政治デモ・環境デモへの参加を理由に解雇された場合の対処法

政治腐敗や温暖化など地球環境問題に対するデモが世界中で吹き荒れる昨今、政治デモや環境デモに参加したいと思う人も多いかもしれません。

しかし、そこで懸念されるのがデモに参加したことを理由に勤務先の会社から解雇されてしまう危険性です。

経営者の中には与党や政府の熱狂的支持者もいるでしょうし、温室効果ガスの排出元になっている業界では環境デモに否定的な意見を持つ企業もあるでしょうから、そのような企業に勤める労働者がデモに参加している映像がテレビやネットに流されて会社関係者に知られてしまえば、その政治姿勢が問題視され最悪の場合は解雇されてしまう危険性も考えられます。

では、政治デモや環境デモに参加したことを理由に解雇されてしまった場合、その解雇は有効なのでしょうか。また、実際に政治デモや環境デモに参加したことを理由に解雇されてしまった場合、具体的にどのように対処すれば自分の労働者としての権利を確保することができるのでしょうか。

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解雇は「客観的合理的な理由」がある場合に限って有効となる

政治デモや環境デモに参加したことを理由に解雇された場合の対処法を考える前提として、そもそも解雇がどのような場合に有効となり、どのような場合に無効と言えるのかという点を理解してもらわなければなりません。

解雇の有効要件を理解しなければ、政治デモや環境デモに参加したことを理由になされた解雇が有効なのか無効なのかというその判断すらできないからです。

この点、解雇の有効要件については労働契約法第16条に規定がありますので、条文を確認してみましょう。

【労働契約法第16条】

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

労働契約法第16条は、このように解雇について「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の2つの要件を満たすことを求めていますので、この2つの要件のどちらか一方でも欠けている場合には、その解雇は解雇権を濫用するものとして無効と判断されることになります。

つまり、労働者が解雇された場合において、その解雇の事由に「客観的合理的な理由」がないと認められるのであればその解雇は無効ですし、仮にその解雇事由に「客観的合理的な理由」が「ある」と認められる事例であっても、その客観的合理的な理由に基づいて解雇することに「社会通念上相当」と認められる事情が「ない」と認められるのであれば、その解雇はやはり無効と判断されることになるわけです。

政治デモや環境デモに参加したことを理由にした解雇には「客観的合理的な理由」がないので絶対的に無効となる

では、これを踏まえたうえで政治デモや環境デモに参加したことを理由になされる解雇が有効なのか無効なのか検討してみますが、結論から言うとこのような解雇は無効です。絶対的、確定的に100%無効と言えます。

なぜなら、労働基準法第3条が「信条」を理由に労働者の労働条件等に差別的取り扱いをすることを絶対的に禁止しているからです。

労働基準法第3条

使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。

個人がどのような政治思想を持つか、またどのような環境意識を持つかは個人の「内心の自由(思想及び良心の自由(憲法19条))」の問題であり、また個人がどのようなデモに参加するかも「表現の自由(憲法21条)」にかかる基本的人権の問題といえるでしょう。

このような政治思想や環境に対する信念は個人の信条そのものですから、憲法の人権保障の観点から考えても最大限に保障されなければなりませんので、労働基準法第3条で差別的取り扱いが禁止された「信条」に含まれることになります。

また、解雇が労働契約の一方的解約である以上、それは労働条件の一方的破棄にあたりますから、それは労働基準法第3条で差別的取り扱いが禁止された「その他の労働条件」にあたるでしょう。

そうなれば当然、政治デモや環境デモに参加したことを理由に解雇することは、労働基準法第3条で禁止された信条による差別的取り扱いにあたりますから、それは絶対的に許されません。

政治デモや環境デモに参加したことを理由に解雇することが労働基準法第3条で絶対的に禁止されるのであれば、その解雇に「客観的合理的な理由」は存在しませんから、その解雇は労働契約法第16条で求められた「客観的合理的な理由」を欠くことになります。

ですから、政治デモや環境デモに参加したことを理由になされた解雇は、解雇権を濫用するものとして絶対的・確定的に無効ということになるのです。

政治デモや環境デモに参加したことを理由に解雇された場合の対処法

このように、政治デモや環境デモに参加したことを理由に労働者を解雇することは労働基準法第3条で絶対的に禁止されますから、その解雇に「客観的合理的な理由」はないので絶対的・確定的に無効です。

もっとも、そうは言っても労働者が実際に政治デモや環境デモに参加したことを理由に解雇された場合には、労働者の側で何らかの対処を取らなければその解雇が粛々と進められてしまいますので、労働者の側で具体的にどのような対処を取り得るのかという点が問題となります。

(1)解雇理由の証明書の交付を請求し、その交付を受けておく

政治デモや環境デモに参加したことを理由に解雇された場合は、まず使用者に対して解雇理由の証明書の交付を請求し、その証明書の交付を受けておいた方が無難です。

解雇理由証明書の交付を請求された使用者は具体的にどのような理由で解雇したのかその解雇の理由を証明書に記載して労働者に交付する義務がありますので(労働基準法第22条)、解雇された時点でその交付を受けておけば、その時点で解雇の理由を「政治デモ(または環境デモ)に参加したこと」という理由に確定させることができるからです。

この解雇理由証明書の交付を受けておかないと、後に裁判などになった際に使用者側が勝手に解雇の理由を変更し「あれはデモに参加したから解雇したわけじゃなくてその労働者が○○をしたから解雇しただけなんですよ」などと適当な労働者の非違行為をでっち上げて解雇を正当化する抗弁を出して来る懸念が生じてしまいます。

そうなると労働者の側でその解雇が「政治デモ(または環境デモ)に参加したことを理由とした解雇だったこと」を立証しなければならなくなってしまうので裁判上不利になってしまう可能性があります。

そのため、解雇された時点で解雇理由証明書の交付を受けておく必要があるのです。

なお、解雇理由証明書の請求に関する詳細は以下のページで詳しく解説していますのでそちらを参考にしてください。

(2)政治デモや環境デモに参加したことを理由に解雇することが労働基準法第3条で禁止されている旨記載した通知書を送付する

政治デモや環境デモに参加したことを理由に解雇された場合は、それが労働基準法第3条に違反することを記載した通知書を作成し使用者に送付するというのも対処法の一つとして有効な場合があります。

前述したように、政治デモや環境デモに参加したことを理由に解雇するこおとは信条を理由とした差別的取扱いにあたり労働基準法第3条で絶対的に禁止されていますから、それを承知で、またはそれを知らずに解雇した使用者は、そもそも法令遵守意識が低いと思われますので、そのような使用者に対して口頭で「違法な解雇を撤回しろ」と抗議したところでその撤回に応じることは望めません。

しかし、書面という形で正式に抗議すれば、将来的な弁護士への相談や裁判、あるいは行政官庁への申告を利用した行政指導の誘導などを警戒して使用者側が話し合いや解雇の撤回に応じてくることも期待できますので、とりあえず通知書を送付して圧力をかけてみるというのも対処法として有効に機能する場合があると考えられるのです。

なお、この場合に使用者に通知する通知書の文面は以下のようなもので差し支えないと思います。

甲 株式会社

代表取締役 ○○ ○○ 殿

信条を理由にした解雇の無効確認及び撤回申入書

私は、〇年〇月〇日、貴社から解雇通知を受け、同月末日をもって解雇されました。

この解雇に関し、貴社からは、私が同年〇月〇日、国会前で行われた憲法改正に反対するデモに参加した事実があり社内の風紀を乱したと判断したため解雇するに至ったとの説明がなされております。

しかしながら、私が当該デモに参加したのは事実ですが、労働基準法第3条は信条を理由にした労働者の差別的取り扱いを禁止していますので、私が憲法改正に反対するデモに参観したことを理由にしたこの解雇は明らかに違法です。

したがって、私は、貴社に対し、本件解雇が無効であることを確認するとともに、当該解雇を直ちに撤回するよう、申し入れいたします。

以上

〇年〇月〇日

〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号○○マンション〇号室

○○ ○○ ㊞

※証拠として残しておくため、コピーを取ったうえで配達した記録の残る特定記録郵便などの郵送方法で送付するようにしてください。