セクハラを告発した仕返し・報復として出向させられた場合

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セクハラの被害にあった場合、会社の上司や会社のお悩み相談室的な部署に、あるいは程度のひどい案件については警察に強制わいせつや性的暴行等の被害届を出すなどして相談ないし告発するのが普通ですが、そのような対処法を取った場合、会社や上司から報復や制裁として出向を命じられることがあります。

出向は、

「労働者が自己の雇用先の企業に在籍のまま、他の企業の事業所において相当長期間にわたって当該他の企業の業務に従事すること」

出典:菅野和夫著「労働法(第8版)」弘文堂、415頁より引用

などと定義されることもありますが、たとえば甲社に勤務するAさんが上司のPさんから受けたセクハラを甲社の相談室に相談したところ会社から懲戒処分を受けたPさんが逆恨みしてAさんを出向要因として会社に推薦し、Aさんが乙社への出向を命じられるようなケースです。

このような報復や制裁的に労働者が出向を命じられた場合、その対象となる労働者はセクハラ被害にあった上に会社から相当長期間にわたって排除されるという二重の被害を受けることになりますから、その受けるストレスは甚大です。

では、このようなセクハラ告発の報復、制裁として仕返しに出向を命じられた場合、その出向命令を断ることはできないのでしょうか。

また、実際にそのような報復や制裁的な出向命令を受けた場合、具体的にどのように対処すれば出向しないで済むのでしょうか。

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セクハラを相談した仕返しに命じられた出向は拒否できる

このように、セクハラ被害を会社などに相談・告発したことを理由に会社からその報復や制裁として出向を命じられてしまう場合があるわけですが、結論から言うとそのような仕返し的な意味合いでなされた出向は労働者の方で自由に拒否して構いません。

なぜなら、そのような報復や制裁を目的とした出向命令は正当な業務命令とは認められず、労働契約によって会社に与えられた出向命令権を濫用するものとして無効と判断できるからです。

人事異動における出向命令は拒否できるか』のページでも解説していますが、会社が労働者に出向を命じるためには、雇用契約書(労働契約書)や労働条件通知書、あるいは会社の就業規則や労働協約に「会社は出向を命じることができる」旨の規定が存在しているだけでなく、その出向に関する基本的な事項が明確に規定され、その会社の出向命令権が労働契約の内容になっていることが必要となります。

会社が労働者に対して指揮命令できる根拠は、その指揮命令権が労働契約の内容になっていて労働者がその指揮命令に従わなければならない労働契約上の義務があるところにありますので、出向に関する命令も業務命令である以上、その会社の出向命令権んが労働契約の内容となっていなければならないからです。

しかし、仮に会社の出向命令権が労働契約の内容となっていて労働者がそれに従わなければならない労働契約上の義務を負担している場合であっても、会社が無制限にその出向命令権を行使し労働者に対して出向を命じることができるわけではありません。

会社は、労働契約上の権利については、信義に従って誠実に行使することが求められており、それを濫用して行使することは認められないからです(労働契約法第3条4項及び5項)。

【労働契約法第3条4項】

労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。

【労働契約法第3条5項】

労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない。

この点、労働者が会社に対して労働契約で出向命令権を与えているのは、会社の人事異動と考えられるからであり、何もセクハラの被害を相談した制裁や報復として命じられる出向までを許容して会社に対して出向命令権を与えているわけではありませんから、会社が制裁や報復として出向を命じれいる場合には、その出向命令は労働契約で会社に認められた出向命令権の範囲を逸脱して行われているものと言え、その権利を濫用しているものと判断できます。

また、会社が報復や制裁を目的とした出向を命じている場合、その出向には業務上の必要性が存在しないわけですから、その出向命令は労働契約法第14条の規定から権利の濫用として無効と判断されるでしょう。

【労働契約法第14条】

使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする。

このように、セクハラの被害を会社に申告したことを原因として、会社から報復や制裁、仕返しや嫌がらせを目的として出向を命じられた場合には、その出向命令自体が労働契約で会社に与えられた出向命令権を濫用するものとして無効と判断されますので、労働者はその出向命令を自由に断ることができるということになるのです。

出向命令権自体が労働契約の内容となっていない場合には、それ以前の問題として労働者は出向命令を拒否できる

なお、以上の理屈は会社の出向命令権が労働契約の内容となっている場合の話です。

会社の出向命令権がそもそも労働契約の内容となっていない場合には、会社の出向命令が制裁や報復を目的としたものでなくても自由に拒否することができますのでその点を誤解しないようにしてください。

たとえば、入社する際に会社から交付された雇用契約書(労働契約書)や労働条件通知書、あるいは会社の就業規則や労働協約に「会社は出向を命じることができる」などと規定されていた場合であっても、出向に関する基本的な事項が明記されていない場合には、会社の出向命令権が労働契約の内容となっていませんので、仮に会社がセクハラ相談の報復や制裁目的ではなく正当な必要性があって出向を命じたものであったとしても、労働者はその出向命令を拒否することができますので、その点を間違えないようにしてください(※詳細は→人事異動における出向命令は拒否できるか)。

セクハラを会社や行政機関に相談したことの報復・制裁として出向を命じられた場合の対処法

このように、セクハラを会社や行政に相談したことを起因として会社から報復や制裁、嫌がらせや仕返しの目的で出向を命じられた場合には、労働契約の内容となっている出向命令権を濫用する無効な出向命令として労働者の一存で自由に拒否することができるというのが法律的な考え方となります。

もっとも、とは言ってもセクハラ相談の報復や制裁として出向を命じる会社はまともな会社ではありませんから、そのような法律上の正論を主張して出向の撤回を求めても応じるはずがありません。ですから、仮にセクハラ相談の報復や制裁として出向を命じられた場合には、具体的な手段を用いて対処することが求められます。

(1)セクハラ相談の報復や制裁として行われた出向命令が権利の濫用として無効であることを書面で通知する

セクハラ被害を会社等に相談・告発したことが原因となって会社や上司から報復や制裁目的で出向を命じられた場合は、その出向命令が労働契約で認められた出向命令権を濫用する無効なものであることを説明した書面を作成し会社に送付するというのも一つの対処法として有効です。

口頭で「権利の濫用となる出向は無効だ」と抗議することも必要ですが、セクハラ被害を申し立てた社員を会社から排除するために出向を命じている会社がまともであるはずがありませんから、口頭で撤回を求めたぐらいでそれに応じてくれる可能性は限りなく低いでしょう。

しかし、書面という形で正式に抗議すれば、将来的に裁判に発展したり行政へ告発等で会社が不利になる危険性を警戒して出向命令の撤回に応じる会社も少なからずありますから、文書という形でその撤回を求めてみるのも意味があるといえます。

なお、その場合の通知書の文面は以下のようなもので差し支えないでしょう。

○○株式会社

代表取締役 ○○ ○○ 殿

セクハラの被害申告に対する報復を目的とした出向命令の撤回申入書

私は、〇年〇月、直属の上司である○○(課長)から度重なるセクハラ被害を受けたことを貴社のコンプライアンス室に相談したところ、その1か月後の今月になって貴社から株式会社◇◇への3年間の出向を命じられました。

この出向命令に関して貴社は、業務上の必要性があって行われたものである旨説明していますが、これまで出向に関する予定など一切なかったにもかかわらず私がセクハラ被害を相談した1か月後という近接した時期に出向が命じられていること、セクハラ相談を行った際、セクハラ加害者である○○から「このままで済むと思うなよ」と報復の予告ともとれる言動を受けていたこと、本件出向の人選にセクハラ加害者である○○の意見が参考とされていること等を考えれば、本件出向が私がセクハラについて相談したことの報復ないし制裁として命じられていることは明らかと言えます。

この点、使用者に労働契約で認められた出向命令権は信義に従って誠実に行使することが求められていますから(労働契約法第3条4項)、人事異動の必要性という本来の出向の趣旨から逸脱し、制裁や報復を目的として出向を命じられた本件出向命令はその権利を濫用するものであり(同法同条5項)、無効といえます(同法第14条)。

したがって、本件出向命令は労働契約上の根拠がありませんから、直ちに当該出向命令を撤回するよう申し入れいたします。

以上

〇年〇月〇日

〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号○○マンション〇号室

○○ ○○ ㊞

会社に送付する前に証拠として残すため必ずコピーを取っておき、相手方に「到達した」という客観的証拠を残しておく必要があるため、普通郵便ではなく特定記録郵便など客観的記録の残る方法を用いて郵送すること。

(2)その他の対処法

このような通知書を送る方法を用いても会社がなおセクハラを相談したことに対する報復または制裁を目的とするような出向を強制する場合は、労働局の紛争解決援助の申し立てを行ったり、労働委員会の主催する”あっせん”の手続きを利用したり、弁護士や司法書士に相談して裁判所の裁判手続などを利用して解決する必要がありますが、それらの方法については以下のページを参考にしてください。

労働問題の解決に利用できる7つの相談場所とは