母子の健康診断等を求めた女性労働者が解雇された場合の対処法

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妊産婦の状態にある女性労働者が、自身の健康診断は保健指導、出産した幼児の健康診査・健康指導を受けられるよう会社に求めたり、実際にその健康診査や診断を受けたことを理由として解雇されてしまうケースがごく稀に見られます。

たとえば、妊娠した女性労働者が市区町村から勧誘のあった健康指導や助産婦・保健師の保健指導を受けるために休業を申請したところ解雇されたり、出産した女性労働者が出産した幼児を健康診査に連れて行こうと会社を休んだところ、会社から解雇されてしまうようなケースです。

しかし、妊産婦に必要とされる健康診査(健康診断)や保健指導は、その母子の生存に不可欠だからこそ行われるものでもありますから、このような解雇が認められるのなら、母子の健康が損なわれることで個人の生存すら危ぶまれる結果となってしまいます。

では、このように妊産婦の女性労働者が母子の健康診査(健康診断)、健康指導などを受けるための休業を申請したり、実際にその健康診査や健康指導のために会社を休んだことを理由として解雇されてしまった場合、具体的にどのように対処すればよいのでしょうか。

そのような解雇の無効を主張して労働者の権利や地位を保全することはできるのでしょうか。

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妊産婦の女性労働者が保健指導や健康診査を受けるために休業等を申請または取得したことを理由とした解雇は無効

このように、妊産婦の女性労働者が母子の保健指導や健康診査を受けるために休業等を請求したことを理由に、会社から解雇されてしまうケースがあるわけですが、結論から言うとそのような解雇は無効です。確定的・絶対的に100%無効と言えます。

ではなぜ、そのような解雇が無効になるかと言うと、そのような解雇に「客観的合理的な理由」は存在しないからです。

使用者が労働者を解雇するための要件は労働契約法第16条に規定がありますが、そこでは解雇事由に「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の2つの要件を求めていますので、そもそも解雇が有効に成立するためにはその2つの要件のどちらか一方でも欠けている場合には、その解雇は解雇権を濫用した無効な解雇と判断されることになります。

【労働契約法第16条】

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

つまり、たとえ労働者が解雇された場合であっても、その解雇事由に「客観的合理的な理由」が「ない」と認定できる事実があればその解雇は無効ですし、仮にその「客観的合理的な理由」が「ある」と認定できる場合であっても、その「客観的合理的な理由」に基づいて解雇することが「社会通念上相当」と言えない事情があれば、やはりその解雇は無効と判断されることになるわけです。

これを踏まえたうえで、妊産婦の女性労働者が母子の保健指導や健康診査を受けるために休業等を請求したことを理由に会社から解雇されてしまったケースを検討してみますが、雇用機会均等法とその施行規則は、事業主が妊産婦の女性労働者が母子の保健指導や健康診査を受けるために必要な措置をとることを義務付けており、その措置を求めた労働者に解雇等の不利益取扱いをすることを明確に禁止していますから、仮にそのような措置を求めたりまたその措置を受けた女性労働者がただそれだけを理由として解雇されたならその解雇は明らかに違法な解雇ということになるでしょう。

【雇用機会均等法第9条第3項

事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法(中略)第65条第1項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第2項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

雇用機会均等法施行規則第2条の2

法第9条第3項の厚生労働省令で定める妊娠又は出産に関する事由は、次のとおりとする。
第1号 妊娠したこと。
第2号 出産したこと。
第3号 法第12条若しくは第13条第1項の規定による措置を求め、又はこれらの規定による措置を受けたこと。

雇用機会均等法12条

事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、その雇用する女性労働者が母子保健法(中略)の規定による保健指導又は健康診査を受けるために必要な時間を確保することができるようにしなければならない。

雇用機会均等法第13条第1項

事業主は、その雇用する女性労働者が前条の保健指導又は健康診査に基づく指導事項を守ることができるようにするため、勤務時間の変更、勤務の軽減等必要な措置を講じなければならない。

そうであれば、「違法な解雇」に「客観的合理的な理由」は存在しませんから、妊産婦の女性労働者が母子の保健指導や健康診査を受けるために休業等を請求しまたはそのための休みを取得したことを理由にした解雇に、労働契約法第16条の「客観的合理的な理由」も「ない」と認定されることにならざるを得ません。

このような理屈から、妊産婦の女性労働者が母子の保健指導や健康診査を受けるために休業等を請求しまたはそのための休みを取得したことを理由にした解雇は当然に無効と判断されることになるわけです。

妊産婦の女性労働者が保健指導や健康診査を受けるために休業等を申請または取得したことを理由として解雇された場合の対処法

以上で説明したように、妊産婦の女性労働者が母子の保健指導や健康診査(健康診断)を受けるために休業や遅刻早退などを申請したり、又はそのための休業等を取得したことを理由にされた場合であっても、その解雇された女性労働者はその解雇の無効を主張して撤回を求めたり、解雇日以降に得られるはずであった賃金の支払いを求めることができるということが言えます。

もっとも、実際にそうした解雇がなされてしまえば、解雇された女性労働者の側で何らかの対処をとらなければなりませんので、その場合に取り得る対処法が問題となります。

(1)解雇理由証明書の交付を受けておく

妊産婦の女性労働者が母子の保健指導や健康診査(健康診断)を受けるために休業や早退・遅刻を申請したりそのための休業等をとったことを理由として解雇された場合には、その解雇の告知を受けた時点で会社に解雇理由証明書の交付を請求し、その証明書の交付を受けておくようにしましょう。

解雇理由証明書の交付は労働基準法第22条ですべての使用者に義務付けられており、その証明書には解雇の理由まで具体的に記載することが求められていますので、解雇された労働者が請求する限り、使用者側はその解雇理由まで具体的に記載した解雇理由証明書を交付しなければならない義務が生じます(※仮に会社が解雇理由証明書の交付を拒めばそれ自体が労基法違反となります)。

この点、なぜこの解雇理由証明書の交付を受けておく必要があるかというと、それば後になって会社側が勝手に解雇理由を変更し解雇を正当化するケースがあるからです。

前述したように、女性労働者が母子の保健指導や健康診査(健康診断)を受けるために休業や早退・遅刻を申請したりそのための休業等をとったことを理由として解雇することは雇用機会均等法(及び施行規則)で明確に禁止されていますから、裁判になれば会社側がまず間違いなく負けてしまいます。

そのため悪質な会社では、裁判になると「あの解雇は保健指導や健康診査を請求したことが理由じゃなくてその女性労働者に○○の事実があったからですよ」などと勝手に解雇理由を変更し、裁判を有利に進めようとする会社があるのです。

しかし、解雇された時点で解雇理由証明書の交付を受けておけば、その時点で解雇理由を「保健指導や健康診査を受けるために休業申請をしたこと(またはそれを取得したこと)」などという違法な事実で確定させることができますので、それ以降に解雇理由を会社側で勝手に変更されてしまう不都合を回避することができます。

そのため、解雇された時点で解雇理由証明書の交付を受けておく必要があるのです。

なお、解雇理由証明書の請求に関する詳細は以下のページで詳しく解説していますのでそちらを参考にしてください。

(2)妊産婦の女性労働者が母子の保健指導や健康診査(健康診断)を受けるために休業や早退・遅刻を申請したりそのための休業等をとったことを理由とした解雇が違法である旨記載した通知書を会社に送付してみる

妊産婦の女性労働者が母子の保健指導や健康診査(健康診断)を受けるために休業や早退・遅刻を申請したりそのための休業等をとったことを理由として解雇されてしまった場合には、その解雇が違法である旨記載した通知書を作成し会社に送付してみるというのも対処法の一つとして有効な場合があります。

前述したように、妊産婦の女性労働者が母子の保健指導や健康診査(健康診断)を受けるために休業や早退・遅刻を申請したりそのための休業等をとったことを理由として解雇することは明らかに雇用機会均等法違反となりますが、法律に違反する解雇を行う会社はそもそも法令遵守意識が低いので口頭で「違法な解雇を撤回しろ」と抗議したところでそれが受け入れられる可能性はまずありません。

しかし、通知書を作成して書面という形で正式にその違法性を指摘すれば、将来的な裁判への発展などの警戒して解雇の撤回や示談交渉等に応じてくるケースも考えられますので、とりあえず書面で抗議してみるというのも対処法として有効に機能する場合があると考えられるのです。

なお、この場合に会社に送付する通知書の文面は以下のようなもので差し支えないと思います。

甲 株式会社

代表取締役 ○○ ○○ 殿

保健指導・健康診査等に関する解雇の無効確認及び撤回申入書

私は、〇年〇月〇日、貴社から解雇する旨の通知を受け、同月末日をもって貴社を解雇されました。

この解雇については同年〇月〇日、私が直属の上司であった○○にその理由を尋ねたところ、同氏からは、私が〇年〇月に出産した子を健康診査に連れて行く必要から同年〇月に休業を申請したことが人事部で議題に上がり、他の労働者にも同様の休業を求められると経営活動に支障が出ると判断したことから解雇が決定した旨の説明を受けております。

しかしながら、妊産婦の女性労働者が母子の保健指導や健康診査を受けるために必要な時間を設けること、またそのために必要な措置を講ずることは雇用機会均等法第12条ないし同条13条で事業主に義務付けられており、それを請求または取得したことを理由として解雇その他の不利益取扱いをすることも同法第9条3項で禁止されていますから、当該解雇は明らかに違法です。

したがって、本件違法な解雇に客観的合理的な理由はなく、労働契約法第16条の規定からも解雇権を濫用した無効なものと言えますから、直ちに本件解雇を撤回するよう申し入れいたします。

以上

〇年〇月〇日

〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号○○マンション〇号室

○○ ○○ ㊞

※証拠として残しておくため、コピーを取ったうえで配達した記録の残る特定記録郵便などの郵送方法で送付するようにしてください。

(3)労働局の紛争解決援助または調停の手続きを利用してみる

妊産婦の女性労働者が母子の保健指導や健康診査(健康診断)を受けるために休業や早退・遅刻を申請したりそのための休業等をとったことを理由として解雇された場合には、労働局の紛争解決援助や調停の手続きを利用してみるのも対処法の一つとして効果がある場合があります。

前述したようにこうしいた解雇は雇用機会均等法で禁止されますが、雇用機会均等法に違反する事業主との間で紛争が生じたトラブルについては、労働者から労働局に対して紛争解決援助や調停の手続きの実施を申請することでその解決を図ることが可能です(雇用機会均等法第16条~)。

雇用機会均等法第16条

第5条から第7条まで、第9条、第11条第1項、第11条の2第1項、第12条及び第13条第1項に定める事項についての労働者と事業主との間の紛争については、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(中略)第4条、第5条及び第12条から第19条までの規定は適用せず、次条から第27条までに定めるところによる。

雇用機会均等法第17条

第1項 都道府県労働局長は、前条に規定する紛争に関し、当該紛争の当事者の双方又は一方からその解決につき援助を求められた場合には、当該紛争の当事者に対し、必要な助言、指導又は勧告をすることができる。
第2項 事業主は、労働者が前項の援助を求めたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

雇用機会均等法第18条

第1項 都道府県労働局長は、第16条に規定する紛争(労働者の募集及び採用についての紛争を除く。)について、当該紛争の当事者(中略)の双方又は一方から調停の申請があつた場合において当該紛争の解決のために必要があると認めるときは、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第6条第1項の紛争調整委員会(中略)に調停を行わせるものとする。
第2項 前条第2項の規定は、労働者が前項の申請をした場合について準用する。

この労働局の紛争解決援助や調停の手続に法的な拘束力はありませんから、会社側がその手続きへの参加に応じないケースでは紛争の解決は望めませんが、仮に会社が手続への参加に応じる場合には、労働局から出される紛争解決の為の助言や指導、勧告、あるいは労働局の調停委員会から提示される調停案などに会社が従うことで、その違法な解雇が撤回されたり補償に応じてくることも期待できます。

そのため、とりあえず労働局に紛争解決援助の相談(申請)をしてみるというのも対処法の一つとして有効な場合があると考えられるのです。

なお、労働局の紛争解決援助の手続き等の利用については『労働局の紛争解決援助(助言・指導・あっせん)手続の利用手順』のページで詳しく解説していますのでそちらを参考にしてください(当該ページは個別労働関係紛争の解決に関する法律にかかる労働局の手続き利用を説明していますが、雇用機会均等法における労働局の手続きも同じ要領で利用可能です。細かいところは労働局に相談に行けば教えてもらえますので問題ありません)。

妊産婦の女性労働者が母子の保健指導や健康診査(健康診断)を受けるために休業や早退・遅刻を申請したりそのための休業等をとったことを理由として解雇された場合のその他の対処法

妊産婦の女性労働者が母子の保健指導や健康診査(健康診断)を受けるために休業や早退・遅刻を申請したりそのための休業等をとったことを理由として解雇された場合のこれら以外の対処法としては、各都道府県やその労働委員会が主催するあっせんの手続きを利用したり、弁護士会や司法書士会が主催するADRを利用したり、弁護士(または司法書士)に個別に相談・依頼して裁判や裁判所の調停手続きを利用する方法が考えられます。

なお、これらの解決手段については以下のページを参考にしてください。

労働問題の解決に利用できる7つの相談場所とは

解雇を前提とした金品(解雇予告手当や退職金など)は受け取らない方が良い

なお、妊産婦の女性労働者が母子の保健指導や健康診査(健康診断)を受けるために休業や早退・遅刻を申請したりそのための休業等をとったことを理由として解雇された場合にその無効を主張できるとしても、解雇された時点で会社から交付される解雇予告手当や退職金などは受け取らない方が良いかもしれません。

解雇予告手当や退職金は「退職(解雇)の事実があったこと」を前提として交付されますから、それを受け取ってしまうと「無効な解雇を追認した」と裁判所に判断されて後で解雇の無効を主張するのが事実上困難になるケースがあるからです。

解雇された時点でそのような金品の交付を受けた場合には、それを受け取る前に速やかに弁護士などに相談し、受け取るべきか否か助言を受ける方が良いでしょう(※参考→解雇されたときにしてはいけない2つの行動とは)。

解雇のトラブルはなるべく早めに弁護士に相談した方が良い

なお、解雇された場合の個別の対応は、解雇の撤回を求めて復職を求めるのか、それとも解雇の撤回を求めつつも解雇は受け入れる方向で解雇日以降の賃金の支払いを求めるのか、また解雇を争うにしても示談交渉で処理するのか裁判までやるのか、裁判をやるにしても調停や労働審判を使うのか通常訴訟手続を利用するのかによって個別の対応も変わってくる場合があります。

労働トラブルを自分で対処してしまうとかえってトラブル解決を困難にする場合もありますので、弁護士に依頼してでも権利を実現したいと思う場合は最初から弁護士に相談する方が良いかもしれません。その点は十分に注意して下さい。