障害者が採用面接で障害に配慮してもらえない場合の対処法

障害者が企業の採用選考に応募した場合において、企業側が障害に必要な配慮をしてくれないケースが稀に見られます。

たとえば、採用面接に臨む聴覚障害者が筆談での会話を申し入れたにもかかわらずそれが受け入れられなかったり、車イスを利用する応募者が安全上の懸念を理由に応募を断られるようなケースです。

このような事案は、企業の側にもそれなりの理由があるのかもしれませんが、障害を持つ求職者はその障害に必要な配慮をしてもらえなければ障害を持たない求職者と同じレベルで面接や入社試験を受けることができませんので、障害者だけが就職の機会を失うことになってしまい不合理な結果となってしまいます。

では、企業が労働者の募集や採用において障害者の障害に配慮しないこのような態様は許されるものなのでしょうか。

また、実際の採用選考の場で障害者が企業から十分な配慮をしてもらえなかった場合、障害者に何か対応できる手段はないのでしょうか。

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企業が労働者を募集及び採用する場合、障害者に対して合理的配慮に係る措置をしなければならない

このように、採用選考に応募した障害者に対してその障害に配慮した必要な措置をとらない企業があるわけですが、結論から言えばそれは違法です。

なぜなら、障害者雇用促進法がすべての事業主に対して障害者における就職の機会均等とその障害の特性に配慮した必要な措置の実施を義務付けているからです。

障害者雇用促進法第34条

事業主は、労働者の募集及び採用について、障害者に対して、障害者でない者と均等な機会を与えなければならない。

障害者雇用促進法第36条の2

事業主は、労働者の募集及び採用について、障害者と障害者でない者との均等な機会の確保の支障となつている事情を改善するため、労働者の募集及び採用に当たり障害者からの申出により当該障害者の障害の特性に配慮した必要な措置を講じなければならない。ただし、事業主に対して過重な負担を及ぼすこととなるときは、この限りでない。

事業主が労働者を募集及び採用する場合において具体的にどのような合理的配慮が必要になるかという点は『障害者は採用選考で企業にどのような配慮を求めることができるか』のページで詳しく解説しましたのでそちらに譲りますが、障害を持つ求職者が企業側に障害に関する必要な配慮を求めれば、その企業に過度な負担とならない範囲で、企業側は障害に配慮した必要な措置を取らなければなりません。

ですから、仮に障害を持つ求職者が企業の採用選考に応募した場合において、入社試験や採用面接で障害に配慮した必要な措置(具体的には聴覚障害者に筆談での面接を認めるとか、車イスを利用する者のために面接会場に簡易的なスロープを付けるとか※詳細は→障害者は採用選考で企業にどのような配慮を求めることができるか)を取ってもらえない場合には、その事実自体の違法性(障碍者雇用促進法に違反することの違法性)を指摘してその改善を求めたり、慰謝料等の請求もできるということになります。

採用選考で障害に配慮した必要な措置をとってもらえない場合の対処法

このように、労働者を募集及び採用する事業主には応募してきた障害者の障害に配慮した必要な措置を取ることが義務付けられますから、企業の採用選考に応募した障害者が採用面接や入社試験などの受験の際に企業側から必要な配慮をしてもらえない場合には、その違法性を指摘して必要な配慮を求めることができると考えられます。

もっとも、実際にそのような対応を取られた場合には、障害を持つ求職者の側で何らかの具体的な対応を取らなければなりませんのでその場合の対応が問題となります。

(1)障害に配慮した必要な措置を取ってもらえない事実をハローワークに申告(相談)してみる

障害を持つ求職者が採用選考に応募した企業からその障害に配慮した必要な措置を取ってもらえない場合には、その事実をハローワークに申告(相談)してみるというのも対処法として有効と考えられます。

障害者は採用選考で企業にどのような配慮を求めることができるか』のページでも詳しく解説しているように、労働者を募集及び採用する事業主には、障害者雇用促進法において障害に配慮した必要な措置を取ることが義務付けられていますが、その場合に取るべき具体的な措置の内容や態様についての詳細については厚生労働大臣の指針(「合理的配慮指針(厚生労働省告示第117号))も出されています。

そうすると、仮に採用選考で障害者に配慮した必要な措置を取らない会社があった場合には厚生労働大臣の指針に違反することになりますが、その指針の指導機関はハローワークとなりますので、ハローワークに申告(相談)すること情報提供として受理され、以後の障害者に対する差別的な取り扱いの改善に寄与できるかも知れません。

また、仮にその採用選考がハローワークから紹介を受けた企業のものである場合には、ハローワークに申告(相談)することで行政から指導が行われ、その企業の障害者に対する不当な取り扱いが改善されることも期待できます。

ですから、企業の採用選考に応募して障害に配慮した必要な措置を取ってもらえない場合には、とりあえずハローワークに申告(相談)してみるということも考えてよいのではないかと思います。

(2)障害に配慮した必要な措置を取ってもらえない事実を労働局に申告(相談)して紛争解決援助または調停の手続きを利用する

前述したように、障害者雇用促進法は労働者を募集及び採用する企業に障害者の障害に配慮した必要な措置を取ることを義務付けていますので、仮にそれに違反して障害に配慮した必要な措置を取らない企業があるとすれば、その企業の障害者雇用促進法違反行為によってその障害者の就職の機会均等が妨げられていることになります。

そうすると、その企業は障害者の就職の機会均等の保障を規定した障害者雇用促進法の第34条に違反することになりますが、障害者雇用促進法第34条に違反する行為を受けた障害者は労働局にその事実を申告(相談)することで労働局から必要な助言や指導又は勧告を出してもらうことができますので(障害者雇用促進法第74条の5および同条の6)、労働局から出される指導や勧告等にその企業が従う場合には、その違法な態様が改められて採用選考で障害に配慮した必要な措置がとられるように改善されることも期待できるかもしれません。

障害者雇用促進法第34条

事業主は、労働者の募集及び採用について、障害者に対して、障害者でない者と均等な機会を与えなければならない。

障害者雇用促進法第74条の5

第34条、第35条、第36条の2及び第36条の3に定める事項についての障害者である労働者と事業主との間の紛争については、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(中略)第4条、第5条及び第12条から第19条までの規定は適用せず、次条から第74条の8までに定めるところによる。

障害者雇用促進法第74条の6

第1項 都道府県労働局長は、前条に規定する紛争に関し、当該紛争の当事者の双方又は一方からその解決につき援助を求められた場合には、当該紛争の当事者に対し、必要な助言、指導又は勧告をすることができる。
第2項 事業主は、障害者である労働者が前項の援助を求めたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

ですから、企業の採用選考に応募した場合において障害に配慮した必要な措置を取ってもらえない場合には、とりあえず最寄りの労働局に相談して労働局の紛争解決援助の手続きを利用することができないか検討してみるのもよいのではないかと思います。

障害者が採用選考で障害に配慮した必要な措置を取ってもらえない場合のその他の対処法

これら以外の対処法としては、各都道府県やその労働委員会が主催するあっせんの手続きを利用したり、弁護士会や司法書士会が主催するADRを利用したり、弁護士(または司法書士)に個別に相談・依頼して裁判や裁判所の調停手続きを利用する方法が考えられます。

なお、これらの解決手段については以下のページを参考にしてください。

労働問題の解決に利用できる7つの相談場所とは