妊産婦が残業/休日出勤/深夜勤務を拒否して減給や降格された場合

妊産婦の女性労働者が残業や休日出勤あるいは深夜勤務を命じられた場合、体調が万全でないことや育児の必要性でその要請を拒否することがありますが、それを拒否したことを理由として会社から減給や降格あるいは配置転換など不利益な取り扱いを受けてしまうケースがごく稀に見られます。

たとえば、妊娠中の女性労働者が残業を拒否して減給されたり、産後まもない女性労働者が休日出勤を断って降格させられたり、出産後まもない女性労働者が深夜勤務を拒否して他の部署に異動させられるようなケースです。

しかし、このような労働条件の不利益変更が認められるのなら、妊産婦の女性労働者は体調を我慢してそれら時間外労働を受け入れざるを得なくなり、母子の健康を損ねてしまうことで生命の危険すら生じさせてしまいます。

では、このように残業や休日出勤あるいは深夜勤務を拒否した妊産婦の女性労働者に対して減給や降格、降格といった不利益な取り扱いをすることは認められるのでしょうか。

また、妊産婦の女性労働者が残業や休日出勤あるいは深夜勤務を拒否して労働条件に不利益な取り扱いをされた場合、具体的にどのように対処すればその地位や権利を保全できるのでしょうか。

なお、妊娠中または出産後まもない女性労働者が残業や休日出勤あるいは深夜勤務を拒否して解雇されてしまった場合の対処法については『妊娠中又は産後1年以内に残業や休日出勤を拒否して解雇された場合』のページで詳しく解説しています。
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妊娠中又は産後1年を経過しない女性労働者に残業/休日出勤/深夜勤務を強制させることはできない

今述べたように、妊産婦の女性労働者に対して残業や休日出勤あるいは深夜勤務を命令し、それに従わない女性労働者に減給や降格あるいは配置転換など不利益な取り扱いをする会社があるわけですが、そのような不利益取扱いが許されるのかという点を検討する前提として、そもそもそのような妊産婦の女性労働者に対して残業や休日出勤あるいは深夜勤務を命じることができるのかという点を考える必要があります。

そもそも妊産婦の女性労働者に対する時間外労働などの強制が許されないのであれば、それを拒否した労働者に対する不利益変更も当然に認められるべきではないと言えるからです。

この点、労働基準法第66条、妊産婦の女性労働者が請求した場合における使用者からの残業(時間外労働)や休日出勤あるいは深夜勤務を強制することを明確に禁止しています。

【労働基準法第66条】

第1項 使用者は、妊産婦が請求した場合においては、第32条の2第1項、第32条の4第1項及び第32条の5第1項の規定にかかわらず、一週間について第32条第1項の労働時間、一日について同条第2項の労働時間を超えて労働させてはならない。
第2項 使用者は、妊産婦が請求した場合においては、第33条第1項及び第3項並びに第36条第1項の規定にかかわらず、時間外労働をさせてはならず、又は休日に労働させてはならない。
第3項 使用者は、妊産婦が請求した場合においては、深夜業をさせてはならない。

そしてその「妊産婦」とは、労働基準法第64条の3第1項で「妊娠中の女性および産後1年を経過しない女性」と定義づけられていますので、「妊娠中又は産後1年を経過しない女性労働者」が残業や休日出勤あるいは深夜勤務をしないことを使用者側に申し入れた場合には、使用者側はそれを無視して残業や休日出勤あるいは深夜勤務を命じることはできないということになります。

ですから、そもそも妊産婦(妊娠中又は産後1年を経過しない女性労働者)が残業や休日出勤あるいは深夜勤務をしないと申し入れた場合には、会社側にそれを無視して残業/休日出勤/深夜勤務を命じることはできないことになっているわけです。

なお、この点については『妊娠中又は産後1年の間に残業/休日出勤/深夜勤務を拒否する方法』のページで詳しく解説しています。

残業/休日出勤/深夜勤務を拒否した妊産婦に対する減給や降格あるいは配置転換など不利益取り扱いは許されない

このように、妊産婦(妊娠中又は産後1年を経過しない女性労働者)が請求した場合には、使用者はその女性労働者に対して残業や休日出勤あるいは深夜勤務を命じることはできませんから、そもそもそれを拒否した女性労働者に対する制裁的な労働条件の不利益変更はその根拠を欠くことになります。

この点、法律はどのように規定しているかというと、雇用機会均等法第9条第3項は「妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない」と規定していて、その厚生労働省令にあたる雇用機会均等法施行規則第2条の2第7号には、労働基準法第66条の規定による請求をしまたはその規定によって勤務をしなかったことと規定されています。

【雇用機会均等法第9条第3項

事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法(中略)第65条第1項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第2項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

雇用機会均等法施行規則第2条の2第7号

法第9条第3項の厚生労働省令で定める妊娠又は出産に関する事由は、次のとおりとする。
第1~6(省略)
第7号 労働基準法第66条第1項の規定による請求をし、若しくは同項の規定により一週間について同法第32条第1項の労働時間若しくは一日について同条第2項の労働時間を超えて労働しなかつたこと、同法第66条第2項の規定による請求をし、若しくは同項の規定により時間外労働をせず若しくは休日に労働しなかつたこと又は同法第66条第3項の規定による請求をし、若しくは同項の規定により深夜業をしなかつたこと。

つまり、妊娠中又は産後1年を経過しない女性労働者が労働基準法第66条の規定に基づいて残業や休日出勤あるいは深夜勤務をしない旨を請求したりその勤務をしなかったことを理由として、その女性労働者に解雇や労働条件の不利益変更をすることがこの雇用機会均等法第9条第3項で明確に禁止されているわけです。

そうすると、仮に妊娠中又は産後1年を経過しない女性労働者が残業/休日出勤/深夜勤務をしない旨を申し入れたり、実際にその残業/休日出勤/深夜勤務をしなかったことを理由として会社から減給や降格あるいは配置など不利益な取り扱いを受けたとしても、その会社の取り扱い自体が違法なものとなりますから法的な根拠を欠くことになります。

ですから、妊娠中又は産後1年を経過しない女性労働者が残業/休日出勤/深夜勤務を拒否したことを理由として減給や降格あるいは配置転換を受けたとしても、そのような取り扱いは無効になると考えられるのです。

妊娠中または出産後1年を経過しない女性労働者が残業/休日出勤/深夜勤務を拒否して減給/降格/配転など不利益な取り扱いを受けた場合の対処法

以上で説明したように、妊娠中又は産後1年を経過しない女性労働者が残業や休日出勤あるいは深夜勤務をしない旨請求しまたはその勤務をしなかったことを理由として減給や降格あるいは配置転換など不利益な取り扱いを受けたとしても、その不利益な取り扱いは違法なものであって法的な根拠はありませんから、そのような取り扱いの無効を主張してその撤回などを求めることが可能と考えられます。

もっとも、実際に妊産婦の女性労働者がそのような不当な取り扱いを受けた場合には、女性労働者の側で何らかの対処を取らなければなりませんので、その場合にどのような対処を取り得るのか問題となります。

(1)妊娠中又は産後1年を経過しない女性労働者が残業/休日出勤/深夜勤務を拒否したことを理由とした不利益取扱いが違法である旨記載した通知書を送付してみる

妊娠中又は産後1年を経過しない女性労働者が残業や休日出勤あるいは深夜勤務を拒否して減給や降格あるいは配置転換など不利益な取り扱いを受けた場合には、それが違法である旨記載した通知書を作成して会社に送付してみるというのも対処法の一つとして有効な場合があります。

前述したように、そのような女性労働者に対する不利益な取り扱いは雇用機会均等法第9条第3項に明確に違反しますが、そのような違法な取り扱いをする会社はそもそも法令遵守意識が低いので、口頭でいくら「違法な取り扱いを止めろ」と抗議したところでその講義が受け入れられる期待は持てません。

しかし通知書を作成した改めて文書の形で正式にその違法性を指摘すれば、将来的な裁判への発展などと警戒して話し合いに応じたり違法な取り扱いを撤回するケースもありますので、とりあえず書面でその違法性を指摘してみるというのも対処法の一つとして有効な場合があると考えられるのです。