雇用契約書または労働条件通知書を作ってくれない会社の対処法

労働者が使用者(雇い主)に雇い入れられた場合、使用者(雇い主)から雇用契約書(労働契約書)または労働条件通知書が交付されるのが通常です。

雇用契約書と労働条件通知書の違いについては→雇用契約書(労働契約書)と労働条件通知書は何がどう違う?

労働基準法15条1項と同法施行規則5条では、使用者(雇い主)と労働者の間で合意する労働条件のうち16項目の事項について労働者に明示することが義務付けられており、その16項目のうち9項目については「書面」で交付することも義務付けられていますので、労働者を雇用する使用者(雇い主)は、雇用契約書(労働契約書)もしくは労働条件通知書のどちらかを作成し、少なくともその9項目については全て記載して労働者に「書面」で交付しなければならないからです。

法律で具体的にどのような事項を記載することが義務付けられているのかという点については→雇用契約書・労働条件通知書に記載されるべき16の事項とは

これはもちろん、正社員とアルバイト、契約社員の区別なくあてはまりますので、たとえ短期間のアルバイトやパート労働者として働く場合であっても、雇用契約書(労働契約書)または労働条件通知書の交付を受けられるのは当然です。

もしアルバイトやパート労働者が使用者(雇い主)から雇用契約書(労働契約書)も労働条件通知書も作ってもらえないという場合には、その使用者(雇い主)に対して「雇用契約書か労働条件通知書を作って交付しろ!」と請求することも当然に認められることになります。

もっとも、ここで問題となるのが、会社が雇用契約書(労働契約書)や労働条件通知書を交付してくれない場合にどのように対処すればよいかという点です。

ブラック体質を持った会社であったり法令遵守意識の低い会社では、労働者の求めを無視して雇用契約書(労働契約書)や労働条件通知書の交付をしないケースもありますので、そのような場合に具体的にどのように対処すれば交付を受けられるかという点が問題となります。

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雇用契約書(労働契約書)または労働条件通知書を作ってくれない会社にはどのように対処すればよいか

このように、法律では使用者(雇い主)に雇用契約書(労働契約書)または労働条件通知書を作成して労働者に交付することが義務付けられていますが、全ての会社が法令を遵守しているわけではありませんので、中には法律に違反して雇用契約書(労働契約書)や労働条件通知書を作ってくれなかったり、作成しても法律で義務付けられた項目を記載せず不備のままの雇用契約書・労働条件通知書を放置する会社も少なからずあるのが実情です。

そのような場合、具体的にどのような方法を用いれば使用者(雇い主)に対して法律の規定に準拠した雇用契約書(労働契約書)または労働条件通知書を交付してもらえるのか、という点が問題となりますが、一般的には以下の(1)~(3)の方法が対処法として取られます。

(1)通知書で雇用契約書(労働契約書)または労働条件通知書の交付を求める

会社が雇用契約書(労働契約書)を交付しなかったり、交付はなされても法律で定められた記載事項がすべて記載されていないような場合には、法令に準拠した雇用契約書(労働契約書)または労働条件通知書を交付するよう「書面」で求めることをまず考えた方がよいかもしれません。

口頭で「法令に準拠した雇用契約書を作ってください」とか「面接で説明した労働条件をすべて記載した労働条件通知書を交付してください」などと告知しその交付を求めても構いませんが、口頭で求めたぐらいで交付する会社であれば最初から交付しているでしょうし、口頭で申し入れたとしてもその事実は客観的証拠として残りませんから、後で裁判になった場合に「会社に法令に準拠した雇用契約書の交付を求めた」という事実を証拠として提示することができません。

これに対して「書面」で交付を求めた場合は、そのコピーを保管するとともに特定記録郵便など配達記録の残る方法で郵送すれば「会社に法令に準拠した雇用契約書の交付を求めた」という証拠を有体物として残しておくことができますから、将来的に裁判になった際に会社の違法性を立証することも比較的容易になります。

ですから、まず申入書や通知書という形をとって書面で会社に対して法令に準拠した雇用契約書(労働契約書)または労働条件通知書の交付を求めるのがよいのではないかと思います。

なお、その場合の申入書(通知書)の文面は以下のようなもので差し支えないでしょう。

ア)使用者が雇用契約書(労働契約書)または労働条件通知書を作ってくれない場合

○○株式会社

代表取締役 ○○ ○○ 殿

雇用契約書の交付申入書

私は、〇年〇月〇日、貴社に入社いたしましたが、未だ貴社から雇用契約書または労働条件通知書など労働条件を明示した書面の交付を受けておりません。

しかしながら、労働基準法15条1項で賃金、労働時間その他の労働条件を明示すること、また同法施行規則5条でその明示事項を書面で交付することが義務付けられていますので、かかる書面の交付は当然に行われるべきものと思料いたします。

つきましては、当該法令に準拠した雇用契約書または労働条件通知書の交付を求めますので、速やかに対処くださいますよう申し入れいたします。

以上

〇年〇月〇日

〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号○マンション〇号室

○○ ○○ ㊞

※会社から「労働条件通知書」が交付されている場合は、記載例の「雇用契約書」の部分を「労働契約書」に置き換えてください。

※実際に会社に送付する場合は、会社に送付したという客観的証拠が残されるように、コピーを取ったうえで普通郵便ではなく特定記録郵便など配達記録の残る方法で郵送してください。

イ)使用者が雇用契約書(労働契約書)または労働条件通知書を交付してはいるものの法令で定められた記載事項をすべて記載していない場合

使用者が雇用契約書(労働契約書)または労働条件通知書を交付してはいるものの法令で定められた記載事項をすべて記載せず、その修正にも応じない場合に会社に送付する申入書については、『雇用契約書・労働条件通知書に記載の不備がある場合の対処法』のページに掲載していますのでそちらを参考にしてください。

(2)労働基準監督署に労働基準法違反の申告をする

上記のような申入書を送付しても会社が雇用契約書(労働契約書)または労働条件通知書を交付しない場合には、労働基準監督署に対して労働基準法違反の申告を行うことも考えたほうがよいかもしれません。

先ほども説明したように、労働基準法15条1項と同法施行規則5条では、使用者(雇い主)と労働者の間で合意する労働条件のうち16項目の事項について労働者に「明示」することが義務付けられており、その16項目のうち9項目については「書面で交付」することも義務付けられていますので、使用者(雇い主)が雇用契約書(労働契約書)または労働条件通知書を交付しない場合には、その使用者(雇い主)は「労働基準法に違反している」ということになります。

なお、具体的にどのような事項が記載されていなければならないかという点については→雇用契約書・労働条件通知書に記載されるべき16の事項とは

この点、労働基準法104条では、使用者(雇い主)が労働基準法に違反する行為を行っている場合に、労働者がその違反行為を労働基準監督署に対して申告しその監督権限の行使を求めることを認めていますから、その「雇用契約書または労働条件通知書を交付しない」という事実を労働基準監督署に申告することによって監督署の監督権限行使を促すことができます。

【労働基準法第104条1項】

事業場に、この法律又はこの法律に基いて発する命令に違反する事実がある場合においては、労働者は、その事実を行政官庁又は労働基準監督官に申告することができる。

仮に労働基準監督署が監督権限を行使し指導や是正勧告を出すような場合には、会社側が態度を改めて雇用契約書または労働条件通知書を交付することも期待できますので、労働基準監督署への申告手続きを利用するというのも解決方法としては有効に機能すると思います。

ちなみに、使用者(雇い主)が労働基準法15条に違反して雇用契約書や労働条件通知書の交付を怠った場合、その使用者(雇い主)は30万円以下の罰金に処せられますので、監督署から指導が入ればたいていの会社は契約書や労働条件通知書を交付するのが通常です。

【労働基準法120条】

次の各号の一に該当する者は、30万円以下の罰金に処する。
1号 (省略)第15条第1項(省略)の規定に違反した者(以下省略)

なお、この場合に労働基準監督署に提出する申告書の文面は以下のようなもので差し支えないと思います。

労働基準法違反に関する申告書

(労働基準法第104条1項に基づく)

○年〇月〇日

○○ 労働基準監督署長 殿

申告者
郵便〒:***-****
住 所:東京都〇〇区○○一丁目〇番〇号○○マンション〇号室
氏 名:申告 太郎
電 話:080-****-****

違反者
郵便〒:***-****
所在地:東京都〇区〇丁目〇番〇号
名 称:株式会社○○
代表者:代表取締役 ○○ ○○
電 話:03-****-****

申告者と違反者の関係
入社日:〇年〇月〇日
契 約:期間の定めのある雇用契約※注1
役 職:特になし
職 種:一般事務

労働基準法第104条1項に基づく申告
申告者は、違反者における下記労働基準法等に違反する行為につき、適切な調査及び監督権限の行使を求めます。

関係する労働基準法等の条項等
労働基準法第15条、同法施行規則5条

違反者が労働基準法等に違反する具体的な事実等
・申告者は、〇年〇月〇日付で違反者にパート労働者として採用されたが、就業を開始して1か月がたった現在に至っても違反者からは雇用契約書または労働条件通知書など労働条件が記載された書面の交付がなされていない。

添付書類等
1.特になし

備考
本件申告をしたことが違反者に知れるとハラスメント等の被害を受ける恐れがあるため違反者には申告者の氏名等を公表しないよう求める。

以上

※注1:正社員の場合は「期間の定めのない雇用契約」と記載してください。

なお、会社が雇用契約書または労働条件通知書を交付しているものの、法令で定められた事項をすべて記載しておらず記載事項に不備があるような場合に労働基準監督署に提出する申告書については『雇用契約書・労働条件通知書に記載の不備がある場合の対処法』のページに掲載していますのでそちらを参考にしてください。

(3)その他の対処法

以上の(1)(2)の方法を用いても解決しない場合は、弁護士や司法書士に相談したりして解決する必要があります。

弁護士・司法書士に依頼して裁判をする方法

労働問題の解決に利用できる7つの相談場所とは

雇用契約書または労働条件通知書が交付されなくても、会社が面接で提示した労働条件を守っている場合は具体的な労働トラブルは顕在化しませんが、そのような会社は遅かれ早かれ何らかのトラブルを生じさせることが多いように思いますのでで、雇用契約書または労働条件通知書の交付の問題についてはできる限り早めに対処するよう心掛けてください。