妊娠中又は産後1年以内に残業や休日出勤を拒否して解雇された場合

なお、この場合に会社に送付する通知書の文面は以下のようなもので差し支えないと思います。

甲 株式会社

代表取締役 ○○ ○○ 殿

残業しない旨請求したことを理由とした解雇の無効確認及び撤回申入書

私は、〇年〇月〇日、貴社から解雇する旨の通知を受け、同月末日をもって貴社を解雇されました。

この解雇については同年〇月〇日、私が直属の上司であった○○にその理由を尋ねたところ、同氏からは、私が〇年〇月に上司から残業を命じられた際、妊娠中であることを理由にそれができない旨申し入れて残業を拒否したことが人事部で議題に上がり、他の労働者にも同様の要求が広がると経営活動に支障が出ると判断したことから解雇が決定した旨の説明を受けております。

しかしながら、労働基準法第66条は妊産婦(妊娠中又は産後1年を経過しない女性※労基法第64条の3第1項参照)が時間外労働をしない旨請求した場合には、使用者はその女性労働者に時間外労働をさせてはならないことを規定しており、また雇用機会均等法第9条第3項および同法施行規則第2条の2第7号はその時間外労働をしないことを請求しまたはその時間外労働をしなかったことを理由として解雇その他の不利益取扱いをすることを禁止されていますから、当該解雇は明らかに違法です。

したがって、本件違法な解雇に客観的合理的な理由はなく、労働契約法第16条の規定からも解雇権を濫用した無効なものと言えますから、直ちに本件解雇を撤回するよう申し入れいたします。

以上

〇年〇月〇日

〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号○○マンション〇号室

○○ ○○ ㊞

※証拠として残しておくため、コピーを取ったうえで配達した記録の残る特定記録郵便などの郵送方法で送付するようにしてください。

※休日出勤または深夜勤務を拒否して解雇された場合は、上記の「残業」や「時間外労働」の部分を「休日出勤」や「深夜勤務」等に適宜置き換えてください。

(3)労働局の紛争解決援助または調停の手続きを利用する

妊娠中又は産後1年を経過しない女性労働者が残業や休日出勤あるいは深夜勤務をしない旨請求したことまたはその勤務をしなかったことを理由に解雇されてしまった場合には労働局の主催する紛争解決援助や調停の手続きを利用してみるというのも対処法として有効な場合があります。

前述したように、妊娠中又は産後1年を経過しない女性労働者が残業や休日出勤あるいは深夜勤務をしない旨請求したことを理由とした解雇は雇用機会均等法で明確に禁止されていますが、雇用機会均等法上のトラブルが労使間で発生した場合には当事者の一方から労働局に申請することでトラブル解決の為の紛争解決援助の手続きや調停の手続きを利用することが認められています。

雇用機会均等法第16条

第5条から第7条まで、第9条、第11条第1項、第11条の2第1項、第12条及び第13条第1項に定める事項についての労働者と事業主との間の紛争については、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(中略)第4条、第5条及び第12条から第19条までの規定は適用せず、次条から第27条までに定めるところによる。

雇用機会均等法第17条

第1項 都道府県労働局長は、前条に規定する紛争に関し、当該紛争の当事者の双方又は一方からその解決につき援助を求められた場合には、当該紛争の当事者に対し、必要な助言、指導又は勧告をすることができる。
第2項 事業主は、労働者が前項の援助を求めたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

雇用機会均等法第18条

第1項 都道府県労働局長は、第16条に規定する紛争(労働者の募集及び採用についての紛争を除く。)について、当該紛争の当事者(中略)の双方又は一方から調停の申請があつた場合において当該紛争の解決のために必要があると認めるときは、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第6条第1項の紛争調整委員会(中略)に調停を行わせるものとする。
第2項 前条第2項の規定は、労働者が前項の申請をした場合について準用する。

この紛争解決援助の手続きや調停の手続きに法的な強制力はありませんので、あくまでも会社側がその手続きへの参加に同意することが条件となりますが、仮に労働者がその違法な解雇について労働局に紛争解決援助の手続きや調停の手続きを申し込み、労働局から出される指導や勧告あるいは調停案に会社が従う場合には、その違法な解雇が撤回されたり金銭的な示談ん交渉に応じる可能性も期待できます。

そのため、このようなケースではとりあえず労働局に相談し、紛争解決援助の手続きや調停の手続きを利用できないか検討してみるのも対処法の一つとして有効な場合があると考えられるのです。

なお、労働局の紛争解決援助の手続き等の利用については『労働局の紛争解決援助(助言・指導・あっせん)手続の利用手順』のページで詳しく解説していますのでそちらを参考にしてください(当該ページは個別労働関係紛争の解決に関する法律にかかる労働局の手続き利用を説明していますが、雇用機会均等法における労働局の手続きも同じ要領で利用可能です。細かいところは労働局に相談に行けば教えてもらえますので問題ありません)。

広告

妊娠中又は産後1年を経過しない女性労働者が残業や休日出勤あるいは深夜勤務を拒否して解雇された場合のその他の対処法

妊娠中又は産後1年を経過しない女性労働者が残業や休日出勤あるいは深夜勤務を拒否したことまたはその時間外労働をしなかったことを理由として解雇された場合のこれら以外の対処法としては、各都道府県やその労働委員会が主催するあっせんの手続きを利用したり、弁護士会や司法書士会が主催するADRを利用したり、弁護士(または司法書士)に個別に相談・依頼して裁判や裁判所の調停手続きを利用する方法が考えられます。

なお、これらの解決手段については以下のページを参考にしてください。

労働問題の解決に利用できる7つの相談場所とは

解雇を前提とした金品(解雇予告手当や退職金など)は受け取らない方が良い

なお、以上のような方法で解雇の無効を主張できるとしても、解雇された時点で会社から交付される解雇予告手当や退職金などは受け取らない方が良いかもしれません。

解雇予告手当や退職金は「退職(解雇)の事実があったこと」を前提として交付されますから、それを受け取ってしまうと「無効な解雇を追認した」と裁判所に判断されて後で解雇の無効を主張するのが事実上困難になるケースがあるからです。

解雇された時点でそのような金品の交付を受けた場合には、それを受け取る前に速やかに弁護士などに相談し、受け取るべきか否か助言を受ける方が良いでしょう(※参考→解雇されたときにしてはいけない2つの行動とは)。

解雇のトラブルはなるべく早めに弁護士に相談した方が良い

なお、解雇された場合の個別の対応は、解雇の撤回を求めて復職を求めるのか、それとも解雇の撤回を求めつつも解雇は受け入れる方向で解雇日以降の賃金の支払いを求めるのか、また解雇を争うにしても示談交渉で処理するのか裁判までやるのか、裁判をやるにしても調停や労働審判を使うのか通常訴訟手続を利用するのかによって個別の対応も変わってくる場合があります。

労働トラブルを自分で対処してしまうとかえってトラブル解決を困難にする場合もありますので、弁護士に依頼してでも権利を実現したいと思う場合は最初から弁護士に相談する方が良いかもしれません。その点は十分に注意して下さい。