満1歳前の子の授乳や育児のための休憩を請求して解雇された場合

(2)生後満1年に達しない生児を養育する女性労働者が生児を養育するための休憩時間を請求しまたは取得したことを理由とした解雇が違法である旨記載した通知書を送付してみる

生後満1年に達しない生児を養育する女性労働者が生児を養育するするための休憩時間を請求または取得したことを理由として解雇されてしまった場合には、その解雇が雇用機会均等法に違反する旨記載した通知書を作成して会社に郵送してしてみるというのも対処法の一つとして有効な場合があります。

前述したようにそのような解雇は雇用機会均等法第9条第3項に違反するため違法な解雇となりますが、違法な解雇を平気で行う会社はそもそも法令遵守意識が低いのでそのような会社にいくら口頭で「違法な解雇を撤回しろ」と抗議したとしてもその講義が受け入れられる期待は持てません。

しかし、文書を作成して書面という形でその違法性を指摘すれば、将来的な裁判への発展や業績間の介入を警戒して解雇の撤回に応じたり補償の請求に応じる会社もあるかもしれませんので、とりあえず書面で違法性を指摘してみるというのも効果がある場合があると考えられるのです。

なお、この場合に会社に送付する通知書の文面は以下のようなもので差し支えないと思います。

甲 株式会社

代表取締役 ○○ ○○ 殿

育児のための休憩時間を取得したことを理由とした解雇の無効確認及び撤回申入書

私は、〇年〇月〇日、貴社から解雇する旨の告知を受け、同月〇日をもって貴社を解雇されました。

この解雇の措置について同年〇月〇日、私が直属の上司であった○○氏(課長)にその理由を尋ねたところ、同氏からは「お前は出産した生児に授乳するためとの理由で〇年〇月ごろからたびたび就労場所の近くにある実家にいったん帰ることができるよう20~30分程度の休憩時間の取得を申し出ているが、たびたび離籍されては業務に支障がでるし、他の社員からお前だけ休憩時間を付与するのはおかしいと抗議もあったので社内の風紀を乱すと判断して解雇した」との説明がなされております。

しかしながら、労働基準法第67条は産後1年を経過しない女性労働者が生児の養育に必要な休憩時間を請求した場合、使用者は通常の休憩時間とは別に1日2回少なくとも各々30分の休憩を与えなければならないことを義務付けており、雇用機会均等法第9条第3項はその労働基準法第67条に基づいて休憩時間を請求または取得した女性労働者に対して解雇その他の不利益取扱いをすることを禁止していますから、貴社の行ったかかる解雇の処分は明らかに雇用機会均等法第9条第3項に違反します。

したがって、当該違法な解雇に客観的合理的な理由(労働契約法第16条)は存在せず無効と言えますから、直ちに当該解雇を撤回するよう、改めに申し入れいたします。

以上

〇年〇月〇日

〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号○○マンション〇号室

○○ ○○ ㊞

※証拠として残しておくため、コピーを取ったうえで配達した記録の残る特定記録郵便などの郵送方法で送付するようにしてください。

(3)労働局の紛争解決援助または調停の手続きを利用してみる

生後満1年に達しない生児を養育する女性労働者が生児を養育するための休憩時間を請求しまたは取得して解雇されてしまった場合には、その事実を労働局に申告(相談)し労働局の主催する紛争解決援助または調停の手続きを利用してみるというのも対処法の一つとして有効な場合があります。

前述したようにそのような解雇は雇用機会均等法第9条第3項に違反することになりますが、雇用機会均等法に関する労使間のトラブルが発生した場合には、当事者の一方からその事実を労働局に申告することで労働局が主導する紛争解決援助または調停の手続きによってその紛争解決を図ることが可能です。

雇用機会均等法第16条

第5条から第7条まで、第9条、第11条第1項、第11条の2第1項、第12条及び第13条第1項に定める事項についての労働者と事業主との間の紛争については、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(中略)第4条、第5条及び第12条から第19条までの規定は適用せず、次条から第27条までに定めるところによる。

雇用機会均等法第17条

第1項 都道府県労働局長は、前条に規定する紛争に関し、当該紛争の当事者の双方又は一方からその解決につき援助を求められた場合には、当該紛争の当事者に対し、必要な助言、指導又は勧告をすることができる。
第2項 事業主は、労働者が前項の援助を求めたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

雇用機会均等法第18条

第1項 都道府県労働局長は、第16条に規定する紛争(労働者の募集及び採用についての紛争を除く。)について、当該紛争の当事者(中略)の双方又は一方から調停の申請があつた場合において当該紛争の解決のために必要があると認めるときは、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第6条第1項の紛争調整委員会(中略)に調停を行わせるものとする。
第2項 前条第2項の規定は、労働者が前項の申請をした場合について準用する。

この労働局の紛争解決援助または調停の手続きに法的な拘束力はありませんので会社側が手続きに参加しない場合は空振りに終わりますが、会社側が手続きへの参加に応じる場合には、労働局から出される勧告や指導あるいは調停案などに会社が従うことで違法な解雇が撤回されたり、補償の話し合いに応じてくる可能性も期待できます。

そのため、このようなケースではとりあえず労働局に相談(申告)し、紛争解決援助または調停の手続きを利用できないか検討してみるのも対処法の一つとして有効な場合があると考えられるのです。

なお、労働局の紛争解決援助の手続き等の利用については『労働局の紛争解決援助(助言・指導・あっせん)手続の利用手順』のページで詳しく解説していますのでそちらを参考にしてください(当該ページは個別労働関係紛争の解決に関する法律にかかる労働局の手続き利用を説明していますが、雇用機会均等法における労働局の手続きも同じ要領で利用可能です。細かいところは労働局に相談に行けば教えてもらえますので問題ありません)。

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生後満1年に達しない生児を養育する女性労働者が授乳や育児のための休憩時間を請求しまたは取得したことを理由とした解雇を受けた場合のその他の対処法

生後満1年に達しない生児を養育する女性労働者が生児を育てるための休憩時間を請求しまたは取得したことを理由として解雇された場合のこれら以外の対処法としては、各都道府県やその労働委員会が主催するあっせんの手続きを利用したり、弁護士会や司法書士会が主催するADRを利用したり、弁護士(または司法書士)に個別に相談・依頼して裁判や裁判所の調停手続きを利用する方法が考えられます。

なお、これらの解決手段については以下のページを参考にしてください。

労働問題の解決に利用できる7つの相談場所とは

解雇を前提とした金品(解雇予告手当や退職金など)は受け取らない方が良い

なお、以上のような方法で解雇の無効を主張できるとしても、解雇された時点で会社から交付される解雇予告手当や退職金などは受け取らない方が良いかもしれません。

解雇予告手当や退職金は「退職(解雇)の事実があったこと」を前提として交付されますから、それを受け取ってしまうと「無効な解雇を追認した」と裁判所に判断されて後で解雇の無効を主張するのが事実上困難になるケースがあるからです。

解雇された時点でそのような金品の交付を受けた場合には、それを受け取る前に速やかに弁護士などに相談し、受け取るべきか否か助言を受ける方が良いでしょう(※参考→解雇されたときにしてはいけない2つの行動とは)。

解雇のトラブルはなるべく早めに弁護士に相談した方が良い

なお、解雇された場合の個別の対応は、解雇の撤回を求めて復職を求めるのか、それとも解雇の撤回を求めつつも解雇は受け入れる方向で解雇日以降の賃金の支払いを求めるのか、また解雇を争うにしても示談交渉で処理するのか裁判までやるのか、裁判をやるにしても調停や労働審判を使うのか通常訴訟手続を利用するのかによって個別の対応も変わってくる場合があります。

労働トラブルを自分で対処してしまうとかえってトラブル解決を困難にする場合もありますので、弁護士に依頼してでも権利を実現したいと思う場合は最初から弁護士に相談する方が良いかもしれません。その点は十分に注意して下さい。