採用後にプライベートな内容の身上書を書かせる会社はブラックか

採用選考を経て内定を出した採用者に対して、プライベートな項目について記述させる身上書の提出を求める会社がごく稀にあるようです。

たとえば、採用した求職者が入社する際に、本籍地や支持政党、家族構成や家族の職歴・学歴、宗教や政治思想、自宅周辺の見取り図や会社までの乗継手順などの項目が書かれた身上書を配布し、その提出を求めるようなケースです。

このような身上書は従業員を管理するうえで必要になるとも思えますが、その一方で個人のプライベートな部分に踏み込む質問事項もありますので、その提出を義務付けること自体問題があるような気もします。

では、企業が採用した労働者に対してこのような身上書を提出させる行為はそもそも許されるものなのでしょうか。

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入社後であっても差別につながるような身上書は問題がある

このように、採用した労働者に対して企業が個人のプライベートに関わる事項を身上書等の文書で提出させ個人情報を収集するケースがあるわけですが、それが必ずしも禁止されるわけではありません。

それを禁止する法律はありませんし、先ほども述べたように従業員を管理するうえで必要となる事項があれば、身上書などで調査して企業が把握することも合理的な理由があると考えられるケースもあるからです。

しかし、だからといってどのような項目であっても身上書等による個人情報の収集が許されるわけではありません。

憲法が幸福追求権(憲法第13条)を保障していることを考えれば業務に関係のないプライベートな情報の収集は認められるべきではありませんし、憲法で保障される法の下の平等(同14条)や職業選択の自由(同22条)の観点から考えれば、かかる個人的な情報が企業に利用され労働者の差別などに利用される懸念も生じるからです。

【日本国憲法第13条】

すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

この点、職業安定法第3条は国籍や信条、社会的身分などその本人の適性や能力とは関係のない事項を理由として差別的な取扱いをすることを禁止していますが、これは憲法で保障された法の下の平等や職業選択の自由の要請に基づくものです。

職業安定法第3条

何人も、人種、国籍、信条、性別、社会的身分、門地、従前の職業、労働組合の組合員であること等を理由として、職業紹介、職業指導等について、差別的取扱を受けることがない。但し、労働組合法の規定によつて、雇用主と労働組合との間に締結された労働協約に別段の定のある場合は、この限りでない。

もちろん、この職業安定法の規定は採用活動を行う際の差別を禁止したものですから、採用後に入社する労働者の関係に直接的に適用されるものではありません。

しかしこの差別禁止の要請が法の下の平等や職業選択の自由などの人権保障の観点から来るものである以上、その趣旨は当然、採用後の従業員に対しても同じように保障されなければなりません。

ですから、企業が採用した労働者に身上書の提出を義務付ける行為は、その質問事項が人種や国籍、思想信条や社会的身分、本籍地など、本人の適性や能力とは関係のない事項で労働者の差別につながる可能性のあるものについては、本来的に許されるものではないと考えるべきと言えます。

厚生労働省の指針でも採用内定後に提出させる身上書については合理的な配慮を求めている

なお、採用選考後の内定者や入社予定者等に提出させる身上書は、その記載内容によっては労働者の基本的人権を侵害し差別につながるおそれがあるとして注意喚起されていますので、念のため引用しておきましょう。

この事業所では、内定後、入社後の雇用管理の参考にするため身上書の提出を求めましたが、その内容が多岐にわたっていた上、本籍、家族の職業、宗教等の項目がありました。
採用したのだからどんな書類をとってもよいというものではなく、採用内定者の個人情報の把握については、『公正な採用選考』の考え方に準じて、基本的人権を尊重した対応が求められます。同和問題などの人権問題の正しい理解と認識の下に、従業員の基本的人権を尊重し差別のない職場を作るため、雇用管理上の合理的な必要性が認められる範囲に限って把握するようにしましょう。

※出典:公正な採用選考を目指して|厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/www2/topics/topics/saiyo/dl/saiyo-01.pdfより引用

採用後にプライベートな内容の身上書を書かせる会社はブラックか

以上で説明したように、採用選考を経て内定を出した入社予定者に対してその個人のプライべートな部分を調査する身上書の提出を義務付けて個人情報を収集する行為は、その事実をもって直ちに違法性等の問題を生じさせるものではないにしても、その身上書で質問される内容によっては人権侵害や差別につながるおそれがあると言えます。

ですから、もし仮に自分が入社した企業でそのような身上書の提出を求められた場合には、その身上書の内容に人種や国籍、思想信条や信仰、社会的身分やその他プライベートな部分など、人権侵害や差別につながるものがないか注意して確認することが必要です。

もし自分が会社から提出を求められた身上書にそういった内容を記載させる事項があれば、その会社は倫理意識や法令遵守意識の低さを推測させますので、そういったトラブルに巻き込まれないように日ごろから十分に労働法などを勉強することも必要になるでしょう。