労災における療養補償の3年での打切補償が認められる場合とは

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労働者が「業務上の事由」または「通勤」によって負傷したり、疾病に罹患したりした場合、使用者はその労働者の療養にかかる費用を負担しなければなりません(労働基準法第75条)。

労働基準法第75条

第1項 労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかつた場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない。
第2項 前項に規定する業務上の疾病及び療養の範囲は、厚生労働省令で定める。

ですから、例えばX社に勤務する労働者Aさんが2020年の12月31日の仕事中に怪我をしてしまい療養が必要になった場合には、X社はAさんに対して、その療養に必要な費用を全額負担しなければなりません。

もっとも、この使用者における療養補償は、永久にそれが使用者に義務付けられるわけではありません。労働基準法第81条は、3年が経過した場合に使用者が療養補償を打ち切ることを認めているからです。

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療養開始から3年が経過すれば療養補償が打ち切られることもある

前述したように、労働基準法第75条は、労働者が労働災害に遭って負傷又は疾病にかかった場合の療養補償を義務付けていますから、労働災害で負傷又は疾病にかかった労働者はその必要な療養のための費用を使用者に請求することができますし、その交付を受けることができます。

もっとも、この使用者における療養補償は永久に義務付けられるわけではありません。

労働基準法第81条が、その労災によって療養する労働者が3年を経過してもなお負傷または疾病が治らない場合において、使用者が平均賃金の1200日分の打切保障を行うことで以後の補償義務から免れることを認めているからです。

労働基準法第81条

第75条の規定によって補償を受ける労働者が、療養開始後3年を経過しても負傷又は疾病がなおらない場合においては、使用者は、平均賃金の1200日分の打切補償を行い、その後はこの法律の規定による補償を行わなくてもよい。

ですから、労働者が労働災害のために療養している場合であっても、その療養開始から3年が経過すれば、使用者から1200日分の平均賃金に相当する打切補償が支払われることで療養補償が打ち切られてしまう可能性もあるということになります。

たとえば、先ほどの例でX社に勤務する労働者Aさんが2020年の12月31日の仕事中に怪我をして2020年の1月1日から療養を開始し、それ以降2022年の12月31日までの期間X社から療養補償の支払いを受けて療養してきたにもかかわらず治癒しない場合には、そのX社はAさんに1200日分の平均賃金を支払えば、その後の療養補償はしなくてもよくなりますので、その打切り補償がなされれば、Aさんは2023年1月1日以降は自費で療養費用を賄わなければならないことになります。

これが、労働基準法第81条で規定された打切補償ということになります。

労働保険法に基づく療養補償休が使用者の打切補償によって打ち切られるわけではない

この労働基準法第81条の打切り補償はあくまでの使用者の負担する療養補償給付の責任を3年で免除するものに過ぎませんので、労災保険法に基づく療養補償給付とは別になります。

仮に使用者が平均賃金の1200日分を支払うことで打切り補償が認められたとしても、労災保険法の基準によって療養補償が支給されるケースの場合には、療養開始から3年が経過したとしても国から労災保険法に基づく療養補償給付が行われることになります。

使用者に安全配慮義務違反などがあれば損害賠償請求ができる

なお、前述したように、使用者は労働災害によって負傷又は疾病にかかった労働者が療養開始から3年を経過すれば、労働基準法第81条に基づいて打切り補償をすることでその後の療養補償の負担から離脱することができますが、損害賠償請求の責任はこれとは別の話になります。

使用者に「安全配慮義務違反」があれば債務不履行責任の損害賠償請求が可能

使用者は、その雇用した労働者が安全に就労できるよう配慮しなければならない契約上の義務がありますが(労働契約法第5条)、その安全配慮義務を怠って労働者に労働災害を生じさせてしまったというのであれば、それは「その債務の本旨に従った履行をしないとき」に該当し債務不履行責任(民法第415条)を生じさせますので、使用者はその損害を賠償しなければなりません。

労働契約法第5条

使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

民法第415条

債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。

ですから、仮に使用者が労働基準法第81条に基づいて1200日分の平均賃金を支払うことで打切り補償をしてきたとしても、使用者の安全配慮義務違反によってその労働災害が生じている場合には、その労働者は労働基準法第75条に従って療養補償の請求はできなくなる一方で、使用者に債務不履行責任を問うことで損害賠償請求を行うことで賠償金の支払いを受けることはできるでしょう。

ちなみに、債権の消滅時効は10年(民法第167条)となっていますから、10年間は損害賠償請求が可能です。

使用者に労災について故意または過失などがあれば不法行為責任による損害賠償請求も可能

また、その労働災害の発生について使用者に故意や過失があれば、不法行為責任(民法第709条)を問うことで損害賠償請求をすることも可能です。

民法第709条

故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

ですから、不法行為責任を問える事案の場合にも、仮に使用者が労働基準法第81条の打切り補償をしてきたとしても、それはその後の療養補償が打ち切られるだけの話で合って、損害賠償請求が認められれば使用者から療養補償費用とは別に不法行為に基づく損害賠償金の支払いを受けることが可能です。

ちなみに不法行為責任の消滅時効は災害発生から3年です(民法第724条)。