レズ・ゲイ・バイセクシャルを理由に解雇された場合の対処法

(3)レズビアン・ゲイ・バイセクシャルなどの特性を理由になされた解雇の事実を労働基準監督署に申告する

レズビアン・ゲイ・バイセクシャルなどの特性を理由に解雇された場合には、その事実を労働基準監督署に申告してみるのも対処法の一つとして有効な場合があります。

前述したように、レズビアン・ゲイ・バイセクシャルなどの特性を理由に解雇することは労働基準法第3条で絶対的に禁止された「信条」を理由とした差別的取扱いに包含されると解されますので、かかる解雇を強行した使用者はその事実をもって労働基準法に違反する状態にあると言えます。

この点、労働基準法第104条は労働基準法に違反する使用者がある場合に労働者から労働基準監督署にその違法行為の事実を申告することを認めていますから、レズビアン・ゲイ・バイセクシャルなどの特性を理由に解雇された労働者がその事実を労働基準監督署に申告することで監督署の監督権限行使を促し、臨検や調査が行われて監督署から勧告や指導がなされれば、使用者がそれに応じてそれまでの態度を改め、解雇の撤回や補償に応じる可能性も期待できます。

そのため、レズビアン・ゲイ・バイセクシャルなどの特性を理由に解雇された場合には、その事実を労働基準法第3条に違反するものとして労働基準監督署に申告してみるのも、対処法の一つとして有効な場合があると考えられるのです。

なお、この場合に労働基準監督署に提出する申告書の記載は以下のようなもので差し支えないと思います。

労働基準法違反に関する申告書

(労働基準法第104条1項に基づく)

○年〇月〇日

○○ 労働基準監督署長 殿

申告者
郵便〒:***-****
住 所:奈良県橿原市○○一丁目〇番〇号○○マンション〇号室
氏 名:解雇 太郎
電 話:080-****-****

違反者
郵便〒:***-****
所在地:奈良県奈良市〇町〇番〇号
名 称:株式会社 甲
代表者:代表取締役 ○○ ○○
電 話:***-****-****

申告者と違反者の関係
入社日:〇年〇月〇日
契 約:期間の定めのない雇用契約(←注1)
役 職:なし
職 種:営業

労働基準法第104条1項に基づく申告
申告者は、違反者における下記労働基準法等に違反する行為につき、適切な調査及び監督権限の行使を求めます。

関係する労働基準法等の条項等
労働基準法3条

違反者が労働基準法等に違反する具体的な事実等
・申告者は〇年〇月〇日、違反者から「ゲイの特性を持ち同性の男性と事実婚状態にあること」を理由に解雇する旨の告知を受け、同月30日付で解雇された。
・この解雇の理由について申告者は同年〇月〇日、直属の上司であった○○になぜゲイの特性を持ち同性のパートナーと事実婚状態にあるだけで解雇されたければならないのか問いただしたところ「同性愛者がうちの会社にいることが社内に広まれば社内風紀を乱すことになると社長から指示があった」との説明を受けた。
・しかしながら、労働基準法第3条は信条を理由にした差別的取り扱いを禁止しているから、労働者がゲイであること、また同性のパートナーと事実婚状態にあることを理由にした当該解雇は同条に違反する。

添付書類等
・解雇(予告)通知書の写し……1通(←注2)
・違反者から交付された解雇理由証明書の写し……1通(←注2)

備考
違反者に本件申告を行ったことが知れると、違反者から不当な圧力(他の労働者が別件で労基署に申告した際、違反者の役員が自宅に押し掛けて恫喝するなどの事例が過去にあった)を受ける恐れがあるため、違反者には本件申告を行ったことを告知しないよう配慮を求める。(←注3)

以上

※注1:契約社員やアルバイトなど期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)の場合には、「期間の定めのある雇用契約」と記載してください。

※注2:労働基準監督署への申告に添付書類の提出は必須ではありませんので添付する書類がない場合は添付しなくても構いません。なお、添付書類の原本は将来的に裁判になった場合に証拠として利用する可能性がありますので必ず「写し」を添付するようにしてください。

※注3:労働基準監督署に違法行為の申告を行った場合、その報復に会社が不当な行為をしてくる場合がありますので、労働基準監督署に申告したこと自体を会社に知られたくない場合は備考の欄に上記のような文章を記載してください。申告したことを会社に知られても構わない場合は備考の欄は「特になし」と記載しても構いません。

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レズビアン・ゲイ・バイセクシャルを理由に解雇された場合の対処法

レズビアン・ゲイ・バイセクシャルなどの特性を理由にした解雇があった場合におけるこれら以外の解決手段としては、各都道府県やその労働委員会が主催する”あっせん”の手続きを利用したり、労働局の紛争解決援助の手続きや調停の手続きを利用したり、弁護士会や司法書士会が主催するADRを利用したり、弁護士(または司法書士)に個別に相談・依頼して裁判や裁判所の調停手続きを利用して解決を図る手段もあります。

なお、これらの解決手段については以下のページを参考にしてください。

労働問題の解決に利用できる7つの相談場所とは

解雇予告手当や退職金など解雇を前提とした金品は受け取らないこと

以上のように、レズビアン・ゲイ・バイセクシャルなどの特性を理由にした解雇は労働基準法第3条で禁止される結果として労働契約法第16条の「客観的合理的な理由」が「ない」と判断されることになり、その解雇は確定的に無効であるとして様々な対処法をとることができます。

もっとも、このようにして解雇の無効を主張してその効力を争う場合には、解雇予告手当や退職金など解雇を前提とする金品を受け取らないように気を付けなければなりません。

解雇予告手当や退職金などは「解雇(退職)の事実が発生したこと」が前提となって支給されるものとなりますから、それを受け取ってしまうと「無効な解雇を追認した」と認定されて後に裁判や示談交渉で解雇の無効を主張することが困難になる場合があるからです。

ですから、解雇の効力を争う場合には、仮に解雇予告手当や退職金などが支払われたとしてもそれを受け取るのは控えた方が良いでしょう(※参考→解雇されたときにしてはいけない2つの行動とは)。

レズビアン・ゲイ・バイセクシャルなどの特性を理由にした解雇の無効を主張するのなら早めに弁護士に相談する方が良い

なお、このページではレズビアン・ゲイ・バイセクシャルなどの特性を理由に解雇された場合の対処法を解説してきましたが、解雇された場合の個別の対応は、解雇の撤回を求めて復職を求めるのか、それとも解雇の撤回を求めつつも解雇は受け入れる方向で解雇日以降の賃金の支払いを求めるのか、また解雇を争うにしても示談交渉で処理するのか裁判までやるのか、裁判をやるにしても調停や労働審判を使うのか通常訴訟手続を利用するのかによって個別の対応も変わってくる場合があります。

将来的にトラブルの解決を弁護士など専門家に依頼しようと考える場合は、早めに弁護士に相談しておかないとかえってトラブル解決を困難にする場合もありますので、その点は注意するようにしてください。