内部告発者(公益通報者)に対する解雇が無効になる3つのケース

勤務先の会社の違法行為を内部告発したことを理由として、労働者が勤務先から逆恨みされて解雇させられてしまうケースがあります。

たとえば、和歌山県産の南高梅を原料とした「南高梅の梅干し」を製造している漬物業者が、原材料の不足から海外産の梅を輸入しているにもかかわらず原料を従前のまま「南高梅」と表記してその梅干しを販売している状況の中で、労働者がその原材料の虚偽表示を企業のコンプライアンス室や行政官庁、あるいはマスコミ等に内部告発したことを理由として会社から解雇されてしまうようなケースが代表的です。

しかし、このような内部告発は法令や社会的正義に反する行為をした企業側にそもそもの原因があるわけですから、その正義の実現のために内部告発した労働者が解雇させられてしまうのは到底許容できません。

では、このように内部告発をした労働者が解雇されてしまった場合、具体的にどのように対処すればよいのでしょうか。

そのような解雇は有効として許容されるものなのでしょうか。

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内部告発を理由とした解雇は「無効」と考えて差し支えない

このように、勤務先企業の違法行為を内部告発した労働者が解雇されてしまうケースがあるわけですが、結論から言うとそのような解雇は”基本的に”「無効」と考えて差し支えありません。

なぜなら、企業の違法行為が放置されれば、国民の生命・身体・財産その他の利益を棄損し、国民生活の安定と社会経済の健全な発展が阻害されてしまうことになるからです。

この点、内部告発者を保護するために制定された公益通報者保護法でも、その第3条に公益通報者(内部告発者)の解雇を無効とする規定が置かれています。

公益通報者保護法第3条

公益通報者が次の各号に掲げる場合においてそれぞれ当該各号に定める公益通報をしたことを理由として前条第一項第一号に掲げる事業者が行った解雇は、無効とする。
(以下省略)

ですから、仮に労働者が勤務先企業の違法行為を内部告発したことで解雇されたとしても、その解雇は”基本的に”無効と判断して差し支えないと言えるわけです。

内部告発を理由とした解雇が「無効」と判断できる3つのケース

今述べたように、公益通報者保護法第3条が公益通報者(内部告発者)の解雇を禁止していますから、内部告発したことを理由とした解雇がなされたとしても”基本的には”その解雇は無効と考えて差し支えありません。

この点、なぜ”基本的に”とあえて留保を加えているかというと、それは必ずしも内部告発したことを理由とした解雇が公益通報者保護法第3条で無効と判断されないケースもあるからです。

企業の違法行為に対する内部告発は総じて企業の違法行為を是正させるために行われますが、中には労働者の私憤や嫌がらせ目的で利用されるケースも存在します。たとえば、上司に叱られたことを根に持った社員が会社の違法行為をでっち上げて行政官庁に嘘の内部告発をするようなケースです。

また、労働者の早とちりで内部告発をしてしまい、会社に甚大な損失を与えてしまう事例もあるかもしれません。たとえば、労働者が産地偽装と認識して内部告発したものの行政官庁の調査で産地偽装ではなく単に労働者の勘違いだったことが判明したというようなケースもあるでしょう。

そこのようなケースでは労働者の側に不正の意図や責められても仕方ない事由がありますので、そのようかケースにまで一律に解雇を制限するのは妥当ではない面もあります。そのため公益通報者保護法第3条は解雇が無効と判断されるケースを3つの場合に限定しています。

つまり、以下の3つのケースに当てはまる内部告発があった場合にはその解雇は確定的に無効と判断されることになりますが、以下の3つのケースに当てはまらない内部告発の場合には、必ずしもその内部告発を理由とした解雇が無効と判断されないケースもあり得るということになるわけです。

(1)「企業内通報」の場合で「通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思料する場合」

労働者が、その勤務先の企業等に対して直接行った内部告発に対する解雇においては、その内部告発が「通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思料する場合」にのみ、その解雇が公益通報者保護法第3条で無効と判断されることになります(公益通報者保護法第3条第1号)。

公益通報者保護法第3条

公益通報者が次の各号に掲げる場合においてそれぞれ当該各号に定める公益通報をしたことを理由として前条第一項第一号に掲げる事業者が行った解雇は、無効とする。
第1号 通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思料する場合 当該労務提供先等に対する公益通報
(以下省略)

公益通報(内部告発)は「① その企業のコンプライアンス室など企業に対して直接その違法行為を申告する内部告発」と「② 監督官庁や警察など行政機関等にその違法を申告する内部告発」と「③ メディアや動画投稿サイト、ブログなど不特定多数の第三者に対して公表する内部告発」の3つの手段に分かれますが、この公益通報者保護法第3条第1号の規定は、このうちの「① その企業のコンプライアンス室など企業に対して直接その違法行為を申告する内部告発」の場合の解雇無効を規定したものになります。

すなわち公益通報者保護法第3条第1号は「① その企業のコンプライアンス室など企業に対して直接その違法行為を申告する内部告発」が行われた場合において、その内部告発が「通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思料する場合」に限って、その内部告発者に対して行われた解雇を無効と判断することにしているのです。

ですから、たとえば先ほどの例で、和歌山県産の南高梅を原料とした「南高梅の梅干し」を製造している漬物業者が、原材料の不足から外国産の梅を輸入しているにもかかわらず原料を従前のまま「南高梅」と表記してその梅干しを販売している状況の中で、労働者がその原材料の虚偽表示を、「その企業のコンプライアンス室」に内部告発して改善を求めたところ、その企業から煙たがられて解雇されたようなケースであれば、その「外国産の梅を”和歌山産(国産)”と表示して出荷されている事実が現実に生じている」か、または「外国産の梅を”和歌山産(国産)”と表示して出荷されようとしている事実があると労働者が思料している」事実がある場合に限って、その労働者に対する解雇が公益通報者保護法第3条で無効と判断されることになります。

つまり、「企業内通報(①の内部告発の場合)」の場合には、労働者が「違法行為が行われている」と思料した事実さえあれば、その内部告発した労働者への解雇は無効と判断されることになるわけです。

そのため、たとえばこのケースで「単に会社が外国産の梅を輸入しただけ」に過ぎない状況の下で、その労働者が「外国産を国産と偽って出荷しようとしている」と感じていないにもかかわらず会社のコンプライアンス室などに「産地偽装している」と告発したことを理由として解雇がなされたようなケースでは、その労働者は「違法行為が行われていると思料していない」ということになりますので、その場合には公益通報者保護法第3条で無効と判断されることはないということになります(※ただし、この場合でも後述するように他に労働契約法第16条にあたる事情があればその解雇が無効と判断される余地はあります)。

(2)「行政機関や警察等への通報」の場合で「通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合」

労働者が、その勤務先の企業等を監督する権限を持つ行政機関や警察等に対して行った内部告発に対する解雇においては、その内部告発が「通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合」にのみ、その解雇が公益通報者保護法第3条で無効と判断されることになります(公益通報者保護法第3条第2号)。

公益通報者保護法第3条

公益通報者が次の各号に掲げる場合においてそれぞれ当該各号に定める公益通報をしたことを理由として前条第一項第一号に掲げる事業者が行った解雇は、無効とする。
第1号 (省略)
第2号 通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合 当該通報対象事実について処分又は勧告等をする権限を有する行政機関に対する公益通報
(以下省略)

前述したように、公益通報(内部告発)は「① その企業のコンプライアンス室など企業に対して直接その違法行為を申告する内部告発」と「② 監督官庁や警察など行政機関等にその違法を申告する内部告発」と「③ メディアや動画投稿サイト、ブログなど不特定多数の第三者に対して公表する内部告発」の3つの手段に分かれますが、この公益通報者保護法第3条第2号の規定は、このうちの「② 監督官庁や警察など行政機関等にその違法を申告する内部告発」の場合の解雇無効を規定したものです。

すなわち、公益通報者保護法第3条第2号は「② 監督官庁や警察など行政機関等にその違法を申告する内部告発」が行われた場合において、その内部告発が「通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合」に限って、その内部告発を行った労働者に対する解雇を無条件で無効と判断することを規定しているわけです。

ですから、例えば前述の例で、和歌山県産の南高梅を原料とした「南高梅の梅干し」を製造している漬物業者が、原材料の不足から外国産の梅を輸入しているにもかかわらず原料を従前のまま「南高梅」と表記してその梅干しを販売している状況の中で、労働者がその原材料の虚偽表示を、「その企業に監督権限を持つ行政機関や警察等」に内部告発して改善を求めたところ、その企業から行政機関への告げ口の報復として解雇されたようなケースであれば、その「外国産の梅を”和歌山産(国産)”と表示して出荷されている事実が現実に生じている」か、または「外国産の梅を”和歌山産(国産)”と表示して出荷されようとしていると労働者が信ずるに足る正当な理由」がある場合であれば、仮にその会社で産地偽装が行われなかったとしても(その内部告発が労働者の勘違いであったとしても)、その労働者に対する解雇は公益通報者保護法第3条で無効と判断されることになります。

つまり、前述した「企業内通報(①の内部告発)」の場合には、「実際に違法行為が行われている事実がある」か、又は労働者が「違法行為が行われていると思った」のであれば、その内部告発した労働者への解雇は無効と判断されることになったわけですが、この「行政機関等への通報(②の内部告発)」の場合には、「実際に違法行為が行われている事実がある」場合に解雇が無効と判断されるのは「企業内通報」の場合と同じですが、その違法行為が生じようとしているケースでは、労働者が「違法行為が行われていると思った」だけでは足りず「違法行為が行われている」と労働者が「信じたことに正当な理由」がある場合に限って、その労働者に対する解雇を無効と判断することにしているわけです。

なぜ、このように「企業内通報(①の内部告発)」の場合と「行政機関等への通報(②の内部告発)」の場合でその要件が異なるかと言うと、それは行政機関等への内部告発の方が会社に与えるダメージが大きいからです。

「企業内通報(①の内部告発)」の場合には、その会社内部で共有されるにすぎませんので、たとえ労働者の勘違いで内部告発されたとしても、会社の調査が増えるだけでさほど会社のダメージは深刻化しません。そのため企業内通報の場合は労働者が「違法行為が行われていると思った」だけの勘違いで内部告発したとしても労働者を守る必要がありますので、その解雇は無効とすることにしているのです。

しかし、「行政機関等への通報(②の内部告発)」の場合には、通報を受けた行政機関の調査が行われたり報告を求められたりするなど会社側の受ける影響も大きくなりますし、仮に行政側の判断の誤りで行政処分などがなされてしまえば会社の存続すら危ぶまれる可能性も否定できませんから、労働者が「違法行為が行われていると思った」というだけで内部告発を認めるのは妥当ではありません。

そのため「行政機関等への通報(②の内部告発)」の場合には、「違法行為が行われている」と労働者が「信じたことに正当な理由」がある場合でなければ労働者を解雇から保護しないことにして、労働者の軽はずみな内部告発が行われないように一定の制限を掛けているわけです。

そのため、たとえばこのケースで「単に会社が外国産の梅を輸入しただけ」に過ぎない状況の下で、その労働者が「外国産を国産と偽って出荷しようとしている」と勘違いして自治体や保健所、厚生労働省の出先機関など行政機関等にその違法行為を告発した場合に、その労働者が「産地偽装している」と信じたことに相当な理由がある場合には、たとえ解雇されたとしてもその解雇は無効となりますが、「産地偽装している」と信じたことに「相当な理由がない」場合には、その解雇は公益通報者保護法第3条で無効と判断されることはないということになります(※ただし、この場合でも後述するように他に労働契約法第16条にあたる事情があればその解雇が無効と判断される余地はあります)。