人事異動における配転命令(配置転換・転勤)は拒否できるか

会社で働いていると、配置転換(配転)を命じられることがあります。

たとえば医療事務として働いている事務員が勤務先の病院から看護助手に異動を命じられたり(職種の変更を伴う配転)、東京本店で働いている銀行マンが大阪支店の支店長として転勤を命じられる(勤務地の変更を伴う配転)ような場合が代表的です。

このような人事異動としての配置転換は一般に正社員として勤務する労働者に命じられる場合が多いですが、アルバイトでもあってもそれがないわけではありません。

たとえば、ファミレスの接客店員として採用されたバイトが厨房で調理助手として勤務するよう命令されるようなケースも職種の変更を伴う配転があったということになるでしょう。

ところで、このような配転命令が行われた場合、労働者はそれを拒否することはできないのでしょうか。

配転は職種や勤務地が変更されるものであり、労働者の労働条件を大きく変更させるものとなりますから、労働者の希望に沿うものばかりとは限りません。

そのため、労働者が配転命令に応じたくない場合に、その命令を拒否して従前の職種・勤務地で就労し続けることができるのか、という点が問題となります。

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会社からの配転命令(配置転換)は拒否できないのが原則

このように、労働者は会社から配転(配置転換)を命じられることがあるわけですが、結論から言うと労働者は使用者から配置転換を命じられた場合にはそれを拒否することができないのが原則です。

なぜなら、雇用契約(労働契約)を結んだ使用者と労働者の関係においては、使用者側に労働者をどの職種、どの勤務地に配属させるかという人事権が本来的に与えられていると考えられているからです。

雇用契約(労働契約)は、労働者を雇い入れた使用者(雇い主)が、その雇い入れた労働者の労働力を最大限に利用し、使用者の経済的利益を最大化させるのが本来の目的です。

この点、使用者(雇い主)が労働者の労働力を最大限に利用するためには、使用者がその労働者をどの職種に配置しどの勤務地で働かせるかという人事異動に関する権利を自由に行使できることが必要になります。

使用者(雇い主)が労働者を適材適所に配置できなければ、使用者の利益を最大化させることができないからです。

ですから、使用者(雇い主)と労働者が雇用契約(労働契約)が結ばれた以上、使用者にその労働者を自由に人事異動させる人事権(配転命令権)が与えられている、つまり雇用契約(労働契約)に人事権が内在されているという考えが原則となり、労働者は基本的に使用者からの人事権の行使としての配転命令を拒否できないという結論になるのです。

就業規則や雇用契約(労働契約)等に配転命令権の根拠がなければ拒否できる

このように、雇用契約(労働契約)においては使用者に労働者の職種や勤務地を自由に変更できる人事権(配転命令権)が与えられていると考えられていますから、労働者は使用者から配置転換を命じられた場合には、それを拒否することができないのが原則です。

もっとも、とは言っても使用者(雇い主)にそのような配転を命じることができる権利(配転命令権)が無条件に与えられているわけではありません。

使用者(雇い主)が労働者に対して配転を命じるためには、そのための権利(配転命令権)が雇用契約(労働契約)の内容となっていることが前提となります。

なぜなら、労働者は雇用契約(労働契約)の内容となっている条件を承諾してその使用者の下で労働力を提供することを約束しているわけですから、その雇用契約(労働契約)の内容となっていない命令に従わなければならない契約上の義務は存在しないからです。

ですから、使用者(雇い主)が労働者に対して「配転を命じることができる」という権利が雇用契約(労働契約)の内容となっている場合には、その契約を承諾して入社している以上、労働者はその配転命令を拒否できないというのが原則的な考え方となります。

では、その「配転を命じることができる」という権利が雇用契約(労働契約)の内容となっているかいないかをどのようにして確認すればよいかというと、一般的には個別の雇用契約(労働契約)であったり、就業規則にその権利が明記されているかという点で判断することになります。

雇用契約(労働契約)や就業規則に使用者の配転命令権が明記されているなら、労働者はそれを承知のうえで雇用契約(労働契約)を結んでいるものと解されますので、労働者は会社から配転命令が出されればそれを受け入れなければならない雇用契約(労働契約)上の義務があるということになるのです。

(1)雇用契約(労働契約)に配転命令権が明記されている場合

労働者が使用者(雇い主)に雇い入れられる場合には雇用契約(労働契約)を結ぶ必要がありますが、その雇用契約(労働契約)に

「会社は業務上の必要がある場合には従業員に対して配置転換を命じることができる」

というような文章が入れられている場合には、使用者の配転命令権が雇用契約(労働契約)の内容になっていると判断できますので、会社から交付を受けた雇用契約書(労働契約書)や労働条件通知書にそのような規定があるか確認してみましょう。

もし仮にそのような規定があれば、会社から配置転換(職種の変更や勤務地の変更(転勤))の命令が出された場合はそれに従わなければなりませんが、そのような規定がないのであれば、その配転命令を拒否しても問題ないということになります。

なお、この点は『雇用契約の根拠のない配置転換(異動・転勤)を拒否する方法』のページでも詳しく解説しています。

(2)就業規則に配転命令権が明記されている場合

また、会社の就業規則を確認して、就業規則の中に

「会社は業務上の必要がある場合には従業員に対して配置転換を命じることができる」

というような規定がある場合も、配転命令権が雇用契約(労働契約)の内容になっているといえますので、そのようなケースでは会社からの配転命令権を拒否することはできないと考えるのが原則となります。

一方、そのような規定が就業規則に存在しないのであれば使用者の配転命令権が雇用契約(労働契約)の内容になっていないということになりますので、労働者は命じられた配転を拒否することができるということになります。

なお、この点は『雇用契約の根拠のない配置転換(異動・転勤)を拒否する方法』のページでも詳しく解説しています。

(3)その他の場合

以上のほかにも、労働組合のある会社で労働協約に上記のような規定があるような場合も、配転命令権が雇用契約(労働契約)の内容になっていると考えられますので、そのような会社では配転命令を拒否することは難しいのが原則的な取り扱いとなります。

職種や勤務地が限定された雇用契約(労働契約)の場合は拒否できる

以上で説明したように、個別の雇用契約(労働契約)や就業規則等であらかじめ「会社は業務上の必要がある場合には従業員に対して配置転換を命じることができる」というような規定が定められていて、使用者が労働者に対して配転を命じることができる権利(配転命令権)が雇用契約(労働契約)の内容になっている場合には、労働者はその配転命令を拒否できないのが原則です。

ただし、そのように配転命令権が雇用契約(労働契約)の内容となっている場合であっても、雇用契約(労働契約)で職種や勤務地(就業場所)が限定されているような場合には、配転命令を拒否することができるものと考えられています。

なぜなら、個別の雇用契約(労働契約)で「職種」や「勤務地(就業場所)」が限定されている場合には、その限定された「職種」や「勤務地」の範囲内に限って労働者は配転を受け入れることに承諾しているにすぎませんから、その範囲を超えてまで使用者の命じる配転を受け入れなければならない契約上の義務はないと考えられているからです。

ですから、たとえば医療事務として働いている事務員が勤務先の病院から看護助手に異動を命じられた場合(職種の変更を伴う配転)であっても、その病院に採用される際の雇用契約(労働契約)で職種が「医療事務」に限定されて採用されている場合には、仮に病院から看護助手への配置転換を命じられても拒否できると考えられますが、狩野そのケースで職種が限定されていなかったような場合では、看護助手への配転命令を拒否することは難しいということになるでしょう。

また、東京本店に採用された銀行マンが採用された際に勤務地が「東京都内」に限定する形で雇用契約を結んでいる場合には、仮に大阪支店への転勤を命じられたとしても拒否できますが、八王子支店への転勤は勤務地限定の範囲内の配転命令として拒否できないということになります。

そのほかにも、たとえばファミレスで働くアルバイトであれば、採用される際に「接客店員」という形で職種を限定して採用されている場合には、会社から厨房での調理助手として勤務するよう命令されたとしてもそれを拒否することができる反面、職種を限定しないで採用されている場合には、調理部門への職種の変更を命じられればそれを拒否することはできないと考えた方がよいということになります。

なお、このように職種や勤務地の限定の範囲を越えた配転を命じられた場合の具体的な対処法などについては『職種や勤務地を限定して採用されたのに配転を命じられた場合』のページで詳しく解説しています。

配転命令が権利の濫用と判断できる場合は拒否できる

このように、仮に個別の雇用契約(労働契約)や就業規則等で「会社は業務上の必要がある場合には従業員に対して配置転換を命じることができる」といったような規定が存在し使用者の配転命令権が雇用契約(労働契約)の内容となっている場合であっても、個別の雇用契約(労働契約)で「職種」や「勤務地」が限定されている場合には、その限定された職種や勤務地の範囲を超えた配転命令は拒否することができると考えられています。

もっとも、仮にそのような職種や勤務地の限定がなかったとしても、使用者の命じる配転命令が権利の濫用となるようなケースでは、その配転命令は無効と判断されますので労働者はその配転命令を拒否できるものと考えられます(労働契約法第3条5項)。

【労働契約法第3条5項】

労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない。

具体的にどのような配転命令が「権利の濫用」となるかはケースバイケースで判断するしかありませんが、例えば次のようなケースでは権利の濫用としてその配転命令を拒否できると考えて差し支えないと思います。

(1)業務上の必要性がない配転命令の場合

使用者の配転命令が雇用契約(労働契約)の内容となっていて労働者に従わなければならない雇用契約上の義務がある場合であっても、その配転命令が業務上の必要性がないものである場合には、労働者はその命じられた配転を権利の濫用を理由に拒否できるものと考えられます。

たとえば、運送会社の営業職として採用された労働者が営業職から配送センターのドライバーに職種変更の配置転換を命じられた場合には、その営業職の労働者が職種の限定がない限りその配転命令を拒否することができません。しかし、仮にその会社で営業職の新規採用を募集しているような場合には、そもそも営業職を新規採用せずにドライバーを新規採用すれば済むわけですから、そのような会社で営業職の労働者に配置転換を命じなければならない業務上の必要性はないと考えられますので、そのような配転命令は権利の濫用として拒否しても雇用契約違反の責任は生じないのです。

また、たとえば大阪支店の廃止が決定しているような場合に東京支店から大阪支店への転勤が命じられるような場合にも、廃止が決定している大阪支店で人員を増やす積極的な理由は通常は考えられませんから、特段の事情がない限りそのような転勤命令も拒否できるものと考えて差し支えないでしょう。

なお、業務上の必要性のない配転を命じられた場合の対処法は『業務上の必要性がない配置転換・転勤を命じられた場合の対処法』のページで詳しく解説しています。

(2)パワハラや内部告発の報復としての配転命令の場合

また、パワハラやセクハラ、内部告発などの報復として配転を命じられた場合にも、権利の濫用としてその向こうを主張して配転を拒否することができると考えられます。

たとえば、上司からセクハラを受けたことを会社のコンプライアンス室に相談したところ課長が根回しをして報復に別の支店に転勤を命じるようなケースでは権利の濫用としてその配転命令を拒否することができますし、会社の違法行為を行政機関に内部告発して報復として部長職から現場の作業員に降格させられたようなケースでも権利の濫用としてその無効を主張し配転を拒否できると考えて差し支えないでしょう。

なお、このように何らかの制裁や報復措置として配転を命じられた場合の具体的な対処法については『会社から報復として配転(異動・転勤)を命じられた場合の対処法』のページで詳しく解説しています。

(3)私生活への配慮を欠いた配転命令の場合

これらのほかにも、労働者の私生活に大きな負担を強いる配転命令なども権利の濫用としてその無効を主張できる場合があります。

なぜなら、使用者には労働者が仕事と私生活の調和を維持できるよう配慮しなければならない雇用契約上の義務が課せられていると考えられているからです(労働契約法第3条3項)。

【労働契約法第3条3項】

労働契約は、労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。

ですから、たとえば親の介護のため県外に転居することが困難な労働者に対して県外の支店等への転勤が命じられたようなケースでは、仮にその労働者に勤務地の限定がなかったとしてもその労働者は「仕事と生活の調和配慮義務」を怠った配転命令であることを主張して権利の濫用を理由にその配転命令を拒否できるものと考えられます。

また、たとえば運送会社の営業職の労働者にドライバーへの配置転換が命じられる場合であっても、その労働者が腰痛の持病を持っているようなケースでは権利の濫用を理由に拒否できるものと考えられます。

なお、このような私生活との調和に配慮しない配転命令を受けた場合の具体的な対処法などについては『介護や学業に配慮しない配置転換・転勤を命じられた場合の対処法』のページで詳しく解説しています。

配転命令を承諾できないときは、まず弁護士等に相談すること

以上のように、配転を命じられた場合であっても必ずしもその命令に従わなければならないというものでもありませんし、特定の事情がある場合は会社からの配転命令を拒否できる場合も多くあります。

ですから、会社から配転を命じられた場合には、上記のようなケースに当てはまらないか熟慮してみることも必要になると思います。

なお、上記で紹介した事例はあくまでも代表的な事例に過ぎません。

これら以外にも個別のケースによっては配転命令を拒否できる場合は多くありますので、会社から配置転換を命じられた場合には、会社とよく協議することはもちろん、早めに弁護士や司法書士に相談して法的に会社の命令は有効なのかという点を確認してもらうよう心がけた方がよいでしょう。

配転
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