(7)労働者が労働局に紛争解決援助等の申し立てを行ったことを理由にした解雇のケース
労働者と事業主との間で紛争が発生した場合、労働者は労働局に紛争解決援助の申立やあっせん、調停の申請をすることができますが、労働者がこの労働局への申立や申請を行ったことを理由として事業主がその労働者を解雇することは絶対的に禁止されています(個別労働紛争の解決の促進に関する法律第4条3項および同法第5条2項、雇用機会均等法第17条第2項および同法第18条第2項、短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律第24条第2項および同法第25条第2項)。
【個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第4条】
第1項 都道府県労働局長は、個別労働関係紛争(中略)に関し、当該個別労働関係紛争の当事者の双方又は一方からその解決につき援助を求められた場合には、当該個別労働関係紛争の当事者に対し、必要な助言又は指導をすることができる。
第2項 都道府県労働局長は、前項に規定する助言又は指導をするため必要があると認めるときは、広く産業社会の実情に通じ、かつ、労働問題に関し専門的知識を有する者の意見を聴くものとする。
第3項 事業主は、労働者が第1項の援助を求めたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
【個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第5条】
第1項 都道府県労働局長は、前条第1項に規定する個別労働関係紛争(労働者の募集及び採用に関する事項についての紛争を除く。)について、当該個別労働関係紛争の当事者(中略)の双方又は一方からあっせんの申請があった場合において当該個別労働関係紛争の解決のために必要があると認めるときは、紛争調整委員会にあっせんを行わせるものとする。
第2項 前条第3項の規定は、労働者が前項の申請をした場合について準用する。
【雇用機会均等法第17条】
第1項 都道府県労働局長は、前条に規定する紛争に関し、当該紛争の当事者の双方又は一方からその解決につき援助を求められた場合には、当該紛争の当事者に対し、必要な助言、指導又は勧告をすることができる。
第2項 事業主は、労働者が前項の援助を求めたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
【雇用機会均等法第18条】
第1項 都道府県労働局長は、第16条に規定する紛争(労働者の募集及び採用についての紛争を除く。)について、当該紛争の当事者(中略)の双方又は一方から調停の申請があつた場合において当該紛争の解決のために必要があると認めるときは、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第6条第1項の紛争調整委員会(中略)に調停を行わせるものとする。
第2項 前条第2項の規定は、労働者が前項の申請をした場合について準用する。
【短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律第24条】
第1都 道府県労働局長は、前条に規定する紛争に関し、当該紛争の当事者の双方又は一方からその解決につき援助を求められた場合には、当該紛争の当事者に対し、必要な助言、指導又は勧告をすることができる。
第2項 事業主は、短時間労働者が前項の援助を求めたことを理由として、当該短時間労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
【短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律第25条】
第1項 都道府県労働局長は、第23条に規定する紛争について、当該紛争の当事者の双方又は一方から調停の申請があった場合において当該紛争の解決のために必要があると認めるときは、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第6条第1項の紛争調整委員会に調停を行わせるものとする。
第2項 前条第2項の規定は、短時間労働者が前項の申請をした場合について準用する。
ですから、労働者が勤務先とのトラブルに関して労働局に紛争解決援助の申立やあっせん、調停の申請をしたことを理由に解雇された場合には、ただその解雇の事実だけで労働契約法第16条の「客観的合理的な理由」が「ない」と認定されることになり、その解雇は解雇権を濫用するものとして無効と判断されることになります。
(8)労働者が内部告発をしたことを理由にした解雇のケース
公益通報者保護法は、事業者が公益通報者保護法に基づいて内部告発を行った労働者について、その内部告発を行ったことを理由として解雇することを禁止しています(公益通報者保護法第3条)。
【公益通報者保護法第3条】
公益通報者が次の各号に掲げる場合においてそれぞれ当該各号に定める公益通報をしたことを理由として前条第一項第一号に掲げる事業者が行った解雇は、無効とする。
(以下省略)
ですから、公益通報者保護法で保護される態様において内部告発を行った労働者が、その内部告発をしたことを理由として解雇された場合には、その解雇されたという事実だけで労働契約法第16条の「客観的合理的な理由」が「ない」と認定されることになり、その解雇は解雇権を濫用するものとして無効と判断されることになります。
(9)雇用保険について厚生労働大臣への確認の請求をしたことを理由にした解雇のケース
労働者は、自身が雇用保険の被保険者となったこと、また雇用保険の被保険者でなくなったことの確認を厚生労働大臣に対して請求することができますが、この確認の請求をしたことを理由に、事業主がその労働者を解雇することは絶対的に禁止されています(雇用保険法第73条)。
【雇用保険法第73条】
事業主は、労働者が第八条の規定による確認の請求をしたことを理由として、労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
【雇用保険法第8条】
被保険者又は被保険者であつた者は、いつでも、次条の規定による確認を請求することができる。
【雇用保険法第9条第1項】
厚生労働大臣は、第7条の規定による届出若しくは前条の規定による請求により、又は職権で、労働者が被保険者となつたこと又は被保険者でなくなつたことの確認を行うものとする。
ですから、労働者がハローワークに雇用保険の被保険者であること、または被保険者でなくなったことの確認を請求したことを理由に解雇された場合には、その解雇されたという事実だけで労働契約法第16条の「客観的合理的な理由」が「ない」と認定されることになり、その解雇は解雇権を濫用するものとして無効と判断されることになります。
(10)労働者が労働組合に加入しまたは組合活動をしたこと等を理由にした解雇のケース
使用者は、労働者が「労働組合の組合員であること」「労働組合に加入しようとしたこと」「労働組合を結成しようとしたこと」「労働組合の正当な行為をしたこと」を理由として、その労働者を解雇することが絶対的に禁止されています(労働組合法第7条)。
【労働組合法第7条】
使用者は、次の各号に掲げる行為をしてはならない。
第1号 労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、若しくはこれを結成しようとしたこと若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもつて、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること又は労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすること。ただし、労働組合が特定の工場事業場に雇用される労働者の過半数を代表する場合において、その労働者がその労働組合の組合員であることを雇用条件とする労働協約を締結することを妨げるものではない。
(以下省略)
ですから、労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入しようとしたこと、労働組合を新しく作ろうとしたこと、また労働組合の正当な組合活動をしたことを理由として解雇された場合には、その解雇されたという事実だけで労働契約法第16条の「客観的合理的な理由」が「ない」と認定されることになり、その解雇は解雇権を濫用するものとして無効と判断されることになります。
(11)労使協定の過半数代表者または労使委員会の委員になること、なろうとしたこと、その活動をしたことを理由にした解雇のケース
使用者は、労働者が「労使協定の過半数代表者であること」または「労使協定の過半数代表者になろうとしたこと」を理由として、また労働者が「労使委員会の委員であること」「労使委員会の委員になろうとしたこと」または「労使委員会の委員として正当な行為をしたこと」を理由として、その労働者を解雇することが絶対的に禁止されています(労働基準法施行規則第6条の2第3項、労働基準法施行規則第24条の2の4第6項)。
【労働基準法施行規則第6条の2第3項】
使用者は、労働者が過半数代表者であること若しくは過半数代表者になろうとしたこと又は過半数代表者として正当な行為をしたことを理由として不利益な取扱いをしないようにしなければならない。
【労働基準法施行規則第24条の2の4第6項】
使用者は、労働者が労使委員会の委員であること若しくは労使委員会の委員になろうとしたこと又は労使委員会の委員として正当な行為をしたことを理由として不利益な取扱いをしないようにしなければならない。
ですから、労働者が「労使協定の過半数代表者であること」または「労使協定の過半数代表者になろうとしたこと」を理由として、また労働者が「労使委員会の委員であること」「労使委員会の委員になろうとしたこと」または「労使委員会の委員として正当な行為をしたこと」を理由として解雇された場合には、その解雇されたという事実だけで労働契約法第16条の「客観的合理的な理由」が「ない」と認定されることになり、その解雇は解雇権を濫用するものとして無効と判断されることになります。
(1)~(11)以外の解雇が有効になるというわけではない
以上で説明したように、上に挙げた(1)~(11)に該当する解雇については絶対的に禁止されていますので、その解雇の事実だけをもって労働契約法第16条における「客観的合理的な理由」が「ない」と言えるため、無条件にその解雇は「無効」ということになります。
なお、以上の(1)~(11)に挙げた解雇は、あくまでもそれらに該当する解雇が法令上確定的に禁止されていることによって労働契約法第16条の「客観的合理的な理由」が”ない”と判断されるだけにすぎませんので、上記の(1)~(11)に当てはまらない解雇が全て「客観的合理的な理由」が”ある”と判断されるわけではありません。
以上の(1)~(11)に該当しない解雇であっても、その解雇自体に「客観的合理的な理由」や「社会通念上の相当性」が認められない場合には、当然その解雇は解雇権を濫用したものとして無効と判断されることになりますので、「上記の(1)~(11)に当てはまらない解雇」であっても解雇が無効と判断されるケースは当然存在します。
上記は、「(1)~(11)に当てはまるからその解雇は100%無効だ」ということが言えるというだけであって、「(1)~(11)に当てはまらないからその解雇は有効だ」と言えるわけではありませんのでその点を誤解しないようにしてください。