採用面接の待ち時間における不適切質問は採用差別にならないか

企業の採用選考で行われる採用面接の待ち時間に、その企業の社員などが気を利かせて話しかけてくることがあります。

たとえば、面接のための待合室で自分の番を待っている際に、その企業の社員がリラックスさせてあげようと話しかけてきたり、時間つぶしに世間話を振ってくるようなケースです。

このような面接の待ち時間における雑談は応募者の緊張をほぐすのに役立ったりもしますので、面接を前に硬くなっている応募者にとっては精神的に大きな助けになるものです。

しかし、その雑談の内容によっては応募者にストレスを与えることもありますから、ケースによっては応募者に過度な心理的圧迫を加えることで面接を控えた応募者に不測の不利益を与えないとも限りません。

では、そもそも採用面接の順番待ちをしている応募者に対して、その企業の社員等が雑談や世間話をするために話しかける行為は、企業における採用活動の過程の中で許されるものなのでしょうか。

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雑談や世間話の内容や態様によっては採用差別(就職差別)につながるおそれも指摘できる

このように、採用面接の順番待ちをしている応募者に対して、その企業の社員が雑談や世間話を振るケースがあるわけですが、それ自体に問題があるわけではありません。

先ほども述べたように、その企業の社員が話しかけることで緊張がほぐれリラックスした状態で面接に挑むこともできるかもしれませんので、ただの世間話や雑談程度であればその応募者に負担となることはないと考えられるからです。

しかし、その雑談や世間話の内容によっては応募者に過度な負担となりうることもあるかもしれません。

たとえば、家族関係に問題を抱えている応募者にとっては家族に関する話を向けられれば聞かれたくない家族の事情を話さなければならなくなり大きな心理的負担となってしまいます。

また、政治的な質問や宗教・信仰に関する話題を振られた場合なども、思想・信条はプライベートな部分にかかわりますから、それを聞かれること自体が多大な心理的圧迫となり得るでしょう。

そのような応募者に心理的負担を与える雑談がなされてしまえば、その応募者は心の平穏を乱される結果、実際の採用面接の場で本来の力を発揮できなくなってしまい、不採用になってしまうかもしれません。

仮にそうなってしまえば、それはその応募者だけが他の応募者と比較して不利な状況に追い込まれることになりますので、その応募者だけが差別的な取り扱いを受けたことになり得ます。

このように、待ち時間の雑談や世間話であっても、その内容によっては応募者に対してストレスを与えるものとなり採用面接の場における「就職の機会均等」が損なわれる結果となるケースもありますので、その雑談の内容によっては採用差別(就職差別)につながります。

ですから、本来的に考えれば、採用面接する企業はその面接に関与しない社員が応募者に心理的な負担を強いる会話を向けないよう、十分な配慮をする必要があると言えます。

厚生労働省の指針でも面接を受ける前の待合室における不適切な質問をしないよう注意喚起されている

なお「面接を受ける前の待合室において不適切な質問」をしてしまうことの問題については厚生労働省の指針でも注意喚起されていますので念のため引用しておきましょう。

この会社では、待合室で面接試験を待っている応募者に対して、面接担当者ではない社員の一人が応募者をリラックスさせるため、身近な話題を話しかけました。話が進むにつれ応募者の家庭の話になり、母子家庭だったことからその生い立ちなど、聞かれたくないことを質問されました。
その後、本人は、待合室での出来事が気になってしまい面接の場において集中出来ず、自分の力を発揮することが出来ませんでした。
募集する側は、面接試験だけを気をつけておけばよいというわけではなく、試験前や試験後の応募者との会話においても不適切な質問をしないよう気をつける必要があります。また、面接担当者のみならず、応募者に接触する社員についても認識すべきものです。家庭環境等に関する質問は、応募者を傷つけ、そのため受けた心理的打撃が面接時の質問の受け答えにも大きく影響し、不採用に追い込まれる場合もあります。

※出典:公正な採用選考を目指して|厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/www2/topics/topics/saiyo/dl/saiyo-01.pdfより引用

採用面接の待ち時間に企業の社員から心理的負担の生じる雑談や世間話をされた場合の対処法

以上で説明したように、採用面接の順番待ちをしている応募者にその企業の社員が話しかけて心理的負担をかけてしまうケースがありますが、そのような行為は結果的に採用差別(就職差別)につながるおそれがあることから厚生労働省の指針でも注意喚起されていますので、本来であれば企業側がそのような不利益が応募者に生じてしまわないように十分な配慮をしなければなりません。

もっとも、そうは言っても実際の採用面接の場でそのような事態に遭遇した場合は、応募者の側で適当な対応を取らなければなりませんので、その場合に取り得る方法が問題となります。

(1)その会社への就職を考え直してみる

採用面接の待ち時間に面接担当者以外の社員から心理的に負担を受ける会話を求められた場合は、その会社への就職を考え直してみるというのも一つの選択肢です。

先ほども説明したように、待ち時間にプライベートな話をすることは採用差別(就職差別)につながるおそれもありますから、厚生労働省の指針でも注意喚起されているように、本来であれば企業側が事前に社員に研修などを行い、そうした話をしないよう十分に配慮しなければならないものです。

にもかかわらずその配慮を怠り、社員がそうした話をしてしまっているということは、その会社の倫理意識や法令遵守意識の低さを推測させますので、仮に入社できたとしても将来的に何らかの労働トラブルに巻き込まれる蓋然性が高いかもしれません。

入社後のリスクを考えれば他のまともな会社を探す方が無難かもしれませんから、本当にその会社で問題ないのか、もう一度考え直してみることも必要かもしれません。

(2)ハローワークに申告(相談)してみる

採用面接の待ち時間に面接担当者ではない社員から心理的な負担を生じさせる会話を強いられ、それによって不採用になって納得できない場合は、その事実をハローワークに申告(相談)してみるというのも一つの選択肢として考えられます。

先ほども説明したように、そのような待ち時間の会話は応募者への心理的圧迫となる可能性があるため厚生労働省の指針でも注意喚起されていますが、その指針の指導機関はハローワークとなりますので、ハローワークに申告(相談)することで情報提供として受理され、それ以後の行政指導などに役立ててもらえるかもしれません。

また、仮にその採用面接がハローワークから紹介を受けたものである場合には、行政から何らかの指導が入ることで、その企業における採用面接の態様に何らかの改善が行われることも期待できます。

もちろん、そうしてしまえば企業側の機嫌を損ねてしまうでしょうから、それで自分の不採用が覆ることもないかもしれませんが、次にその企業に応募する求職者が不当な採用面接を受けなくて済むかもしれませんので、社会的な意義はあると言えます。

ですから、もしも採用面接の待ち時間に心理的負担を受ける会話を求められた場合には、とりあえず面接後にその事実をハローワークに申告(相談)してみるというのも考えてよいのではないかと思います。