育児休業を申請又は取得したことを理由に解雇された場合の対処法

なお、その場合に会社に送付する通知書の文面は以下のようなもので差し支えないと思います。

甲 株式会社

代表取締役 ○○ ○○ 殿

育児休業の申出を理由とした解雇の無効確認及び撤回申入書

私は、〇年〇月〇日、貴社から解雇する旨の通知を受け、同月末日をもって貴社を解雇されました(以下、この解雇を「本件解雇」と言います)。

本件解雇については同年〇月〇日、その理由を上司であった○○氏に確認したところ、私が同年〇月に育児休業の取得を申請したことが理由であると聞いております。

しかしながら、労働者が育児休業の取得を申し入れたことを理由として解雇することは育児介護休業法第10条で禁止されておりますので、私が貴社に育児休業の申請をしたことを理由とした本件解雇は明らかに違法です。

したがって、本件違法な解雇の解雇事由に労働契約法第16条の「客観的合理的な理由」は存在せず、本件解雇は解雇権を濫用した無効なものと言えますから、直ちに本件解雇を撤回するよう、申し入れいたします。

以上

〇年〇月〇日

〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号○○マンション〇号室

○○ ○○ ㊞

※育児休業を「したこと」を理由に解雇された場合は上記記載例の「申請した」の部分を「取得した」などに置き換えてください。

※証拠として残しておくため、コピーを取ったうえで配達した記録の残る特定記録郵便などの郵送方法で送付するようにしてください。

(3)育児休業を請求または取得したことを理由に解雇されたことについて労働局に紛争解決援助の申請または調停の申込みを行う

育児休業の取得を申請または育児休業を取得したことを理由に解雇された場合には、その事実を労働局に相談し、紛争解決援助の手続きの申請や調停の申込みをしてみるのも一つの対処法として有効です。

前述したように、育児休業の取得を申請または育児休業したことを理由にした解雇は育児介護休業法第10条に違反し違法なものと言えますが、そのような育児介護休業法に違反する行為があった場合には、そのトラブルの解決を労働局に申し出て、労働局の「紛争解決援助の手続き」または「調停」の手続きを利用して解決をゆだねることができます(育児介護休業法第52条の4第1項、同法第52条の5第1項)。

育児介護休業法第52条の4第1項

都道府県労働局長は、前条に規定する紛争に関し、当該紛争の当事者の双方又は一方からその解決につき援助を求められた場合には、当該紛争の当事者に対し、必要な助言、指導又は勧告をすることができる。

育児介護休業法第52条の5第1項

都道府県労働局長は、第52条の3に規定する紛争について、当該紛争の当事者の双方又は一方から調停の申請があった場合において当該紛争の解決のために必要があると認めるときは、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第6条第1項の紛争調整委員会に調停を行わせるものとする。

そしてこの労働局の「紛争解決援助」の申請をした場合には労働局から必要な助言や指導または勧告が、また「調停」の申込みをした場合には労働局から解決の為の調停を行ってもらうことができますから、この労働局の手続きを利用することで会社が違法な解雇を撤回したり、損害賠償の支払いに応じてくれる可能性も期待できます。

そのため、育児休業の取得を申請または育児休業を取得したことを理由に解雇された場合には、まず労働局に相談してみるというのも対処法として有効に機能する場合があるのです。

なお、労働局の紛争解決援助の申込みや調停等の利用についてはこちらのページを参考にしてください。

労働局の紛争解決援助(助言・指導・あっせん)手続の利用手順

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育児休業を申請または取得したことを理由に解雇された場合のその他の対処法

育児休業を申請または取得したことを理由に解雇された場合におけるこれら以外の解決手段としては、各都道府県やその労働委員会が主催する”あっせん”の手続きを利用したり、弁護士会や司法書士会が主催するADRを利用したり、弁護士(または司法書士)に個別に相談・依頼して裁判や裁判所の調停手続きを利用して解決を図る手段もあります。

なお、これらの解決手段については以下のページを参考にしてください。

労働問題の解決に利用できる7つの相談場所とは

解雇予告手当や退職金など解雇を前提とした金品は受け取らないこと

以上のように、育児休業を申請または取得したことを理由に解雇された場合には、その解雇が育児介護休業法第10条に違反することから確定的に違法な解雇となるため労働契約法第16条の「客観的合理的な理由」が「ない」と判断されることになり、その解雇は確定的に無効であるとして様々な対処法をとることができます。

もっとも、このようにして解雇の効力を争う場合には、解雇予告手当や退職金など解雇を前提とする金品を受け取らないように気を付けなければなりません。

解雇予告手当や退職金など「解雇(退職)の事実が発生したこと」が前提となって支給される金品を受け取ってしまうと「無効な解雇を追認した」と認定されて後に裁判や示談交渉で解雇の無効を主張することが困難になるケースがあるからです。

ですから、解雇の効力を争う場合には、仮に解雇予告手当や退職金などが支払われたとしてもそれを受け取るのは控えた方が良いでしょう (※参考→解雇されたときにしてはいけない2つの行動とは)。

解雇のトラブルはなるべく早めに弁護士に相談した方が良い

なお、このページでは育児休業を申請または取得したことを理由に解雇された場合の対処法を解説してきましたが、解雇された場合の個別の対応は、解雇の撤回を求めて復職を求めるのか、それとも解雇の撤回を求めつつも解雇は受け入れる方向で解雇日以降の賃金の支払いを求めるのか、また解雇を争うにしても示談交渉で処理するのか裁判までやるのか、裁判をやるにしても調停や労働審判を使うのか通常訴訟手続を利用するのかによって個別の対応も変わってくる場合があります。

将来的にトラブルの解決を弁護士など専門家に依頼しようと考える場合は、早めに弁護士に相談しておかないとかえってトラブル解決を困難にする場合もありますので、その点は注意するようにしてください。