介護休業を申請・取得したことを理由に解雇された場合の対処法

少子化が社会問題化してきた昨今では介護に関する理解も広がってきましたが、いまだに介護休業の取得に理解を示さない会社も多くあるようです。

悪質な会社では、介護休業の取得を申請したり、介護休業を取得しただけで言及や降格など不利益な制裁を課したり、ひどいところでは解雇されてしまったりするケースもあるように聞きます。

では、介護休業を申請したり介護休業を実際に取得したことを理由に解雇されてしまった場合、労働者は具体的にどのように対処すれば自身の地位や権利を保全できるのでしょうか。

介護休業の取得を請求したり実際に介護休業をとったことを理由に解雇されてしまった場合の具体的な対処法が問題となります。

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「客観的合理的な理由」がない解雇は無効

介護休業を申請または取得したことを理由として解雇された場合の対処法を考える前に、そもそも解雇がどのような要件の下で認められうるのかという点を理解する必要があります。

解雇がどのような場合に認められるのかを正確に理解しなければ、自分が解雇された場合にどのような対処がとれるかも理解しえないからです。

この点、解雇については労働契約法第16条にその要件が規定されていますので、条文を確認してみましょう。

労働契約法第16条

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

条文を見てもわかるように、労働契約法第16条は使用者が解雇する場合に「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の2つの要件を求めていますから、その2つの要件のうち1つでも欠けている場合にはその解雇は解雇権を濫用するものとして無効と判断されることになります。

つまり、たとえ解雇されたとしても、その解雇の事由に「客観的合理的な理由」が「ない」と認められる場合にはその解雇は無効と判断されますし、仮にその「客観的合理的な理由」が「ある」と認められるケースであったとしても、その「客観的合理的な理由」に基づいて解雇することが「社会通念上相当」と認められない事情がある場合には、その解雇はやはり無効と判断されることになるわけです。

違法な解雇に労働契約法第16条の「客観的合理的な理由」は存在しない

以上のような労働契約法第16条の解雇要件を理解したうえで、介護休業を申請または取得したことを理由に解雇された場合のその効力を検討してみますが、結論から言うとその解雇は絶対的・確定的に無効と言えます。

なぜなら、育児介護休業法が「介護休業の申出をしたこと」または「介護休業をしたこと」を理由とした解雇を絶対的に禁止しているからです。

育児介護休業法第16条

第10条の規定は、介護休業申出及び介護休業について準用する。

育児介護休業法第10条

事業主は、労働者が育児休業申出をし、又は育児休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

育児介護休業法の第10条は、労働者が「育児休業を申し出たこと」または「育児休業をしたこと」を理由として解雇することを絶対的に禁止していますが、この規定は同法第16条で介護休業の場合にも準用されていますので、「介護休業を申し出たこと」または「介護休業をしたこと」を理由とした解雇も絶対的に禁止されていることになります。

「介護休業を申し出たこと」または「介護休業をしたこと」を理由とした解雇が絶対的に禁止されるのであれば、労働者が介護休業を申請し又は取得したことを理由になされた解雇は法律に違反する違法な解雇となりますが、違法な解雇に「客観的合理的な理由」は存在しませんから、労働契約法第16条の「客観的合理的な理由」も「ない」と認定されることになります。

そのため、労働者が介護休業を申請し又は取得したことを理由になされた解雇は、絶対的・確定的に100%無効だということが言えるわけです。

介護休業を申請または取得したことを理由に解雇された場合の対処法

以上で説明したように、介護休業を申請または取得したことを理由にした解雇は絶対的・確定的に100%無効となりますが、労働者が実際にそれを理由に解雇されてしまえば、労働者の側で何らかの対処を取らないとその解雇が粛々と既成事実化されてしまいますので労働者の側で取り得る対処法が問題となります。

(1)解雇理由証明書の交付を請求しその交付を受けておく

介護休業を申請または取得したことを理由に解雇された場合には、まずその解雇の告知を受けた時点で解雇理由の証明書の交付を請求しその交付を受けておくようにしてください。

解雇理由の証明書の交付は労働基準法第22条で使用者に義務付けられており、その交付請求を受けた使用者は解雇の具体的な理由を記載した解雇理由証明書の交付を拒否することはできませんので、請求すれば必ずその交付を受けることができます。

ではなぜ、その解雇理由証明書の交付を受けておく必要があるかというと、悪質な会社では後で裁判などに発展した際に解雇理由を勝手に変更し、解雇を正当化しようとするケースがあるからです。

当初は介護休業を申請または取得したことを理由に解雇していたとしても、後になってその解雇理由を変更されて「あれは介護休業が理由じゃなくて労働者に○○の事情があったから解雇しただけですよ」などと抗弁されれば、労働者側でその解雇が介護休業に関するものであったことを立証しなければならなくなりますから、裁判が不利になるケースもあります。

しかし、解雇された時点で解雇理由証明書の交付を受けておき、その証明書に「介護休業を申請(または取得)したことを理由に解雇した」旨の記載をさせておけば、それ以降に会社側で勝手に解雇理由を変更されることを防ぐことができます。

そのため、解雇された時点で解雇理由証明書の交付を受けておく必要があるのです。

なお、解雇理由証明書の請求に関する詳細は以下のページで詳しく解説していますのでそちらを参考にしてください。

(2)介護休業を申請または取得したことを理由とする解雇が違法である旨記載した書面を送付する

介護休業を申請または取得したことを理由として解雇された場合には、その解雇が違法である旨記載した書面を作成し会社に送付してみるというのも対処法の一つとして有効な場合があります。

前述したように、介護休業を申請または取得したことを理由とする解雇は育児介護休業法に違反するので確定的に無効と言えますが、そのようは法令違反に気付かずまたは法令違反を知りながら労働者を解雇するような会社はそもそも法令遵守意識が低いので、そのような会社に対して口頭で「違法な解雇を撤回しろ」と抗議しても撤回に応じてくれる可能性は望めません。

しかし、書面を作成して改めて文書という形で抗議すれば、将来的な裁判や行政官庁への相談を警戒して解雇の撤回や話し合いに応じてくれるケースもあると思われますので、とりあえず書面で申し入れしてみるのも対処法の一つとして有効な場合があると考えられるのです。

なお、その場合に会社に送付する通知書の文面は以下のようなもので差し支えないと思います。

甲 株式会社

代表取締役 ○○ ○○ 殿

介護休業の取得を理由とした解雇の無効確認及び撤回申入書

私は、〇年〇月〇日、貴社から解雇する旨の通知を受け、同月末日をもって貴社を解雇されました。

本件解雇については同年〇月〇日、その理由を上司であった○○氏に確認したところ、私が同年〇月に介護休業を取得したことが理由であると聞いております。

しかしながら、労働者が介護休業を取得したことを理由として解雇することは育児介護休業法第16条で準用する同法第10条で禁止されておりますので、私が介護休業を取得したことを理由として行われた本件解雇は明らかに違法です。

したがって、貴社の私に対する本件解雇の解雇事由に労働契約法第16条の「客観的合理的な理由」は存在せず、解雇権を濫用した無効なものと言えますから、直ちに本件解雇を撤回するよう、申し入れいたします。

以上

〇年〇月〇日

〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号○○マンション〇号室

○○ ○○ ㊞

※介護休業を「申請したこと」を理由に解雇された場合は上記記載例の「取得した」の部分を「申請した」などに置き換えてください。

※証拠として残しておくため、コピーを取ったうえで配達した記録の残る特定記録郵便などの郵送方法で送付するようにしてください。