レズビアンやゲイ、あるいはバイセクシャルの特性(いわゆるLGBTのうちLGBの特性)を持つことを理由に労働者が解雇されるケースがごく稀に見られます。
たとえば、レズビアンの女性労働者が同性のパートナーと同居していることが会社の同僚に知られてそれが会社で噂になり「社内風紀を乱した」という理由で解雇されたり、ゲイの男性労働者が同成婚の申請をした場面を放送したニュースを見た差別主義的思想を持つ経営者がその労働者がゲイであることだけを理由に解雇してしまうようなケースがそれです。
しかし、このような性的特性を持った労働者に対する差別は許容されてよいものではありませんから、そのような理由で解雇された労働者は到底納得できるものではないでしょう。
では、このようなレズビアン・ゲイ・バイセクシャルなど性的特性を持った労働者が、その特性を持つことだけを理由に解雇された場合、その解雇の無効を主張することはできないのでしょうか。
また、実際にこれらの特性を持つ労働者が解雇されてしまった場合、具体的にどのように対処すれば、労働者としての地位や権利を守ることができるのでしょうか。
解雇は「客観的合理的な理由」がない限り無効
レズビアン・ゲイ・バイセクシャルなどの特性を持つ労働者が解雇された場合の対処法を考える前提として、そもそも解雇の有効性が具体的にどのような基準で判断されるのかという点を理解する必要があります。
解雇自体の有効性の判断基準を理解できなければ、レズビアン・ゲイ・バイセクシャルなどの特性を理由になされた解雇が有効なのか無効なのかということすらも判断できないからです。
この点、解雇の要件は労働契約法第16条に規定されていますので、まずは条文を確認してみましょう。
【労働契約法第16条】
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
この条文を見ても分かるように、労働契約法第16条は解雇に「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の2つの要件を求めていますから、その2つの要件のうち一方でも欠けている場合には、その解雇は解雇権を濫用するものとして無効と判断されることになります。
つまり、労働者が解雇された場合であっても、その解雇事由に「客観的合理的な理由」が「ない」のであればその解雇は無効ですし、仮にその「客観的合理的な理由」が「ある」と判断されるケースであっても、その「客観的合理的な理由」に基づいて解雇することに「社会通念上の相当性」が「ない」と判断されれば、その解雇はやはり無効と判断されることになるわけです。
レズビアン・ゲイ・バイセクシャルを理由にした解雇に「客観的合理的な理由」はない
では、これを踏まえたうえでレズビアン・ゲイ・バイセクシャルなどの特性を理由になされた解雇の有効性を検討してみますが、結論から言うとそのような理由に基づいてなされた解雇は絶対的かつ確定的に無効と判断されることになると考えられます。
なぜなら、労働基準法第3条が「信条」による労働者の差別的取扱いを禁止しているからです。
【労働基準法第3条】
使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。
労働基準法第3条はこのように「信条」を理由として労働条件に差別的取り扱いをすることを禁止しており、この「信条」には政治的信条や宗教的信条が含まれると解されていますが、レズビアン・ゲイ・バイセクシャルなどの特性を持った人たちが、どのような性的特性を持った個人を愛し、どのような性的特性を持った個人をパートナーとして選択するかもまた、政治思想に密接に関連する事項でありそれは「信条」に含まれると解さなければなりません。
また、レズビアン・ゲイ・バイセクシャルの特性を持つ個人がどのようなパートナーと共に人生を歩むかは、個人の尊厳にかかわる幸福追求権(憲法13条)の問題であり、また思想良心の自由(憲法19条)にかかわる問題であるとともに、生存権(憲法25条)や勤労の権利(憲法27条)とも密接に関連する基本的人権の問題と言えますから、その自由は最大限に保障されなければなりませんので、これを「信条」から切り離して法的保護から除外することは許されないと考えられます。
【日本国憲法第13条】
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
【日本国憲法第19条】
思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。
【日本国憲法第25条第1項】
すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
【日本国憲法第27条第1項】
すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。
ですから、レズビアン・ゲイ・バイセクシャルなどの特性を理由に解雇することはこの労働基準法第3条の規定から絶対的に禁止されるものと解されますが、そうであればレズビアン・ゲイ・バイセクシャルなどの特性を理由に解雇することに「客観的合理的な理由」は存在しないことになりますので、労働契約法第16条の「客観的合理的な理由」の要件を欠くことになります。
ですから、レズビアン・ゲイ・バイセクシャルなどの特性を理由に行われた解雇は解雇権を濫用するものとして無効と判断されることになると考えられるのです。
レズビアン・ゲイ・バイセクシャルなどの特性を理由に解雇された場合の対処法
以上で説明したようにレズビアン・ゲイ・バイセクシャルなどの特性を理由に行われる解雇は絶対的・確定的に無効と判断されるものと考えられますが、実際にそのような理由で解雇された場合には労働者の側で何らかの対処を取らなければ解雇の手続きが粛々と進行されてしまいますので、その場合の労働者が具体的にどのような対処をとることができるのかという点が問題となります。
(1)解雇理由の証明書の交付を請求しておく
レズビアン・ゲイ・バイセクシャルなどの特性を理由に解雇された場合には、まず使用者に対して解雇理由の証明書の交付を請求し、その証明書の交付を受けておくようにした方が無難です。
なぜなら、使用者の中には当初はレズビアン・ゲイ・バイセクシャルなどの特性を理由に解雇しておきながら、裁判などに発展すると勝手に解雇の理由を変更し、解雇を正当化しようとするケースがあるからです。
先ほど説明したように、レズビアン・ゲイ・バイセクシャルなどの特性を理由に解雇することは労働基準法第3条で絶対的に禁止されていると解されますので、裁判になれば使用者側が敗訴することが容易に想定できます。
そのため、使用者の中には弁護士や行政機関が介入してくるとそれまでの解雇理由を勝手に変更し「あれはレズ(またはゲイ、バイセクシャル)の特性を理由に解雇したわけじゃなくて労働者に○○の行為があったから解雇しただけなんですよ」などと適当な理由をでっちあげて解雇の違法性を回避し裁判等を有利に進めようとすることがあるのです。
しかし、解雇された労働者が解雇理由の証明書の交付を請求すれば法令上使用者はそれを拒否できませんから(労働基準法第22条)、解雇された時点で労働者が解雇理由の証明書の交付を受けておけば、その証明書に記載された「レズ(またはゲイ、バイセクシャル)の特性を有するため解雇した」という内容の解雇理由を確定させることができますから、その後に解雇理由が勝手に変更されることを防ぐことができます。
そのため、レズビアン・ゲイ・バイセクシャルなどの特性を理由に解雇された場合には、まずその解雇された時点で解雇理由証明書の交付を受けておく必要があるのです。
なお、解雇理由証明書の請求に関する詳細は以下のページで詳しく解説していますのでそちらを参考にしてください。
(2)レズビアン・ゲイ・バイセクシャルなどの特性を理由に解雇することが違法である旨記載した通知書を送付してみる
レズビアン・ゲイ・バイセクシャルなどの特性を理由に解雇された場合は、その解雇が労働基準法第3条に抵触し違法であることを記載した通知書を作成し使用者に送付してみるというのも対処法の一つとして有効な場合があります。
前述したように、レズビアン・ゲイ・バイセクシャルなどの特性を理由に解雇することは労働基準法第3条で絶対的に禁止されているものと解されますが、かかる法律を無視して解雇する使用者はそもそも法令遵守意識が低いと思われますので、そのような使用者に口頭で「解雇を撤回しろ」と述べるぐらいで応じてくれることは期待できません。
しかし書面を作成して正式に抗議すれば、将来的な裁判や行政機関の介入を警戒して話し合いや補償に応じてくるケースもありますので、とりあえず書面の形で抗議しておくというのも対処法の一つとして有効な場合があると考えられるのです。
なお、この場合に使用者に送付する通知書の文面は以下のようなもので差し支えないと思います。
甲 株式会社
代表取締役 ○○ ○○ 殿
信条を理由にした解雇の無効確認及び撤回申入書
私は、〇年〇月〇日、貴社から解雇する旨の通知を受け、同月末日をもって貴社を解雇されました。
この解雇に関し、貴社からは、私がバイセクシャルの特性を持ち、同性のパートナーと同居している事実が社内に広まり社内風紀を乱したことが原因となったとの説明がなされております。
しかしながら、労働基準法第3条は信条を理由にした労働者の差別的取り扱いを禁止していますので、私がバイセクシャルの特性を持つことまた同性のパートナーと同居していることを理由にしたこの解雇は明らかに違法です。
したがって、私は、貴社に対し、本件解雇が無効であることを確認するとともに、当該解雇を直ちに撤回するよう、申し入れいたします。
以上
〇年〇月〇日
〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号○○マンション〇号室
○○ ○○ ㊞
※証拠として残しておくため、コピーを取ったうえで配達した記録の残る特定記録郵便などの郵送方法で送付するようにしてください。