支持政党や政治思想・信条を理由に解雇された場合の対処法

労働者が勤務先から、「信条」を理由に解雇されてしまうケースがごく稀にあります。

たとえば、選挙で政党Aに投票をした労働者が、政党Bを支持している勤務先の社長から政党Bに投票しなかったことを理由に解雇されたり、年金制度や気候変動に対する政府の対応を批判するデモに参加した労働者が、与党を支持する会社経営者から解雇されるようなケースがそれです。

このような支持政党や政治信条は内心の自由(日本国憲法第19条)に関わることでもありますから、解雇される労働者にとっては到底許容されるものではありません。

では、このように支持政党や政治思想などを理由に解雇された場合、労働者はその無効を主張することはできないのでしょうか。また、実際に支持政党や政治思想を理由に解雇された場合、具体的にどのように対処すればよいのでしょうか。

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解雇の有効性の判断基準

労働者が「信条」を理由に解雇された場合、具体的に言えば、先ほど挙げたような支持政党や政治思想を理由に解雇された場合の対処法を考える前提として、解雇の有効性の判断基準を理解してもらわなければなりません。

解雇の有効性・無効性が具体的にどのような基準を以て判断されるのかを理解しなければ、そもそもその無効を主張しえるのかすら理解できないからです。

この点、解雇の効力については労働契約法第16条に規定されていますので、そこを確認しなければなりませんが、労働契約法第16条には、使用者が労働者を解雇する場合に「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の2つの要件を求めています。

【労働契約法第16条】

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

つまり、労働者が解雇された場合であっても、その解雇の事由に「客観的合理的な理由」がなければその解雇は無効と判断されることになりますし、仮にその客観的合理的な理由が「ある」と判断されたとしても、その理由によって解雇することが「社会通念上の相当ではない」と判断されるケースであれば、その解雇はやはり無効と判断されることになるのです。

「支持政党」や「政治信条」を理由にした解雇は絶対的に「無効」

このように、解雇は「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の2つの要件を満たす必要がありますから、その一方でも欠けている場合にはその解雇は絶対的に無効と判断されます。

では、これを踏まえたうえで「支持政党」や「政治信条」を理由にした解雇を検討してみますが、結論から言えば支持政党や政治思想を理由に行われた解雇は「客観的合理的な理由」が「ない」と判断されます。

なぜなら、労働基準法第3条が「信条」を理由にした差別的取り扱いを絶対的に禁止しているからです。

労働基準法第3条

使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。

先ほども述べたように、支持政党や政治思想はその個人の内心に関わることであり、その保障は「思想及び良心の自由(憲法19条)」という基本的人権ですから、それは労働基準法第3条の「信条」として当然に保障されなければなりません。

ですから、使用者が労働者を支持政党や政治思想を理由に解雇することは労働基準法第3条によって絶対的に禁止されていることになりますが、「信条(支持政党や政治思想)」を理由にした解雇が労働基準法で絶対的に禁止されているのであれば、使用者が労働者をその「信条(支持政党や政治思想)」を理由に解雇することはそもそも許されませんから、その「支持政党や政治思想を理由に解雇すること」について「客観的合理的な理由」が存在する余地もありません。

ですから、労働者が支持政党や政治思想を理由に解雇された場合には、その解雇に労働契約法第16条の「客観的合理的な理由」が「ない」と確定的に認定されることになりますので、その解雇は解雇権を濫用するものとして無効と判断されることになるのです。

支持政党や政治思想を理由に解雇された場合の対処法

以上で説明したように、支持政党や政治信条を理由に行われた解雇は、労働基準法第3条で禁止された「信条」を理由にした解雇となりますので、その解雇に労働契約法第16条「客観的合理的な理由」が「ない」と認定される結果、その解雇は権利の濫用として無効と判断されることになります。

もっとも、その支持政党や政治信条を理由になされた解雇が絶対的に無効と判断されるとは言っても、労働者が実際に支持政党や政治思想を理由に解雇された場合には、労働者の側で何らかの対処を取らなければなりませんので、その具体的な対処法が問題となります。

(1)解雇理由の証明書の交付を受けておく

支持政党や政治思想を理由に解雇された場合には、まずその解雇の理由に関する証明書の交付を勤務先に請求し、その解雇理由証明書の交付を受けておく必要があります。

なぜなら、悪質な会社によっては、当初は支持政党や政治思想を理由に解雇したにもかかわらず、裁判になってからその解雇理由を別なものに変更してしまうケースがあるからです。

先ほどから説明しているように支持政党や政治信条を理由に解雇することは労働基準法第3条で絶対的に禁止されるため無効と判断されますが、裁判になった後で会社から「あの解雇は支持政党(または政治思想・政治信条)を理由に解雇したんじゃなくて○○を理由に解雇しただけですよ」と抗弁されてしまえば、労働者側でその解雇が支持政党や政治信条を理由になされたものであったことを立証しなければならなくなってしまいます。

そのため、悪質な会社では、訴訟や弁護士介入の示談交渉の段になって解雇理由を勝手に変更する場合があるのですが、労働基準用第22条では解雇された労働者が解雇の理由を証明する書面の交付を求めた場合にその証明書を交付することを義務付けていますので、解雇された時点でその解雇理由証明書の交付を受けておけば、後になって解雇の理由を勝手に変更されることを防止することができます。

労働基準法第22条第1項

労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあつては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。

そのため、解雇された場合にはまず解雇理由証明書の交付を受けておく必要があるのです。

なお、解雇理由証明書の請求に関する詳細は以下のページで詳しく解説していますのでそちらを参考にしてください。

(2)支持政党や思想信条を理由にした解雇が確定的に無効であることを記載した通知書を送付する

支持政党や政治思想を理由に解雇された場合に会社がその撤回に応じない場合には、支持政党や政治思想を理由に解雇することが労働基準法に違反することを記載した通知書を作成し勤務先に郵送してみるのも対処法の一つとして有効な場合があります。

先ほどから説明しているように、支持政党や政治思想を理由に解雇することはそもそも労働基準法第3条で禁止されていますから、その解雇に労働契約法第16条の「客観的合理的な理由」は「ない」と判断されるためその解雇は確定的に無効です。

しかし、そのような信条を理由にした解雇が違法であることは常識的に考えて当然ですので、その無効であることが当然な解雇を強行する会社がまともな会社であるわけがなく、口頭で「その解雇は無効だ」と抗議したぐらいでその撤回に応じることは期待できないでしょう。

ですが、書面という形で正式に抗議すれば、将来的な裁判や行政官庁への相談などを警戒してそれまでの態度を改め解雇の撤回に応じる会社もありますので、書面という形でその違法性を通知しておくのも対処法の一つとして有効な場合があると考えられるのです。

なお、この場合に会社に通知する通知書の文面は以下のようなもので差し支えないと思います。

甲 株式会社

代表取締役 ○○ ○○ 殿

信条を理由にした解雇の無効確認及び撤回申入書

私は、〇年〇月〇日、貴社から解雇する旨の通知を受け、同月末日をもって貴社を解雇されました。

この解雇に関し、貴社からは、私が〇月〇日、政府の検閲行為に抗議するデモに参加したことが、与党A党を支持している貴社の姿勢に反することが、解雇の直接の原因になったとの説明がなされております。

しかしながら、労働基準法第3条は信条を理由にした労働者の差別的取り扱いを禁止していますので、この解雇は明らかに違法です。

したがって、私は、貴社に対し、本件解雇が無効であることを確認するとともに、当該解雇を直ちに撤回するよう、申し入れいたします。

以上

〇年〇月〇日

〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号○○マンション〇号室

○○ ○○ ㊞

※証拠として残しておくため、コピーを取ったうえで配達した記録の残る特定記録郵便などの郵送方法で送付するようにしてください。