トランスジェンダーであることを理由に解雇された場合の対処法

(3)トランスジェンダーの特性を持つことを理由にした解雇について労働局に紛争解決の援助または調停を求める

トランスジェンダー(性同一性障害も含む)の特性を持つことを理由に解雇された場合には、労働局に紛争解決援助の申請をするか、または調停の申込みを行うのも対処法の一つとして有効です。

前述したように、トランスジェンダーの特性を持つことなど性別を理由に解雇することは雇用機会均等法第6条4号で禁止されていますが、同条に違反する事業主の行為によってトラブルが発生した場合には、労働者から労働局にその紛争解決援助の申込みを行ったり、調停の申立を行うことが認められています(雇用機会均等法第16条ないし18条)。

雇用機会均等法第16条

第5条から第7条まで…(中略)…に定める事項についての労働者と事業主との間の紛争については…(中略)…次条から第27条までに定めるところによる。

雇用機会均等法第17条

第1項 都道府県労働局長は、前条に規定する紛争に関し、当該紛争の当事者の双方又は一方からその解決につき援助を求められた場合には、当該紛争の当事者に対し、必要な助言、指導又は勧告をすることができる。
第2項 事業主は、労働者が前項の援助を求めたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

雇用機会均等法第18条

第1項 都道府県労働局長は、第16条に規定する紛争(労働者の募集及び採用についての紛争を除く。)について、当該紛争の当事者(中略)の双方又は一方から調停の申請があつた場合において当該紛争の解決のために必要があると認めるときは、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第6条第1項の紛争調整委員会(中略)に調停を行わせるものとする。
第2項 前条第二項の規定は、労働者が前項の申請をした場合について準用する。

この労働局における紛争解決援助または調停の申込みを行えば、労働局から当該紛争の当事者に対し、必要な助言や指導、勧告をし、または調停をすることができますので、この手続きを利用してトランスジェンダーの特性を持つことを理由になされた解雇の撤回などトラブルの解決が期待できるケースもあります。

そのため、トランスジェンダーの特性を持つことを理由に解雇された場合には、労働局に紛争解決援助や調停の申請をしてみるというのも対処法の一つとして有効な場合があると考えられるのです。

なお、労働局の紛争解決援助の申立または調停の手続きの詳細やその申立方法などについては『労働局の紛争解決援助(助言・指導・あっせん)手続の利用手順』のページで詳しく解説しています。

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トランスジェンダーの特性を持つことを理由に解雇された場合のその他の対処法

トランスジェンダー(性同一性障害も含む)の特性を持つことを理由に解雇された場合におけるこれら以外の解決手段としては、各都道府県やその労働委員会が主催する”あっせん”の手続きを利用したり、弁護士会や司法書士会が主催するADRを利用したり、弁護士(または司法書士)に個別に相談・依頼して裁判や裁判所の調停手続きを利用して解決を図る手段もあります。

なお、これらの解決手段については以下のページを参考にしてください。

労働問題の解決に利用できる7つの相談場所とは

解雇予告手当や退職金など解雇を前提とした金品は受け取らない

以上で説明したように、トランスジェンダーの特性を持つことを理由にした解雇は雇用機会均等法第6条4号で禁止される結果として労働契約法第16条の「客観的合理的な理由」が「ない」と判断されることになりますので、その解雇は確定的かつ絶対的に無効です。

ですから、トランスジェンダーの特性を持つことを理由に解雇された労働者はその無効を主張してその撤回や解雇日以降に得られるはずであった賃金の支払いなどを求めることができますが、このようにして解雇の効力を争う場合には、解雇予告手当や退職金など解雇を前提とする金品を受け取らないように注意してください。

なぜなら、解雇予告手当や退職金など「解雇(退職)の事実が発生したこと」を前提とする金品を受け取ってしまうと、それを受け取ったという事実が「無効な解雇を追認した」と認定されてしまい、後で裁判や示談交渉になった際に解雇の無効を主張することが困難になる場合があるからです(※参考→解雇されたときにしてはいけない2つの行動とは)。

もっとも、解雇を受け入れて退職しても構わないというのであれば解雇予告手当や退職金等の退職を前提とした金品を請求することはもちろん問題ありません。

トランスジェンダーの特性を持つことを理由にした解雇の効力を争う場合は早めに弁護士に相談する方が良い

以上で説明したように、トランスジェンダー(性同一性障害も含む)の特性を持つことを理由にした解雇は絶対的・確定的に無効ですから、そのような理由で解雇されたとしても、権利の回復を実現することは可能です。

もっとも、最終的にトラブルの解決を弁護士など専門家に依頼する場合は、解雇された時点で速やかに依頼する弁護士に相談する方が無難です。

弁護士に相談する前に法律に詳しくない労働者個人で対処してしまうと、かえって事件の解決を難しくしたり、労働者側に不利益になる事実を作ってしまうこともありますので、その点は十分に注意して対処するようにしてください。