つわりがひどいのに軽い業務に変えてくれない場合の対処法

妊娠した女性労働者が勤務中に「つわり」がひどくなり業務の遂行に支障が生じることがあります。

そのような場合、体調不良を理由に他の軽易な作業に担当業務を変更してくれるよう上司に頼むこともあると思いますが、「つわりぐらい我慢しろ」「みんな頑張ってるのにお前だけ特別扱いできるか」などと言われて他の軽い業務への転換を認めてくれないケースも多いかもしれません。

しかし、妊娠した女性労働者に体調を我慢させて無理な就労を強制すれば、本人だけでなく生まれてくる子どもにまで健康上の危険を生じさせる可能性もありますから、そのような会社の対応は到底許容されるべきではないとも思えます。

では、このように「つわり」がひどいなど体調不良で他の軽易な作業への転換を求めた妊娠中の女性労働者を無視して無理に従来業務に従事させる会社の姿勢は許されるものなのでしょうか。

また、妊娠中の女性労働者が他の軽易な作業への変更を求めて拒否された場合、具体的にどのように対処すればよいのでしょうか。

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つわり等で他の軽易な業務への転換を求められた会社は、それを拒否できない

このように、妊娠中の女性労働者がつわり等で従前の業務に就くことができないため他の軽易な業務に転換するよう申し出たにもかかわらず、それが無視されてしまうケースがあるわけですが、結論から言うとこのような会社の取り扱いは違法です。

なぜなら、労働基準法第65条がそうした場合の業務の転換をすべての使用者に義務付けているからです。

労働基準法第65条第3項

使用者は、妊娠中の女性が請求した場合においては、他の軽易な業務に転換させなければならない。

労働基準法第65条第3項はこのように、妊娠中の女性労働者が請求した場合は他の軽易な業務に転換させなければ「ならない」としていますから、妊娠中の女性労働者から他の軽易な作業への転換を求められた使用者にそれを拒否できる権利はありません。

拒否すればそれ自体が労働基準法違反となりますから、仮に妊娠中の女性労働者から「つわりがひどいから座ったままできる事務作業に変えてください」などと言われれば、それを拒否することはできないわけです。

ですから、妊娠中の女性労働者が「つわりがきつい」と思ったならいつでも自由に他の軽易な作業への転換を求めて構いませんし、仮に上司や会社がそれを認めてくれないというのなら、その違法性を指摘して会社側の責任を問うこともできるということになります。

妊娠中の女性労働者が他の軽易な作業への転換を求めて会社から拒否された場合の対処法

以上で説明したように、妊娠中の女性労働者が他の軽易な業務への転換を求めた場合、使用者はそれを拒否できませんから、仮に他の業務への転換を求めた妊娠中の女性労働者が他の業務に転換してもらえない場合には、会社に対してその転換を認めるよう重ねて求めたり、その転換を認めない会社の違法性を指摘して損害賠償等の請求をすることも可能になるものと考えられます。

もっとも、実際に他の軽易な業務への転換が認められなかった場合には、女性労働者の側で何らかの対処を取らなければなりませんので、その場合に取り得る対処法が問題となります。

(1)他の軽易な業務への転換を認めないことが違法である旨記載した通知書を作成して会社に送付してみる

妊娠中の女性労働者がつわり等がひどいことを理由に他の軽易な業務への転換を求めたにもかかわらず上司や会社から拒否された場合、それが違法である旨記載した通知書を作成して会社に送付してみるというのも対処法の一つとして有効な場合があります。

前述したように、労働基準法第65条第3項は妊娠した女性労働者から他の軽易な業務への転換を求められた場合にその転換を認めなければならない義務を明示していますから、会社がそれを拒否したというのであればそれ自体が労働基準法違反となりますが、労基法違反を犯す会社はそもそも法令遵守意識が低いと思われますのでそのような会社にいくら口頭で「違法な取り扱いをするな」と抗議してもそれが受け入れられる期待は持てません。

しかし、文書の形で正式にその違法性を指摘すれば、将来的な裁判への発展や行政官庁の介入などを警戒してそれまでの姿勢を改め、他の軽易な業務への転換を認めたするケースもあると思われますので、とりあえず書面で抗議してみるというのも対処法として有効に機能するケースがあると考えられるのです。

なお、この場合に会社に送付する通知書の文面は以下のようなもので差し支えないと思います。

株式会社 甲

代表取締役 ○○ ○○ 殿

軽易な作業への転換に関する申入書

私は、〇年〇月から貴社の○○工場において○○等の製造にかかる検品作業に従事しておりますが、〇年〇月〇日、つわりがひどかったため、直属の上司である貴社の○○課長に対し、事務室での事務作業など他の軽易な業務への転換を認めるよう申し入れいたしましたが、同氏は「つわりぐらい我慢しろ」「みんな頑張ってるのにお前だけ特別扱いできるか」と言うのみで、一向に他の軽易な業務への転換を認めません。

しかしながら、労働基準法第65条第3条は使用者に妊娠した女性労働者が請求した場合に他の軽易な業務に転換しなければならない義務があることを規定していますから、貴社のかかる取り扱いは明らかに違法です。

したがって、貴社は明らかに労働基準法第65条第3項に違反する状態にありますので、すみやかに私の担当業務を他の軽易な業務に転換するよう、改めて申し入れいたします。

以上

〇年〇月〇日

〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号○○マンション〇号室

○○ ○○ ㊞

※証拠として残しておくため、コピーを取ったうえで配達した記録の残る特定記録郵便などの郵送方法で送付するようにしてください。

(2)他の軽易な業務に転換させないことを労働基準法違反として労働基準監督署に申告(相談)する

妊娠した女性労働者がつわり等で他の軽易な業務への転換を求めたにもかかわらずそれが受け入れられない場合、その事実を労働基準法違反に申告してみるというのも対処法の一つとして有効な場合があります。

前述したように、妊娠した女性労働者が他の軽易な業務への転換を求めた場合はその転換を認めなければならないことが労働基準法第65条第3項ですべての使用者に義務付けられていますので、使用者がそれを無視して他の業務への転換を認めないというのであればそれ自体が労働基準法違反となります。

この点、労働基準法第104条は使用者に労働基準法違反がある場合に労働者から労働基準監督署に対してその違法行為を申告することを認めていますから、このように使用者が労働基準法第65条第3項に違反して他の軽易な業務への転換を認めないケースでも当然、その事実を労働基準監督署に申告することで監督署の監督権限行使を促すことが可能となります。

【労働基準法第104条1項】

事業場に、この法律又はこの法律に基いて発する命令に違反する事実がある場合においては、労働者は、その事実を行政官庁又は労働基準監督官に申告することができる。

そして仮に妊娠した女性労働者がその申告を行い、労働基準監督署から臨検や調査が行われてそれに会社が応じる場合には、それまでの違法な取り扱いが改善されて他の軽易な業務への転換が認められる可能性も期待できます。

そのため、このようなケースではとりあえず労働基準監督署に相談(申告)してみるというのも対処法として有効に機能する場合があると考えられるのです。

なお、この場合に労働基準監督署に提出する申告書の記載例は以下のようなもので差し支えないと思います。

労働基準法違反に関する申告書

(労働基準法第104条1項に基づく)

○年〇月〇日

○○ 労働基準監督署長 殿

申告者
郵便〒:***-****
住 所:埼玉県川口市○○一丁目〇番〇号○○マンション〇号室
氏 名:悪阻 吐代
電 話:080-****-****

違反者
郵便〒:***-****
所在地:埼玉県さいたま市〇区〇町〇番〇号
名 称:株式会社 甲
代表者:代表取締役 ○○ ○○
電 話:***-****-****

申告者と違反者の関係
入社日:〇年〇月〇日
契 約:期間の定めのない雇用契約(←注1)
役 職:なし
職 種:作業員

労働基準法第104条1項に基づく申告
申告者は、違反者における下記労働基準法等に違反する行為につき、適切な調査及び監督権限の行使を求めます。

関係する労働基準法等の条項等
労働基準法第65条第3項

違反者が労働基準法等に違反する具体的な事実等
・申告者は〇年〇月〇日、つわりがひどく体調が思わしくなかったため直属の上司である○○氏(課長)に対し、従事している工場の組み立て作業から事務所内の事務作業など他の軽易な業務に転換してくれるよう申し入れた。
・しかし同氏は、この申入れに対して、「つわりぐらい我慢しろ」「みんな頑張ってるのにお前だけ特別扱いできるか」と言うのみで一切、他の軽易な業務への転換を認めなかった。
・その後も数回、同様の申入れを行ったが違反者はまったく他の軽易な業務への転換を認めない。
・このような違反者の措置は、妊娠した女性労働者が他の軽易な業務への転換を請求した場合にその転換を義務付けた労働基準法第65条第3項に違反する。

添付書類等
・労基法第65条3項に違反する点を指摘した通知書の写し……1通(←注2)

備考
違反者に本件申告を行ったことが知れると、違反者から不当な圧力(他の労働者が別件で労基署に申告した際、違反者の役員が自宅に押し掛けて恫喝するなどの事例が過去にあった)を受ける恐れがあるため、違反者には本件申告を行ったことを告知しないよう配慮を求める。(←注3)

以上

※注1:契約社員やアルバイトなど期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)の場合には、「期間の定めのある雇用契約」と記載してください。

※注2:労働基準監督署への申告に添付書類の提出は必須ではありませんので添付する書類がない場合は添付しなくても構いません。なお、添付書類の原本は将来的に裁判になった場合に証拠として利用する可能性がありますので必ず「写し」を添付するようにしてください。

※注3:労働基準監督署に違法行為の申告を行った場合、その報復に会社が不当な行為をしてくる場合がありますので、労働基準監督署に申告したこと自体を会社に知られたくない場合は備考の欄に上記のような文章を記載してください。申告したことを会社に知られても構わない場合は備考の欄は「特になし」と記載しても構いません。

他の軽易な業務への転換を認めてくれない場合のその他の対処法

妊娠した女性労働者が他の軽易な業務への業務への変更を求めたにもかかわらずそれが認められない場合におけるこれら以外の解決手段としては、各都道府県や労働委員会が主催する”あっせん”の手続きを利用したり、労働局が主催する紛争解決援助やあっせんまたは調停の手続きを利用したり、弁護士会や司法書士会が主催するADRを利用したり、弁護士(または司法書士)に個別に相談・依頼して裁判や裁判所の調停手続きを利用して解決を図る手段もあります。

なお、これらの解決手段については以下のページを参考にしてください。

労働問題の解決に利用できる7つの相談場所とは

他の軽易な業務への転換を申し入れて解雇など不当な報復を受けた場合

なお、以上で説明したように、妊娠した女性労働者が他の軽易な業務への転換を求めた場合に使用者側がそれを拒否することは許されませんが、悪質な会社ではその転換を求めた女性労働者に対して報復に解雇や減給・降格など不利益な処分をしてくるケースも稀に見られます。

そのような報復を受けた場合の対処法については以下のページを参考にしてください。