採用選考で作文を書かせる会社が採用差別につながるケースとは

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採用選考の過程で応募者に作文を書かせる企業があります。

たとえば履歴書などの応募書類を提出させる際に特定のテーマを指定して数千字程度の作文の添付を求めたり、採用面接の場で特定のテーマで作文を書かせるような会社です。

しかし、作文を書くには文章作成能力が必要になりますが、必ずしもすべての職種に文章作成能力が必要であるとも思われませんので、はたしてそれがその企業の業務における適性や能力を判断するために必要不可欠であるとは思えないような気もします。

また、作文のテーマによっては個人の思想や信条などにつながるものもあるでしょうから、そうしたテーマが指定されれば、その作文を求められる応募者に不当な心理的圧迫を及ぼしてしまうような気もします。

では、このように採用選考の過程で作文の記述を求めることに採用差別(就職差別)などの問題はないのでしょうか。

また、問題があるとすれば、具体的にどのようなケースで問題となりうるのでしょうか。

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作文が採用差別(就職差別)につながる可能性

このように、労働者を募集する企業が採用過程において作文の記述を求めるケースがあるわけですが、結論から言えば作文は採用差別(就職差別)につながる可能性を指摘できます。

なぜなら、作文はそのテーマによっては応募者の思想・信条に関係するだけでなく、本人の適性や能力とは関係がない本人に責任のない事項による採否の判断につながるおそれがあるからです。

日本が自由主義経済体制を採用していることは憲法の職業選択の自由(憲法22条)や財産権の保障(憲法29条)などの規定から明らかですが、そこから「契約自由の原則」が導かれることも自明のことと考えられていますので、その「契約自由の原則」からは企業における「採用の自由」が導かれることも当然の帰結だと考えられています。

つまり労働者を募集する企業には「採用の自由」が認められていますので、企業がどのような労働者を募集し採用するかという点はもっぱらその企業の自由な選択に委ねられるのが基本となるわけです。

もっとも、その「採用の自由」も無制約に認められるわけではありません。憲法は国民の基本的人権を保障していますのでそれを合理的な理由なく制限してまで「採用の自由」を許容することはできないからです。

憲法は職業選択の自由(憲法22条)や法の下の平等(憲法14条)、「思想良心の自由(憲法19条)」などの人権も保障していますので、企業における「採用の自由」も、それら基本的人権の保障という「公共の福祉(憲法12条)」の範囲でのみ許されるものにすぎず、国民の「就職の機会均等」が損なわれる態様の採用活動は許されないわけです。

ところで、企業が採用選考の過程で作文の記述を求める場合、その作文のテーマが業務に直結するものでその労働者の業務における適性や能力を判断するために必要不可欠である場合には、それも正当な採用活動として許されると考えることも可能でしょう。

しかし、そのテーマが業務と関係しないものである場合には、本人の適性や能力とは関係がない事項で採否を判断することにつながりますから、そこに差別が生じる可能性があります。

また、そのテーマが個人の思想や信条に関係するものである場合には、特定の思想や信条を持つ応募者だけが先行からふるい落とされることになりかねず、そこに差別が生じることも指摘できるでしょう。

そもそも採用選考の場で本来自由であるはずの個人の思想や信条を作文に書かせること自体、その応募者の思想や信条に介入することにつながりかねず、思想良心の自由を侵害する点も問題です。

このように、採用選考で作文の記述を求めることは、本来自由であるはずの応募者の思想信条に介入し、それによって差別的な採否の判断をすることにつながることもありますから、その作文のテーマによって十分に採用差別(就職差別)につながる問題を提起できるものと考えられます。

企業側に差別の意図がなかったとしても、作文のテーマによっては採用差別(就職差別)につながる恐れを生じさせる

この点、企業側に作文を書かせることに差別の意図がなかった場合には採用差別(就職差別)につながらないのではないかという指摘もあるかもしれませんが、企業側の意図に関係なく差別の懸念は生じます。

仮に企業側に差別の意図がなかったとしても、テーマによってはそれを書かせることで企業側に予断や偏見が生じうるからです。

仮に作文のテーマとして家族や思想信条などに関する事項を指定し、応募者がそれに関する作文を作成して提出すれば、面接官や人事担当者にはその作文に記述された家族や個人の思想信条などに関する内容が少なからぬ影響を与えることになりますので、その作文の内容を完全に排除して採否の判断をすることは事実上困難になってしまいます。

いったんその作文を見てしまえば、そこに記述された内容が予断や偏見となって人事担当者の意識に入り込むことは避けられませんので、当人に差別の意図がなくてもそれを完全に排除することはできなくなってしまうでしょう。

また、仮に作文のテーマが家族や個人の信条や思想に関係するものであった場合において、その応募者が家族関係に何らかの問題を抱えていたり、社会的に肯定的な評価を受けていない思想信条を持つ場合には、それを第三者に知られること自体が大きな心理的ストレスとなる結果、その応募者だけが採用過程で不利な条件に陥ることになり、他の応募者との「就職の機会均等」が損なわれる可能性も生じてしまいます。

このように、仮に企業側に差別の意図がなかったとしても、そのテーマによっては作文を書かせること自体が応募者の「就職の機会均等」を損なうことにつながりますから、採用差別(就職差別)の可能性は否定できないということになります。

具体的にどのようなテーマが採用差別(就職差別)につながるか

このように、採用選考で実施される作文はそのテーマによっては採用差別(就職差別)の問題を惹起させますが、具体的にはどのようなテーマがそれにあたるのでしょうか。

ア)応募者の思想・信条にかかわるテーマ

応募者個人の思想や信条に関するテーマの作文は採用差別(就職差別)につながるといっても差し支えないと思われます。

たとえば政治思想に関係するような「○○政権について」「○○党の政策について」「尊敬する人物」とか、宗教や信仰に関するような「あなたにとっての宗教」とか、人生観にかかわるような「あなたにとって結婚とは」「安楽死の是非」などは、採用差別(就職差別)の指摘ができるものと考えられます。

イ)応募者の家族に関するテーマ

応募者の家族に関するテーマの作文も採用差別(就職差別)につながる可能性を指摘できます。

たとえば「私の両親」「家族の尊敬できるところ」などは、本人の適性や能力とは関係のない「親」の要素によって採否が決定されることにつながるため採用差別(就職差別)につながるといえるでしょう。

ウ)応募者の生い立ちなどに関するテーマ

応募者の生い立ちなどに関するテーマも採用差別(就職差別)につながるおそれがあります。

たとえば「私の生い立ち」などのテーマでは、家庭環境や人種や民族的背景、被差別部落の出身など、本人の適性や能力とは関係のない要素で採否が判断される可能性が生じるため採用差別(就職差別)につながると言えます。

エ)人種・民族性などに関するテーマ

人種や民族性など個人のアイデンティティに関するテーマも本人に責任のない事項によって採否を判断することになりますので採用差別(就職差別)につながると言えます。

オ)その他のテーマ

以上はあくまでも私(このサイト管理人)の個人的な認識ですので、以上に限らず作文のテーマが本人の適性や能力、本人の責任の範囲に属さない事項に関するものであったり、本来的に本人の事由に委ねられるものである場合には採用差別(就職差別)につながるおそれを指摘できると思います。

実際の採用選考の場で作文の記述を求められた場合には、それが採用差別(就職差別)につながるおそれのあるものでないか十分に確認して、不当な採用差別(就職差別)を無批判的に遂行するブラック企業に入社しないよう気を付ける必要があります。

厚生労働省の指針でもテーマによっては就職差別につながるおそれがあると注意喚起されている

なお、採用選考における作文のテーマによって採用差別(就職差別)につながるおそれがあることは厚生労働省の指針でも指摘されていますので念のため引用しておきましょう。

◆ 作文は、与えられたテーマを的確に理解してそれに対する自分の考えを整理して文章で他人に伝える能力などを見たり、誤字や脱字は多くないかなどを見ることで、求める職種の職務遂行上必要な適正・能力(知識)を判断するために実施するものです。

◆ このようなことから、応募者に書かせることが、求人職種の職務内容からみて、必要な知識や適性を判定する方法として適当かどうか(安易に書かせていないかどうか)、検討する必要があります。

◆ そのうえで、作文を書かせることが適当であると考えられる場合は、作文のテーマが適当かどうか検討する必要があります。
つまり、本人に責任のない事項や、本来自由であるべき事項(思想・信条にかかわること)を直接・間接的に書かせていないか十分留意する必要があります。
例えば、『私の家庭』『私の生いたち』など本人の家庭環境に係るテーマや『尊敬する人物』など本人の思想・信条にかかわるテーマは、その人の家族状況や思想・信条を把握し、それによって就職差別につながるおそれがあります。

※出典:公正な採用選考を目指して|厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/www2/topics/topics/saiyo/dl/saiyo-01.pdfより引用