出向について就業規則や労働協約に明記があれば拒否できないか

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勤務している会社から、会社の就業規則や労働協約(労働組合と会社が合意する労働者の労働条件等の内容のこと)に出向に関する定めがあることを理由に出向を命じられることがあります。

たとえば、就業規則や労働協約に

「会社は出向を命じることができる」

というような規定があることを根拠に、労働者が会社から他の会社に出向を命じられるようなケースです。

このような出向に関する規定が就業規則や労働協約に規定されている場合、労働者はその出向命令を断ることができないのでしょうか。

また、実際にそのようなケースで出向を命じられた場合、具体的にどのように対処すればよいのでしょうか。

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就業規則や労働協約に出向命令権が明記されていれば労働者は出向命令を拒否できないのが原則

今述べたように、会社の就業規則や労働協約に出向命令権の根拠が明記されている場合がありますが、仮にそのような出向命令権の根拠が就業規則や労働協約に明確に規定されている会社で出向を命じられた場合には、労働者はその出向命令を断ることができないのが原則です。

なぜなら、使用者と労働者の間で結ばれる雇用契約(労働契約)の内容は、一義的にはその両者で結ばれた雇用契約(労働契約)の内容によって定まりますが、その個別の雇用契約(労働契約)に規定のない項目については、就業規則や労働協約の内容が雇用契約(労働契約)の内容として使用者と労働者の双方を拘束することになるからです。

使用者と労働者の間で結ばれる雇用契約(労働契約)は両者の間で結ばれる個別の雇用契約(労働契約)で合意するのが理想的ですが、細かな細目まで個別の雇用契約(労働契約)で合意することは事実上困難な部分がありますので、その個別の雇用契約(労働契約)に含まれていない事項であっても、就業規則や労働協約に規定されている内容については雇用契約(労働契約)の内容として効力が生じる取り扱いになっています(労働契約法第7条及び同12条、労働基準法第92条1項)。

【労働契約法第7条】

労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。(但し書き省略)。

【労働基準法第92条1項】

就業規則は、法令又は当該事業場について適用される労働協約に反してはならない。

ですから、仮に個別の雇用契約(労働契約)に出向命令権の明記がない場合であっても、就業規則や労働協約に使用者における出向命令権が明記されている場合には、その使用者の出向命令権が雇用契約(労働契約)の内容になって労働者を拘束することになりますので、そのようなケースでは、労働者は会社からの出向命令を拒否することができない、ということになるのです。

出向命令の基本的な内容が明記されていなければ出向命令を拒否しても構わない

このように就業規則や労働協約の内容は雇用契約(労働契約)の内容となって労働者を拘束するのが基本ですから、仮に個別の雇用契約(労働契約)に出向命令権の明示がなかった場合であっても、就業規則や労働協約に使用者における出向命令権の根拠が明記されている場合には、労働者は会社からの出向命令を断ることができないのが原則となります。

もっとも、単に使用者の出向命令権が就業規則や労働協約に明記されていればいかなる場合でも出向命令を拒否できなくなるわけではありません。

就業規則や労働協約に明記されるべき出向命令権については、抽象的な内容では足りず、出向命令に関する基本的な内容が具体的に明記されていなければならないからです。

この点、『人事異動における配転命令(配置転換・転勤)は拒否できるか』のページでも説明したように、同じ会社内部での移動に過ぎない配転(配置転換)の場合には、就業規則や労働協約に

「会社は業務上の必要がある場合には従業員に対して配置転換を命じることができる」

というような抽象的な規定さえ明記されていれば、労働者はその会社から命じられる配転命令を拒否することができませんでした。

配転の場合には、同じ会社の内部で職種や勤務地が変更されるだけに過ぎず労働者に与える影響が限定的ですので、そのような抽象的な配転命令権の明示だけで労働者を拘束しても、労働者の保護を損なうとまでは言えないからです。

しかし、出向は今勤務している会社に従業員としての籍は置いたまま全く別の会社で勤務することになるため、労働力の提供先や指揮命令を受ける会社自体が従前とは全く別の会社になってしまうことになり、労働者に与える影響は配転の場合より格段に大きくなってしまいます。

そのため、出向の場合においては、就業規則や労働協約に単に

「会社は業務上の必要がある場合には従業員に対して出向を命じることができる」

と規定されているだけでは、その出向命令権は雇用契約(労働契約)の内容にはならないものと考えられているのです。

この点、就業規則や労働協約に具体的にどのような出向命令権の規定があれば、その出向命令権が雇用契約(労働契約)の内容になって労働者を拘束することになるかという点が問題となりますが、法的には、その出向先の会社における

  • 「出向先での賃金などの労働条件」
  • 「各種出向手当等の労働条件」
  • 「昇格・昇給等の査定その他処遇」
  • 「出向の期間」
  • 「復帰の仕方」など

出向に関する基本的な事項について就業規則や労働協約に具体的に規定がなされていなければ、使用者における出向命令権が雇用契約(労働契約)の内容になっていないと判断されるのが通常です(※新日本製鐵事件:最高裁平成15年4月18日、菅野和夫著「労働法(第8版)」416~417頁参照)。

ですから、仮に会社の就業規則や労働協約に

「会社は出向を命じることができる」

というような出向に関する規定があったとしても、労働者が就業規則や労働協約を確認して「出向先での賃金などの労働条件」「各種出向手当等の労働条件」「昇格・昇給等の査定その他処遇」「出向の期間」「復帰の仕方」など出向命令の基本的な内容が規定されていなかったというようなケースでは、その労働者は会社から命じられた出向命令を拒否しても差し支えないということになるのです。

(※なお、就業規則の内容を確認する方法については→会社に就業規則があるかないか確認する方法就業規則を見せてくれない会社で就業規則の内容を確認する方法を、労働協約については会社の労働組合で確認してください。)

ただし、就業規則や労働協約に「出向先での賃金などの労働条件」「各種出向手当等の労働条件」「昇格・昇給等の査定その他処遇」「出向の期間」「復帰の仕方」など出向命令の基本的な内容が規定されていなかった場合であっても、労働者が会社との間で取り交わした雇用契約書(労働契約書)や労働条件通知書にそれらが規定されている場合には、その出向命令権が雇用契約(労働契約)の内容になっていると判断されますので、労働者は会社からの出向命令を拒否することができなくなるので注意が必要です(※詳細は→人事異動における出向命令は拒否できるか)。

就業規則や労働協約に出向に関する基本的な事項が規定されていないのに出向を命じられた場合の対処法

以上で説明したように、仮に会社の就業規則や労働協約に「会社は出向を命じることができる」などと出向命令権の根拠が明記されていたとしても、「出向先での賃金などの労働条件」「各種出向手当等の労働条件」「昇格・昇給等の査定その他処遇」「出向の期間」「復帰の仕方」など出向命令の基本的な内容が規定されていなかった場合には、労働者は会社から命じられる出向命令を拒否しても契約違反の責任は問われないということになります。

もっとも、とは言っても、このような出向命令の有効性に関する法律的な考え方をすべての企業が理解しているわけではありませんから、会社によっては就業規則や労働協約に出向命令権の明記自体がなかったり、その明記があっても出向命令に関する基本的な事項が明記されていないにもかかわらず出向を強要するケースもありますので、そのような出向の強制を受けた場合には具体的な手段を講じて対処することが求められることになります。

(1)雇用契約(労働契約)の内容となっていない出向命令の無効を主張する文書を作成し会社に送付してみる

就業規則や労働協約にそもそも出向命令権の根拠規定がなかったり、その明記があっても「出向先での賃金などの労働条件」「各種出向手当等の労働条件」「昇格・昇給等の査定その他処遇」「出向の期間」「復帰の仕方」など出向命令の基本的な内容が規定されていないにもかかわらず、勤務先の会社から出向を命じられている場合には、その出向命令が雇用契約(労働契約)の根拠のない無効なものであることを記載した文書を作成して会社に送付するのも一つの対処方法として有効です。

就業規則や労働協約に出向命令の基本的な内容の明示がない場合には、使用者の出向命令権自体が雇用契約(労働契約)の内容になっていないものと判断されますので労働者は自由にその出向命令を拒否することができますが、そのような雇用契約(労働契約)の根拠のない出向命令を出すブラック体質を持った会社に対して口頭で「無効な出向命令を撤回しろ」と求めても、それを撤回してくれる可能性は低いからです。

この点、書面を作成して改めてその出向命令に雇用契約(労働契約)上の根拠のないことを指摘しその無効性を通知して撤回を求めれば、事の重大性に気付いて出向を撤回する会社もありますので、文書という形で撤回を求めることも対処法として有効と考えられるのです。

なお、その場合の通知書の文面は以下のようなもので差し支えないでしょう。

○○株式会社

代表取締役 ○○ ○○ 殿

雇用契約(労働契約)上の根拠のない出向命令の撤回申入書

私は、〇年〇月から貴社で営業職として勤務していますが、〇年〇月〇日、上司である○○課長から、来年の四月から貴社と取引関係にある株式会社◇◇に出向される旨の打診を受けました。

この出向命令について私は、全くそれに同意する気がなかったことから明確に拒否いたしましたが、○○は「重役会議で決まったことだから拒否することはできない」と一方的に当該出向手続を進めているようです。

しかしながら、私が貴社に入社した際に貴社から交付を受けた労働条件通知書を確認したところ、出向に関する内容については一切規定がありませんでしたし、貴社の就業規則にも「会社は出向を命じることができる」という抽象的な規定はあるものの、その出向先となる会社の名称や出向先で従事する業務内容、出向先での賃金やその他の各種出向手当等の労働条件、昇格・昇給等の査定その他処遇、出向の期間、復帰の仕方など出向に関する基本的な事項が明記されていません。

この点、使用者が労働者に対して出向を命じるためには、個別の雇用契約(労働契約)や就業規則、労働協約等において、出向に関する基本的な内容が具体的に明記されていることが必要であり、抽象的な明記方法では雇用契約(労働契約)の内容にならないと考えられていますから(新日本製鐵事件:最高裁平成15年4月18日に同旨)、貴社の就業規則や労働条件通知書にその基本的事項の明記がない以上、貴社はその出向にかかる基本的内容が具体的に明記されていない就業規則の規定を根拠に、私に対して出向を強制することはできないものと考えられます。

したがって、貴社は、雇用契約(労働契約)の根拠なく、かつ私の同意も得ずに出向命令を強制していることになりますから、当該雇用契約(労働契約)上の根拠のない無効な出向命令を直ちに撤回するよう申し入れいたします。

以上

〇年〇月〇日

〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号○○マンション〇号室

○○ ○○ ㊞

会社に送付する前に証拠として残すため必ずコピーを取っておき、相手方に「到達した」という客観的証拠を残しておく必要があるため、普通郵便ではなく特定記録郵便など客観的記録の残る方法を用いて郵送すること。

(2)その他の対処法

以上の通知書を送る方法を用いてもなお会社が就業規則の規定を根拠にい出向命令を強要しようとする場合は、労働局で紛争解決援助の申し立てを行ったり、労働委員会の主催する”あっせん”の手続きを利用したり、弁護士や司法書士に相談して裁判所の裁判手続などを利用して解決する必要がありますが、それらの方法については以下のページを参考にしてください。

労働問題の解決に利用できる7つの相談場所とは

(3)労働基準監督署に相談して解決できるか

なお、このように就業規則に出向命令権の明示の規定がなかったり、その規定があっても出向に関する基本的な事項が具体的に規定されていない就業規則の規定を根拠に出向命令を強要されるというトラブルについて労働基準監督署に相談して解決できるかという点が問題になりますが、そのようなトラブルについては労働基準監督署は積極的に介入してくれないのが通常です。

労働基準監督署は基本的に「労働基準法」という法律に違反する事業主を監督する機関ですから、労働基準法で禁止している行為を会社が行っている場合だけしか行政機関としての監督権限を行使できないからです。

「雇用契約(労働契約)上の根拠のない出向命令」という行為自体は労働基準法で禁止されている行為ではなく、雇用契約(労働契約)に違反する行為にすぎませんので、監督署は直接介入したくても法的な権限がないので介入することができません。

ですから、このようなトラブルについては労働基準監督署ではなく労働局の紛争解決手続や労働委員会の”あっせん”の手続を利用するのがまず考えられる適当な対処法になると考えた方がよいでしょう。

なお、先ほども述べましたが、上記で解説したように就業規則や労働協約に出向命令の基本的な内容が具体的に明記されていない場合であっても、雇用契約(労働契約)書などにその基本的な内容が規定されている場合には、使用者の出向命令権が雇用契約(労働契約)の内容になっていると判断され出向命令の拒否ができなくなる場合もありますのでその点は誤解のないようにお願いします(※詳細は→人事異動における出向命令は拒否できるか)。