労災療養後30日以内に打切補償もないまま解雇された場合の対処法

(3)療養後30日以内に打切補償なく解雇された事実を労働基準監督署に申告する

労働災害で負傷又は疾病にかかって療養し、療養期間が経過した後30日以内に打切補償も支払われないまま解雇された場合には、その事実を労働基準監督署に申告するというのも対処法の一つとして有効です。

前述したように、労働災害で負傷又は疾病にかかって療養した後30日以内に解雇される際に打切補償が支払われなかった場合はその解雇は労働基準法第19条違反となりますが、労働基準法の第19条は使用者に労働基準法違反行為があった場合に労働者からその事実を労働基準監督署に申告することを認めていますので、解雇された労働者がその事実を監督署に申告することで監督署の監督権限の行使を促すことが可能です。

そして、仮にその申告によって労働基準監督署から臨検や調査が行われ、監督署から行われる勧告などに使用者が従う場合には、使用者がそれまでの態度を改め解雇を撤回することもありますので、とりあえず労働基準監督署に申告しておくというのも対処法の一つとして有効な場合があると考えられるのです。

ただし、この申告によって労働基準監督署から行使される監督権限は、あくまでも労働基準法第19条違反行為を是正させるものであって、労働基準法第81条の打切補償の支払いを促すことで終わる可能性もあり、その場合には解雇の撤回までは実現できませんので注意が必要です(※解雇の撤回を求めたい場合は(1)で説明したように弁護士に相談するしかないと思います)。

なお、この場合に労働基準監督署に提出する申告書の記載は以下のようなもので差し支えないと思います。

労働基準法違反に関する申告書

(労働基準法第104条1項に基づく)

○年〇月〇日

○○ 労働基準監督署長 殿

申告者
郵便〒:***-****
住 所:兵庫県尼崎市○○一丁目〇番〇号○○マンション〇号室
氏 名:解雇 太郎
電 話:080-****-****

違反者
郵便〒:***-****
所在地:兵庫県明石市〇町〇番〇号
名 称:株式会社 甲
代表者:代表取締役 ○○ ○○
電 話:***-****-****

申告者と違反者の関係
入社日:〇年〇月〇日
契 約:期間の定めのない雇用契約(←注1)
役 職:なし
職 種:営業

労働基準法第104条1項に基づく申告
申告者は、違反者における下記労働基準法等に違反する行為につき、適切な調査及び監督権限の行使を求めます。

関係する労働基準法等の条項等
労働基準法19条第1項

違反者が労働基準法等に違反する具体的な事実等
・申告者は〇年〇月〇日から〇年〇月〇日までの期間、業務上によって生じた負傷のため療養休業し、〇年6月1日から違反者の業務に復職した。
・申告者は〇年〇月〇日、違反者から「負傷箇所がなおっていない」との理由で解雇する旨の告知を受け、同月30日付で解雇された。
・この解雇は療養休業が明けてから30日間の間に行われているから労働基準法第19条1項但書のケースに該当するが、違反者から労働基準法第81条の打切補償は支払われていない。
・したがって当該解雇は同条に違反する。

添付書類等
・解雇(予告)通知書の写し……1通(←注2)
・違反者から交付された解雇理由証明書の写し……1通(←注2)

備考
違反者に本件申告を行ったことが知れると、違反者から不当な圧力(他の労働者が別件で労基署に申告した際、違反者の役員が自宅に押し掛けて恫喝するなどの事例が過去にあった)を受ける恐れがあるため、違反者には本件申告を行ったことを告知しないよう配慮を求める。(←注3)

以上

※注1:契約社員やアルバイトなど期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)の場合には、「期間の定めのある雇用契約」と記載してください。

※注2:労働基準監督署への申告に添付書類の提出は必須ではありませんので添付する書類がない場合は添付しなくても構いません。なお、添付書類の原本は将来的に裁判になった場合に証拠として利用する可能性がありますので必ず「写し」を添付するようにしてください。

※注3:労働基準監督署に違法行為の申告を行った場合、その報復に会社が不当な行為をしてくる場合がありますので、労働基準監督署に申告したこと自体を会社に知られたくない場合は備考の欄に上記のような文章を記載してください。申告したことを会社に知られても構わない場合は備考の欄は「特になし」と記載しても構いません。

広告

療養休業後30日が経過する前に打切補償なしで解雇された場合のその他の対処法

労働災害で負傷又は疾病にかかって療養休業した後30日が経過する前に打切補償もなされないまま解雇された場合におけるこれら以外の解決手段としては、各都道府県やその労働委員会が主催する”あっせん”の手続きを利用したり、労働局の紛争解決援助の手続きや調停の手続きを利用したり、弁護士会や司法書士会が主催するADRを利用したり、弁護士(または司法書士)に個別に相談・依頼して裁判や裁判所の調停手続きを利用して解決を図る手段もあります。

なお、これらの解決手段については以下のページを参考にしてください。

労働問題の解決に利用できる7つの相談場所とは

解雇予告手当や退職金など解雇を前提とした金品は受け取らないこと

以上のように、労働災害で負傷又は疾病にかかって療養休業した後30日が経過する前に打切補償もなされないままなされた解雇は、労働基準法第19条第1項但書に違反する違法なものであることから労働契約法第16条の「客観的合理的な理由」が「ない」と判断されることになり、その解雇は確定的に無効であるとして様々な対処法をとることができます。

もっとも、このようにして解雇の無効を主張してその効力を争う場合には、解雇予告手当や退職金など解雇を前提とする金品を受け取らないように気を付けなければなりません。

解雇予告手当や退職金などは「解雇(退職)の事実が発生したこと」が前提となって支給されるものとなりますから、それを受け取ってしまうと「無効な解雇を追認した」と認定されて後に裁判や示談交渉で解雇の無効を主張することが困難になる場合があるからです。

ですから、解雇の効力を争う場合には、仮に解雇予告手当や退職金などが支払われたとしてもそれを受け取るのは控えた方が良いでしょう (※参考→解雇されたときにしてはいけない2つの行動とは)。

解雇のトラブルはなるべく早めに弁護士に相談した方が良い

なお、このページでは労働災害で負傷又は疾病にかかって療養休業した後30日が経過する前に打切補償もなされないままなされた解雇された場合の対処法を解説してきましたが、解雇された場合の個別の対応は、解雇の撤回を求めて復職を求めるのか、それとも解雇の撤回を求めつつも解雇は受け入れる方向で解雇日以降の賃金の支払いを求めるのか、また解雇を争うにしても示談交渉で処理するのか裁判までやるのか、裁判をやるにしても調停や労働審判を使うのか通常訴訟手続を利用するのかによって個別の対応も変わってくる場合があります。

将来的にトラブルの解決を弁護士など専門家に依頼しようと考える場合は、早めに弁護士に相談しておかないとかえってトラブル解決を困難にする場合もありますので、その点は注意するようにしてください。