生産調整で会社が休業しても給料や休業手当はもらえるか

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製造業などの会社では営業不振に陥った場合などに、会社の業務を一定期間休業したり就労時間を部分的に短縮して生産調整を行う場合があります。

たとえば自動車会社が販売不振に陥って生産コストをカットするため1週間生産ラインをストップして従業員を休ませたり、客の少ないラーメン店が営業時間を短縮してバイトの学生を通常より早く帰らせるようなケースです。

このような生産調整で会社(個人事業主も含む)が休業や就業時間の短縮を行った場合、その休業期間中の賃金や休業手当(休業補償)は支払ってもらえるものなのでしょうか?

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生産調整のよる休業や労働時間の短縮が行われた場合、労働者はその休業期間中の「賃金の全額」の支払いを請求できる

このように、不況や営業不振などの事情から生産調整を行うために一時的に休業したり竜郎時間を短縮する企業(個人事業主も含む)があるわけですが、結論から言うと、その生産調整などのために行われた休業や就労時間の短縮における休業期間中の「賃金」についてはその「全額」の支払いを請求することができます。

ですから、たとえば月給20万円の労働者が働く工場が生産調整のため1週間生産ラインをストップして休業して実質的に3週間しか働かなかったとしても、その労働者は20万円全額の給料の支払いを求めることができますし、たとえば時給1000円で8時間働くラーメン屋のバイトが店長から客が少ないのでいつもより3時間前に帰宅するよう命じられ実質5時間しか働いていなかったとしてもそのバイトはその日の賃金として8000円分のバイト代を請求できるということになります。

ではなぜこのような結論になるかというと、このような生産調整による休業の場合の賃金の支払いについては民法第536条2項の危険負担の規定によって処理されるからです。

【民法第536条2項】

(債務者の危険負担等)
債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。(後段省略)

民法第536条2項の規定は、一般的な契約関係において債権者の都合で債務者の債務の履行ができなくなった場合に債務者の反対給付請求権の行使を保護するための条文であり「債務者の危険負担」の規定といわれていますが、この規定は契約法の一般規定とされていますので、雇用契約(労働契約)も契約の一つである以上、債務者の危険負担についてはこの民法第536条2項が適用されることになります。

この点、この民法第536条2項に雇用契約(労働契約)を当てはめると

「会社の責めに帰すべき事由によって仕事をすることができなくなった時は、労働者は反対給付である賃金の支払いを受ける権利を失わない」

ということになりますので、会社が会社の都合で休業した場合であっても労働者はその休業期間中の「賃金の全額」の支払いを請求することができるという結論を導くことができます。

では、これを踏まえたうえで生産調整によって会社が休業したり就労時間を短縮した場合を検討してみますが、会社が生産調整によって休業するのは、もっぱらその会社の経営上の問題が原因になっているにすぎず、天災事変などの不可抗力によって休業するわけではありませんから、その「生産調整のために休業する」という行為は「会社の責めに帰すべき事由によって休業する」ということに他ならないと言えるでしょう。

そうすると、生産調整による休業は民法第536条2項の「債権者の責めに帰すべき事由」に該当することになりますから、労働者はその休業期間中の賃金の支払いを受ける権利を失わないということになります。

ですから、会社が生産調整のために休業したり就業時間を短縮した場合であっても、労働者は民法第536条2項の規定を根拠にして、その休業期間中の(または時間が短縮された勤務時間中の)「賃金の全額」の支払いを会社に対して求めることができるということになるのです。

なお、このように生産調整など会社都合の休業で「賃金の全額」が支払われない場合の具体的な対処法については『会社都合の休業期間中に「賃金」が支払われない場合の対処法』のページで詳しく解説しています。

生産調整のための休業の場合「平均賃金の6割の休業手当」しか請求できないわけではない

以上で説明したように、仮に会社が生産調整を理由として休業した場合であっても、そこで働く労働者は会社に対してその休業期間中の「賃金の全額」の支払いを求めることができます。

ところで、ここで問題となるのが、労働基準法第26条の「使用者の責めに帰すべき事由」による休業手当との違いです。

労働基準法第26条では「使用者の責めに帰すべき事由」によって休業する場合に「平均賃金の6割」の休業手当の支払いを義務付けていますが、先ほど説明したように生産調整のための休業が天災事変などの不可抗力ではなくもっぱらその会社の経営上の問題と言えるのであれば、この労働基準法第26条の「使用者の責めに帰すべき事由」にも該当すると考えられるからです。

【労働基準法第26条】

(休業手当)
使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。

生産調整のための休業も「会社の都合による休業」と言えるのですから、会社はその休業期間中の「賃金の全額」を支払わなくても労働基準法第26条の規定に基づいて「平均賃金の6割の休業手当」さえ支払えば足りるようにも思えます。

しかし、この解釈は正しくありません。労働基準法の第26条は、使用者の都合によって生じた休業期間中の賃金の最低60%の支払いを「休業手当」として使用者に義務付けることで労働者の賃金を確保させ生活を安定させる趣旨で規定されたものであり、民法第536条2項によって使用者が負担することになる賃金全額の支払いを軽減する趣旨で規定されたものではないと考えられているからです(ノースウエスト航空事件:最高裁昭和62年7月17日|裁判所判例検索)。

たしかに、生産調整のための休業は労働基準法第26条の「使用者の責めに帰すべき事由」にあたりますので、その休業した会社は労働基準法第26条に従って「平均賃金の6割の休業手当」を支払わなければなりません。

そして、労働基準法第26条の違反行為については同条120条で「30万円以下の罰金」の刑事罰が科せられていますから、生産調整のための休業を行った会社は刑事罰をもって「平均賃金の6割の休業手当」の支払いを義務付けられていると言えるでしょう。

しかし、だからといって民法第536条2項における危険負担の責任が免責されるわけではありません。生産調整のための休業は先ほど説明したように民法第536条2項の「債権者の責めに帰すべき事由」に該当するため会社は民法第536条2項に基づいて労働者にその休業期間中の「賃金の全額」の支払いをしなければならない義務が生じるからです。

この労働基準法第26条によって生じる「平均賃金の6割の休業手当」の支払い義務と民法第536条2項によって生じる「賃金の全額」の支払いに関する危険負担の義務は競業しますから、会社は「平均賃金の6割の休業手当」を支払ったとしても「賃金の全額」の支払い義務から解放されるわけではありません。

ですから、仮に生産調整のための休業が行われた場合に会社から「平均賃金の6割の休業手当」の支払いが行われたとしても、労働者はその受け取った「平均賃金の6割の休業手当」の金額とその休業期間中の「賃金の全額」との差額を更に会社に対して請求することができるということになります。

ほとんどの会社は生産調整の休業は「平均賃金の6割の休業手当」を支払えば足りると勘違いしているので注意すること

以上で説明したように、会社が生産調整のために休業したり労働時間を短縮した場合には「会社の都合による休業」として民法第536条2項に基づいてその休業期間中(短縮された時間)の「賃金の全額」の支払いを求めることができます。

この点、日本の多くの会社の経営者や役職者が「生産調整のための休業の場合は平均賃金の6割の休業手当さえ支払っておけばよい」と勘違いしていますので、労働者はその点をだまされないように注意することが必要です。

仮に勤務している会社が生産調整のための休業や就業時間の短縮を行ったにもかかわらずその休業期間中の賃金を支払わなかったり平均賃金の6割の休業手当しか支払わないような場合は、必ず休業期間中の「賃金の全額」の支払いを求めるようにしてください。

なお、このように生産調整など会社都合の休業で会社が「平均賃金の6割の休業手当」しか支払ってくれない場合の具体的な対処法については『会社都合の休業で「平均賃金の6割」の手当しか支払われない場合』のページで詳しく解説しています。

個別の契約や就業規則等で会社都合の休業の場合に支払われる賃金の金額が「平均賃金の6割」などと規定されている場合はその規定に従う

以上で説明したように、会社都合の休業の場合には労働者はその休業期間中の「賃金の全額」を請求することができますので、仮に会社が労働基準法第26条の規定を根拠に「平均賃金の6割の休業手当」しか支払わなかった場合でも、その休業期間中の「賃金の全額」を請求するかその差額を請求することができるというのが法律上の取扱いです。

もっともこれはあくまでも法律上の取り扱いとなりますので、労働者と会社(個人事業主も含む)の間で別段の定めがなされている場合にはその別段の定めで合意した金額までしか請求することができません。

たとえば、会社との間で取り交わした雇用契約書(労働契約書)や労働条件通知書あるいは会社の就業規則や労働協約に

「会社都合による休業の場合は平均賃金の6割の休業手当を支払う」

とか、あるいは

「天災事変などの不可抗力による休業の場合を除き、会社は平均賃金の6割の休業手当を支払う」

なとど規定されている場合はその「平均賃金の6割」の金額しか休業期間中の賃金として請求できません(※ただしこの場合でも労働基準法第26条の基準を下回る合意をすることはできませんので、たとえば「平均賃金の5割を支払う」などと規定されている場合はその「5割」の部分が無効と判断される結果、その場合でも「平均賃金の6割」の金額を請求することができます)。

ですから、仮に会社が会社の都合で休業した場合に、個別の雇用契約や就業規則等の規定を根拠にして「平均賃金の6割」の金額しか支払わない場合は、これらの書面を精査してそのような根拠となる規定が本当に規定されているか確認することが必要になります。

なお、これらの書類を確認する方法については以下のページで詳しく解説しています。

なお、このように生産調整など会社都合の休業で会社が個別の雇用契約や就業規則等に規定された割合の賃金(手当)を支払ってくれない場合の具体的な対処法については『会社都合の休業で就業規則等の賃金・休業手当が支払われない場合』のページで詳しく解説しています。