(1)家族の職業・収入・資産など本人の能力や適性にない質問に答える必要はない
この点、まず覚えておいてもらいたいのが、そのような質問に答える必要は”基本的に”ないという点です。
前述したように家族の職業・収入・資産などは常識的に考えて本人の能力や適性に関係がありませんから、そうした質問自体が採用差別(就職差別)の恐れがあり違法性を帯びる性質のものであり、まともな会社であればそうした質問はなされません。
もちろん「家族の職業・収入・資産」などの情報が求職者の採用基準の判断に必要となる「正当な事由」があれば別ですが(職業安定法第5条の4)、常識的に考えて家族の職業・収入・資産を採用基準として聴くことに「正当な事由」があるとは考えられません。
ですから、答えたくなければ答えなくても良いと思いますし、答える必要はないと思います。答えるにしても「家族の職業(または収入、資産)が私の貴社における業務の適性や能力の判断にどのような関係があるのですか」ぐらいは聞いて良いかもしれません。
もっとも、面接官からの質問に答えなかったり、こうした逆質問をしてしまうと内定はもらえないかもしれませんが…。
(2)他の会社を探す
採用面接で親(または兄弟姉妹)の職業や収入、資産などを聞かれた場合には、その会社への就職をあきらめる方が良いかもしれません。
前述したように、そのような質問は採用差別(就職差別)となり得るものであり必然的に違法性を帯びる可能性のあるものですから、そうした質問をすること自体、その会社の法令遵守意識や倫理意識が如実に表れていると言えます。
そうした差別的な会社に就職してもロクなことはないと割り切って他の会社を探すのが無難かもしれません。
(3)労働局の紛争解決援助の手続きを利用してみる
採用面接で親の職業や収入、資産などを聞かれた場合、その事実を労働局に申告(相談)して労働局の紛争解決援助の手続きを利用してみるのも対処法として有効な場合があります。
労働局では、事業主と労働者との間で紛争が発生した場合にその紛争解決の為の必要な助言や指導を行う紛争解決援助の手続きを用意しています。
この紛争解決援助の手続きは、既に雇用関係が生じている労働者と使用者の間のトラブルだけでなく、雇用関係が生じる前の労働者の募集や採用に係る紛争についても対象にしていますので(※ただしあっせんの手続きは除く)、採用面接で親の職業や収入、資産などを聞かれてそれによって紛争が生じた場合にも使えます。
この労働局の紛争解決援助の手続きに法的拘束力はありませんので会社側が手続きに応じない場合は空振りとなりますが、会社側が手続きに応じて労働局から出される助言や指導に従う場合には、親の職業や収入、資産等を理由に不採用を決定した採用選考結果を改めて採用内定を出す可能性もゼロではないかもしれませんので、とりあえず労働局に相談してみると言うのも対処法としては有効な場合があるかもしれません(ただし、そうして入社してもあまり厚遇は受けないかもしれません)。
ただし、親の職業や収入、資産などを聞かれただけでは「紛争」と認めてくれないかもしれませんので事案によっては紛争解決援助の手続きとして受け付けてくれない可能性もありますので注意が必要です。もっとも、親の職業や収入、資産などが理由に採用が受けられないような場合には、紛争として手続きを認めてくれる可能性はありますので、とりあえず労働局に相談してみるのはアリかと思います。
なお、労働局の紛争解決援助の手続きの詳細は『労働局の紛争解決援助(助言・指導・あっせん)手続の利用手順』のページで詳しく解説していますので参考にして下さい。
(4)ハローワークに採用面接で親の職業・収入・資産などを質問された事実を相談してみる
採用面接で親(または兄弟姉妹)の職業や収入、資産等を質問されて納得いかない場合には、ハローワークにその事実を「採用差別(就職差別)」として申告(相談)してみるのも一つの方法として考えられます。
前述したように、労働者を募集する企業等は採用面接の際にその求職者の適性や能力とは全く関係ない個人情報を収集・保管することが基本的に禁じられていますので、仮に採用面接の際に家族の職業や収入、資産などを聴かれたのであれば、それ自体がその企業において職業安定法違反の責任を問われる事案となり得ます(※ただし本人の同意があったり正当な事由があれば別であることは前述したとおりです)。
この点、職業安定法の執行機関はハローワークとなりますから、その事実をハローワークに申告することで厚生労働大臣からの改善命令などを促し、その企業における採用差別(就職差別)を改善させたり、刑事責任が追及される可能性も期待できます。
ですから、採用面接の際に親の職業や収入、資産等を聞かれて納得できない場合には、その事実をとりあえずハローワークに相談してみるというのもやってみる価値はあるといえます。
ただし、これをやっても自分に慰謝料が入ったり不採用が採用になるというものでもありませんので、その点は留意する必要があります。
(5)その他の対処法
これら以外の対処法としては、各都道府県やその労働委員会が主催するあっせんの手続きを利用したり、弁護士会や司法書士会が主催するADRを利用したり、弁護士(または司法書士)に個別に相談・依頼して裁判や裁判所の調停手続きを利用する方法が考えられます。
なお、これらの解決手段については以下のページを参考にしてください。
ただし、このようなケースで裁判などしても慰謝料などの請求は難しいと思いますのである程度の割り切りは必要かもしれません。