勤務先から性別を理由に解雇されてしまうケースが稀に見られます。
たとえば、トラックドライバーで働く女性労働者が「女に力仕事は無理だ」と言われて解雇されたり、清掃業務で働く男性労働者が「男に女子トイレを掃除させるわけにはいかないから」と言われて解雇されるようなケースです。
しかし性別は本人の適性や能力とは関係のない特性なのですから、それだけを理由に解雇してしまうのは差別であるような気もします。
では、労働者が性別を理由に解雇された場合、その解雇は有効なのでしょうか。また、労働者が性別を理由に解雇された場合、具体的にどのように対処すればよいのでしょうか。
解雇の有効性は「客観的合理的な理由」があるかないかで判断される
性別を理由に解雇された場合の対処法を考える前提として、そもそも解雇の有効性が具体的にどの様な基準で判断されるのかを理解する必要があります。解雇の有効性の判断基準が理解できなければ、性別を理由にした解雇の効力も理解することができないからです。
この点、解雇の要件は労働契約法第16条に規定されていますので条文を確認してみましょう。
【労働契約法第16条】
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
労働契約法第16条はこのように、解雇に「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の2つの要件を求めていますので、この2つの要件をどちらも満たしていない限り、その解雇は解雇権を濫用するものとして無効と判断されることになります。
つまり、労働者が解雇された場合であっても、その解雇事由に「客観的合理的な理由」がなければその解雇は無効ですし、仮にその解雇の事由に「客観的合理的な理由」があったとしても、その客観的合理的な理由に基づいて解雇することに「社会通念上の相当性」がないと認められれば、やはりその解雇は無効と判断されることになるわけです。
性別を理由にした解雇は絶対的に無効
では、これを踏まえたうえで性別の解雇の有効性を検討してみますが、結論から言うと性別を理由にした解雇は絶対的・確定的に無効と判断されます。
なぜなら、雇用機会均等法の第6条が性別を理由にした解雇を絶対的に禁止しているからです。
【雇用機会均等法第6条】
事業主は、次に掲げる事項について、労働者の性別を理由として、差別的取扱いをしてはならない。
第1号 労働者の配置(業務の配分及び権限の付与を含む。)、昇進、降格及び教育訓練
第2号 住宅資金の貸付けその他これに準ずる福利厚生の措置であつて厚生労働省令で定めるもの
第3号 労働者の職種及び雇用形態の変更
第4号 退職の勧奨、定年及び解雇並びに労働契約の更新
雇用機会均等法の第6条4号は、このように「性別」を理由に労働者に差別的取り扱いをすることを禁止していますので、性別を理由に特定の労働者を解雇することは絶対的に認められません。
そして性別を理由に解雇することが雇用機会均等法で絶対的に禁止されるのであれば当然、性別を理由に解雇することに「客観的合理的な理由」は存在しませんから、性別を理由にした解雇があればそれは労働契約法第16条の「客観的合理的な理由」を欠くことになります。
そのため、性別を理由にした解雇は労働契約法第16条の「客観的合理的な理由」が「ない」ものと認定されることになる結果、解雇権を濫用するものとして絶対的・確定的に無効と判断されることになるのです。
性別を理由に解雇された場合の対処法
このように、性別を理由にした解雇は、絶対的・確定的に無効と判断されることになりますから、性別を理由にした解雇を受けた労働者はその撤回や解雇日以降に得られるはずであった賃金の支払いを請求することが可能です。
もっとも、労働者が実際に性別を理由に解雇されれば、労働者の側で具体的な対処を取らないとその解雇が使用者側で粛々と進められてしまいますので、労働者の側で具体的にどのような対処を取ることができるかという点が問題となります。
(1)解雇理由証明書の交付を受けておく
性別を理由に解雇された場合には、まず使用者に対して解雇の理由を証明する書面の交付を請求し、その解雇理由の証明書の交付を受けておくようにしてください。
なぜなら、この解雇理由証明書の交付を受けておかなければ、後に裁判などになった際に使用者側が勝手に解雇の理由を変えてしまうことがあるからです。
先ほどから説明しているように性別を理由にした解雇は絶対的に禁止されているので確定的に無効と言えますから裁判になれば100%使用者側が負けてしまいます。そのため使用者の中には裁判になった際に解雇の理由を勝手に変更し「それは性別を理由に解雇したんじゃなくて労働者が○○をしたから仕方なく解雇したんですよ」などと労働者の非違行為をでっちあげて勝手に解雇の理由を変更し、裁判を有利に進めようとするケースがあるのです。
しかし、労働基準法第22条は解雇された労働者の請求があった場合に使用者が解雇理由証明書を交付しなければならないことを義務付けていますから、解雇された時点で解雇理由証明書の交付を請求し、その交付を受けておけば、解雇の時点で解雇された理由が「性別にあったこと」を確定させることができますので、後で使用者側で勝手に解雇理由を変更されてしまう危険性を排除できます。
そのため、性別を理由に解雇された場合には、まず解雇理由証明書の交付を受けておく必要があるのです。
なお、解雇理由証明書の請求に関する詳細は以下のページで詳しく解説していますのでそちらを参考にしてください。
(2)性別を理由にした解雇が違法であることを記載した通知書を作成し使用者に送付してみる
性別を理由に解雇された場合は、その解雇が雇用機会均等法第6条4号に違反し確定的に違法であることを記載した通知書を作成して使用者に郵送してみるというのも対処法の一つとして有効です。
先ほどから説明しているように性別を理由とした解雇は雇用機会均等法第6条4号に抵触するため確定的に違法な行為であり、そこに労働契約法第16条の「客観的合理的な理由」は存在しませんから、その解雇は明らかに違法であり無効ということになります。
しかし、性別を理由にした差別がそもそも許容されないのは法律の規定を知らなくても感覚的かつ常識的に考えて明らかですから、そのような差別性に気付かずにもしくは気付いたうえであえて性別を理由に解雇するような会社がまともな感覚を持っているはずがありませんので、そのような雇い主に口頭で「違法な解雇を撤回しろ」と抗議したとしてもその撤回は期待できません。
しかし、書面で改めてその違法性を指摘すれば、将来的な裁判や行政官庁への相談を警戒して使用者側がそれまでの態度を改めて解雇の撤回や金銭賠償等に応じてくる可能性もありますので、とりあえず書面で通知してみるというのも対処法の一つとして機能する場合があると考えられるのです。
なお、この場合に送付する通知書の文面は以下のようなもので差し支えないと思います。
甲 株式会社
代表取締役 ○○ ○○ 殿
性別を理由にした解雇の無効確認及び撤回申入書
私は、〇年〇月〇日、貴社から解雇する旨の通知を受け、同月末日をもって貴社を解雇されました。
この解雇に関し、貴社からは、私が女性であることから力仕事が無理だと判断したため解雇するに至ったとの説明がなされております。
しかしながら、雇用機会均等法の第6条第4号は性別を理由にした労働者の解雇その他の差別的取り扱いを禁止していますので、私が女性であることを理由にしたこの解雇は明らかに違法です。
したがって、私は、貴社に対し、本件解雇が無効であることを確認するとともに、当該解雇を直ちに撤回するよう、申し入れいたします。
以上
〇年〇月〇日
〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号○○マンション〇号室
○○ ○○ ㊞
※証拠として残しておくため、コピーを取ったうえで配達した記録の残る特定記録郵便などの郵送方法で送付するようにしてください。