労働局に援助/あっせん/調停の相談をして解雇された場合の対処法

労働者が事業主との間で労働契約上のトラブルに巻き込まれた場合、労働局に「紛争解決援助」の申請や「あっせん」の申込み、または調停の利用を申入れすることが可能です(個別労働紛争の解決の促進に関する法律第4条および同法第5条、雇用機会均等法第17条および同法第18条、短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律第24条および同法第25条)。

この労働局で認められた「紛争解決援助」「あっせん」「調停」の手続きは、法律で労働者に認められた正当な紛争解決手段ですから、その手続きを利用すること自体には労働者に責められるべき事由はありません。

しかし、事業主の中には労働者がこれら労働局の手続きを利用したことを理由にその労働者を解雇してしまう事例も稀に見受けられます。

では、労働者がこれら労働局の「紛争解決援助」「あっせん」「調停」の手続きを利用したこと、またはそれを利用するために労働局に相談したことを理由に勤務先から解雇されてしまった場合、労働者はどのように対処すればよいのでしょうか。

そのような解雇の無効を主張して労働者としての権利を保全することはできるのでしょうか。

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解雇は「客観的合理的な理由」がない限り無効

労働局の「紛争解決援助」「あっせん」「調停」の手続きを利用したことを理由に解雇された場合の対処法を考える前提として、そもそも解雇がどのような要件の下で有効または無効と判断されるのか、その基準を理解しておく必要があります。

解雇の判断基準を正確に理解できなければ、解雇された場合の適切な対処法を選択することもできないからです。

この点、解雇の要件については労働契約法第16条に規定されていますが、そこでは使用者の解雇に「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の2つの要件が求められています。

労働契約法第16条

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

つまり、使用者が労働者を解雇するためにはその解雇事由に「客観的合理的な理由」がなければならず、仮にその解雇事由に「客観的合理的な理由」が「あった」と言えるケースであったとしても、その「客観的合理的な理由」に基づいて解雇することが「社会通念上相当」と言える事情がなければ、その解雇はやはり無効と判断されることになるわけです。

労働局に相談したことまたは労働局の手続を利用したことを理由とした解雇に「客観的合理的な理由」は存在しない

このような解雇の要件を理解したうえで、労働局の「紛争解決援助」「あっせん」「調停」の手続きを利用したりその相談をしたことを理由とした解雇の有効性を検討してみますが、結論から言うとそのような解雇は絶対的・確定的に無効と言えます。

なぜ、その解雇が100%無効と言えるかというと、それは法律が労働局の「紛争解決援助」「あっせん」「調停」を利用したことを理由とした解雇を絶対的に禁止しているからです。

労働局で主催される「紛争解決援助」「あっせん」「調停」の手続きの利用については、「個別労働紛争の解決の促進に関する法律」や「雇用機会均等法」「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」にその規定が置かれていますが、そこではその「援助」や「あっせん」「調停」を利用したことを理由として労働者を解雇することを絶対的に禁止しています(個別労働紛争の解決の促進に関する法律第4条3項および同法第5条2項、雇用機会均等法第17条第2項および同法第18条第2項、短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律第24条第2項および同法第25条第2項)。

個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第4条

第1項 都道府県労働局長は、個別労働関係紛争(中略)に関し、当該個別労働関係紛争の当事者の双方又は一方からその解決につき援助を求められた場合には、当該個別労働関係紛争の当事者に対し、必要な助言又は指導をすることができる。
第2項 都道府県労働局長は、前項に規定する助言又は指導をするため必要があると認めるときは、広く産業社会の実情に通じ、かつ、労働問題に関し専門的知識を有する者の意見を聴くものとする。
第3項 事業主は、労働者が第1項の援助を求めたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第5条

第1項 都道府県労働局長は、前条第1項に規定する個別労働関係紛争(労働者の募集及び採用に関する事項についての紛争を除く。)について、当該個別労働関係紛争の当事者(中略)の双方又は一方からあっせんの申請があった場合において当該個別労働関係紛争の解決のために必要があると認めるときは、紛争調整委員会にあっせんを行わせるものとする。
第2項 前条第3項の規定は、労働者が前項の申請をした場合について準用する。

雇用機会均等法第17条

第1項 都道府県労働局長は、前条に規定する紛争に関し、当該紛争の当事者の双方又は一方からその解決につき援助を求められた場合には、当該紛争の当事者に対し、必要な助言、指導又は勧告をすることができる。
第2項 事業主は、労働者が前項の援助を求めたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

雇用機会均等法第18条

第1項 都道府県労働局長は、第16条に規定する紛争(労働者の募集及び採用についての紛争を除く。)について、当該紛争の当事者(中略)の双方又は一方から調停の申請があつた場合において当該紛争の解決のために必要があると認めるときは、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第6条第1項の紛争調整委員会(中略)に調停を行わせるものとする。
第2項 前条第2項の規定は、労働者が前項の申請をした場合について準用する。

短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律第24条

第1都 道府県労働局長は、前条に規定する紛争に関し、当該紛争の当事者の双方又は一方からその解決につき援助を求められた場合には、当該紛争の当事者に対し、必要な助言、指導又は勧告をすることができる。
第2項 事業主は、短時間労働者が前項の援助を求めたことを理由として、当該短時間労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律第25条

第1項 都道府県労働局長は、第23条に規定する紛争について、当該紛争の当事者の双方又は一方から調停の申請があった場合において当該紛争の解決のために必要があると認めるときは、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第6条第1項の紛争調整委員会に調停を行わせるものとする。
第2項 前条第2項の規定は、短時間労働者が前項の申請をした場合について準用する。

労働者が労働局の「紛争解決援助」「あっせん」「調停」の手続きを利用したこと(祖の相談をしたこと)を理由とした解雇が絶対的に禁止されているのであれば、それに違反してそれらの手続きを利用したことを理由とした解雇は法律に違反する違法な解雇となりますが、違法な解雇に「客観的合理的な理由」は存在しませんので、労働契約法第16条の「客観的合理的な理由」も「ない」と判断されます。

ですから、労働者が労働局の「紛争解決援助」「あっせん」「調停」の手続きを利用(またはその相談)をしたことを理由とした解雇については、絶対的・確定的に100%無効ということになるわけです。

労働局の「紛争解決援助」「あっせん」「調停」の手続きを利用したことを理由に解雇された場合の対処法

以上で説明したように、労働局の「紛争解決援助」「あっせん」「調停」の手続きを利用したこと、またはその相談をしたことを理由とした解雇は絶対的・確定的に無効と言えますから、そのような解雇を受けた労働者はその解雇の無効を主張して解雇の撤回を求めたり、解雇日以降に得られるはずであった賃金の支払いを求めることが可能です。

もっとも、実際にそのような理由で解雇された場合には、労働者の側で何らかの対処を取らないといけませんので、その場合に労働者が取り得る対処法が問題となります。

(1)解雇理由の証明書の交付を求め、その証明書の交付を受けておく

労働局の「紛争解決援助」「あっせん」「調停」の手続きを利用したこと、またはその相談をしたことを理由として解雇された場合には、会社に対してその解雇の理由証明書の交付を請求し、その交付を求めておくようにしてください。

労働基準法の第22条では、使用者が労働者から求められた場合は解雇の具体的な理由まで記載した書面を交付しなければならないことが効義務付けられていますので、会社に請求すれば必ずその解雇理由証明書の交付を受けることが可能です。

ではなぜ、その解雇理由証明書の交付を受けておく必要があるかというと、それは会社が勝手に解雇理由を変更してしまうことがあるからです。

先ほどから説明しているように、労働局に「紛争解決援助」「あっせん」「調停」の手続きを申し入れたことを理由とした解雇は絶対的・確定的に違法であって無効となりますから、裁判になれば会社がまず間違いなく負けてしまいます。

そのため、悪質な会社では、裁判になった後になって勝手に解雇理由を変更し「あの解雇は労働局に相談したことが理由じゃなくて労働者に○○の行為があったからですよ」などと会社側に有利になるように労働者の非違行為をでっちあげて解雇理由を従前のものから勝手に変更してしまうケースがあるのです。

しかし、解雇された時点で解雇理由証明書の交付を受けておけば、このように解雇理由を勝手に変更されてしまう不都合を回避することができます。

そのため、解雇された場合にはまず解雇理由証明書の交付を請求し、その交付を受けておく必要があるのです。

なお、解雇理由証明書の請求に関する詳細は以下のページで詳しく解説していますのでそちらを参考にしてください。

(2)労働局への相談等を理由とした解雇が違法である旨記載した書面を会社に送付する

労働局の「紛争解決援助」「あっせん」「調停」の手続きを利用したこと(またはその相談をしたこと)を理由に解雇された場合には、その解雇が違法である旨記載した書面を会社に送付してみるのも対処法の一つとして有効な場合があります。

前述したように、労働局の「紛争解決援助」「あっせん」「調停」の手続きを利用したこと、またはそれらの相談をしたことを理由にした解雇は法律で絶対的に禁止されていますから明らかに違法ですが、その違法な解雇を漫然と執行している会社がまともな会社であるはずがありませんので、口頭で「違法な解雇を撤回しろ」と抗議したところでそれが改善される見込みは期待できません。

しかし、書面を作成してその違法性を指摘し文書の形で正式に申し入れを行えば、将来的な裁判などを警戒して話し合いや解雇の撤回に応じるケースもある可能性がありますので、とりあえず書面で申し入れしてみるのも対処法の一つとして有効な場合があると考えられるのです。