出産後まもない時期に女性労働者が解雇された場合の対処法

出産後の女性労働者に対する解雇は有効か無効か、その判断基準』のページでも説明したように、労働基準法第19条第1項が「産後8週間を経過しない女性労働者」に対する解雇を禁止している一方、その但書と2項は「天災事変その他やむを得ない事由によって事業継続が不可能となった場合」において使用者がその「天災事変その他やむを得ない事由」について「労働基準監督署の認定を受けた」場合にはその解雇が違法にならない旨規定しています。

そうすると、そのケースで使用者が「労働基準監督署の認定」を「受けていない」場合には、その解雇は違法と判断されますから、そのような解雇を受けた場合には、その会社は労働基準法違反の状態にあるといえますが、労働基準法第104条は使用者に労働基準法違反がある場合に労働者からその違法行為の申告をすることを認めていますので、「産後8週間を経過しない女性労働者」が解雇された事案で使用者が「天災事変その他やむを得ない事由」について「労働基準監督署の認定を受けていない」ケースでは、解雇された女性労働者がその事実を労働基準監督署に申告し調査や臨検を求めることが可能です。

労働基準法第104条1項

事業場に、この法律又はこの法律に基いて発する命令に違反する事実がある場合においては、労働者は、その事実を行政官庁又は労働基準監督官に申告することができる。

そしてその労働基準監督署への申告によって監督署が監督権限を行使し、調査や臨検を行って是正監督などが出されれば、会社側がそれに従うことで違法な解雇が取り消されたり、示談交渉などに応じてくる可能性も期待できます。

そのため、そのような解雇の事案では、とりあえず労働基準監督署に申告(相談)してみるのも対処法の一つとして有効な場合があると考えられるのです。

なお、その場合に労働基準監督署に提出する申告書の記載は以下のようなもので差し支えないと思います。

労働基準法違反に関する申告書

(労働基準法第104条1項に基づく)

○年〇月〇日

○○ 労働基準監督署長 殿

申告者
郵便〒:***-****
住 所:大分県別府市○○一丁目〇番〇号○○マンション〇号室
氏 名:解雇 太郎
電 話:080-****-****

違反者
郵便〒:***-****
所在地:大分県大分市〇町〇番〇号
名 称:株式会社 甲
代表者:代表取締役 ○○ ○○
電 話:***-****-****

申告者と違反者の関係
入社日:〇年〇月〇日
契 約:期間の定めのない雇用契約(←注1)
役 職:なし
職 種:設計

労働基準法第104条1項に基づく申告
申告者は、違反者における下記労働基準法等に違反する行為につき、適切な調査及び監督権限の行使を求めます。

関係する労働基準法等の条項等
労働基準法第19条1項および2項

違反者が労働基準法等に違反する具体的な事実等
・申告者は〇年〇月〇日、違反者から解雇する旨の告知を受け、同月30日付で解雇されたが、申告者は解雇当時の産後8週間を経過しない産休中にあった。
・この解雇理由について違反者は、同年〇月〇日に西日本各地に甚大な被害を出した台風19号の影響で事業の継続が不可能となったからと説明しているが、違反者は労働基準法第19条第2項で義務付けられている行政官庁における認定を受けていない。
・なお、違反者における同条同項の認定は貴署において行われるはずであるから、その認定の事実がないことは貴署において周知の事実であると思料する。
・したがって、当該解雇は、産後8週間を経過しない休業中の女性労働者への解雇を禁止した労働基準法第19条1項および2項に違反する。

添付書類等
・解雇(予告)通知書の写し……1通(←注2)
・違反者から交付された解雇理由証明書の写し……1通(←注2)

備考
違反者に本件申告を行ったことが知れると、違反者から不当な圧力(他の労働者が別件で労基署に申告した際、違反者の役員が自宅に押し掛けて恫喝するなどの事例が過去にあった)を受ける恐れがあるため、違反者には本件申告を行ったことを告知しないよう配慮を求める。(←注3)

以上

※注1:契約社員やアルバイトなど期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)の場合には、「期間の定めのある雇用契約」と記載してください。

※注2:労働基準監督署への申告に添付書類の提出は必須ではありませんので添付する書類がない場合は添付しなくても構いません。なお、添付書類の原本は将来的に裁判になった場合に証拠として利用する可能性がありますので必ず「写し」を添付するようにしてください。

※注3:労働基準監督署に違法行為の申告を行った場合、その報復に会社が不当な行為をしてくる場合がありますので、労働基準監督署に申告したこと自体を会社に知られたくない場合は備考の欄に上記のような文章を記載してください。申告したことを会社に知られても構わない場合は備考の欄は「特になし」と記載しても構いません。

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産後まもない女性労働者が解雇された場合のその他の対処法

産後まもない女性労働者が解雇された場合において、その解雇の無効を主張できる場合のこれら以外の対処法としては、各都道府県やその労働委員会が主催するあっせんの手続きを利用したり、労働局の主催する紛争解決援助の手続き調停の手続きを利用したり、弁護士会や司法書士会が主催するADRを利用したり、弁護士(または司法書士)に個別に相談・依頼して裁判や裁判所の調停手続きを利用する方法が考えられます。

なお、これらの解決手段については以下のページを参考にしてください。

労働問題の解決に利用できる7つの相談場所とは

解雇を前提とした金品(解雇予告手当や退職金など)は受け取らない方が良い

なお、産後まもない女性労働者が解雇された場合において、その解雇の無効を主張できるケースでこのような対処法がとれるとしても、解雇された時点で会社から交付される解雇予告手当や退職金などは受け取らない方が良いかもしれません。

解雇予告手当や退職金は「退職(解雇)の事実があったこと」を前提として交付されますから、そのような退職(解雇)を前提とした金品を受け取ってしまうと「無効な解雇を追認した」と裁判所に判断されて後で解雇の無効を主張するのが事実上困難になるケースがあるからです。

解雇された時点でそのような金品の交付を受けた場合には、それを受け取る前に速やかに弁護士などに相談し、受け取るべきか否か助言を受ける方が良いでしょう(※参考→解雇されたときにしてはいけない2つの行動とは)。

解雇のトラブルはなるべく早めに弁護士に相談した方が良い

なお、解雇された場合の個別の対応は、解雇の撤回を求めて復職を求めるのか、それとも解雇の撤回を求めつつも解雇は受け入れる方向で解雇日以降の賃金の支払いを求めるのか、また解雇を争うにしても示談交渉で処理するのか裁判までやるのか、裁判をやるにしても調停や労働審判を使うのか通常訴訟手続を利用するのかによって個別の対応も変わってくる場合があります。

労働トラブルを自分で対処してしまうとかえってトラブル解決を困難にする場合もありますので、弁護士に依頼してでも権利を実現したいと思う場合は最初から弁護士に相談する方が良いかもしれません。その点は十分に注意して下さい。