勤務先の会社(※個人事業主も含む)が「会社の責めに帰すべき事由」によって休業した場合、言い換えれば「会社側の都合で休業」した場合、労働者は民法第536条2項の規定に基づいてその休業期間中の「賃金(給料)の全額」の支払いを会社に求めることができることは以下のページで詳しく解説してきました。
- 会社都合の休業で会社に請求できる給料の金額はいくらか
- 会社都合の休業では休業手当はいくら支払ってもらえるのか
- 生産調整で会社が休業しても給料や休業手当はもらえるか
- 暇だから休んで…と言われたパートは給料や休業手当をもらえるか
しかし、法律の規定でそのように休業期間中の「賃金の全額」の支払いが会社に義務付けられるとはいっても全ての会社が法令を遵守し法規範に従うわけではありませんから、中にはそのような法律上の解釈を無視して「賃金の全額」の支払いに応じない会社も存在するのが現実です。
では、実際に勤務先の会社(個人事業主も含む)が会社側の都合で休業したにもかかわらずその休業期間中の「賃金の全額」の支払いに応じない場合、労働者(※アルバイトやパートなども含む)は具体的にどのように対処すればよいのでしょうか。
会社都合における休業期間中の「給料の全額」を支払うよう書面で請求する
会社が「会社の責めに帰すべき事由」によって休業した場合、言い換えれば会社の都合で休業した場合において、その会社が休業期間中の「給料の全額」を支払わない場合には、まずその会社に民法第536条2項の規定に基づいて「賃金の全額」の支払い義務があることを記載した文書を作成し「書面」の形で通知してみるというのも一つの解決方法として有効です。
先に挙げたページでも詳しく解説しているように、会社がその「責めに帰すべき事由」で休業した場合には、労働者は民法第536条2項の規定を根拠にしてその休業期間中の「賃金の全額」の支払いを求めることができるのが基本ですが、法律でそのように解釈できるにもかかわらずその「賃金の全額」の支払いを拒んでいるような法令順守意識の低い会社に口頭で抗議したとしても、その抗議を受け入れて支払ってもらえる可能性は低いのが現実でしょう。
しかし、書面という形で改めて請求すれば、会社側も将来的な裁判への発展や労働基準監督署などへの相談を警戒して「賃金の全額」の支払いに応じる可能性も期待できます。
ですから、文書を作成して会社に通知してみるというのもやってみる価値はあると言えるでしょう。
なお、この場合に会社に送付する通知書の文面は以下のようなもので差し支えないと思います。
株式会社 ○○
代表取締役 ○○ ○○ 殿
未払い分の賃金に関する請求書
私は、〇年〇月〇日から同年〇月〇日まで期間、貴社が休業を命じたことにより同期間の就労を免除されましたが、当該休業期間中の賃金の支払いを受けておりません。
この休業は、貴社の都合によって決定されたものであり、貴社の責めに帰すべき事由によって行われたものと認識しておりますが、使用者がその責めに帰すべき事由によって休業した場合、労働者はその休業期間における賃金請求権を失うことはありません(民法第536条2項参照)。
したがって、貴社は支払い義務のある当該休業期間中における賃金の支払いを遅滞していることになりますから、直ちに当該未払い分の賃金の全額を支払うよう請求いたします。
以上
〇年〇月〇日
〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号○○マンション〇号室
○○ ○○ ㊞
会社都合による休業で支払われない賃金があることを労働基準監督署に申告する
以上のような通知書(請求書)を会社(個人事業主も含む)に送付しても会社がその休業期間中の「賃金の全額」を支払わない場合は、その支払いがないことを労働基準監督署に申告(告発)してみるというのも解決方法の一つとして有効です。
先ほどから述べているように、会社の都合で休業になった場合は「会社の責めに帰すべき事由」による休業として民法第536条2項により休業期間中の「賃金の全額」の支払い義務が会社側に生じますが、会社がその支払いを怠っている場合にはその会社は「賃金の未払い(賃金の不払い)」の状態になっていると言えます。
そうすると、その状態は賃金の全額払いを規定した労働基準法第24条に違反することになりますから、その「賃金の未払い(賃金の不払い)」の状況に陥っているという状態は、労働基準法に違反する状態になっているということになるでしょう。
【労働基準法第24条】
賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。(但書省略)。
この点、労働基準法第24条に違反する使用者については、労働基準法第120条1号で30万円以下の罰金の刑事罰が定められていますから、その会社の状態は犯罪行為を行っている状態といえます。
【労働基準法第120条1号】
次の各号の一に該当する者は、30万円以下の罰金に処する。
1 (省略)…第23条から第27条まで…(中略)…までの規定に違反した者
(以下省略)
また、このような労働基準法違反行為については、第104条で労働基準監督署に対して労働基準法違反の申告を行うことが労働者に認められていますので、会社都合による休業で休業期間中の「賃金の全額」の支払いが受けられない労働者は、その労働基準法違反状態にある会社を労働基準監督署に告発することができるということになるでしょう。
【労働基準法第104条1項】
事業場に、この法律又はこの法律に基いて発する命令に違反する事実がある場合においては、労働者は、その事実を行政官庁又は労働基準監督官に申告することができる。
そして、この労働基準法第104条に基づいて申告(告発)を受けた労働基準監督署はその事実関係を調査しその違法性が確認できた事案については勧告等を行って是正するよう指示することができますから、ケースによっては労働基準監督署に申告(告発)することでその違法状態が改善されることも望めます。
ですから、労働者が会社都合による休業で休業期間中の「賃金の全額」の支払いが受けられない状況にある場合には、その事実を労働基準監督署に申告(告発)することで監督署からの調査や勧告を促し、会社から未払い(不払い)になっている「賃金の全額」を支払ってもらうことも期待できるといえるのです。
なお、労働基準監督署への労働基準法104条に基づく申告は申告書等の書面を提出して行うのが通常ですが、その記載例は以下のようなもので差し支えないと思います。
労働基準法違反に関する申告書
(労働基準法第104条1項に基づく)
○年〇月〇日
○○ 労働基準監督署長 殿
申告者
郵便〒:***-****
住 所:東京都〇〇区○○一丁目〇番〇号○○マンション〇号室
氏 名:申告 太郎
電 話:080-****-****
違反者
郵便〒:***-****
所在地:東京都〇区〇丁目〇番〇号
名 称:株式会社○○
代表者:代表取締役 ○○ ○○
電 話:03-****-****
申告者と違反者の関係
入社日:〇年〇月〇日
契 約:期間の定めのない雇用契約←注1
役 職:特になし
職 種:一般事務
労働基準法第104条1項に基づく申告
申告者は、違反者における下記労働基準法等に違反する行為につき、適切な調査及び監督権限の行使を求めます。
記
関係する労働基準法等の条項等
労働基準法24条
違反者が労働基準法等に違反する具体的な事実等
・申告者は〇年〇月〇日から同年同月〇日まで、違反者が休業を命じたことから出勤を取りやめ就労しなかったが、違反者は当該休業期間中の賃金を支払わない。
・当該休業は、申告者の都合によるものではなく、違反者の都合によって行われたものであるから、民法第536条2項の「債権者の責めに帰すべき事由」による休業であり、違反者はその休業期間中の賃金の全額を支払う雇用契約上の義務がある。
・なお、申告者が違反者との間で合意した雇用契約書(労働契約書)や違反者の就業規則には、使用者の都合による休業の場合に労働基準法第26条に準じた平均賃金の6割以上の休業手当を支払う等の規定はなく、使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合の賃金(または休業手当)の支払いに別段の合意はないから、違反者は当該休業期間中の「賃金の全額」を支払う義務がある。
添付書類等
・特になし。←注2
備考
本件申告をしたことが違反者に知れるとハラスメント等の被害を受ける恐れがあるため違反者には申告者の氏名等を公表しないよう求める。←注3
以上
- ※注1:アルバイトやパート、契約社員など「期間の定めのある雇用契約」の場合は「期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)」などと記載してください。
- ※注2:労働基準監督署への申告に添付書類は必須ではないので添付すべき書類がない場合は「特になし」と記載しても構いません。添付する書類がある場合はその書類の名称と通数を記載します。たとえば、本件の場合に会社から受け取った雇用契約書の写しを添付する場合であれば「・雇用契約書の写し……1通」などと記載します。なお、会社の違法性を示す証拠書類はのちに裁判になった場合に必要になる可能性がありますので、監督署へは必ず「写し(コピーしたもの)」を提出するようにし原本は保管しておくようにしましょう。
- ※注3:労働基準監督署に申告したことを会社に知られたくない場合はこのような一文を挿入してください。会社に知られても構わない場合は備考の欄は削除しても構いません。
会社が休業期間中の「賃金の全額」の支払いをしない場合のその他の対処法
以上の方法を用いても会社が休業期間中の「賃金の全額」の支払いを行わない場合は、労働局の紛争解決援助の申し立てを行ったり、労働委員会の主催する”あっせん”の手続きを利用したり、弁護士や司法書士に相談して裁判所の裁判手続などを利用して解決する必要がありますが、それらの方法については以下のページを参考にしてください。