労災療養後30日以内に打切補償もないまま解雇された場合の対処法

労働災害で負傷又は疾病にかかったため療養休業した労働者が、療養休業が明けてからすぐに(30日以内に)、打切り補償支払いもないまま解雇されてしまうケースがあります(※打切補償については→労災における療養補償の3年での打切補償が認められる場合とは)。

たとえば、使用者X社に勤務している労働者のAさんが仕事中の事故で怪我をして3年間療養し、療養期間が終わって会社に復帰しようとしたところ、会社から打切補償の支払いもないまますぐに(療養期間が終わって30日以内に)解雇されてしまうようなケースです。

このような解雇がまかり通れば、会社の業務で負傷又は疾病にかかった労働者が療養後の収入の道を会社の都合で一方的に奪われることになり労働者にとってあまりにも酷な結果となる気がします。

では、このように労働災害で負傷又は疾病にかかった労働者がその療養期間終了後30日が経過する前に打切補償も支払われないまま解雇された場合、具体的にどのように対処すればよいのでしょうか。

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療養後30日以内に打切補償が支払われずなされた解雇は100%無効

前述したように、労働災害で負傷又は疾病にかかって療養し、その療養期間が経過した後30日も経過しないうちに打切補償もないまま解雇されてしまうケースがあるわけですが、結論から言うとこのような解雇は無効です。100%無効となります。

なぜ無効と言えるかと言うと、それは労働基準法第19条が療養期間が経過した後30日間の労働者の解雇を禁止しているからです。

労働基準法第19条

第1項 使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間並びに産前産後の女性が65条の規定によって休業する期間及びその後30日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第81条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合においては、この限りでない。
第2項 前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。

労働基準法第19条は第1項でこのように「労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間」の解雇を禁止していますが、1項但し書きで「第81条の規定によつて打切補償を支払う場合」にはその解雇制限を解除していますので、労働基準法第81条の打切補償が行われたうえで解雇がなされたのであれば、たとえそれが療養期間が経過した後30日以内に行われたものであってもその事実のみをもって解雇の違法性を問うことはできません。

しかし、療養期間が経過した後30日以内に労働基準法第81条の打切補償がなされないまま解雇されたというのであれば、その解雇はこの労働基準法第19条1項但書の要件を満たしていませんから、その解雇自体が確定的に法律に違法するものになります(※参考→労災療養後に打切補償を支払わないで解雇することは許されるのか)。

その解雇が労働基準法第19条1項に違反して違法であるのなら、その違法な解雇に解雇の必要要件として規定された労働契約法第16条の「客観的合理的な理由」は存在しませんから、その解雇は解雇権を濫用するものとして無効と判断されることになります。

【労働契約法第16条】

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

ですから、労働災害で負傷又は疾病にかかって療養し、その療養期間が経過した後30日も経過しないうちに打切補償もないまま解雇されてしまうケースでは、その解雇が100%無効だということが言えるわけです。

療養期間が経過した後30日以内に打切補償なしで解雇された場合の対処法

このように、仮に労働災害で負傷又は疾病にかかったため療養休業し療養期間が経過した後に解雇された場合であっても、それが療養期間が経過した後30日が経過しない間になされたものであり、かつ労働基準法第81条の打切補償も支払われなかったものであるときは、その解雇は100%無効ということになりますので、その解雇された労働者は解雇の無効を主張して争うことが可能です。

もっとも、その解雇が違法なもので確定的に無効と言えるものであったとしても、実際に解雇を通知されれば使用者側に具体的な対処を取って対応しなければなりませんので、その際の具体的な対処法が問題となります。

(1)解雇の撤回を求めたい場合または解雇日以降の賃金の支払いを求めたい場合は速やかに弁護士に相談する

労働災害で負傷又は疾病にかかって療養したのち30日が経過する前に打切補償の支払いもないまま解雇された場合において、その解雇の無効を主張して復職を求めたい場合、または解雇の無効を主張しつつ解雇日以降の賃金の支払いを求めたい場合は、速やかに弁護士に相談して示談交渉や裁判手続をとる方が無難です。

後述する(2)以降の対処法を取ることで解雇の無効を主張することもできますが、後述の(2)以降の手段で打切補償の支払いを促すことはできても解雇の撤回を強制するのは難しい面があるからです。

ですから、解雇の撤回や解雇日以降の賃金の支払いを求めたい場合は、速やかに弁護士に相談することをお勧めします。

(2)解雇理由の証明書の交付を受けておく

労働災害で負傷又は疾病にかかって療養休業し、その休業が終わって30日間が経過しない間に打切補償もなされないまま解雇されてしまった場合には、まずその解雇の理由に関する証明書の発行を請求しその交付を受けておくようにしましょう。

前述したように、療養休業後30日が経過しない間に打切補償をしないで労働者を解雇することは明らかに労働基準法第19条に違反し違法ですからその解雇は無効ですが、後で裁判などになった際にはその解雇の理由が何だったのかなどの点が議論されることになりますので、解雇された時点でその解雇の理由を確定させておく必要があります(※参考→解雇理由証明書・退職理由証明書の記載事項には何があるか)。

そのため、解雇された時点で解雇理由証明書の交付を求めておくことが必要になるのです。

なお、解雇理由証明書の請求に関する詳細は以下のページで詳しく解説していますのでそちらを参考にしてください。

(2)療養期間が経過した後30日以内の打切補償を支払わない解雇が違法であることを記載した書面を送付する

労働災害で負傷又は疾病にかかって療養し休業終了後30日以内に打切補償なく解雇された場合には、その解雇が違法であることを記載した通知書を作成し使用者に送付してみるというのも対処法の一つとして有効です。

前述したように、療養期間が経過した後30日以内に解雇することは禁止されており、労働基準法第81条の打切補償をした場合に限ってその解雇制限が解除されますから、使用者が打切補償をせずに解雇したというのであればその解雇は確定的・絶対的に無効ですが、そのような違法な解雇を行う会社はそもそも法令遵守意識が低いので、そのような会社に対して口頭で「違法な解雇を撤回しろ」と抗議したところでその抗議を受け入れてもらえる期待は望めません。

しかし、通知書を作成して書面という形で正式に申し入れを行えば、将来的な裁判や行政官庁への相談を警戒して解雇の撤回や話し合いに応じるケースもありますので、とりあえず書面で申し入れしてみるというのも対処法として有効な場合があると考えられるのです。

ただし、こうして書面で抗議しても労働基準法第81条の打切補償の支払いを促すだけで終わり、解雇の撤回には応じてくれない可能性もあります。その場合には前述したように弁護士に相談するしかありませんので、解雇の撤回まで求めたい場合はこのような通知書を送付せず、最初から弁護士に相談する方が良いと思います。

なお、使用者に送付する通知書の文面は以下のようなもので差し支えありません。

甲 株式会社

代表取締役 ○○ ○○ 殿

解雇の無効確認及び撤回申入書

私は、〇年6月10日、貴社から解雇する旨の通知を受け、同月末日をもって貴社を解雇されました(以下、この解雇を「本件解雇」という)。

本件解雇につきましては、私は全面的に承諾いたしかねますが、仮に貴社に解雇の必要性があったとしても、私は〇年〇月に労働災害によって負傷し〇年5月31日まで3年間療養休業していましたので、貴社がその休業後30日が経過する前の同年6月末日に私を解雇する場合には、貴社は、少なくとも労働基準法第19条但書に従い、労働基準法第81条に基づいて平均賃金の1200日分に相当する打切補償を支払わなければなりません。

しかしながら、本件解雇に関し、貴社から労働基準法第81条に基づいた打切補償が支払われた事実はありませんから、本件解雇は明らかに労働基準法第19条1項但書に違反する違法なものであると言えます。

したがって、本件違法な解雇の解雇事由に労働契約法第16条の「客観的合理的な理由」は存在せず、本件解雇は解雇権濫用した無効なものと言えますから、直ちに本件解雇を撤回するよう、申し入れいたします。

なお、この通知書は、仮に貴社から労働基準法第81条に基づく打切補償が支払われた場合でもそれをもって解雇に承諾する意思を表示するものではありませんので、念のため申し添えます。

以上

〇年〇月〇日

〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号○○マンション〇号室

○○ ○○ ㊞

※証拠として残しておくため、コピーを取ったうえで配達した記録の残る特定記録郵便などの郵送方法で送付するようにしてください。