労働者が、その国籍を理由に解雇されてしまうケースがごく稀に見られます。
たとえば、A国との間で外交的な問題が生じA国に否定的な世論が広がる状況にある中で、A国に否定的な意見を持つ会社の経営者や役職者が、そこで働くA国国籍の永住資格を持つ在日外国人や就労資格(資格外活動許可)を持つ外国人留学生などを、「A国人だから」という理由で解雇するようなケースが代表的な例として挙げられます。
また、例えば外資系の会社に勤務する日本国籍を持つ日本人の労働者が、日本人(日本国籍)であることを理由に解雇されるようなケースも、国籍を理由にした解雇となるでしょう。
しかし、「国籍」は労働者個人の能力や適性とはまったく関係がありませんから、そのような理由の解雇は、解雇された労働者からしてみれば到底納得できるものではありません。
では、このような国籍を理由にした解雇を受けた場合、その労働者は具体的にどのように対処すればよいのでしょうか。
解雇の有効性の判断基準
労働者が「国籍」を理由に解雇された場合の対処法を考える前提として、解雇の有効性の判断基準を理解してもらわなければなりませんので念のため簡単に説明しておきますが、使用者が労働者を解雇する場合には「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の2つの要件を満たす必要があります。
【労働契約法第16条】
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
つまり、使用者が労働者を解雇する場合には、その解雇する事由に「客観的合理的な理由」があることはもちろん、その理由に基づいて解雇することが「社会通念上相当」と判断できるケースでない限り、その解雇は無効と判断されることになるわけです。
国籍を理由にした解雇は絶対的に「無効」
このように、労働契約法第16条は解雇に「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の2つの要件を求めていますから、そのいずれか一方を欠く場合はその解雇は無効と判断されることになります。
この点、国籍を理由にした解雇がなされた場合に、その「客観的合理的な理由」や「社会通念上の相当性」があるかないかが問題となりますが、結論から言うと国籍を理由にした解雇は「客観的合理的な理由」が「ない」と判断されます。つまり、国籍を理由にした解雇は100%無効と判断されるわけです。
ではなぜ、国籍を理由にした解雇に「客観的合理的な理由」が「ない」と判断されるかというと、それは国籍を理由にした解雇が法律で絶対的に禁止されているからです。
労働基準法の第3条は、使用者が「国籍」や「信条」「社会的身分」を理由として、賃金や労働条件などに差別的な取り扱いをすることを禁止しています。
【労働基準法第3条】
使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。
この点、解雇は労働契約の一方的な解約であり労働条件の変更(破棄)を含みますから、国籍を理由にした解雇もこの労働基準法第3条で当然に禁止されることになります。
国籍を理由にした解雇が労働基準法で絶対的に禁止されているのであれば、使用者が労働者を国籍を理由に解雇することはそもそも許されませんから、その「国籍を理由に解雇すること」について「客観的合理的な理由」が存在する余地はありません。
そのため、国籍を理由に解雇については労働契約法第16条における「客観的合理的な理由」が「ない」と認定されることになり、その解雇が「確定的に無効」と判断されることになるのです。
国籍を理由に解雇された場合の対処法
以上で説明したように、国籍を理由になされた解雇は確定的に無効と判断されることになりますので、実際に勤務先から国籍を理由にした解雇を受けた場合には、労働者はその解雇の無効を主張して、その撤回を求めたり、従前どおりの勤務を求めたり、解雇日以降に得られるはずであった賃金の支払いを求めることが可能です。
もっとも、実際に解雇された場合には、労働者の方で具体的なアクションを取って対処する必要が生じますので、その具体的な対処法が問題となります。
(1)解雇理由の証明書の交付を受けておく
国籍を理由にした解雇を受けた場合にまずやっておきたいのが、使用者から解雇理由の証明書の交付を受けておくことです。
解雇理由の証明書とは、労働基準法の第22条で使用者に義務付けられた労働者の退職に係る証明書のことを言い、退職の事由が解雇の場合には「解雇の理由」まで具体的に記載することが求めらる書面になります。
【労働基準法第22条第1項】
労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあつては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。
この解雇理由証明書は法律で使用者に交付が義務付けられるものですから、解雇された労働者が使用者に対して「解雇理由の証明書を交付しろ」と請求すれば、使用者がそれを拒否することはできません。
ですから、解雇された時にはまずこの証明書の交付を請求しておくようにしましょう。
この点、なぜこの証明書の交付を受けておいた方が良いかと言うと、それは使用者が解雇した理由を後になって勝手に変えてしまうことがあるからです。
先ほど説明したように、国籍を理由にした解雇は絶対的に禁止されていますから、裁判になれば100%負けてしまうため、使用者の中には裁判になると解雇の理由を勝手に変更し、「あれは国籍で解雇したんじゃなくて○○の理由で解雇しただけだ」と抗弁してくる事例が多くあります。
仮に裁判になってそのように解雇の理由を変更されて抗弁されれば、労働者側もその解雇が国籍を理由にしたものであったことを立証しなければならなくなりますので、裁判がややこしくなったり長期化したりして不都合が生じてしまいます。
そのため、国籍を理由にした解雇があったことを解雇された時点で確定させるために、解雇理由証明書の交付を受けておく必要があるのです。
なお、解雇理由証明書の請求に関する詳細は以下のページで詳しく解説していますのでそちらを参考にしてください。
- 解雇理由証明書・退職理由証明書の記載事項には何があるか
- 退職・解雇理由証明書を会社が交付してくれないときの対処法
- 解雇理由・退職理由証明書の記載内容が不十分な場合の対処法
- 解雇理由証明書に事実と異なる解雇理由が記載された場合の対処法
(2)国籍を理由にした解雇が確定的に無効であることを記載した書面を作成し郵送する
国籍を理由にした解雇を受けた場合には、その国籍を理由にした解雇が法律で禁止されている旨記載した通知書を作成し、会社に郵送するというのも一つの対処法として有効です。
前述したように国籍を理由にした解雇は絶対的に禁止されていますから、それにもかかわらず国籍を理由にした解雇を行うような会社はそもそも法令遵守意識が欠落していますので、そのような会社に対して「国籍を理由にした解雇は無効だから撤回しろ」と口頭で抗議しても埒が明かないのが通常です。
しかし、書面という形で正式に抗議すれば、将来的な弁護士への相談や裁判の提起、行政官庁への相談などを警戒して解雇の撤回に応じることも期待できる場合がありますので、とりあえず書面で通知しておくという方法も有効に作用する場合はあると考えられるのです。
なお、その場合の通知書の文面は以下のようなもので差し支えないでしょう。
甲 株式会社
代表取締役 ○○ ○○ 殿
解雇の無効確認及び撤回申入書
私は、〇年10月10日、貴社から解雇する旨の通知を受け、同月末日に解雇されました。
この解雇に関して貴社からは、私がA国国籍を有する在日外国人であるため、A国との外交関係が好ましくない世論が大勢を占める今の社会情勢ではA国籍の外国人を雇い続けることはできない旨の説明を受けております。
しかしながら、労働基準法第3条は国籍を理由にした差別的取り扱いを禁止していますので、この解雇は明らかに違法です。
したがって、私は、貴社に対し、本件解雇が無効であることを確認するとともに、当該解雇を直ちに撤回するよう、申し入れいたします。
以上
〇年〇月〇日
〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号○○マンション〇号室
○○ ○○ ㊞
※証拠として残しておくため、コピーを取ったうえで配達した記録の残る特定記録郵便などの郵送方法で送付するようにしてください。