(3)被差別部落出身者であること(社会的身分)を理由にした解雇の事実を労働基準監督署に申告する
被差別部落出身者であることを理由に解雇された場合には、その事実を労働基準監督署に申告するというのも対処法の一つとして有効です。
先ほどから説明しているように被差別部落出身者であることを理由とした解雇は、労働基準法第3条によって絶対的に禁止された「社会的身分による労働者の差別的取扱い」にあたりますので、そのような解雇がなされているというのであれば、その使用者は労働基準法に違反している状態にあると言えます。
この点、労働基準法第104条は使用者が労働基準法に違反する場合に労働者から労働基準監督署に違法行為の申告を行うことを認めていますが、労働者の申告によって労働基準監督署が臨検や調査を行い、使用者がその監督署の勧告や指導に応じる場合には、会社がそれまでの態度を改めて解雇の撤回や補償に応じる可能性も期待できます。
【労働基準法第104条1項】
事業場に、この法律又はこの法律に基いて発する命令に違反する事実がある場合においては、労働者は、その事実を行政官庁又は労働基準監督官に申告することができる。
そのため、このようなケースでは労働基準監督署に違法行為の申告を行うというのも対処法として有効に機能する場合があると考えられるのです。
なお、この場合に労働基準監督署に提出する申告書の記載は以下のようなもので差し支えないと思います。
労働基準法違反に関する申告書
(労働基準法第104条1項に基づく)
○年〇月〇日
○○ 労働基準監督署長 殿
申告者
郵便〒:***-****
住 所:岡山県津山市○○一丁目〇番〇号○○マンション〇号室
氏 名:身分 太郎
電 話:080-****-****
違反者
郵便〒:***-****
所在地:岡山県倉敷市〇町〇番〇号
名 称:株式会社 甲
代表者:代表取締役 ○○ ○○
電 話:***-****-****
申告者と違反者の関係
入社日:〇年〇月〇日
契 約:期間の定めのない雇用契約(←注1)
役 職:なし
職 種:販売員
労働基準法第104条1項に基づく申告
申告者は、違反者における下記労働基準法等に違反する行為につき、適切な調査及び監督権限の行使を求めます。
記
関係する労働基準法等の条項等
労働基準法3条
違反者が労働基準法等に違反する具体的な事実等
・申告者は〇年〇月〇日、違反者から「本籍地が被差別部落にあたること」を理由に解雇する旨の告知を受け、同月30日付で解雇された。
・この解雇の理由について申告者は同年〇月〇日、直属の上司であった○○になぜ被差別部落に本籍地があることをもって解雇されなければならないのか問いただしたところ「社長から被差別部落出身者を雇うなと言われているから解雇することになった」との説明を受けた。
・しかしながら、労働基準法第3条は社会的身分を理由にした差別的取り扱いを禁止しているから、当該解雇は同条に違反する。
添付書類等
・解雇(予告)通知書の写し……1通(←注2)
・違反者から交付された解雇理由証明書の写し……1通(←注2)
備考
違反者に本件申告を行ったことが知れると、違反者から不当な圧力(他の労働者が別件で労基署に申告した際、違反者の役員が自宅に押し掛けて恫喝するなどの事例が過去にあった)を受ける恐れがあるため、違反者には本件申告を行ったことを告知しないよう配慮を求める。(←注3)
以上
※注1:契約社員やアルバイトなど期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)の場合には、「期間の定めのある雇用契約」と記載してください。
※注2:労働基準監督署への申告に添付書類の提出は必須ではありませんので添付する書類がない場合は添付しなくても構いません。なお、添付書類の原本は将来的に裁判になった場合に証拠として利用する可能性がありますので必ず「写し」を添付するようにしてください。
※注3:労働基準監督署に違法行為の申告を行った場合、その報復に会社が不当な行為をしてくる場合がありますので、労働基準監督署に申告したこと自体を会社に知られたくない場合は備考の欄に上記のような文章を記載してください。申告したことを会社に知られても構わない場合は備考の欄は「特になし」と記載しても構いません。
被差別部落出身者であること(社会的身分)を理由に解雇された場合のその他の対処法
被差別部落出身者であることを理由にした解雇があった場合におけるこれら以外の解決手段としては、各都道府県やその労働委員会が主催する”あっせん”の手続きを利用したり、弁護士会や司法書士会が主催するADRを利用したり、弁護士(または司法書士)に個別に相談・依頼して裁判や裁判所の調停手続きを利用して解決を図る手段もあります。
なお、これらの解決手段については以下のページを参考にしてください。
解雇予告手当など解雇を前提とする金品は受け取らない方が良い
以上で説明したように、被差別部落出身者であることや社会的身分を理由にした解雇に対する対処法はいくつかありますが、このような対処をとる場合には、解雇予告手当や退職金など解雇を前提とする金品は受け取らない方が良いかもしれません。
なぜなら、解雇予告手当や退職金などは「解雇(退職)の事実が発生したこと」が前提となって支給されるものだからです。
これらの金品を受け取ってしまうと、その行為自体が「無効な解雇を追認した」ことの一つの理由として採用され、後で解雇の無効を主張することが困難になる場合があります。
ですから、解雇の効力を争う場合には、仮に解雇予告手当や退職金などが支払われたとしてもそれを受け取るのは控えた方が良いでしょう(※参考→解雇されたときにしてはいけない2つの行動とは)。
もちろん、その解雇を受け入れて退職しても構わないというのであれば、それらを受領することは何ら問題ありません。
社会的身分を理由にした解雇の効力を争う場合は早めに弁護士に相談することが大切
なお、このページでは被差別部落出身者であることなど社会的身分を理由に解雇された場合の対処法を解説してきましたが、解雇された場合の個別の対応は、解雇の撤回を求めて復職を求めるのか、それとも解雇の撤回を求めつつも解雇は受け入れる方向で解雇日以降の賃金の支払いを求めるのか、また解雇を争うにしても示談交渉で処理するのか裁判までやるのか、裁判をやるにしても調停や労働審判を使うのか通常訴訟手続を利用するのかによって個別の対応も変わってくる場合があります。
将来的にトラブルの解決を弁護士など専門家に依頼しようと考える場合は、早めに弁護士に相談しておかないとかえってトラブル解決を困難にする場合もありますので、その点は注意するようにしてください。