準法第104条では労働基準法に違反する使用者があった場合に労働者からその事実を労働基準監督署に申告することで監督署の監督権限行使を促すことを認めていますので、この労働基準監督署に対する申告を行い、監督署から調査や臨検が入り是正のための勧告がなされてそれに使用者が従う場合には、違法な解雇が撤回されることも期待できます。

そのため、このような解雇のケースでは労働基準監督署に違法行為の申告をするというのも対処法の一つとして有効な場合があると考えられるのです。

なお、この場合に労働基準監督署に提出する申告書の記載は以下のようなもので差し支えないと思います。

前述した「アのA」のケース

労働基準法違反に関する申告書

(労働基準法第104条1項に基づく)

○年〇月〇日

○○ 労働基準監督署長 殿

申告者
郵便〒:***-****
住 所:岡山県津山市○○一丁目〇番〇号○○マンション〇号室
氏 名:解雇 太郎
電 話:080-****-****

違反者
郵便〒:***-****
所在地:岡山県倉敷市〇町〇番〇号
名 称:株式会社 甲
代表者:代表取締役 ○○ ○○
電 話:***-****-****

申告者と違反者の関係
入社日:〇年〇月〇日
契 約:期間の定めのない雇用契約(←注1)
役 職:なし
職 種:旋盤作業員

労働基準法第104条1項に基づく申告
申告者は、違反者における下記労働基準法等に違反する行為につき、適切な調査及び監督権限の行使を求めます。

関係する労働基準法等の条項等
労働基準法19条第1項

違反者が労働基準法等に違反する具体的な事実等
・申告者は〇年〇月〇日から業務上によって生じた負傷のため療養休業していた。
・申告者は〇年〇月〇日、違反者から「負傷箇所がなおる見込みがない」との理由で解雇する旨の告知を受け、同月30日付で解雇された。
・この解雇は申告者が療養休業期間中に行われているが、この解雇に際して労働基準法第81条所定の打切補償は支払われていない。
・この解雇が行われた時点で申告者は療養休業中であったから労働基準法第19条1項の「業務上負傷し、または疾病にかかり療養のために休業する期間」にあり、申告者の解雇には同条但し書きの労働基準法第81条による打切補償の支払いが必要になると解されるが、違反者から打切補償が支払われた事実はないから当該解雇は労働基準法第19条1項に違反する。

添付書類等
・解雇(予告)通知書の写し……1通(←注2)
・違反者から交付された解雇理由証明書の写し……1通(←注2)

備考
違反者に本件申告を行ったことが知れると、違反者から不当な圧力(他の労働者が別件で労基署に申告した際、違反者の役員が自宅に押し掛けて恫喝するなどの事例が過去にあった)を受ける恐れがあるため、違反者には本件申告を行ったことを告知しないよう配慮を求める。(←注3)

以上

※注1:契約社員やアルバイトなど期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)の場合には、「期間の定めのある雇用契約」と記載してください。

※注2:労働基準監督署への申告に添付書類の提出は必須ではありませんので添付する書類がない場合は添付しなくても構いません。なお、添付書類の原本は将来的に裁判になった場合に証拠として利用する可能性がありますので必ず「写し」を添付するようにしてください。

※注3:労働基準監督署に違法行為の申告を行った場合、その報復に会社が不当な行為をしてくる場合がありますので、労働基準監督署に申告したこと自体を会社に知られたくない場合は備考の欄に上記のような文章を記載してください。申告したことを会社に知られても構わない場合は備考の欄は「特になし」と記載しても構いません。

前述した「イ」のケース

労働基準法違反に関する申告書

(労働基準法第104条1項に基づく)

○年〇月〇日

○○ 労働基準監督署長 殿

(※この部分は前の記載例と同じです)

違反者が労働基準法等に違反する具体的な事実等
・申告者は〇年〇月〇日から業務上によって生じた負傷のため療養休業していた。
・申告者は〇年〇月〇日、違反者から「負傷箇所がなおる見込みがない」との理由で解雇する旨の告知を受け、同月30日付で解雇された。
・この解雇は申告者が療養休業期間中に行われているが、この解雇が行われた時点で療養開始から3年が経過していない。
・この解雇が行われた時点で申告者は療養休業中であったから労働基準法第19条1項の「業務上負傷し、または疾病にかかり療養のために休業する期間」にあり、申告者の解雇には同条但し書きの労働基準法第81条による打切補償の支払いが必要になると解されるが、申告者は療養開始から3年を経過していないので、申告者に労働基準法第81条の打切補償を適用することはできないと解される。
・よって違反者が申告者を療養開始から3年を経過する前に解雇した本件解雇は労働基準法第19条に違反する。
・なお、違反者に労働基準法第19条1項但書の「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能になった」事実はない。

(※以下は前の記載例と同じです)

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その他の対処法

これら以外の解決手段としては、各都道府県やその労働委員会が主催する”あっせん”の手続きを利用したり、労働局の紛争解決援助の手続きや調停の手続きを利用したり、弁護士会や司法書士会が主催するADRを利用したり、弁護士(または司法書士)に個別に相談・依頼して裁判や裁判所の調停手続きを利用して解決を図る手段もあります。

なお、これらの解決手段については以下のページを参考にしてください。

労働問題の解決に利用できる7つの相談場所とは

解雇予告手当や退職金など解雇を前提とした金品は受け取らないこと

以上のような方法を用いて解雇の無効を主張してその効力を争う場合には、解雇予告手当や退職金など解雇を前提とする金品を受け取らないようにする方が無難です。

解雇予告手当や退職金などは「解雇(退職)の事実が発生したこと」が前提となって支給されるものとなりますから、それを受け取ってしまうと「無効な解雇を追認した」と認定されて後に裁判や示談交渉で解雇の無効を主張することが困難になる場合があるからです。

ですから、解雇の効力を争う場合には、仮に解雇予告手当や退職金などが支払われたとしてもそれを受け取るのは控えた方が良いでしょう (※参考→解雇されたときにしてはいけない2つの行動とは)。

解雇のトラブルはなるべく早めに弁護士に相談した方が良い

なお、このページでは労働災害で療養休業中に解雇された場合の対処法を解説してきましたが、解雇された場合の個別の対応は、解雇の撤回を求めて復職を求めるのか、それとも解雇の撤回を求めつつも解雇は受け入れる方向で解雇日以降の賃金の支払いを求めるのか、また解雇を争うにしても示談交渉で処理するのか裁判までやるのか、裁判をやるにしても調停や労働審判を使うのか通常訴訟手続を利用するのかによって個別の対応も変わってくる場合があります。

将来的にトラブルの解決を弁護士など専門家に依頼しようと考える場合は、早めに弁護士に相談しておかないとかえってトラブル解決を困難にする場合もありますので、その点は注意するようにしてください。